StudyMed医師国家試験

胎盤が出た直後の激痛と大出血―「痛み」と「タイミング」で見抜く子宮内反症

第102回医師国家試験 A問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第22問

40歳の初産婦。児の娩出までの経過は正常であった。胎盤娩出直後から多量の出血を認めるとともに下腹部に激しい痛みを訴えた。  最も考えられるのはどれか。

  1. a.子宮破裂
  2. b.子宮内反
  3. c.頸管裂傷
  4. d.弛緩出血
  5. e.羊水塞栓症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は分娩後の異常出血の鑑別問題だ。産後の出血の原因はいくつもあるけれど、注目してほしいのは2点。出血が「いつ」始まったか、そして「痛み」を伴うかどうかだ。まず、産後出血の原因としてどんなものを思い浮かべるかな。
医学生医学生
一番多いのは弛緩出血だと習いました。ほかに頸管裂傷や胎盤遺残でしょうか。
ドクタードクター
いいね。頻度順に子宮収縮不全である弛緩出血、頸管裂傷などの産道裂傷、胎盤・卵膜の遺残、凝固異常が挙げられる。ここで大事なのは、弛緩出血や頸管裂傷は基本的に痛みを伴わない出血だということ。今回は激しい下腹部痛があるよね。
医学生医学生
大量出血で痛みがあるなら、子宮破裂を考えてしまいました。
ドクタードクター
自然な発想だけど、子宮破裂の多くは児の娩出前、つまり分娩第1期や第2期に起こるんだ。過強陣痛や病的収縮輪の上昇といった切迫子宮破裂の徴候が先行し、破裂すると陣痛が消えて胎児機能不全やショックになる。今回は児の娩出まで正常に経過していて、既往歴の記載もない初産婦だから合わない。
医学生医学生
タイミングが「胎盤娩出の直後」というのが重要なんですね。分娩第3期に起こる病気というと……。
ドクタードクター
そこで浮かぶのが子宮内反症だ。子宮底が子宮腔の内側へ陥入・反転して、内膜面が外側を向いてしまう状態で、重症だと子宮が腟内や腟外に脱出する。
医学生医学生
子宮が裏返しになるんですか。想像するとかなり痛そうです。
ドクタードクター
まさにそう。反転によって子宮を支える靱帯や腹膜が強く引っ張られるから激痛が起こる。さらに胎盤の剝離面が露出したまま子宮が収縮できないので、大量に出血する。激痛と大出血が同時に始まるという今回の経過にぴったりだ。だから正解は子宮内反だね。
医学生医学生
どういうときに起こりやすいんでしょうか。
ドクタードクター
多くは分娩第3期で、癒着胎盤などで胎盤が剝がれにくいときに臍帯を強く引っ張ったり、用手剝離を行ったり、子宮底を過度に押したりするのが誘因になる。胎盤が子宮底部に付着している場合も起こりやすい。
医学生医学生
産婦人科の実習で、胎盤娩出のときに先生が臍帯を引っ張りすぎないよう慎重にしていたのは、これを防ぐためだったんですね。
ドクタードクター
その通り。では、ほかの選択肢との区別も整理しよう。頸管裂傷はどうかな。
医学生医学生
頸管裂傷は児が出てすぐに出血が始まって、子宮は硬いのに鮮紅色の血が止まらない、というイメージです。
ドクタードクター
よく覚えているね。子宮頸部は分娩時に強く伸展されているので、裂けてもほとんど痛みを感じない。出血の開始が児娩出直後である点と、痛みがない点が今回と違う。弛緩出血は胎盤娩出後に子宮の収縮が不十分で起こり、子宮は軟らかく大きく、子宮底は高く触れる。大量出血になりうるけれど、やはり無痛性だ。
医学生医学生
羊水塞栓症も分娩前後の急変として講義で強調されていました。
ドクタードクター
羊水塞栓症は羊水成分が母体血中に入り、突然の呼吸困難やショック、心停止、高度のDICを起こす病態だ。DICで止血困難な出血をきたすこともあるけれど、主役は呼吸・循環の急激な破綻で、激しい下腹部痛は典型的じゃない。
医学生医学生
時期と痛みで並べると、児娩出前の腹痛なら子宮破裂や早剝、児娩出直後の無痛性出血は頸管裂傷、胎盤娩出後の無痛性出血は弛緩出血、胎盤娩出直後の激痛と出血なら子宮内反、と整理できますね。
ドクタードクター
素晴らしい整理だ。最後に臨床の注意点を。子宮内反症では腹壁から子宮底を触れない、あるいは子宮底に陥凹を触れ、腟内に暗赤色の腫瘤を認める。出血量に見合わない高度のショックを示すこともあり、腹膜の牽引による迷走神経反射が関与すると考えられている。治療は輸液・輸血で循環を支えながら、ただちに用手的に整復することが第一だ。
医学生医学生
出血しているなら、すぐに子宮収縮薬を使いたくなりますが……。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。整復前に子宮を収縮させると、反転した子宮がかえって戻しにくくなる。整復が難しいときはニトログリセリンなどでいったん子宮筋を弛緩させてから整復し、子宮収縮薬は整復した後に使って再内反と出血を防ぐ。胎盤が付着したままなら、先に剝がすと大出血を招くので原則として整復を優先する。用手整復ができなければ開腹での整復も考える。順番を間違えないことが母体の命を守るんだ。

