骨縫合が境界線―頭血腫・産瘤・帽状腱膜下出血を「層」で見分ける
第102回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
新生児の頭血腫で正しいのはどれか。
- a.硬い腫瘤である。
- b.皮下の出血である。
- c.骨縫合を越えない。
- d.生後3日までに消失する。
- e.穿刺して血液を吸引する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
新生児の頭血腫は骨膜と頭蓋骨の間に生じる骨膜下出血で、骨膜が骨縫合部で頭蓋骨に強く付着しているため、出血は一つの骨の範囲にとどまり骨縫合を越えません。波動を触れる軟らかい腫瘤で、生後数日かけて増大し、数週間〜1、2か月で自然に吸収されるため、治療は経過観察が原則であり、感染の危険がある穿刺吸引は行いません。吸収過程での高ビリルビン血症の増強に注意が必要です。一方、産瘤は皮下の浮腫で縫合を越え2〜3日で消失し、帽状腱膜下出血は縫合を越えて広がり出血性ショックをきたしうる最も緊急性の高い病態です。頭部の層構造と「何がどこにたまるか」で整理すると、分娩外傷の鑑別と重症度判断を一貫して理解できます。
解答・解説
正解はcです
分娩時に児頭が産道で圧迫されたり、吸引・鉗子で牽引されたりすることで生じる頭部の腫脹には、産瘤、頭血腫、帽状腱膜下出血がある。これらは「頭皮から頭蓋骨までのどの層に、何(浮腫か出血か)がたまるか」で区別すると理解しやすい。
頭部の層構造(外側から)
皮膚 → 皮下組織 → 帽状腱膜 → 帽状腱膜下の疎性結合組織 → 骨膜 → 頭蓋骨
3つの病態
・産瘤:先進部の皮下組織にできる浮腫。層の制限がないので骨縫合を越えて広がる。 ・帽状腱膜下出血:帽状腱膜と骨膜の間の出血。この層は頭全体でつながっているので骨縫合を越えて広範に広がり、大量出血になりうる。 ・頭血腫:骨膜と頭蓋骨の間(骨膜下)の出血。骨膜は骨縫合の部分で頭蓋骨にしっかり付着しているため、出血は一つの骨の範囲に閉じ込められ、骨縫合を越えない。 本問では頭血腫の性状、部位、経過、治療が問われており、「骨膜下の出血なので骨縫合を越えない」という解剖学的な理由から、cが正しいと導ける。
選択肢考察
- ×a. 硬い腫瘤である。
誤り。頭血腫は骨膜下に血液がたまったものであり、触れると波動(液体がたまっていることを示す揺らぎ)を感じる軟らかい腫瘤である。これに対し産瘤は浮腫であるため波動はなく、指で押すと圧痕を残す柔らかさである。なお頭血腫では、経過中に辺縁が盛り上がって硬く触れ、陥没骨折のように感じられることがある。また吸収が遅れた場合には血腫が石灰化・骨化して硬くなることもあるが、これは例外的な経過であり、頭血腫の基本的な性状は波動を触れる軟らかい腫瘤である。
- ×b. 皮下の出血である。
誤り。頭血腫は頭蓋骨と骨膜の間の出血(骨膜下出血)である。分娩時の圧迫やずれによって骨膜が頭蓋骨から剥がれ、そのすき間に出血することで生じ、頭頂骨に好発する(片側が多いが両側のこともある)。皮下組織にできるのは産瘤であり、しかも産瘤は出血ではなく浮腫が主体である。
- ○c. 骨縫合を越えない。
正しい。骨膜は骨縫合の部分で頭蓋骨に強く癒着しているため、骨膜下にたまった血液は縫合線を越えて隣の骨へ広がることができない。そのため頭血腫の広がりは一つの頭蓋骨の範囲にとどまり、境界がはっきりした腫瘤となる。一方、皮下の浮腫である産瘤や、帽状腱膜下の出血である帽状腱膜下出血は、骨縫合を越えて広がる。「縫合を越えるか否か」は、頭血腫と産瘤・帽状腱膜下出血を鑑別する最も重要なポイントである。
- ×d. 生後3日までに消失する。
誤り。頭血腫は骨膜下の出血がゆっくり進むため、出生直後は目立たず、生後数時間〜数日かけて徐々に大きくなることが多い。吸収にも時間がかかり、自然に消失するまでに通常は数週間〜1、2か月ほどを要する(大きいものではさらに長くかかる)。生後2〜3日で自然に消えるのは産瘤の特徴である。産瘤は出生直後が最も大きく、その後速やかに縮小する。
- ×e. 穿刺して血液を吸引する。
誤り。頭血腫は自然に吸収されるため、原則として治療は不要で経過観察とする。穿刺吸引を行うと、皮膚の常在菌などが血腫内に入り込み、血腫の感染(化膿)や骨髄炎を引き起こす危険があるため、行うべきではない。経過観察中は、血腫の吸収に伴ってヘモグロビンが分解されビリルビンが増えるため、新生児黄疸(高ビリルビン血症)が強くなることに注意する。
分娩外傷による頭部の腫脹・損傷の比較
・産瘤 部位:先進部の皮下組織(浮腫) 骨縫合:越える 性状:波動なし、圧痕を残す柔らかい腫脹 出現と経過:出生直後が最大で、2〜3日で自然消失 治療:不要 ・頭血腫 部位:骨膜下(出血)、頭頂骨に好発 骨縫合:越えない 性状:波動を触れる、境界明瞭 出現と経過:生後数時間〜数日かけて増大し、数週間〜1、2か月で吸収(まれに石灰化) 合併・注意点:高ビリルビン血症、線状骨折の合併がありうる 治療:経過観察(穿刺は感染の危険があり行わない) ・帽状腱膜下出血 部位:帽状腱膜と骨膜の間(出血) 骨縫合:越える(頭部全体、前額・耳介周囲・項部まで広がることがある) 性状:波動を触れる柔らかい腫脹 背景:吸引分娩に多い 危険性:この層には大量の血液がたまりうるため、貧血、出血性ショック、播種性血管内凝固(DIC)に進行して死亡することもある。頭囲の増大、進行する貧血、頻脈などを慎重に観察し、輸血などの循環管理が必要となる。三者のなかで最も緊急性が高い。
頭蓋骨骨折
・線状骨折:頭血腫に合併することがある。多くは無症状で経過観察でよい。 ・陥没骨折:鉗子分娩などで生じる。脳の圧迫や神経症状を伴う場合は外科的整復を考慮する。
覚え方
骨縫合を越えないのは骨膜下出血である頭血腫だけ。越えるもののうち、浮腫で数日で消えるのが産瘤、出血で重症化しうるのが帽状腱膜下出血である。
POINT
・頭血腫=骨膜下出血。頭頂骨に好発し、骨縫合を越えない。 ・波動を触れる軟らかい腫瘤で、生後数日かけて増大し、数週間〜1、2か月で自然吸収される。 ・治療は経過観察。穿刺吸引は感染の危険があり行わない。 ・吸収過程で高ビリルビン血症が増強しうる。 ・産瘤は皮下の浮腫で骨縫合を越え、2〜3日で消失する。 ・帽状腱膜下出血は骨縫合を越えて広がり、出血性ショックを起こしうる(吸引分娩に多い)。
