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「黒いほど危ない」は誤解―ABCDEルールで読み解く悪性黒色腫

第102回医師国家試験 A問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第10問

悪性黒色腫の診断指標でないのはどれか。

  1. a.大きさ
  2. b.辺縁の性状
  3. c.黒色調の強さ
  4. d.形状の対称性
  5. e.色調の均一性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、悪性黒色腫を良性のほくろと見分けるための臨床的な指標を問う問題だ。「診断指標でないもの」を選ぶので、指標として何が使われているかを正確に知っているかがカギになる。
医学生医学生
黒色腫というと、とにかく真っ黒なほくろというイメージがあります。
ドクタードクター
多くの人がそう思うし、まさにそこを突いた問題なんだ。まず背景から。悪性黒色腫はメラノサイトが悪性化した腫瘍で、早くから転移しやすく予後が悪い。だから良性の色素細胞母斑と臨床的に見分けて、早い段階で見つけることがとても大事なんだ。そのとき使われるのがABCDEルールだよ。
医学生医学生
皮膚科の講義で聞きました。Aが非対称、Bが辺縁、Cが色、Dが直径でしたっけ。
ドクタードクター
そうそう、Eは短期間での変化、Evolvingだ。一つずつ見ていこう。AのAsymmetryは、病変を中心で分けたときに左右の形が一致しないこと。腫瘍細胞の増殖が不均一だから形がいびつになる。良性母斑は円形や楕円形で対称性を保つことが多い。
医学生医学生
形状の対称性は指標に入るんですね。辺縁の性状がBでしょうか。
ドクタードクター
その通り。黒色腫では腫瘍細胞が表皮内を不規則に横へ広がるので、辺縁がギザギザしたり、境界が不明瞭になったり、色素が周囲ににじみ出したりする。良性母斑は境界明瞭で辺縁がなめらかなことが多いんだ。
医学生医学生
Dの直径は6 mm以上でしたよね。大きさも指標になる、と。
ドクタードクター
そう。後天性の色素細胞母斑の多くはそれより小さい。ただし早期の黒色腫は小さいこともあるから、小さいからといって否定はできないことも覚えておこう。さて問題はCだ。Cは何を見ている項目だと思う?
医学生医学生
Colorなので……色の濃さ、黒さでしょうか。
ドクタードクター
そこが落とし穴。CはColor variegation、つまり一つの病変の中での色むらを見ているんだ。黒、褐色、青灰色、赤、退縮した部分の白などが混在して、濃淡が不均一になる。良性母斑は単一の色調で均一なことが多い。だから色調の均一性は重要な指標で、黒色調の強さは指標ではない。
医学生医学生
なるほど、「色の均一さ」と「色の強さ」は全く別物なんですね。でも、濃く黒いほうが怪しく見えてしまいます。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、真っ黒な良性母斑はたくさんある。逆に、メラニンをほとんどつくらない無色素性黒色腫というものがあって、赤っぽい結節として現れるから化膿性肉芽腫などと間違えられやすい。黒くないから安心、とは言えないんだ。
医学生医学生
色の濃さでは良悪性を判断できない、ということですね。だから正解は黒色調の強さ。
ドクタードクター
そういうこと。ここで日本人に特有の注意点も話しておこう。日本人で最も多いのは、足底や手掌、爪に生じる末端黒子型なんだ。爪では、縦に走る色素線条の幅が広がって、爪の周りの皮膚にまで色素がしみ出すHutchinson徴候が重要だよ。
医学生医学生
皮膚科の実習で、ダーモスコピーで足の裏のほくろを見せてもらいました。皮丘と皮溝の話がありました。
ドクタードクター
よく覚えているね。足底では、皮膚の丘の部分に色素が並ぶ皮丘平行パターンが黒色腫を示唆し、溝に沿う皮溝平行パターンは良性母斑に多い。確定診断は病理で、原則として病変全体をマージンを付けて切除する全切除生検を行う。部分生検は腫瘍を傷つけるので避けられるんだ。
医学生医学生
予後を決めるのは何でしたっけ。
ドクタードクター
最も重要なのは腫瘍の厚さ、Breslowの深さで、T分類にも使われる。治療は厚さに応じたマージンでの切除とセンチネルリンパ節生検が基本で、進行例には抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬や、BRAF変異陽性ならBRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用が使われる。外来で「ほくろが最近大きくなった」「形が変わった」と言われたら、Eの変化を意識して丁寧に診ることが大切だよ。

まとめ

悪性黒色腫と良性の色素細胞母斑を臨床的に見分ける目安としてABCDEルールがあり、非対称(A)、辺縁不整(B)、色むら(C)、直径6 mm以上(D)、短期間での変化(E)を評価します。Cは一つの病変内での色の不均一性を指し、黒さの強さではありません。濃い黒色の良性母斑は多く、メラニンを産生しない無色素性黒色腫もあるため、色の濃淡で良悪性は判断できません。日本人では足底や爪に生じる末端黒子型が最多で、Hutchinson徴候やダーモスコピーの皮丘平行パターンが重要な手がかりとなり、確定診断は全切除生検、予後はBreslowの深さで評価します。指標の意味を正しく理解しておくことが、日常診療で黒色腫を見逃さないための第一歩になります。

