StudyMed医師国家試験

拍動の「内側」、靱帯の「下」―大腿静脈穿刺の刺入点を体表から決める

第102回医師国家試験 C問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第102回 C問題 第12問

右鼠径・大腿部の写真を別に示す。赤い線は拍動を触れる部位を示す。  大腿静脈から中心静脈カテーテルを挿入する際の刺入部位はどこか。

第102回 C問題 第12問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、写真の体表の目印から大腿静脈に中心静脈カテーテルを入れる刺入点を選ぶ問題だ。ポイントは2つで、動脈の拍動に対して「内側か外側か」、鼠径靱帯に対して「上か下か」。この2軸で候補を絞っていこう。まず、鼠径部で血管と神経はどう並んでいたかな。
医学生医学生
解剖実習で大腿三角を剖出したとき、外側から神経・動脈・静脈の順で並んでいました。NAVELという覚え方でした。
ドクタードクター
その通り。Nerve、Artery、Vein、Empty space、Lymphaticsの頭文字だね。大腿三角は上縁が鼠径靱帯、外側縁が縫工筋、内側縁が長内転筋で囲まれた領域で、その中を大腿動静脈が並んで走る。つまり大腿静脈は、拍動を触れる大腿動脈のすぐ内側にあるということだ。
医学生医学生
写真は右の鼠径部なので、内側は体の正中側、写真では右の方向ですね。左右を取り違えそうになりました。
ドクタードクター
そこは本番でも焦りやすいところだね。患者の右鼠径部を正面から見ると、向かって右が内側になる。だから赤い線の外側にある点は、静脈ではなく大腿神経の領域になる。そこを刺すと静脈には届かないうえ、神経損傷のリスクがある。
医学生医学生
赤い線の真上の点は、動脈そのものを刺すことになりますよね。
ドクタードクター
そう。そこは動脈誤穿刺になって、血腫や仮性動脈瘤、動静脈瘻の原因になる。大腿動脈は血液ガス採取や動脈ラインで穿刺する部位であって、静脈を狙う場所ではない。では、残った内側の2点はどう区別する?
医学生医学生
どちらも動脈の内側なので静脈には当たりそうです。上の方が太い血管に入りやすくて良さそうに思えますが……。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。鼠径靱帯を越えて頭側に行くと、血管は外腸骨動静脈になって後腹膜腔に入っていく。そこで出血すると体表から圧迫して止めることができず、後腹膜血腫という重い合併症になりうる。だから靱帯付近やそれより上で刺すのは避けたい。拍動の頭側にある点も同じ理由で不適切だ。
医学生医学生
なるほど、止血できる場所で刺す、という発想なんですね。だから正解は、動脈の内側でやや尾側の点になるわけですか。
ドクタードクター
正解。一般的な目安は、鼠径靱帯の下で大腿動脈の拍動を触れる点から内側へ約1cm、尾側へ2横指(2〜3cm)ほど。右鼠径部なら、左手の指で拍動を確かめて動脈を少し外側に寄せるように押さえ、右手の針でその内側を穿刺する。
医学生医学生
救急科の実習で心肺蘇生中にこの手技を見ました。胸を押しながらでもできるのが利点なんですね。
ドクタードクター
よく見ているね。大腿静脈ルートは気胸の心配がなく、蘇生中のように頸部や胸部に手を出しにくい場面でも行いやすい。一方で、カテーテル関連血流感染や深部静脈血栓症が多いとされ、長期留置には向かない。
医学生医学生
内頸静脈や鎖骨下静脈と比べると、どう使い分けるんでしょうか。
ドクタードクター
内頸静脈は超音波ガイドで穿刺しやすく、現在よく使われる。鎖骨下静脈は固定しやすく感染が比較的少ないが、気胸や、圧迫止血しにくい鎖骨下動脈誤穿刺のリスクがある。ほかに上腕から入れるPICCという選択肢もある。どの部位でも、今は超音波ガイド下穿刺が推奨されているよ。
医学生医学生
体表の目印は、エコーが使えない場面の保険であり、エコー画像を解釈する土台でもある、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。最後に、中心静脈カテーテルは中心静脈圧の測定にも使う。CVPはほぼ右房圧を反映し、右心不全や心タンポナーデ、輸液過剰、陽圧換気で上がり、循環血液量減少で下がる。1回の値より経時的な変化を見るのが大切だよ。

まとめ

鼠径部では外側から大腿神経・大腿動脈・大腿静脈の順に並ぶ(NAVEL)ため、大腿静脈は動脈の拍動を触れる点のすぐ内側を穿刺します。高さは鼠径靱帯より1〜2横指ほど尾側が目安で、靱帯より頭側では外腸骨血管の領域となり、出血しても圧迫止血ができず後腹膜血腫を招く危険があります。動脈の外側は神経損傷、動脈直上は動脈誤穿刺につながるため不適切です。大腿静脈ルートは気胸がなく緊急時に有用ですが、感染や深部静脈血栓症が多く、現在はどの経路でも超音波ガイド下穿刺が推奨されます。体表解剖から安全な刺入点を導く考え方は、エコーを用いる時代でも手技の安全性を支える基本です。

解答・解説

正解はdです

大腿静脈穿刺の刺入点を、体表の目印(鼠径靱帯と大腿動脈の拍動)から決められるかを問う問題である。

写真の向き

写真は右鼠径部で、上が頭側、左が外側(したがって右が内側)である。赤い線は大腿動脈の拍動を触れる部位を示す。番号の位置関係は、①が赤線より頭側、②が赤線の外側、③が赤線の上(動脈の直上)、④が赤線の内側でやや尾側、⑤が赤線の内側で④より頭側(鼠径靱帯付近)にある。

