羊水は「胎児の尿と肺の水」―胎盤・卵膜・臍帯・羊水を一気に整理する
第102回医師国家試験 E問題 第13問
国試問題にチャレンジ
胎児付属物について正しいのはどれか。
- a.前置胎盤は初妊婦に多い。
- b.2絨毛膜2羊膜双胎は2卵性双胎である。
- c.羊水には胎児肺胞からの分泌物が含まれる。
- d.胎盤絨毛細胞性栄養膜細胞は母体血と接する。
- e.臍帯静脈の血中酸素分圧は母体子宮動脈よりも高い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎児付属物は胎盤・卵膜・臍帯・羊水からなり、妊娠中期以降の羊水は主に胎児尿と胎児肺の分泌液でつくられるため、羊水中のサーファクタント成分(L/S比など)は胎児肺成熟の指標になります。前置胎盤は経産婦や既往帝王切開・子宮内容除去術後に多く、二卵性双胎は必ず2絨毛膜2羊膜ですが、一卵性でも早期分割なら2絨毛膜2羊膜となるため膜性から卵性は断定できません。絨毛で母体血に直接接するのは外層の合胞体栄養膜であり、内層の細胞性栄養膜は接しません。酸素は拡散で母体から胎児へ移るため臍帯静脈の酸素分圧は母体動脈血より低く、HbFの高い酸素親和性などで酸素含量を補っています。各付属物の構造と働きを理屈で押さえることが、羊水量異常、双胎管理、前置胎盤といった臨床問題を解く土台になります。
解答・解説
正解はcです
胎児付属物とは、胎児の発育を支えるために妊娠中に形成され、分娩とともに娩出される組織の総称であり、胎盤・卵膜(羊膜と絨毛膜)・臍帯・羊水がこれにあたる。本問はこれらに関する基本事項を横断的に問う一般問題である。 各選択肢は次のテーマに対応している。 ・前置胎盤の危険因子(どのような妊婦に多いか) ・双胎の膜性(絨毛膜・羊膜の数)と卵性(一卵性か二卵性か)の関係 ・羊水の産生源 ・胎盤絨毛の組織構造(どの細胞層が母体血に面しているか) ・母体から胎児への酸素移行と、胎児側・母体側の酸素分圧の大小 考え方の要点は、(1)膜性と卵性は一対一に対応しない、(2)羊水は妊娠中期以降、主に胎児尿と胎児肺からの分泌液でつくられる、(3)母体血に直接接するのは絨毛最外層の合胞体栄養膜である、(4)酸素は拡散によって分圧の高い母体側から低い胎児側へ移動する、という原則である。これらを押さえれば、羊水に胎児肺由来の分泌物が含まれるという記述だけが正しいと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 前置胎盤は初妊婦に多い。
誤り。前置胎盤は経産婦に多い。前置胎盤は胎盤が子宮下部に付着し、内子宮口を覆う(またはその近くに及ぶ)状態であり、子宮体部の内膜が過去の妊娠・分娩・手術で傷ついていると、受精卵が良好な着床部位を得られず下方に着床しやすくなると考えられている。主な危険因子は経産回数の多さ、既往帝王切開、人工妊娠中絶や流産手術などの子宮内容除去術(掻爬)の既往、高年妊娠、多胎妊娠、喫煙などである。初めて妊娠した女性ではこれらの子宮内膜損傷の機会が少なく、むしろ頻度は低い。
- ×b. 2絨毛膜2羊膜双胎は2卵性双胎である。
誤り。二卵性双胎は2つの受精卵がそれぞれ別に着床するため必ず2絨毛膜2羊膜(DD)双胎となるが、逆は成り立たない。一卵性双胎でも、受精卵の分割が受精後おおむね3日以内(桑実胚期まで)の早い時期に起これば、それぞれが独立した絨毛膜と羊膜をもち、DD双胎となる。一卵性双胎の約4分の1はDD双胎とされる。したがって「DD双胎であれば二卵性」とは断定できない。膜性は超音波で判定でき周産期管理に直結するが、卵性の確定には性別の相違や遺伝子検査などの情報が必要である。
- ○c. 羊水には胎児肺胞からの分泌物が含まれる。
正しい。妊娠中期以降の羊水の主な産生源は胎児尿であり、これに次ぐのが胎児肺から分泌される肺胞液(肺水)である。胎児の肺は液体で満たされており、この液は呼吸様運動などにより気道を通って羊水中へ流出する。肺胞液には肺胞Ⅱ型上皮細胞がつくる肺サーファクタント(肺表面活性物質。主成分はレシチンなどのリン脂質)が含まれるため、羊水中のサーファクタント関連成分を測定すると胎児の肺成熟度を推定できる(レシチン/スフィンゴミエリン比〔L/S比〕、マイクロバブルテストなど)。