まとめ

胎盤娩出直後から大量出血と激しい下腹部痛が同時に出現した場合は、子宮内反症を最も考えます。子宮底が反転することで支持靱帯や腹膜が牽引されて激痛が生じ、露出した胎盤剝離面から子宮が収縮できないまま大量に出血し、出血量に見合わないショックを呈することもあります。癒着胎盤時の過度の臍帯牽引などが誘因となり、腹壁から子宮底を触れず腟内に暗赤色の腫瘤を認めることが診断の手がかりです。弛緩出血や頸管裂傷は無痛性の出血で、子宮破裂は主に児娩出前、羊水塞栓症は呼吸・循環不全とDICが前景に立つため、「出血の時期」と「痛みの有無」で鑑別できます。治療は循環管理と速やかな用手整復が第一で、子宮収縮薬は整復後に用いるという順序を理解しておくことが、産科救急で母体を救う力につながります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・40歳の初産婦で、児の娩出までは正常に経過している。つまり分娩第1期・第2期に異常はなく、陣痛の異常や切迫子宮破裂の徴候、児娩出前の腹痛はなかったことになる。 ・胎盤娩出「直後」から、(1) 多量の出血、(2) 下腹部の激しい痛み、の2つが同時に出現している。

鑑別の考え方

分娩後の異常出血(産後出血)の原因は、頻度の高い順に子宮収縮不全(弛緩出血)、産道裂傷(頸管裂傷・腟壁裂傷など)、胎盤・卵膜の遺残、凝固異常などが挙げられる。このうち弛緩出血や頸管裂傷は基本的に痛みを伴わない出血である。 そこで本問の鍵は「胎盤娩出の直後」という時期と「激しい下腹部痛」を伴う点である。胎盤娩出の過程(分娩第3期)で起こり、大量出血と強い疼痛を同時に生じる代表的な病態が子宮内反症である。子宮内反症では、子宮底が内側に陥入・反転して、子宮内膜面が外側を向き、重症では子宮が腟内や腟外に脱出する。反転により子宮を支える靱帯や腹膜が強く牽引されるため激痛が生じ、胎盤剝離面が露出して子宮が収縮できないため大量出血をきたす。 子宮破裂や常位胎盤早期剝離であれば児娩出前から腹痛や異常所見があるはずであり、羊水塞栓症は呼吸・循環不全やDICが前景に立つ。以上から、最も考えられるのは子宮内反である。

診断の確認

実際の臨床では、腹壁上から子宮底を触れない(あるいは子宮底部に陥凹を触れる)、腟内に表面が暗赤色の腫瘤を触れる・視認する、といった所見で診断する。出血量に見合わない高度のショック(腹膜の牽引による迷走神経反射が関与するとされる)を呈することも特徴である。

選択肢考察

  1. ×a.  子宮破裂

    子宮破裂の多くは分娩第1期・第2期、すなわち児の娩出前に起こる。危険因子は帝王切開や子宮筋腫核出術の既往、経産婦、過強陣痛、分娩停止、子宮収縮薬の過量投与などである。典型的には、過強陣痛、病的収縮輪(Bandl収縮輪)の上昇、産婦の強い不穏などの切迫子宮破裂徴候が先行し、破裂すると陣痛が消失して胎児機能不全やショックに陥る。帝王切開既往妊婦の経腟分娩では、自覚症状に乏しい子宮破裂(瘢痕部の離開)が分娩後に出血として判明することもあるが、この場合は激しい痛みを伴わないことが多い。本例は既往歴の記載がない初産婦で、児娩出までの経過も正常であり、胎盤娩出直後に始まった激痛と出血は子宮破裂に合わない。

  2. ○b.  子宮内反

    子宮内反症は、子宮底が子宮腔内へ陥入・反転し、内膜面が外側に向いた状態である。多くは分娩第3期に、癒着胎盤などで胎盤が子宮壁から剝がれにくいときの過度の臍帯牽引や胎盤用手剝離、子宮底の過度の圧迫などを誘因として起こる。子宮を支える靱帯・腹膜が引き伸ばされることで激しい下腹部痛が生じ、胎盤剝離面が露出したまま子宮が収縮できないため大量出血をきたす。胎盤娩出直後からの多量出血と激しい下腹部痛という本例の経過に最もよく一致する。

