子どもは「小さな大人」じゃない―1歳で大人に追いつくのはIgMだけ
第102回医師国家試験 E問題 第12問
国試問題にチャレンジ
1歳で成人と同じになるのはどれか。
- a.Hb値
- b.IgM値
- c.視力
- d.腎濃縮能
- e.肋骨の走行角度
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児は臓器ごとに成熟時期が異なり、選択肢の中で1歳前後に成人値に達するのはIgMです。IgMは胎盤を通過しないため出生時は低値ですが、出生後の抗原刺激で急速に増加し、免疫グロブリンの中で最も早く成人値に到達します。一方、IgGは母体由来で出生時は高く生後3〜6か月に最低となって学童期に成人値へ、Hbは生後2〜3か月の生理的貧血を経て思春期に成人値へ達します。腎濃縮能は2歳前後、視力は6歳前後で成人並みとなり、乳児の肋骨は水平で腹式呼吸が主体です。これらの成熟過程を理由とともに理解しておくことは、乳児の脱水、弱視の早期発見、子宮内感染の評価など、年齢に応じた小児診療の判断に直結します。
解答・解説
正解はbです
小児の身体機能や検査値が、成長に伴っていつ頃成人と同等になるかを問う問題である。小児は「小さな成人」ではなく、臓器ごとに成熟の時期が大きく異なる。 各項目の成熟時期のおおよその目安は次のとおりである。 ・免疫グロブリン:IgMが最も早く1歳前後で成人値に達し、IgGは学童期(5〜6歳以降)、IgAはさらに遅く思春期頃に成人値に近づく。 ・視力:1歳で0.2〜0.3程度、3歳で0.6〜1.0程度となり、成人と同等になるのは6歳前後である。 ・腎濃縮能:新生児・乳児期は低く、成人並みになるのは2歳前後である。 ・Hb値:出生時は高値で、生後2〜3か月に最低値(生理的貧血)となり、その後徐々に上昇して思春期に成人値に達する。 ・胸郭:乳児の肋骨はほぼ水平に走り、腹式呼吸が主体である。立位・歩行の獲得とともに肋骨が前下方へ傾き、胸式呼吸が加わっていく。 したがって1歳で成人と同じレベルになるのは、選択肢の中ではIgM値である。
選択肢考察
- ×a. Hb値
胎児は酸素の少ない子宮内環境に適応してHb(ヘモグロビン)が多く、出生時のHb値は成人より高い(おおむね16〜20 g/dL前後)。出生後は肺呼吸で酸素化が改善してエリスロポエチンが減少し、胎児期の赤血球が壊されるため、生後2〜3か月頃に最低値(約10〜11 g/dL程度)となる。これを乳児の生理的貧血という。1歳頃のHb値は成人より低く(11〜12 g/dL前後)、成人値(特に男性)に達するのは思春期以降である。
- ○b. IgM値
IgMは胎盤を通過しないため、出生時の血中IgMは胎児自身が産生したごく少量のみである。出生後、腸内細菌をはじめとする多くの抗原に触れることで産生が急速に増え、1歳前後(1歳〜1歳半)でほぼ成人値に到達する。免疫グロブリンの中で最も早く成人値に達するクラスである。これはIgMが抗原刺激に対して最初に作られる抗体であることと合致する。
- ×c. 視力
視力は出生後の視覚刺激によって発達する。新生児はおおむね0.01〜0.02程度、1歳で0.2〜0.3程度、3歳で0.6〜1.0程度となり、成人と同等(1.0以上)に達するのは6歳前後である。この時期(視覚の感受性期)に斜視や強い屈折異常などで適切な刺激が得られないと弱視になるため、3歳児健診での視力検査が重要となる。1歳ではまだ成人に遠く及ばない。
- ×d. 腎濃縮能
尿の濃縮は、ヘンレ係蹄による髄質の浸透圧勾配の形成と、集合管でのバソプレシン(抗利尿ホルモン)への反応によって行われる。新生児・乳児はヘンレ係蹄が短く、尿素による髄質の高浸透圧形成も未熟なため、最大尿浸透圧は成人(約1,200 mOsm/kg)より低く、新生児では600〜700 mOsm/kg程度にとどまる。成人並みの濃縮能を獲得するのは2歳前後とされ、1歳ではまだ不十分である。乳児が脱水や高張性の輸液・調乳の誤りで高Na血症を起こしやすいのはこのためである。
- ×e. 肋骨の走行角度
乳児の肋骨は脊柱からほぼ水平に走り、胸郭は前後径と左右径がほぼ等しい円筒形である。横隔膜も平坦で、肋骨を持ち上げて胸郭を広げる余地が小さいため、呼吸は横隔膜による腹式呼吸が主体となる。立位・歩行を獲得すると肋骨が前下方へ傾斜し始め、幼児期に胸腹式呼吸へ、学童期(7歳頃)にかけて成人に近い胸式呼吸へと移行する。1歳ではまだ肋骨はほぼ水平で、成人と同じ角度ではない。
免疫グロブリンの年齢推移
・IgG:唯一胎盤を通過するため、出生時は母体由来のIgGにより成人並みの値である。母体由来IgGが減少し、自身の産生がまだ少ない生後3〜6か月頃に最低となる(生理的低IgG血症)。成人値に達するのは学童期(5〜6歳以降)。 ・IgM:胎盤を通過しない。1歳前後で成人値に達する。臍帯血IgMの高値は子宮内感染(先天感染)を示唆する。 ・IgA:分泌型は母乳から供給されるが、血清IgAの成人値到達は最も遅く、思春期頃である。
小児の各機能の成人値到達時期の目安
・IgM:1歳前後 ・腎濃縮能:2歳前後(糸球体濾過量〈GFR〉の体表面積補正値も2歳前後で成人並みとなる) ・視力:6歳前後 ・IgG:学童期 ・IgA、Hb値:思春期頃
乳児の生理的特徴の関連事項
・乳児は体重当たりの体液量・不感蒸泄が多く、腎濃縮能も低いため脱水に陥りやすい。 ・乳児は腹式呼吸が主体で、腹部膨満があると呼吸が障害されやすい。
POINT
・免疫グロブリンの成人値到達はIgM(1歳頃)→IgG(学童期)→IgA(思春期頃)の順。 ・出生時のIgGは母体由来で、生後3〜6か月に最低値となる。 ・Hbは生後2〜3か月に最低(乳児の生理的貧血)。 ・視力が成人並みになるのは6歳頃、腎濃縮能は2歳頃。 ・乳児の肋骨は水平で腹式呼吸が主体。
