泣くとふくらむ赤ちゃんのでべそ―臍ヘルニアは「待つ」が基本
第102回医師国家試験 D問題 第40問
国試問題にチャレンジ
3か月の乳児。へその膨らみを心配する母親に連れられて来院した。生後間もなくからへその膨らみがあったが,出産した病院からは様子を見るように指示されて退院した。指示を守って育児をしていたが,徐々に膨らみは大きくなってきた。お腹がすいてミルクを欲しがるときには,号泣して,膨らみは直径3cmになり,皮膚も赤黒くなると言う。ミルクの飲みは良い。身長63cm,体重6.5kg。母親が持ってきた号泣時の写真を別に示す。 母親への説明で正しいのはどれか。

- a.「もう少し成長すると自然に治ることが多いです」
- b.「心血管系奇形の合併が多いので検査が必要です」
- c.「泣いて膨らんだ時に診察しないと分かりません」
- d.「膨らんだときは手で押し込んでください」
- e.「穿刺して診断をつける必要があります」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
臍ヘルニアは、臍帯脱落後に臍輪が閉じきらないために生じ、正常皮膚に覆われた臍部が泣いたり力んだりすると膨らむのが特徴です。生後3〜6か月ころに最大となり、1歳までに約8割、2歳までに約9割が自然治癒し、嵌頓もまれなため、経過観察が基本で、医療者の指導による圧迫療法が行われることもあります。心奇形や染色体異常の合併が多く出生直後から手術が必要なのは臍帯ヘルニアであり、両者を混同しないことが重要です。診断は視診・触診で十分で、穿刺は腸管損傷の危険があり禁忌です。保護者には自然治癒の見通しを伝えて安心させるとともに、戻らない膨らみや嘔吐など嵌頓のサインがあれば受診するよう説明することが、小児診療の基本的な姿勢につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・生後3か月の乳児。生後まもなく臍(へそ)の膨らみに気づかれ、徐々に大きくなっている。 ・空腹で号泣するなど腹圧が上がると膨らみが増し、直径3cmほどになる。そのとき皮膚が赤黒く見える。 ・哺乳は良好で、身長63cm・体重6.5kgと順調に発育している。嘔吐や不機嫌の持続など、腸閉塞や嵌頓(脱出した腸管が戻らなくなり血流障害を起こす状態)を示す症状はない。 ・号泣時の写真では、正常な皮膚に覆われた臍部が半球状に突出している。
診断へのプロセス
臍帯が脱落した後、臍部の筋膜(臍輪)が十分に閉じずに残り、腹圧がかかると腸管などが皮膚の下へ押し出されて膨らむのが臍ヘルニア(いわゆる「でべそ」)である。生後まもなく出現し、泣いたり力んだりすると大きくなり、正常皮膚に覆われていることから、典型的な臍ヘルニアと診断できる。 号泣時に皮膚が赤黒く見えるのは、腹圧で引き伸ばされて薄くなった皮膚から内容物や血管が透けて見え、うっ血するためである。泣きやめば元に戻り、哺乳も良好であることから、嵌頓を起こしているわけではない。
設問の考え方
臍ヘルニアは経過観察で自然に治ることが多い良性の病態である。母親への説明では、自然経過の見通しを伝えて不安を和らげることが中心となる。臍帯ヘルニア(出生時から臍帯の根元で腹壁が欠損し、腹腔内臓器が膜に覆われて脱出している先天奇形)との混同を誘う選択肢に注意する。
選択肢考察
- ○a. 「もう少し成長すると自然に治ることが多いです」
臍ヘルニアは生後数週までに目立つようになり、生後3〜6か月ころに膨らみが最大となる。その後は腹壁の筋肉の発達とともに臍輪が自然に閉じていき、1歳ころまでに約80%、2歳ころまでに約90%が自然に治る。嵌頓もまれであり、自然治癒が期待できると説明するのが適切である。
- ×b. 「心血管系奇形の合併が多いので検査が必要です」
