「休ませる」は処方ではない―思春期の締めつけ頭痛、初診で医師がすべきこと
第102回医師国家試験 A問題 第30問
国試問題にチャレンジ
13歳の男子。頭痛を主訴に来院した。1か月前からしばしば頭痛が出現し,登校できないこともあった。頭痛は,頭全体が締めつけられるような痛みであるが,1時間程度で軽減した。痛みの出現する時期は不定であり,前兆はなかった。発熱は認めないが,嘔気を伴うことがあった。1か月間,症状には変化がなかった。血液所見:赤血球510万,白血球3,800,血小板17万。CRP 0.2mg/dL。頭部単純CTに異常を認めない。 初回診察時の対応として適切でないのはどれか。
- a.血圧を測定する。
- b.心理検査を行う。
- c.眼科的異常がないか検査する。
- d.耳鼻科的異常がないか検査する。
- e.登校しないように指示する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
両側性の締めつけるような痛みで比較的短時間で軽快し、経過に変化のない頭痛は緊張型頭痛を考えます。初診では、血圧測定(二次性高血圧や起立性調節障害の評価を含む)、眼科的評価(屈折異常、緑内障、うっ血乳頭)、耳鼻科的評価(副鼻腔炎など)で身体的要因を除外しつつ、思春期に多い心理社会的要因も心理検査や面接で評価します。緊張型頭痛は機能性の頭痛であり、登校を禁止する理由はなく、生活の制限はストレスを増やして頭痛と不登校の悪循環を招きかねません。治療は説明と安心づけ、生活指導が基本で、鎮痛薬の使いすぎによる薬物乱用頭痛にも注意が必要です。二次性頭痛の危険信号を押さえたうえで、身体と心理の両面から子どもの生活を支える姿勢は、小児・思春期診療全般に通じる大切な考え方です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・13歳男子、1か月前から頭痛を繰り返し、登校できない日もある。 ・性状: 頭全体が締めつけられるような痛み(両側性・圧迫/絞扼性)。持続は1時間程度で自然に軽減する。 ・前兆(閃輝暗点などの視覚症状)はなく、出現時期は不定。 ・随伴症状: 発熱なし。嘔気を伴うことがある。 ・経過: 1か月間、症状は増悪も変化もしていない。 ・検査: 血算は大きな異常なし(白血球3,800/µLはほぼ正常下限)、CRP 0.2 mg/dLで炎症反応はほとんどない。頭部単純CTも異常なし。
診断へのプロセス
頭痛診療ではまず、命に関わる二次性頭痛(くも膜下出血、髄膜炎、脳腫瘍、脳膿瘍など)を除外する。本例は発熱や炎症反応がなく、頭部CTが正常で、1か月間症状が進行していない。脳腫瘍などの頭蓋内圧亢進による頭痛は、徐々に増悪し、早朝に強く嘔吐を伴うのが典型であり、本例の経過とは合わない。 次に一次性頭痛を考える。片頭痛は拍動性で、体動で悪化し、嘔気・嘔吐や光・音過敏を伴いやすく、寝込むほどの強さになることが多い。小児では両側性のこともあるが、持続は小児でも通常2〜72時間とされる。本例の「頭全体を締めつけられる痛み」で「1時間程度で軽減する」という特徴は、緊張型頭痛(従来の名称は緊張性頭痛)に最もよく合う。嘔気の訴えは緊張型頭痛としてはやや非典型だが、全体像からは緊張型頭痛が最も疑われる。
設問の考え方
問われているのは「初回診察時の対応」として不適切なものである。初診では、頭痛の原因となる身体的要因(高血圧、眼科・耳鼻科疾患など)を丁寧に除外しつつ、思春期に多い心理社会的要因も評価する。一方、緊張型頭痛は器質的な異常のない機能性の頭痛であり、学校生活を制限する理由はない。むしろ日常生活を維持させることが治療の基本となる。
選択肢考察
- ×a. 血圧を測定する。
適切な対応である。血圧はバイタルサインの一つとして、どの患者でも初診時に測定すべきである。小児でも腎疾患(腎炎、腎血管性高血圧)や褐色細胞腫などによる二次性高血圧が頭痛の原因となることがある。また、思春期には起立性調節障害(起立時に血圧や脈拍の調節がうまくいかず、朝起きられない、立ちくらみ、頭痛などを訴える自律神経の機能不全)も多く、登校困難を伴う頭痛では鑑別に挙がる。その評価にも、臥位と立位の血圧・脈拍の測定(起立試験)が役立つ。
- ×b. 心理検査を行う。
