「わかっているのにやめられない」―強迫性障害を妄想と分ける決定的な一線
第102回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
強迫性障害について正しいのはどれか。
- a.させられ〈作為〉体験が併存する。
- b.強迫観念の内容は了解不能である。
- c.生活機能が障害されることは少ない。
- d.第一選択薬は非定型抗精神病薬である。
- e.患者は強迫行為を不合理であると認識している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
強迫性障害は、望まない考えが繰り返し浮かぶ強迫観念と、その不安を打ち消すための強迫行為からなり、患者は多くの場合それが不合理だとわかっていながらやめられない(自我違和的)のが特徴です。観念は自分の考えだと自覚されており、内容も了解可能であるため、させられ体験や了解不能な一次妄想を示す統合失調症とは区別されます。単なる几帳面さとの違いは生活機能の障害や強い苦痛を伴う点にあり、治療の第一選択はSSRI(クロミプラミンも有効)と曝露反応妨害法で、抗精神病薬は増強療法として用います。DSM-5では「強迫症および関連症群」として独立し、病識の程度を特定する形になりました。「本人が自分の体験をどう捉えているか」に注目する視点は、強迫と妄想を見分けるうえで精神科診療の基本となります。
解答・解説
正解はeです
強迫性障害(obsessive-compulsive disorder:OCD、DSM-5以降は強迫症とも呼ぶ)の基本的な特徴を問う一般問題である。 【強迫観念と強迫行為】強迫観念とは、望んでいないのに繰り返し頭に浮かぶ思考・衝動・イメージである。本人はそれを侵入的で不適切なものと感じ、強い不安や苦痛を伴う(例:「手に汚れや菌が付いた」「鍵を閉め忘れたかもしれない」)。強迫行為とは、その不安を打ち消したり和らげたりするために繰り返してしまう行動や心の中の行為である(例:何度も手を洗う、何度も確認する、決まった順番を守る、数を数える)。 【本人の認識】患者は、その観念が外から入れられたものではなく自分自身の考えであることを自覚している。そのうえで多くの場合、「ばかげている」「やりすぎだ」と分かっていながらやめられない。この「不合理性の自覚」と「自分の考えであるという自覚」が、統合失調症の妄想やさせられ体験との重要な区別点になる。 【生活への影響と治療】強迫行為に1日に何時間も費やす、あるいは生活・仕事・対人関係に大きな支障が出ることが診断の要件である。治療の中心は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による薬物療法と、曝露反応妨害法を中心とする認知行動療法である。 これらを踏まえると、正しいのは「患者は強迫行為を不合理であると認識している」(e)である。
選択肢考察
- ×a. させられ〈作為〉体験が併存する。
誤り。させられ(作為)体験とは、自分の考えや行動が他者や外部の力によって操られていると感じる体験であり、自我意識のうち能動性の障害にあたる。統合失調症の代表的な症状で、シュナイダーの一級症状にも含まれる。強迫性障害の患者は、強迫観念を「自分の心が生み出したもの」と認識しており、外から操られているとは感じていない。自我の能動性は保たれているため、させられ体験は通常みられない。
- ×b. 強迫観念の内容は了解不能である。
誤り。強迫観念の内容は、汚染への恐れ、戸締まりや火の元の確認、物の配置の対称性や順序へのこだわり、他人を傷つけてしまうのではという不安など、誰もがある程度は抱きうる心配が過剰になったものである。そのため、なぜそう考えるのかを他者も心理的に理解できる(了解可能である)。了解不能な体験は、統合失調症の一次妄想などに特徴的である。
- ×c. 生活機能が障害されることは少ない。
誤り。強迫性障害の診断には、強迫観念や強迫行為に多くの時間を費やす(目安として1日1時間以上)こと、または強い苦痛や社会的・職業的機能の障害を伴うことが必要である。手洗いや確認のために外出や出勤ができなくなる、家族に確認を求めて家庭生活に影響が出る(巻き込み)など、生活機能は大きく障害されることが多い。単なる几帳面さやこだわりとは、この点で区別される。
- ×d. 第一選択薬は非定型抗精神病薬である。
誤り。強迫性障害の薬物療法の第一選択は、SSRI(わが国ではフルボキサミンとパロキセチンに適応がある)である。三環系抗うつ薬の中でセロトニン再取り込み阻害作用の強いクロミプラミンも有効である。うつ病の治療より高用量・長期間(効果判定に10〜12週程度)が必要なことが多い。非定型抗精神病薬(リスペリドン、アリピプラゾールなど)は、SSRIで十分な効果が得られない場合に上乗せする増強療法として使われることがあるが、単独で第一選択とはならない。ベンゾジアゼピン系抗不安薬も強迫症状そのものへの効果は乏しく、中心的な治療薬ではない。
- ○e. 患者は強迫行為を不合理であると認識している。
正しい。強迫性障害の患者の多くは、「こんなに何度も手を洗う必要はない」「鍵は閉めたはずだ」と、自分の観念や行為が過剰で不合理であることを分かっている。それでも、行為をしないと不安が高まって耐えられないため、繰り返してしまう。この「分かっているのにやめられない」という自我違和的な体験が、強迫の本質的な特徴である。従来の診断基準(DSM-IV)では、経過中のどこかで不合理性を認識していることが要件とされていた。DSM-5では、病識の程度を「良好または十分」「不十分」「欠如・妄想的」と特定する形に改められたが、多くの患者で病識は保たれている。
疾患の位置づけ
従来(DSM-IV、ICD-10)は不安障害(神経症性障害)の一つとして扱われていた。DSM-5(2013年)では不安症群から独立し、「強迫症および関連症群」として醜形恐怖症、ためこみ症、抜毛症、皮膚むしり症とまとめられた。ICD-11でも同様の分類となっている。
疫学・経過
・生涯有病率は1〜2%程度で、性差は小さい。男性の方がやや早く、小児期〜青年期に発症することが多い。 ・慢性に経過しやすく、うつ病の併存が多い。チック症(特に男性の早発例)との関連もある。
よくある強迫のパターン
・汚染恐怖と洗浄強迫(長時間の手洗い、入浴) ・確認強迫(戸締まり、ガス栓、電気の確認) ・対称性・正確さへのこだわり(配置・順序をそろえる) ・加害恐怖(誰かを傷つけたのではないかという不安)、数を数える儀式
治療
・薬物療法:SSRI(フルボキサミン、パロキセチンなど)、クロミプラミン。効果が不十分なら抗精神病薬の少量追加(増強療法)を検討する。 ・精神療法:曝露反応妨害法(ERP)。不安を引き起こす状況にあえて身を置き(曝露)、強迫行為をしないで我慢する(反応妨害)。これを繰り返し、不安が自然に下がることを体験させる認知行動療法である。
鑑別の要点
・統合失調症の妄想:本人は内容を確信しており、不合理とは思わない。 ・させられ体験・思考吹入:考えが外から入れられる、操られると感じる。強迫観念は自分の考えだと自覚している点が異なる。 ・強迫性パーソナリティ障害:完璧主義・秩序へのこだわりが性格として一貫しており、自我親和的で苦痛を感じにくい。
POINT
・強迫性障害は強迫観念と、それを打ち消すための強迫行為からなる。 ・患者は観念を自分の考えと自覚し、多くは不合理だと分かっていながらやめられない(自我違和的)。 ・強迫観念の内容は了解可能であり、させられ体験は伴わない(伴えば統合失調症を考える)。 ・生活機能の障害を伴うことが診断の要件である。 ・治療の第一選択はSSRI(クロミプラミンも有効)と曝露反応妨害法である。抗精神病薬は増強療法として用いる。
