「黒いほど危ない」は誤解―ABCDEルールで読み解く悪性黒色腫
第102回医師国家試験 A問題 第10問
国試問題にチャレンジ
悪性黒色腫の診断指標でないのはどれか。
- a.大きさ
- b.辺縁の性状
- c.黒色調の強さ
- d.形状の対称性
- e.色調の均一性
対話形式の解説
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ドクターまとめ
悪性黒色腫と良性の色素細胞母斑を臨床的に見分ける目安としてABCDEルールがあり、非対称(A)、辺縁不整(B)、色むら(C)、直径6 mm以上(D)、短期間での変化(E)を評価します。Cは一つの病変内での色の不均一性を指し、黒さの強さではありません。濃い黒色の良性母斑は多く、メラニンを産生しない無色素性黒色腫もあるため、色の濃淡で良悪性は判断できません。日本人では足底や爪に生じる末端黒子型が最多で、Hutchinson徴候やダーモスコピーの皮丘平行パターンが重要な手がかりとなり、確定診断は全切除生検、予後はBreslowの深さで評価します。指標の意味を正しく理解しておくことが、日常診療で黒色腫を見逃さないための第一歩になります。
解答・解説
正解はcです
悪性黒色腫(メラノーマ)は、メラノサイト(色素細胞)が悪性化した腫瘍である。早い段階から転移しやすく予後が悪いため、良性の色素細胞母斑(いわゆるほくろ)と臨床的に見分けて早く見つけることが重要である。 臨床での鑑別の手がかりとして広く使われているのがABCDEルールである。 A(Asymmetry):形が左右非対称 B(Border irregularity):辺縁が不整で、ギザギザしていたり、色素が周囲ににじみ出していたりする C(Color variegation):色むらがある(黒・褐色・青・赤・白などが混在し、濃淡が不均一) D(Diameter):直径6 mm以上 E(Evolving):大きさ・形・色・隆起などが短期間で変化する ここでCは「色の多様性・不均一性」を指し、「黒さの程度」ではない点が本問の要点である。黒色が濃いことは良性の母斑でもよくみられ、逆に色素をほとんど産生しない無色素性黒色腫もあるため、黒色調の強さは良悪性の判定基準にならない。「診断指標でないのはどれか」という問いなので、ABCDEに含まれない項目を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 大きさ
ABCDEルールのD(Diameter)にあたる。直径が6 mmを超える色素斑は悪性黒色腫を疑う目安とされる。後天性の色素細胞母斑の多くはこれより小さい。ただし、早期の黒色腫は小さいこともあるので、大きさだけで否定はできない。診断指標の一つであり、本問の正解ではない。
- ×b. 辺縁の性状
ABCDEルールのB(Border)にあたる。悪性黒色腫では、腫瘍細胞が表皮内を不規則に横へ広がるため、辺縁がギザギザしたり、境界が不明瞭になったり、色素が周囲の皮膚ににじみ出したりする(色素のしみ出し)。良性母斑は、境界が明瞭で辺縁が滑らかなことが多い。重要な診断指標である。
- ○c. 黒色調の強さ
黒さの程度そのものは診断指標に含まれない。良性の色素細胞母斑でも濃い黒色を呈するものは多い。一方、悪性黒色腫には、爪の黒色腫のように漆黒色になるものもあれば、メラニンをほとんど産生しない無色素性黒色腫(amelanotic melanoma)のように紅色〜常色の結節として現れ、化膿性肉芽腫(毛細血管拡張性肉芽腫)などと間違えやすいものもある。したがって、色が濃いか薄いかで良性・悪性は判断できない。ABCDEルールのC(Color)は色の濃さではなく、一つの病変内での色むら(多色性・濃淡不均一)を評価する項目である。
- ×d. 形状の対称性
ABCDEルールのA(Asymmetry)にあたる。病変の中心を通る線で分けたときに両側の形が一致しない、左右非対称の色素斑は悪性黒色腫を疑う。腫瘍細胞の増殖が不均一なためである。良性母斑は円形〜楕円形で対称性を保つことが多い。診断指標の一つである。
- ×e. 色調の均一性
ABCDEルールのC(Color variegation)にあたる。悪性黒色腫では、黒・褐色・青灰色・赤・白(退縮部)などが一つの病変の中に混ざり、濃淡も不均一になる。良性母斑は単一の色調で均一なことが多い。色の「均一性」は重要な診断指標であり、色の「強さ」(選択肢c)とは区別する必要がある。
悪性黒色腫の病型(Clark分類)
末端黒子型:足底・手掌・爪部に生じる。日本人で最も多い病型である。爪では、爪甲の縦に走る色素線条が幅を広げ、爪の周囲の皮膚にまで色素がしみ出す所見(Hutchinson徴候)が重要である 表在拡大型:体幹・四肢にみられ、白人に多い。日本でも増加している 結節型:初めから結節として垂直方向に増殖し、進行が速く予後が悪い 悪性黒子型:高齢者の顔面など、日光に当たる部位に生じる
診断
ダーモスコピー(皮膚の表面の光の反射を抑えて拡大観察する検査)が有用である。足底では、皮膚の溝より皮膚の丘の部分に色素が並ぶ皮丘平行パターンが黒色腫を示唆する(良性母斑では皮溝平行パターン)。確定診断は病理組織検査で行う。原則として、病変全体をマージンを付けて切除する全切除生検を行う。部分生検で腫瘍を傷つけることは、転移を促すおそれがあるとして避けられる。
予後因子と治療
最も重要な予後因子は、腫瘍の厚さ(Breslowの深さ:表皮顆粒層から最深部までの距離)であり、TNM分類のT分類にも用いられる。治療の基本は、腫瘍の厚さに応じたマージンを付けた外科的切除と、センチネルリンパ節生検である。進行例では、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体など)や、BRAF遺伝子変異陽性例に対するBRAF阻害薬・MEK阻害薬の併用が用いられる。
POINT
・悪性黒色腫を疑う臨床所見はABCDE:非対称(A)、辺縁不整(B)、色むら(C)、直径6 mm以上(D)、短期間の変化(E) ・C は「色の不均一性」であり、「黒さの強さ」ではない ・無色素性黒色腫があるので、黒くないことは黒色腫の否定にならない ・日本人では足底・爪など末端黒子型が最多で、爪ではHutchinson徴候が重要