考え方

鼠径靱帯のすぐ下(大腿三角の上部)では、外側から内側へ向かって大腿神経・大腿動脈・大腿静脈の順に並ぶ。大腿静脈は大腿動脈のすぐ内側を並走しているので、まず動脈の拍動を指で確認し、その内側を穿刺する。また、高さは鼠径靱帯より下でなければならない。靱帯より頭側で穿刺すると、血管は外腸骨動静脈となって後腹膜腔に入るため、誤穿刺や出血を体表から圧迫止血できず、後腹膜血腫という重大な合併症を招く。 以上から、「拍動の内側」かつ「鼠径靱帯より1~2横指ほど尾側」の条件を満たす④が刺入部位となる。一般に目安とされるのは、鼠径靱帯のほぼ中央(内側1/3~1/2の範囲)で動脈拍動を触れる点から、内側へ約1 cm、尾側へ約2横指(2~3 cm)の位置である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    動脈拍動部位の頭側、鼠径靱帯のあたり、あるいはそれより上方に位置する。この高さで穿刺すると、鼠径靱帯を越えて外腸骨静脈・外腸骨動脈の領域に達するおそれがある。そこでの出血は後腹膜腔に広がって圧迫止血ができず、後腹膜血腫を起こしうるため、刺入部位として不適切である。

  2. ×b.  ②

    大腿動脈の外側にあたる。鼠径部では外側から神経・動脈・静脈の順に並ぶので、動脈の外側には大腿神経が走行しており、大腿静脈は存在しない。ここを穿刺すると静脈に到達しないうえ、大腿神経を損傷するおそれがある。

  3. ×c.  ③

    拍動を触れる赤線の直上、すなわち大腿動脈そのものの位置である。ここを穿刺すると大腿動脈を誤穿刺し、血腫・仮性動脈瘤・動静脈瘻などの合併症を生じうる。動脈穿刺(血液ガス採取や動脈カテーテル挿入)の部位であり、静脈穿刺の部位ではない。

  4. ○d.  ④

    大腿動脈の拍動部位のすぐ内側にあり、しかも鼠径靱帯より尾側に位置する。大腿静脈は動脈の内側を並走するため、この点で穿刺すれば大腿静脈に到達できる。鼠径靱帯より下なので、万一出血しても体表から圧迫止血が可能である。右鼠径部で行う場合は、左手の指の腹で動脈の拍動を確かめ、動脈をわずかに外側へ寄せるように押さえながら、右手に持った穿刺針でその内側を穿刺する。

  5. ×e.  ⑤

    動脈の内側ではあるが、④より頭側の鼠径靱帯付近に位置する。鼠径靱帯上やそれより上で穿刺すると、①と同様に外腸骨静脈の領域に入り、出血時に圧迫止血ができず後腹膜血腫を招く危険がある。静脈穿刺は鼠径靱帯より十分下で行う必要がある。

鼠径部の解剖

大腿三角(スカルパ三角)は、上縁を鼠径靱帯、外側縁を縫工筋、内側縁を長内転筋とする領域である。その中を外側から内側へ、大腿神経(Nerve)・大腿動脈(Artery)・大腿静脈(Vein)・空隙(Empty space)・リンパ管/リンパ節(Lymphatics)の順に並び、頭文字をとって「NAVEL」と覚える。大腿動脈・大腿静脈・大腿管は大腿鞘に包まれる。

中心静脈とCVP

中心静脈とは解剖学的な名称ではなく、右心房近くの胸腔内にある上大静脈・下大静脈を指す。中心静脈圧(CVP:central venous pressure)はほぼ右房圧を反映し、右室の収縮能、静脈還流量(循環血液量)、容量血管の緊張度、胸腔内圧などの影響を受ける。基準値は3~10 cmH2O程度とされるが、1回の値よりも経時的な変化をみることが重要である。 ・CVP上昇:右心不全、心タンポナーデ、三尖弁逆流などの右心系の異常、輸液・輸血の過剰、陽圧換気(PEEP:呼気終末陽圧)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)・気道狭窄などによる胸腔内圧上昇 ・CVP低下:輸液・輸血不足(循環血液量減少)、末梢血管の虚脱(血管拡張) 循環血液量減少と心不全のように、上昇・低下の因子が同時に存在すると、CVPが見かけ上正常範囲に収まることがある。

中心静脈カテーテルの挿入経路と特徴

・内頸静脈:超音波ガイド下で穿刺しやすく、現在よく用いられる。合併症として総頸動脈誤穿刺、気胸など。 ・鎖骨下静脈:固定しやすく感染リスクが比較的低いが、気胸や、圧迫止血が困難な鎖骨下動脈誤穿刺の危険がある。 ・大腿静脈:気胸の危険がなく、心肺蘇生中などの緊急時にも手技が行いやすい。一方で、カテーテル関連血流感染や深部静脈血栓症の頻度が高いとされ、長期留置には向かない。 ・末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC):上腕の尺側皮静脈などから挿入する。 いずれの部位でも、現在は超音波ガイド下穿刺が推奨されている。

POINT

・鼠径部では外側から神経・動脈・静脈の順(NAVEL)に並ぶ。 ・大腿静脈は、大腿動脈の拍動を触れる点のすぐ内側で、鼠径靱帯より1~2横指下を穿刺する。 ・鼠径靱帯より上で穿刺すると、圧迫止血できない後腹膜出血の危険がある。 ・動脈の外側は大腿神経、動脈直上は動脈誤穿刺となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。