適切な対応である。緊張型頭痛には精神的ストレス、不安、抑うつなどの心理的要因が関与することが多い。思春期の子どもでは、学校での人間関係、学業、家庭環境などのストレスが頭痛や不登校の背景にあることも少なくない。心理検査や面接によって心理社会的背景を評価することは、診断と治療方針の決定に有用である。
- ×c. 眼科的異常がないか検査する。
適切な対応である。屈折異常(遠視・乱視など)や眼位の異常による眼精疲労、緑内障による眼圧上昇などは頭痛の原因となる。また、眼底検査でうっ血乳頭(頭蓋内圧亢進による視神経乳頭の腫れ)の有無を確認することは、頭部CTで検出されにくい頭蓋内圧亢進病態を除外するうえでも意味がある。視力、眼圧、眼底などの眼科的評価は頭痛の鑑別に必要である。
- ×d. 耳鼻科的異常がないか検査する。
適切な対応である。副鼻腔炎は前頭部や顔面の痛み・頭重感の原因となり、頭痛の二次的原因としてよく知られている。中耳炎などの耳疾患も頭部の痛みの原因となりうる。本例は発熱や炎症反応に乏しいが、慢性副鼻腔炎では炎症所見がはっきりしないこともあるため、耳鼻科的な評価で除外しておくことが望ましい。
- ○e. 登校しないように指示する。
不適切な対応であり、これが正解である。本例は緊張型頭痛が最も疑われ、器質的疾患による重篤な頭痛は考えにくい。安静や登校の制限が必要な病態ではなく、むしろ適度な運動や規則正しい生活を保つことが推奨される。医師が「登校しないように」と指示すると、学習の遅れや友人関係からの孤立が生じて心理的ストレスが増え、それが頭痛を悪化させてさらに登校できなくなるという悪循環を招きうる。また、患児が「自分は重い病気なのではないか」と不安を強めることにもなる。まだ原因の評価も十分でない初診の段階で、生活を制限する指示を出すのは適切でない。
頭痛の分類
・一次性頭痛: 頭痛そのものが疾患であるもの。片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛(三叉神経・自律神経性頭痛)など。 ・二次性頭痛: 他の疾患が原因で起こるもの。くも膜下出血、髄膜炎、脳腫瘍、高血圧、副鼻腔炎、緑内障、薬物乱用頭痛など。
二次性頭痛を疑う危険信号
突然発症の激しい頭痛、今までで最悪の頭痛、次第に悪化する頭痛、発熱や項部硬直を伴う頭痛、神経脱落症状(麻痺、意識障害、けいれん)を伴う頭痛、早朝の頭痛と嘔吐、50歳以降に初めて起こった頭痛などは、画像検査を含めた精査の対象となる。
緊張型頭痛と片頭痛の比較(国際頭痛分類第3版に基づく)
・緊張型頭痛: 持続30分〜7日。両側性、圧迫感・締めつけ感(非拍動性)、軽度〜中等度の強さ、日常的な動作で悪化しない。嘔気・嘔吐はなく、光過敏か音過敏のどちらか一方はあってもよい。頭頸部の筋緊張や精神的ストレスが関与する。 ・片頭痛: 持続4〜72時間(小児では2〜72時間)。片側性(小児では両側性も多い)、拍動性、中等度〜重度の強さ、日常的な動作で悪化する。嘔気・嘔吐、または光過敏と音過敏を伴う。約2〜3割に前兆(閃輝暗点など)がある。
緊張型頭痛の対応
病気の説明と安心づけ、ストレスへの対処、姿勢の改善、ストレッチや適度な運動などの生活指導が基本である。頭痛時には鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAIDs)を用いるが、頻回の使用は薬物乱用頭痛を招くため注意する。慢性化した例では、三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)による予防療法が行われることもある。
小児・思春期の頭痛と不登校
思春期の頭痛は、起立性調節障害や心理社会的ストレスと関連することが多く、不登校と結びつきやすい。身体的評価と心理社会的評価を並行して行い、学校生活をできる限り維持しながら支援することが重要である。
POINT
・慢性・反復性の頭痛では、まず二次性頭痛の除外(バイタルサイン、眼科・耳鼻科的評価、神経学的所見、必要に応じて画像)を行う。 ・両側性の締めつけ感で、比較的短時間で軽快し、進行のない頭痛は緊張型頭痛を考える。 ・緊張型頭痛には心理的要因が関与するため、心理面の評価も行う。 ・機能性頭痛で登校を禁止する理由はなく、生活の制限はストレスを増やして悪循環を招く。
