色が「抜ける」か「濃くなる」か―葉状白斑と血管線維腫で見抜く結節性硬化症
第102回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
結節性硬化症でみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.白斑
- b.神経鞘腫
- c.聴神経腫瘍
- d.血管線維腫
- e.café au lait斑
対話形式の解説
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医学生まとめ
結節性硬化症はTSC1/TSC2遺伝子の変異によってmTOR経路が過剰に活性化し、全身に過誤腫を生じる常染色体顕性遺伝の母斑症です。顔面の血管線維腫、てんかん、知的能力障害がVogtの三徴で、皮膚では乳児期から見られる葉状白斑が最早期の手がかりとなり、粒起革様皮膚や爪囲線維腫も特徴的です。カフェオレ斑は神経線維腫症1型、多発神経鞘腫や両側聴神経腫瘍は神経線維腫症2型の所見であり、「色が抜ける」結節性硬化症と「色が濃くなる」神経線維腫症1型を対比すると整理しやすくなります。腎血管筋脂肪腫や心横紋筋腫、肺のリンパ脈管筋腫症など多臓器にわたる病変にはmTOR阻害薬が用いられ、病態から治療まで一貫して理解することが母斑症の鑑別と診療の基礎になります。
解答・解説
正解はa, dです
結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)は、TSC1遺伝子(ハマルチンをコード)またはTSC2遺伝子(チュベリンをコード)の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の母斑症(神経皮膚症候群)である。孤発例(新生突然変異)も多い。ハマルチン・チュベリン複合体はmTOR(mammalian target of rapamycin)経路を抑制しているため、その機能が失われるとmTORが過剰に活性化し、皮膚・脳・腎・心・肺など全身に過誤腫性の病変が生じる。Pringle病とも呼ばれる。 古典的な三主徴は「顔面の血管線維腫」「てんかん発作」「知的能力障害」であり、Vogtの三徴として知られる。皮膚では、出生時から乳児期にみられる木の葉状の白斑が最も早期に気づかれる所見である。 本問の選択肢は、結節性硬化症と、同じ母斑症に属する神経線維腫症1型(NF1、von Recklinghausen病)・神経線維腫症2型(NF2)の所見を混ぜて並べている。各所見がどの疾患に特徴的なのかを整理して区別できるかが問われている。
選択肢考察
- ○a. 白斑
結節性硬化症では、葉状白斑(ash-leaf spot、white leaf-shaped macule)と呼ばれる木の葉形の不完全脱色素斑が出生時から乳児期に出現する。メラノサイトの数は保たれているが、メラニン産生が低下しているために色が抜けて見える。体幹や四肢に多く、ほかの症状がまだ出ていない乳児期にけいれんを起こした児で、本症を疑うきっかけとなる重要な所見である。Wood灯(長波長紫外線)を当てると境界が明瞭になり、見つけやすくなる。
- ×b. 神経鞘腫
神経鞘腫(シュワン細胞腫)が多発するのは神経線維腫症2型(NF2)である。NF2は22番染色体上のNF2遺伝子(マーリンをコード)の異常による疾患で、脳神経・脊髄神経・末梢神経に神経鞘腫が多発し、髄膜腫も合併しやすい。結節性硬化症の特徴的所見ではない。
- ×c. 聴神経腫瘍
聴神経腫瘍(正確には前庭神経鞘腫)が両側に生じることは神経線維腫症2型(NF2)の診断上最も重要な所見である。神経線維腫症1型でもまれに合併の報告はあるが、結節性硬化症の所見ではない。両側性の場合は難聴・耳鳴・平衡障害を若年で呈することが多い。
- ○d. 血管線維腫
顔面の血管線維腫(angiofibroma)は結節性硬化症の代表的な皮膚所見で、Vogtの三徴の一つである。鼻、鼻唇溝、頬を中心に左右対称に、紅色〜常色の小丘疹が多発する。組織学的には、真皮の線維性結合組織の増生と毛細血管の拡張・増生からなる過誤腫である。多くは幼児期(おおむね3〜5歳ごろ)から目立ち始め、思春期にかけて数・大きさが増す。かつては脂腺腫(adenoma sebaceum)と呼ばれたが、脂腺の腫瘍ではないため、現在は血管線維腫と呼ぶ。治療としてはmTOR阻害薬であるシロリムスの外用薬が用いられる。
- ×e. café au lait斑
カフェオレ斑は、境界明瞭な類円形〜楕円形の淡褐色の色素斑で、神経線維腫症1型(NF1、von Recklinghausen病)の最も基本的な所見である。NF1では、思春期前で最大径5 mm以上、思春期以後で15 mm以上のものが6個以上あることが診断基準の一項目になっている。結節性硬化症でも少数みられることはあるが、本症に特徴的な所見ではない。結節性硬化症の皮膚所見は「色が抜ける」白斑であり、NF1の「色が濃くなる」カフェオレ斑と対比して覚えるとよい。
結節性硬化症の主な所見
皮膚:顔面の血管線維腫、葉状白斑、粒起革様皮膚(シャグリンパッチ:腰背部にできる、皮面から盛り上がった革のような局面)、爪囲線維腫(Koenen腫瘍:爪の周りに生じる線維腫)、前額部の線維性局面 中枢神経:皮質結節、上衣下結節、上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)。上衣下結節は石灰化しやすく、頭部CTで脳室壁に沿った石灰化として描出される 神経症状:てんかん(乳児期のWest症候群〔点頭てんかん〕が多い)、知的能力障害、自閉スペクトラム症などの神経精神症状 腎:腎血管筋脂肪腫(AML)、多発腎嚢胞 心:心横紋筋腫(胎児期〜新生児期に見つかり、多くは自然に縮小する) 肺:リンパ脈管筋腫症(LAM、主に成人女性) 眼:網膜過誤腫
治療
mTOR阻害薬(エベロリムス内服:SEGA・腎AMLなど、シロリムス外用:顔面血管線維腫)が用いられる。てんかんに対しては抗てんかん薬を用い、West症候群ではビガバトリンが有効とされる。
主な母斑症の比較
結節性硬化症:TSC1(9q34)/TSC2(16p13)、常染色体顕性。葉状白斑、顔面血管線維腫、てんかん、知的能力障害 神経線維腫症1型(von Recklinghausen病):NF1(17q11)、常染色体顕性。カフェオレ斑、皮膚の神経線維腫、雀卵斑様色素斑(腋窩・鼠径部)、虹彩小結節(Lisch結節)、骨病変 神経線維腫症2型:NF2(22q12)、常染色体顕性。両側聴神経鞘腫、多発神経鞘腫、髄膜腫、若年性白内障 Sturge-Weber症候群:GNAQ体細胞変異、遺伝しない。三叉神経第1枝領域の毛細血管奇形(ポートワイン母斑)、脳軟膜血管腫、緑内障、てんかん von Hippel-Lindau病:VHL(3p25)、常染色体顕性。小脳・網膜の血管芽腫、腎細胞癌、褐色細胞腫
POINT
・結節性硬化症の三徴(Vogtの三徴):顔面血管線維腫、てんかん、知的能力障害 ・皮膚所見:葉状白斑(乳児期の最早期所見)、顔面血管線維腫、粒起革様皮膚、爪囲線維腫(Koenen腫瘍) ・カフェオレ斑はNF1、両側聴神経腫瘍・多発神経鞘腫はNF2 ・原因はTSC1/TSC2変異によるmTOR経路の過剰活性化で、治療にmTOR阻害薬が用いられる
