塩辛いものは糖尿病のもと?―危険因子を「直結」で見分ける思考法
第102回医師国家試験 B問題 第19問
国試問題にチャレンジ
糖尿病の危険因子でないのはどれか。
- a.高食塩食
- b.高炭水化物食
- c.肥満
- d.運動不足
- e.アルコール多飲
対話形式の解説
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ドクターまとめ
我が国の糖尿病の大部分を占める2型糖尿病は、インスリン分泌低下の素因に、インスリン抵抗性を高める環境要因が加わって発症します。過食(高炭水化物・高エネルギー食)、肥満(特に内臓脂肪型)、運動不足、アルコール多飲は、インスリン抵抗性の増大や膵β細胞への負担・障害を通じて糖尿病の危険因子となり、アルコール多飲は慢性膵炎による膵性糖尿病の原因にもなります。一方、高食塩食は高血圧や胃癌の代表的な危険因子ですが、血糖やインスリン作用に直接影響しないため、糖尿病の危険因子としては扱われません。高血圧と高血糖は内臓脂肪蓄積を共通の基盤とする並列の病態であり、「高食塩→高血圧→糖尿病」という連想に流されず、直接の因果関係で判断することが大切です。なお糖尿病患者への減塩指導は合併症予防のためであり、危険因子と治療上の注意点を区別して理解することが、的確な生活指導につながります。
解答・解説
正解はaです
我が国の糖尿病の大部分(約9割以上)は2型糖尿病である。2型糖尿病は、インスリン分泌の低下しやすい遺伝的素因をもつ人に、インスリンの効きを悪くする環境要因(インスリン抵抗性を高める要因)が加わって発症する。環境要因の中心は生活習慣であり、過食(エネルギー過剰摂取)、それによる肥満、特に内臓脂肪の蓄積、身体活動の不足、過度の飲酒、喫煙、ストレスなどが挙げられる。加齢や糖尿病の家族歴も重要な危険因子である。 本問は「危険因子でないもの」を選ぶ否定形の問題である。選択肢のうち、過剰なエネルギー・糖質の摂取(高炭水化物食)、肥満、運動不足、アルコール多飲は、いずれもインスリン抵抗性の増大や膵β細胞への負担・障害を通じて糖尿病の発症につながる。一方、高食塩食は高血圧(食塩感受性高血圧)や脳卒中、胃癌などの代表的な危険因子であるが、血糖を上昇させたりインスリン抵抗性を直接生じたりする因子としては位置づけられていない。したがって、糖代謝と直接の結びつきが乏しい高食塩食が答えとなる。 高食塩食→高血圧→メタボリックシンドローム→糖尿病と連想を重ねると迷いやすいが、高血圧は糖尿病と並ぶメタボリックシンドロームの構成要素であって、糖尿病の原因ではない。「その因子が血糖やインスリン作用に直接影響するか」を基準に判断するとよい。
選択肢考察
- ○a. 高食塩食
食塩の過剰摂取は、腎臓でのNa排泄が追いつかず体液量が増えることなどを介して血圧を上昇させるため、高血圧の最も代表的な危険因子である。また胃癌の危険因子としても知られる。しかし、食塩そのものが血糖を上げたり、インスリン分泌やインスリン感受性を直接障害したりするわけではなく、一般に糖尿病の危険因子としては扱われない。よって本問で「危険因子でない」ものとして選ぶ。なお糖尿病患者では高血圧の合併が多く、合併すると大血管症や腎症が進みやすいため、糖尿病の治療では減塩(高血圧合併時は1日6g未満)が勧められるが、これは合併症予防の観点であって発症の危険因子という意味ではない。
- ×b. 高炭水化物食
