数千人に1人の重み―新生児マススクリーニングで最も多く見つかる病気は?
第102回医師国家試験 B問題 第18問
国試問題にチャレンジ
我が国の新生児マススクリーニングで発見率が最も高いのはどれか。
- a.ガラクトース血症
- b.先天性甲状腺機能低下症
- c.先天性副腎皮質過形成症
- d.フェニルケトン尿症
- e.ホモシスチン尿症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
我が国の新生児マススクリーニングで発見率が最も高いのは先天性甲状腺機能低下症で、数千人に1人(近年は2,000〜3,000人に1人程度)と、ほかの対象疾患より一桁以上多く見つかります。次いで先天性副腎皮質過形成症(1万5千〜2万人に1人程度)が多く、ガラクトース血症、フェニルケトン尿症、ホモシスチン尿症などの代謝異常症は数万〜数十万人に1人とまれです。指標物質は甲状腺機能低下症がTSH、副腎皮質過形成症が17-OHP、フェニルケトン尿症がフェニルアラニン、ホモシスチン尿症がメチオニンで、採血は哺乳開始後の日齢4〜6に行います。2014年度からはタンデムマス法の導入で対象が約20疾患に拡大しました。頻度の「桁」と、早期治療で予後が大きく変わるという意義をあわせて理解しておくことが、スクリーニング陽性児への適切な対応につながります。
解答・解説
正解はbです
新生児マススクリーニングは、生後早期には症状が目立たないが、放置すると知的障害や生命に関わる障害を残す先天性疾患を、発症前に見つけて治療につなげるための公費事業である。我が国では1977年に開始され、生後4〜6日(現在は哺乳開始後の日齢4〜6)に足底(かかと)から少量の血液を採取して濾紙にしみ込ませ、乾燥濾紙血として検査機関に送る方式がとられている。 本問は対象疾患のうち発見頻度が最も高いものを問う知識問題である。開始から2006年度までの厚生労働省の集計でみると、おおよその発見率は次のとおりである。 ・先天性甲状腺機能低下症:約1/3,400 ・先天性副腎皮質過形成症:約1/16,500 ・ガラクトース血症:約1/36,400 ・フェニルケトン尿症:約1/76,200 ・ホモシスチン尿症:約1/200,700 ・メープルシロップ尿症:約1/499,100 先天性甲状腺機能低下症だけが「数千人に1人」の桁であり、他の疾患は「数万〜数十万人に1人」の桁にとどまる。細かな数値は報告年や地域によって変動するが、「先天性甲状腺機能低下症が群を抜いて多く、次いで先天性副腎皮質過形成症」という順序を押さえておけば解答できる。近年はTSHのカットオフ値の引き下げなどにより軽症例の検出も増え、先天性甲状腺機能低下症の発見率はさらに高く(おおむね2,000〜3,000人に1人程度)報告されている。
選択肢考察
- ×a. ガラクトース血症
ガラクトースをグルコースに変換する経路の酵素(ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼなど)の欠損による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。スクリーニングでは血中ガラクトース(Paigen法)と赤血球の酵素活性(Beutler法)を測定する。発見率は約3〜4万人に1人で、先天性甲状腺機能低下症より一桁少ない。なお重症型(トランスフェラーゼ欠損症)は我が国では非常にまれで、発見例の多くは軽症のエピメラーゼ欠損症や一過性の高ガラクトース血症などである。
- ○b. 先天性甲状腺機能低下症
甲状腺の形成異常(無形成・低形成・異所性甲状腺)や甲状腺ホルモン合成障害などにより、出生時から甲状腺ホルモンが不足する疾患で、かつてはクレチン症(クレチン病)と呼ばれた。スクリーニングでは濾紙血中のTSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定し、地域によってはfree T4も同時に測定する。発見率は約3,000人前後に1人と、対象疾患の中で圧倒的に高い。甲状腺ホルモンは乳児期の脳の発達に不可欠であり、早期にレボチロキシン(T4製剤)で補充すれば知的発達はほぼ正常に保たれるため、スクリーニングの効果が最も大きい疾患の一つでもある。
