耳の水疱が告げる顔面麻痺の正体―額のしわで見抜く末梢性と中枢性
第102回医師国家試験 A問題 第44問
国試問題にチャレンジ
32歳の男性。右顔面の麻痺を主訴に来院した。4日前から右耳痛,右軽度難聴および右顔面の違和感が続いていた。昨日から飲水時に右口角から水が漏れ,今朝から右眼が閉じられなくなった。右耳介の写真を別に示す。 誤っているのはどれか。

- a.右額のしわ寄せは可能である。
- b.舌右側の味覚の低下がみられる。
- c.右アブミ骨筋反射は減弱する。
- d.聴力検査で感音難聴を認める。
- e.水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
耳介・外耳道の帯状疱疹、末梢性顔面神経麻痺、感音難聴やめまいなどの第VIII脳神経症状がそろえばRamsay Hunt症候群であり、膝神経節に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因です。末梢性麻痺では額を含む同側顔面全体が麻痺するため、額のしわ寄せが可能という記述は誤りで、額のしわ寄せが保たれるのは両側大脳支配を受ける中枢性麻痺の特徴です。膝神経節付近の障害では、鼓索神経による舌前3分の2の味覚低下、アブミ骨筋反射の減弱による聴覚過敏、涙の減少が起こりうるほか、内耳神経への波及で感音難聴を生じます。治療は抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイド薬の早期併用が基本で、Bell麻痺より予後が悪いことや、水疱を欠く例があることにも注意が必要です。顔面神経の走行と枝の役割を理解しておくと、部位診断だけでなく、脳卒中との鑑別という救急の場面でも確かな判断につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・32歳の男性。4日前から右耳の痛み、右耳の軽い難聴、右顔面の違和感が続いている。 ・昨日から水を飲むと右の口角から漏れ、今朝から右眼が閉じられなくなった。顔面の筋肉を動かす顔面神経(第VII脳神経)の麻痺が、数日かけて強くなっている。 ・右耳介の写真では、耳介の中央部(耳甲介のあたり)が赤くなり、小さな水疱が集まってできている。
診断への考え方
顔の片側の筋肉が動かなくなる顔面神経麻痺では、まず原因を探す。本例では次の点が重要である。 ・麻痺に先立って耳痛がある。 ・耳介に帯状疱疹と同じような水疱と発赤がある。 ・顔面神経のすぐそばを通る内耳神経(第VIII脳神経、聴覚とからだの平衡を担う)の症状として、難聴がある。 この「耳介・外耳道の帯状疱疹」「末梢性顔面神経麻痺」「難聴・耳鳴り・めまいなどの第VIII脳神経症状」の組み合わせがRamsay Hunt症候群である。顔面神経の途中にある膝神経節(側頭骨の中にある神経細胞の集まり)に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、再び活動を始めて起こる。
設問の考え方
本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。Ramsay Hunt症候群の顔面神経麻痺は、脳の外で神経そのものが傷つく末梢性麻痺である。そこで、顔面神経がどこを通り、途中でどの枝を出して何を支配しているかを考えると、各選択肢の正誤を判断できる。 ・側頭骨内で出る枝:大錐体神経(涙の分泌)、アブミ骨筋神経(アブミ骨筋)、鼓索神経(舌の前3分の2の味覚、顎下腺・舌下腺の唾液分泌)。 ・側頭骨を出てからの枝:額、眼の周り、頬、口の周りなど、顔の表情をつくる筋肉(表情筋)すべて。
選択肢考察
- ○a. 右額のしわ寄せは可能である。
この記述は誤りであり、本問の正解である。額にしわを寄せる前頭筋は顔面神経が支配している。額の上の部分を動かす脳の神経細胞(顔面神経核の上部)は、左右両方の大脳から命令を受けている。このため、脳梗塞など脳の中の障害による中枢性麻痺では、反対側の大脳が命令を補うので額のしわ寄せは保たれる。一方、Ramsay Hunt症候群のように顔面神経そのものが傷つく末梢性麻痺では、顔の上半分も下半分も同じ側で麻痺する。本例はすでに右眼が閉じられないほど麻痺が強く、右の額にしわを寄せることもできないと考えられる。
- ×b. 舌右側の味覚の低下がみられる。
この記述は正しい。舌の前3分の2の味覚は、顔面神経の枝である鼓索神経が伝えている。Ramsay Hunt症候群の病変は側頭骨の中にある膝神経節のあたりで、鼓索神経が分かれる場所より中枢(脳に近い側)にあたる。このため、同じ側(右側)の舌の前方で味を感じにくくなる。顎下腺・舌下腺からの唾液の分泌が減ることもある。