  3. ×c.  頸管裂傷

    頸管裂傷は、急速な分娩、巨大児、鉗子・吸引分娩、子宮口全開大前のいきみなどで生じ、主に3時・9時方向に起こりやすい。児娩出の直後から、子宮収縮が良好であるにもかかわらず鮮紅色の出血が持続するのが特徴である。子宮頸部は分娩時に強く伸展されており、裂傷があっても痛みはほとんど自覚されない。出血の開始時期(胎盤娩出後ではなく児娩出直後)と激しい疼痛を伴う点が本例と合わない。

  4. ×d.  弛緩出血

    弛緩出血は、胎盤娩出後に子宮筋の収縮が不十分なため、胎盤剝離面の血管が閉じずに起こる出血であり、産後大量出血の原因として最も頻度が高い。危険因子は多胎・巨大児・羊水過多などによる子宮の過伸展、遷延分娩、微弱陣痛、子宮筋腫などである。子宮は軟らかく大きく触れ、子宮底は高く触知される。子宮内に血液が貯留したのち、子宮を圧迫すると凝血塊とともに暗赤色の血液が大量に流出するといった経過をとる。大量出血となりうる点は本例と共通するが、痛みを伴わない点が本例と異なる。

  5. ×e.  羊水塞栓症

    羊水塞栓症は、分娩中から分娩直後に羊水成分が母体血中に流入し、呼吸困難・低酸素血症、血圧低下・ショック、心停止、けいれんや意識障害、そして高度の播種性血管内凝固(DIC:全身で凝固が亢進した結果、凝固因子や血小板が消費され出血が止まらなくなる状態)を急激に引き起こす病態である。DICや子宮の収縮不全によって止血困難な性器出血をきたすこともあるが、主症状は突然の呼吸・循環の破綻であり、激しい下腹部痛は典型的ではない。本例には呼吸困難や意識障害などの記載がなく、合わない。

子宮内反症の概要

・頻度はまれ(数千分娩に1例程度とされる)だが、処置が遅れると出血性ショックで母体死亡に至りうる産科救急疾患である。 ・程度による分類:子宮底が子宮腔内に陥凹しているだけのもの(不全子宮内反)、子宮底が外子宮口を越えて腟内に達するもの(完全子宮内反)、子宮が腟外まで脱出するもの(子宮脱を伴う内反)などに分けられる。 ・誘因:癒着胎盤、胎盤の子宮底部付着、過度の臍帯牽引、胎盤用手剝離、子宮筋の弛緩、短い臍帯、急速な分娩など。 ・症状:激しい下腹部痛、大量出血、出血量に不釣り合いなショック。 ・所見:腹壁上から子宮底を触れない、または子宮底部に陥凹を触れる。腟内・腟外に暗赤色の腫瘤(反転した子宮、胎盤が付着したままのこともある)を認める。超音波検査も診断に有用である。 ・治療:ただちに輸液・輸血による循環管理を行いながら、用手的に子宮を整復する(反転した子宮底を腟側から押し上げて戻す:Johnson法など)。整復困難時はニトログリセリンや吸入麻酔薬などで子宮筋を弛緩させてから整復する。整復が得られるまでは子宮収縮薬を使わず、整復後に子宮収縮薬を投与して再内反と出血を防ぐ。用手整復が不可能な場合は開腹による整復(Huntington法、Haultain法)を行う。 ・胎盤が付着したまま内反している場合は、先に胎盤を剝がすと大量出血を招くため、原則として整復を優先する。

分娩時期と出血・疼痛の整理

・児娩出前からの激しい腹痛:常位胎盤早期剝離、子宮破裂(切迫子宮破裂徴候を伴う) ・児娩出直後からの無痛性出血(子宮収縮良好、鮮紅色):頸管裂傷・腟壁裂傷などの産道裂傷 ・胎盤娩出後の無痛性出血(子宮軟、子宮底高い):弛緩出血 ・胎盤娩出直後の激痛+大量出血+ショック(子宮底触れず):子宮内反症 ・分娩後数時間での強い会陰・腟の痛み:腟壁血腫・外陰血腫 ・突然の呼吸困難・ショック・DIC:羊水塞栓症

POINT

・胎盤娩出直後の「激しい下腹部痛+大量出血+ショック」は子宮内反症を考える。 ・子宮内反症では腹壁から子宮底を触れず、腟内に腫瘤を認める。誘因は癒着胎盤時の過度の臍帯牽引など。 ・治療は速やかな用手整復が第一で、整復後に子宮収縮薬を使う(整復前は使わない)。 ・弛緩出血と頸管裂傷は無痛性の出血であり、出血の開始時期(胎盤娩出後か児娩出直後か)と子宮の硬さで区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。