- ×c. 先天性副腎皮質過形成症
副腎皮質でのコルチゾール合成に関わる酵素の欠損による疾患で、我が国では21-水酸化酵素欠損症が大部分を占める。コルチゾール低下によりACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が過剰分泌され副腎が過形成となり、蓄積した前駆体が副腎アンドロゲンに流れて女児の外性器男性化を来す。塩喪失型では生後早期に副腎不全(低Na血症・高K血症・ショック)を起こしうる。スクリーニングでは血中17-OHP(17-ヒドロキシプロゲステロン)を測定する。発見率は約1万5千〜2万人に1人で、対象疾患の中では先天性甲状腺機能低下症に次いで多いが、最多ではない。
- ×d. フェニルケトン尿症
フェニルアラニン水酸化酵素の欠損により、フェニルアラニンがチロシンに変換されず血中に蓄積する常染色体潜性遺伝疾患である。未治療では知的障害、けいれん、メラニン産生低下による色白・赤毛、尿やからだのかび臭(ネズミ尿臭)などを呈する。スクリーニングでは血中フェニルアラニンを測定し、診断後はフェニルアラニン制限食で治療する。欧米白人では比較的多いが、我が国での発見率は約7〜8万人に1人とまれである。
- ×e. ホモシスチン尿症
主にシスタチオニンβ合成酵素の欠損により、ホモシステイン(ホモシスチン)とその前駆体であるメチオニンが蓄積する常染色体潜性遺伝疾患である。水晶体偏位(亜脱臼)、マルファン症候群に似た高身長・細長い指、骨粗鬆症、知的障害、血栓塞栓症などを来す。スクリーニングでは血中メチオニンを指標とする。発見率は約20万人に1人と、選択肢の中で最も低い。
我が国の新生児マススクリーニングの変遷
1977年にフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ヒスチジン血症、ガラクトース血症の5疾患で開始され、1979年に先天性甲状腺機能低下症、1989年に先天性副腎皮質過形成症が追加された。ヒスチジン血症は治療の必要性が乏しいことから1992年に対象から外された。2014年度からはタンデムマス法(タンデム質量分析計)が全国で導入され、アミノ酸代謝異常症に加えて有機酸代謝異常症や脂肪酸代謝異常症も一度の分析で調べられるようになり、対象は約20疾患に拡大した。さらに近年、重症複合免疫不全症(SCID)や脊髄性筋萎縮症(SMA)などを対象とする拡大スクリーニングが一部地域で行われている。
各疾患とスクリーニング指標
・先天性甲状腺機能低下症:TSH(地域によりfree T4を併用) ・先天性副腎皮質過形成症:17-OHP ・フェニルケトン尿症:フェニルアラニン ・メープルシロップ尿症:ロイシン(ロイシン・バリン・イソロイシンなどの分枝鎖アミノ酸が蓄積する) ・ホモシスチン尿症:メチオニン ・ガラクトース血症:ガラクトース(Paigen法)、赤血球ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ活性(Beutler法)
採血時期の意味
アミノ酸代謝異常症では、哺乳によってたんぱく質を摂取した後でなければ血中アミノ酸が上昇しないため、哺乳が確立した日齢4〜6に採血する。一方、生直後は寒冷刺激によってTSHが生理的に一過性に上昇するため、この時期を避けることで先天性甲状腺機能低下症の偽陽性を減らせる。低出生体重児では甲状腺機能の立ち上がりが遅れる例があるため、再採血が行われることがある。
POINT
・新生児マススクリーニングで発見率が最も高いのは先天性甲状腺機能低下症(数千人に1人)。 ・次に多いのは先天性副腎皮質過形成症(1万数千〜2万人に1人程度)で、他の代謝異常症は数万〜数十万人に1人とまれ。 ・指標物質:甲状腺機能低下症=TSH、副腎皮質過形成症=17-OHP、フェニルケトン尿症=フェニルアラニン、ホモシスチン尿症=メチオニン、メープルシロップ尿症=ロイシン、ガラクトース血症=ガラクトース・酵素活性。 ・採血は哺乳開始後の日齢4〜6に足底から行い、乾燥濾紙血で検査する。 ・2014年度からタンデムマス法が全国導入され、有機酸・脂肪酸代謝異常症も対象となった。