解答・解説

正解はcです

悪性黒色腫(メラノーマ)は、メラノサイト(色素細胞)が悪性化した腫瘍である。早い段階から転移しやすく予後が悪いため、良性の色素細胞母斑(いわゆるほくろ)と臨床的に見分けて早く見つけることが重要である。 臨床での鑑別の手がかりとして広く使われているのがABCDEルールである。 A(Asymmetry):形が左右非対称 B(Border irregularity):辺縁が不整で、ギザギザしていたり、色素が周囲ににじみ出していたりする C(Color variegation):色むらがある(黒・褐色・青・赤・白などが混在し、濃淡が不均一) D(Diameter):直径6 mm以上 E(Evolving):大きさ・形・色・隆起などが短期間で変化する ここでCは「色の多様性・不均一性」を指し、「黒さの程度」ではない点が本問の要点である。黒色が濃いことは良性の母斑でもよくみられ、逆に色素をほとんど産生しない無色素性黒色腫もあるため、黒色調の強さは良悪性の判定基準にならない。「診断指標でないのはどれか」という問いなので、ABCDEに含まれない項目を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  大きさ

    ABCDEルールのD(Diameter)にあたる。直径が6 mmを超える色素斑は悪性黒色腫を疑う目安とされる。後天性の色素細胞母斑の多くはこれより小さい。ただし、早期の黒色腫は小さいこともあるので、大きさだけで否定はできない。診断指標の一つであり、本問の正解ではない。

  2. ×b.  辺縁の性状

    ABCDEルールのB(Border)にあたる。悪性黒色腫では、腫瘍細胞が表皮内を不規則に横へ広がるため、辺縁がギザギザしたり、境界が不明瞭になったり、色素が周囲の皮膚ににじみ出したりする(色素のしみ出し)。良性母斑は、境界が明瞭で辺縁が滑らかなことが多い。重要な診断指標である。

  3. ○c.  黒色調の強さ

    黒さの程度そのものは診断指標に含まれない。良性の色素細胞母斑でも濃い黒色を呈するものは多い。一方、悪性黒色腫には、爪の黒色腫のように漆黒色になるものもあれば、メラニンをほとんど産生しない無色素性黒色腫(amelanotic melanoma)のように紅色〜常色の結節として現れ、化膿性肉芽腫(毛細血管拡張性肉芽腫)などと間違えやすいものもある。したがって、色が濃いか薄いかで良性・悪性は判断できない。ABCDEルールのC(Color)は色の濃さではなく、一つの病変内での色むら(多色性・濃淡不均一)を評価する項目である。

  4. ×d.  形状の対称性

    ABCDEルールのA(Asymmetry)にあたる。病変の中心を通る線で分けたときに両側の形が一致しない、左右非対称の色素斑は悪性黒色腫を疑う。腫瘍細胞の増殖が不均一なためである。良性母斑は円形〜楕円形で対称性を保つことが多い。診断指標の一つである。

  5. ×e.  色調の均一性

    ABCDEルールのC(Color variegation)にあたる。悪性黒色腫では、黒・褐色・青灰色・赤・白(退縮部)などが一つの病変の中に混ざり、濃淡も不均一になる。良性母斑は単一の色調で均一なことが多い。色の「均一性」は重要な診断指標であり、色の「強さ」(選択肢c)とは区別する必要がある。

悪性黒色腫の病型(Clark分類)

末端黒子型:足底・手掌・爪部に生じる。日本人で最も多い病型である。爪では、爪甲の縦に走る色素線条が幅を広げ、爪の周囲の皮膚にまで色素がしみ出す所見(Hutchinson徴候)が重要である 表在拡大型:体幹・四肢にみられ、白人に多い。日本でも増加している 結節型:初めから結節として垂直方向に増殖し、進行が速く予後が悪い 悪性黒子型:高齢者の顔面など、日光に当たる部位に生じる

診断

ダーモスコピー(皮膚の表面の光の反射を抑えて拡大観察する検査)が有用である。足底では、皮膚の溝より皮膚の丘の部分に色素が並ぶ皮丘平行パターンが黒色腫を示唆する(良性母斑では皮溝平行パターン)。確定診断は病理組織検査で行う。原則として、病変全体をマージンを付けて切除する全切除生検を行う。部分生検で腫瘍を傷つけることは、転移を促すおそれがあるとして避けられる。

予後因子と治療

最も重要な予後因子は、腫瘍の厚さ(Breslowの深さ:表皮顆粒層から最深部までの距離)であり、TNM分類のT分類にも用いられる。治療の基本は、腫瘍の厚さに応じたマージンを付けた外科的切除と、センチネルリンパ節生検である。進行例では、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体など)や、BRAF遺伝子変異陽性例に対するBRAF阻害薬・MEK阻害薬の併用が用いられる。

POINT

・悪性黒色腫を疑う臨床所見はABCDE:非対称(A)、辺縁不整(B)、色むら(C)、直径6 mm以上(D)、短期間の変化(E) ・C は「色の不均一性」であり、「黒さの強さ」ではない ・無色素性黒色腫があるので、黒くないことは黒色腫の否定にならない ・日本人では足底・爪など末端黒子型が最多で、爪ではHutchinson徴候が重要

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。