炭水化物(糖質)はエネルギー源として必要な栄養素であり、適量であれば問題はない。しかし過剰に摂取すると食後高血糖を繰り返して膵β細胞に負担をかけるとともに、総エネルギーの過剰から肥満を招き、インスリン抵抗性を高める。特に砂糖入り清涼飲料水など吸収の速い糖質の多量摂取は2型糖尿病の発症リスクを高めることが知られている。したがって糖尿病の危険因子に含まれる。
- ×c. 肥満
肥満、特に内臓脂肪型肥満は2型糖尿病の最も重要な危険因子である。肥大化した脂肪細胞からは遊離脂肪酸やTNF-αなどの炎症性サイトカインが多く放出され、善玉のアディポサイトカインであるアディポネクチンの分泌は低下する。これらにより肝臓や骨格筋でのインスリンの効きが悪くなり(インスリン抵抗性)、代償しきれなくなると高血糖を来す。減量によってインスリン抵抗性は改善し、発症予防や血糖コントロールに有効である。
- ×d. 運動不足
運動(筋収縮)は骨格筋でのブドウ糖取り込みを促し、継続すればインスリン感受性を高める。運動不足ではこの効果が失われるうえ、消費エネルギーが減って肥満も生じやすく、インスリン抵抗性が増す。逆に身体活動を増やすことは2型糖尿病の発症予防に有効であり、運動療法は食事療法と並ぶ糖尿病治療の基本である。したがって運動不足は危険因子である。
- ×e. アルコール多飲
過度の飲酒は、アルコール自体のエネルギー(1gあたり約7kcal)やつまみによる過食から肥満・脂肪肝を招き、インスリン抵抗性を高める。さらに長期の大量飲酒はアルコール性慢性膵炎の最大の原因であり、膵実質が破壊されるとインスリン分泌が低下して膵性糖尿病(二次性糖尿病)を生じる。したがってアルコール多飲は糖尿病の危険因子である。なお糖尿病患者では、飲酒による低血糖(肝での糖新生抑制)や、ビグアナイド薬服用中の乳酸アシドーシスの誘発にも注意が必要である。
2型糖尿病の成因
・インスリン分泌低下:日本人を含む東アジア人は、欧米人に比べもともとインスリン分泌能が低い傾向があり、軽度の肥満でも発症しやすい。 ・インスリン抵抗性:肥満(内臓脂肪蓄積)、過食、運動不足、加齢、ストレス、喫煙などが関与する。 ・遺伝素因:家族歴は重要な危険因子で、2型糖尿病は1型糖尿病よりも遺伝の影響が強いとされる。
主な生活習慣病と代表的な危険因子
・高血圧:食塩の過剰摂取、肥満、アルコール多飲、運動不足、カリウム摂取不足 ・2型糖尿病:過食、肥満、運動不足、アルコール多飲、喫煙、家族歴、加齢 ・脂質異常症:飽和脂肪酸・コレステロールの過剰摂取、肥満、運動不足(高トリグリセリド血症では糖質・アルコールの過剰摂取も重要) ・胃癌:ヘリコバクター・ピロリ感染、高食塩食、喫煙
メタボリックシンドロームとの関係
我が国の診断基準では、腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)で示される内臓脂肪蓄積を必須とし、これに加えて高血圧、高血糖、脂質異常(高トリグリセリド血症または低HDLコレステロール血症)のうち2項目以上を満たすものをいう。高血圧と高血糖は内臓脂肪蓄積という共通の基盤から生じる並列の病態であり、一方が他方の原因というわけではない。
POINT
・2型糖尿病の危険因子は、過食(高炭水化物・高エネルギー)、肥満(特に内臓脂肪)、運動不足、アルコール多飲、喫煙、加齢、家族歴。 ・高食塩食は高血圧・胃癌の危険因子であり、糖尿病の直接の危険因子ではない。 ・アルコール多飲は肥満に加え、慢性膵炎による膵性糖尿病の原因にもなる。 ・「高食塩→高血圧→メタボ→糖尿病」のような間接的な連想ではなく、血糖・インスリン作用に直接影響するかで判断する。