- ×c. 右アブミ骨筋反射は減弱する。
この記述は正しい。アブミ骨筋反射は、大きな音が入ったときにアブミ骨筋が縮んでアブミ骨の動きを抑え、内耳に強い振動が伝わりすぎないようにする反射である。アブミ骨筋は顔面神経の枝(アブミ骨筋神経)が支配するため、この枝が分かれる場所より中枢で顔面神経が傷つくと、反射が弱くなったり、出なくなったりする。そのため普通の大きさの音も響いてうるさく感じること(聴覚過敏)が起こりうる。この反射を調べると、顔面神経のどこが傷ついているかを推定する(部位診断)手がかりになる。
- ×d. 聴力検査で感音難聴を認める。
この記述は正しい。Ramsay Hunt症候群では、ウイルスによる炎症が、顔面神経と同じ内耳道を通る内耳神経や内耳(蝸牛)にまで広がる。音を伝える外耳・中耳の障害ではなく、音を感じ取る内耳や神経の障害なので、感音難聴(内耳から脳までの障害による難聴)となる。本例でも右耳の軽い難聴があり、聴力検査では気導と骨導がともに悪くなる感音難聴を示すと考えられる。前庭神経も傷つくとめまいや眼振が出ることがある。
- ×e. 水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因である。
この記述は正しい。子どもの頃に水痘(みずぼうそう)にかかると、その後も水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は神経節の中に潜んだまま残る。Ramsay Hunt症候群は、顔面神経の膝神経節に潜んでいたVZVが、疲労や免疫の低下などをきっかけに再び活動を始め(再活性化)、神経に炎症を起こして発症する。耳介の水疱は、顔面神経がわずかに受け持っている耳介・外耳道の皮膚感覚の領域に帯状疱疹が出たものである。
Ramsay Hunt症候群の概要
・原因:膝神経節に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化。 ・三つの主な症状: 1. 耳介・外耳道の帯状疱疹(発赤、水疱、強い耳痛) 2. 同じ側の末梢性顔面神経麻痺 3. 第VIII脳神経の症状(感音難聴、耳鳴り、めまい) ・三つがそろわない不全型も多い。水疱が麻痺より後に出てくることや、水疱がまったく出ないこと(zoster sine herpete)もある。こうした例は最初、Bell麻痺と区別がつきにくい。 ・予後:顔面神経麻痺の治りやすさは、Bell麻痺(原因がはっきりしない末梢性顔面神経麻痺で、多くは単純ヘルペスウイルスが関係すると考えられている)より悪い。
治療
・抗ウイルス薬(バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルの内服、重症ならアシクロビルの点滴)と副腎皮質ステロイド薬を、できるだけ早く一緒に使う。 ・閉じられない眼は乾いて角膜が傷つきやすいので、点眼薬や眼軟膏、眼帯などで保護する。 ・麻痺の重さは柳原法(40点法)で評価し、神経がどの程度傷んでいるかは誘発筋電図(ENoG)で調べ、治りやすさを予測する。
顔面神経の障害部位と症状(部位診断)
・膝神経節より中枢:涙が減る(大錐体神経)、聴覚過敏・アブミ骨筋反射の消失(アブミ骨筋神経)、味覚障害・唾液が減る(鼓索神経)、表情筋の麻痺。 ・アブミ骨筋神経と鼓索神経の間:涙は保たれるが、アブミ骨筋反射の消失、味覚障害、表情筋の麻痺がある。 ・鼓索神経より末梢:味覚は保たれ、表情筋の麻痺だけとなる。 ・涙の量はSchirmer試験、味覚は電気味覚検査で調べる。
中枢性麻痺と末梢性麻痺の区別
・中枢性(脳梗塞や脳出血など、脳の中の障害):顔の下半分だけが麻痺し、額のしわ寄せはできる。 ・末梢性(Bell麻痺、Ramsay Hunt症候群など、顔面神経そのものの障害):額を含めて顔の片側全体が麻痺する。
POINT
・耳介の水疱、末梢性顔面神経麻痺、第VIII脳神経症状(感音難聴、めまい)がそろえばRamsay Hunt症候群である。 ・原因は膝神経節に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化で、治療は抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイド薬の早期併用である。 ・末梢性顔面神経麻痺では額のしわ寄せもできなくなる。額のしわ寄せができるのは中枢性麻痺である。 ・膝神経節の障害では、涙の減少、アブミ骨筋反射の低下(聴覚過敏)、舌の前3分の2の味覚低下が起こりうる。 ・Bell麻痺より予後が悪い。