- ×d. 胎盤絨毛細胞性栄養膜細胞は母体血と接する。
誤り。胎盤絨毛の表面を覆う栄養膜(トロホブラスト)は2層からなる。外層は多数の核をもち細胞境界のない合胞体栄養膜(シンシチオトロホブラスト)で、絨毛間腔を満たす母体血に直接面し、物質交換やhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)などのホルモン産生を担う。内層の細胞性栄養膜(サイトトロホブラスト、ラングハンス細胞)は合胞体栄養膜の内側に位置する増殖能の高い幹細胞的な細胞で、分裂・融合して合胞体栄養膜を補充する。内層にあるため母体血とは直接接しない。なお、細胞性栄養膜は妊娠が進むと次第に減少し、妊娠後期の絨毛では断続的にしか認められなくなる。
- ×e. 臍帯静脈の血中酸素分圧は母体子宮動脈よりも高い。
誤り。胎盤での酸素の受け渡しは主に単純拡散によるため、酸素は分圧の高い母体側から低い胎児側へ移動する。したがって胎盤で酸素化されて胎児へ向かう臍帯静脈血であっても、その酸素分圧(PO2)は約30 mmHg程度にとどまり、母体の動脈血(子宮動脈、PO2 約90〜100 mmHg)より明らかに低い。それでも胎児が十分な酸素を受け取れるのは、胎児ヘモグロビン(HbF)が成人ヘモグロビン(HbA)より酸素親和性が高い(酸素解離曲線が左方移動している)こと、胎児血のヘモグロビン濃度が高いこと、胎児の心拍出量が多いことなどによる。このため臍帯静脈血の酸素含量は母体血に近い値となる。
胎児付属物の構成
胎盤、卵膜(内側から羊膜・絨毛膜・脱落膜)、臍帯、羊水からなる。臍帯には臍帯動脈2本と臍帯静脈1本が走行し、臍帯静脈が胎盤で酸素化された血液を胎児へ運び、臍帯動脈が胎児から胎盤へ静脈血を戻す。
羊水の産生と吸収
妊娠初期は羊膜からの分泌や母体血漿の濾過液、胎児皮膚を通した浸出が主体である。胎児皮膚が角化する妊娠中期以降は、胎児尿が最大の供給源となり、胎児肺からの分泌液がこれに加わる。吸収は主に胎児の嚥下と、羊膜・胎盤表面を介した吸収による。このため、胎児の腎無形成や尿路閉塞では羊水過少、消化管閉鎖や嚥下障害では羊水過多をきたす。羊水量は妊娠30〜33週頃に最大(約700〜800 mL)となり、その後は減少する。
双胎の膜性と卵性
二卵性双胎:常に2絨毛膜2羊膜(DD)。 一卵性双胎:分割時期で膜性が決まる。 ・受精後約3日以内 → DD双胎 ・受精後約4〜7日(胚盤胞期)→ 1絨毛膜2羊膜(MD)双胎(一卵性の大部分を占める) ・受精後約8〜12日 → 1絨毛膜1羊膜(MM)双胎 ・それ以降 → 結合体双胎 1絨毛膜双胎は胎盤内に血管吻合があり、双胎間輸血症候群(TTTS)などの合併症リスクが高いため、妊娠初期に膜性を超音波で診断することが重要である。
絨毛の構造と胎盤関門
絨毛間腔の母体血と胎児血の間は、合胞体栄養膜・細胞性栄養膜・絨毛間質・胎児毛細血管内皮で隔てられており、これを胎盤関門(胎盤膜)という。妊娠後期には細胞性栄養膜が減少し、関門は薄くなって物質交換の効率が上がる。
前置胎盤
内子宮口との位置関係により全前置胎盤・部分前置胎盤・辺縁前置胎盤に分類される。典型的な症状は妊娠後期の無痛性の性器出血であり、内診は大出血を誘発する危険があるため避け、経腟超音波で診断する。既往帝王切開のある前置胎盤では癒着胎盤の合併に注意する。
POINT
・前置胎盤は経産婦、既往帝王切開、子宮内容除去術の既往、高年妊娠で多い。 ・二卵性双胎は必ずDD双胎だが、DD双胎が二卵性とは限らない(一卵性の約1/4がDD)。 ・羊水の主な供給源は妊娠中期以降、胎児尿と胎児肺分泌液。羊水中のサーファクタントは肺成熟の指標となる。 ・母体血に直接接するのは合胞体栄養膜(外層)。細胞性栄養膜(内層)は接しない。 ・臍帯静脈血のPO2は約30 mmHgで母体動脈血より低い。HbFの高い酸素親和性と高いHb濃度で酸素含量を補う。