心血管系の奇形をはじめとする他臓器の奇形や染色体異常(18トリソミー、13トリソミーなど)、Beckwith-Wiedemann症候群を高率に合併するのは臍帯ヘルニアである。臍ヘルニアは臍輪の閉鎖が遅れているだけであり、合併奇形の精査は通常必要ない。なお、臍ヘルニアは低出生体重児やDown症候群、先天性甲状腺機能低下症などでみられやすいことが知られているが、本例は発育も良好で、心血管奇形を想定した検査を勧める根拠にはならない。
- ×c. 「泣いて膨らんだ時に診察しないと分かりません」
臍ヘルニアは、臍部が正常な皮膚に覆われて突出する外観と、腹圧による大きさの変化という病歴で診断できる。安静時でも臍部に膨らみや緩んだ皮膚を認めることが多く、指で臍部に触れると筋膜の欠損(ヘルニア門)を触知できる。本例は号泣時の写真もあり、あえて泣かせて診察しなければ診断できないということはない。
- ×d. 「膨らんだときは手で押し込んでください」
臍ヘルニアの内容(主に小腸)は泣きやめば自然に腹腔内へ戻り、嵌頓はきわめてまれである。そのため、膨らむたびに保護者が手で押し込む必要はない。なお近年、乳児期早期から医療者の指導のもとでスポンジや綿球を当ててテープで臍部を圧迫固定する圧迫療法が行われることがある。これは治癒を早め、治癒後に皮膚のたるみが残るのを防ぐ目的で行われるもので、膨らむたびに押し込むことを勧めるものではない。
- ×e. 「穿刺して診断をつける必要があります」
臍ヘルニアの診断は視診と触診で十分であり、穿刺は不要である。膨らみの中身は腸管であることが多く、穿刺すると腸管を損傷して腹膜炎を起こす危険があるため、行ってはならない。
臍ヘルニアの概要
出生後に臍帯が脱落し、臍輪(臍帯が通っていた腹壁の輪状の開口部)が瘢痕で閉じる過程が不十分なために生じる。皮膚は正常で、腹圧がかかると腸管などが皮膚の下に脱出する。乳児の約10%前後にみられ、低出生体重児(早産児)に多い。Down症候群、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)、Beckwith-Wiedemann症候群などで頻度が高い。
経過と治療
生後数日〜数週で出現し、3〜6か月ころに最大となったのち、多くは自然に閉鎖する。嵌頓はまれであるが、膨らみが硬く戻らない、強い痛みで泣き続ける、嘔吐する、皮膚の色が戻らないなどの場合は嵌頓を疑ってすぐに受診させる。 圧迫療法:乳児期早期から、綿球やスポンジを臍部に当てて皮膚保護テープで固定する方法が行われることがあり、治癒の促進や治癒後の皮膚のたるみ(臍突出症)の予防が期待される。皮膚のかぶれなどに注意する。 手術:2歳前後を過ぎても臍輪が閉じない場合、ヘルニア門が大きい場合、自然治癒後も余剰皮膚が大きく外見上の変形が目立つ場合に、ヘルニア門の閉鎖と臍形成術が行われる。嵌頓を起こした場合は緊急の対応が必要となる。
臍ヘルニアと臍帯ヘルニアの比較
・臍ヘルニア:臍輪の閉鎖不全。正常皮膚に覆われる。生後に出現。合併奇形は少ない。多くは自然治癒し、緊急処置は不要。 ・臍帯ヘルニア:胎生期に生理的臍帯ヘルニア(中腸が一時的に臍帯内へ出る現象)の腸管が腹腔内へ戻らなかったもので、臍帯の根元の腹壁欠損から臓器(腸管、大きいものでは肝臓も)が脱出し、羊膜と腹膜からなる膜(ヘルニア嚢)に覆われる。出生時から存在する。心奇形、染色体異常、Beckwith-Wiedemann症候群などの合併が多い。出生直後から外科的治療が必要である。 ・腹壁破裂:臍帯の横(多くは右側)の腹壁欠損から腸管が膜に覆われずに脱出する。若年母体に多い。他の奇形の合併は臍帯ヘルニアより少ないが、腸管の損傷や腸閉鎖を伴うことがある。出生直後から外科的治療が必要である。
POINT
・臍ヘルニアは臍輪の閉鎖不全で、正常皮膚に覆われ、泣くと膨らむ。 ・1歳までに約80%、2歳までに約90%が自然治癒し、嵌頓はまれ → 基本は経過観察(圧迫療法を行うこともある)。 ・2歳を過ぎても治らないもの、余剰皮膚による変形が目立つものは手術(ヘルニア門閉鎖・臍形成術)。 ・心奇形・染色体異常の合併が多いのは臍帯ヘルニアであり、臍ヘルニアではない。 ・臍ヘルニアに穿刺は禁忌。
