StudyMed医師国家試験

細胞と細胞の「つなぎ目」を狙う抗体―表皮細胞間抗体と天疱瘡

第102回医師国家試験 A問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第11問

抗表皮細胞間抗体が検出されるのはどれか。

  1. a.尋常性天疱瘡
  2. b.疱疹状皮膚炎
  3. c.水疱性類天疱瘡
  4. d.先天性表皮水疱症
  5. e.後天性表皮水疱症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は自己免疫性水疱症の問題だ。ポイントは「抗体がどこを攻撃するか」で、それによって水疱のできる深さや蛍光抗体法の所見が決まる。まずは皮膚の接着構造を整理しておこう。表皮の細胞どうしをつなぐもの、表皮と基底膜をつなぐもの、基底膜と真皮をつなぐもの、それぞれ何だったかな。
医学生医学生
細胞どうしはデスモソーム、基底細胞と基底膜はヘミデスモソームでしたよね。組織学の講義で電顕写真を見た覚えがあります。
ドクタードクター
その通り。そして基底膜と真皮をつなぐのが係留線維で、主成分はVII型コラーゲンだ。デスモソームにはデスモグレインという接着分子があり、ヘミデスモソームにはBP180(XVII型コラーゲン)やBP230がある。「抗表皮細胞間抗体」というのは、このうち細胞と細胞の間、つまり主にデスモソームの成分に対する自己抗体のことなんだ。
医学生医学生
ということは、細胞どうしが離れて表皮の中に水疱ができるタイプですね。
ドクタードクター
そう。細胞同士の接着が外れる現象を棘融解といって、これが天疱瘡群の本態だ。蛍光抗体直接法では表皮細胞間にIgGとC3が網目状に沈着し、患者血清を使う間接法でも表皮細胞間に反応する抗体が見つかる。では選択肢の中で天疱瘡群はどれだろう。
医学生医学生
尋常性天疱瘡ですね。でも水疱性類天疱瘡も名前が似ていて、一瞬迷いました。
ドクタードクター
名前は似ていても標的はまったく違うんだ。尋常性天疱瘡はデスモグレイン3に対するIgG抗体で起こり、粘膜優位型は抗Dsg3抗体のみ、粘膜皮膚型はDsg1に対する抗体も陽性になる。基底層のすぐ上で棘融解が起き、破れやすい弛緩性水疱や治りにくい口腔びらんが特徴だ。一方の水疱性類天疱瘡はBP180とBP230に対する抗体で、表皮下に緊満性で破れにくい水疱ができる。蛍光抗体直接法では基底膜部にIgGとC3が線状に沈着するから、細胞間抗体ではない。
医学生医学生
皮膚科の実習で、高齢の方のパンパンに張った水疱を見ました。かゆみのある浮腫性紅斑も一緒にあって、類天疱瘡と教わりました。
ドクタードクター
典型的だね。DPP-4阻害薬に関連する例も知られているから、糖尿病治療中の高齢者では内服歴の確認も大事だ。次に後天性表皮水疱症はどうかな。
医学生医学生
「後天性」なので自己免疫ですよね。基底膜より下の係留線維、つまりVII型コラーゲンが標的でしょうか。
ドクタードクター
正解。外力を受けやすい部位に水疱ができ、瘢痕や稗粒腫を残して治る。直接法では基底膜部にIgGが線状沈着するので類天疱瘡と紛らわしいけれど、食塩水剥離皮膚を使った間接法で、抗体が真皮側に反応することで区別できる。類天疱瘡は表皮側だ。
医学生医学生
先天性表皮水疱症は遺伝子の異常なので、そもそも抗体が出ないですね。
ドクタードクター
その通り。接着蛋白の遺伝子変異による遺伝性疾患で、水疱の深さによって単純型(ケラチン5/14など)、接合部型(ラミニン332など)、栄養障害型(VII型コラーゲン)に分けられる。自己免疫ではないから自己抗体は検出されない。最後に疱疹状皮膚炎は?
医学生医学生
セリアック病と関連する病気ですよね。CBTの勉強で、IgAが関係すると覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。かゆみの強い小水疱が肘や膝、臀部に左右対称に集まり、蛍光抗体直接法で真皮乳頭部にIgAが顆粒状に沈着する。自己抗原は表皮トランスグルタミナーゼで、水疱は表皮下。日本ではまれで、セリアック病の合併も欧米より少ないとされる。
医学生医学生
整理すると、表皮内水疱で細胞間に網目状なら天疱瘡、表皮下で基底膜に線状なら類天疱瘡や後天性表皮水疱症、真皮乳頭にIgA顆粒状なら疱疹状皮膚炎、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、天疱瘡のなかでも落葉状天疱瘡はDsg1だけが標的で、角層下から顆粒層の浅い水疱になり粘膜病変は乏しい。Dsg1は皮膚の浅い層に、Dsg3は粘膜や皮膚の深い層に多く発現しているから、抗体の種類で病変分布が説明できるんだ。また、悪性リンパ腫などに合併する腫瘍随伴性天疱瘡は、重い口腔粘膜病変や閉塞性細気管支炎を伴うことがある。
医学生医学生
天疱瘡では正常に見える皮膚をこすると表皮がむける、Nikolsky現象も陽性になりますよね。
ドクタードクター
そう、診察での大事な手がかりだ。治療は副腎皮質ステロイドの全身投与が中心で、効果が不十分なら免疫抑制薬、大量γグロブリン静注療法、血漿交換、リツキシマブなどを組み合わせる。診断には蛍光抗体法に加えて、ELISAで抗Dsg1・Dsg3抗体価を測ることが多く、抗体価は治療効果の目安にもなる。

まとめ

抗表皮細胞間抗体とは、表皮細胞どうしをつなぐデスモソームの構成分子デスモグレインに対する自己抗体で、天疱瘡群に特徴的です。尋常性天疱瘡ではDsg3(粘膜皮膚型ではDsg1も)が標的となり、基底層直上の棘融解による弛緩性水疱・口腔びらんとNikolsky現象を呈し、蛍光抗体直接法で表皮細胞間にIgG・C3が網目状に沈着します。これに対し、水疱性類天疱瘡(BP180/BP230)と後天性表皮水疱症(VII型コラーゲン)は基底膜部にIgGが線状沈着する表皮下水疱症、疱疹状皮膚炎は真皮乳頭部にIgAが顆粒状沈着し、先天性表皮水疱症は自己抗体を伴わない遺伝性疾患です。「標的抗原・水疱の深さ・蛍光抗体法の所見」をセットで整理することが、水疱症の鑑別と治療方針の理解につながります。

解答・解説

正解はaです

水疱症は、どの接着構造が障害されるかによって、水疱のできる深さが決まる。 ・表皮細胞同士をつなぐ構造:デスモソーム(接着分子としてデスモグレインを含む) ・表皮基底細胞と基底膜をつなぐ構造:ヘミデスモソーム(BP180〔XVII型コラーゲン〕、BP230など) ・基底膜と真皮をつなぐ構造:係留線維(anchoring fibril、主成分はVII型コラーゲン) 「抗表皮細胞間抗体」とは、表皮の細胞と細胞の間(主にデスモソーム)の成分に対する自己抗体のことである。この抗体により細胞同士の接着が外れ、表皮内に水疱ができる現象を棘融解という。これが天疱瘡群の本態である。蛍光抗体直接法(患者の皮膚組織に沈着した抗体を検出する方法)では、表皮細胞間にIgGとC3が網目状に沈着する。蛍光抗体間接法(患者の血清中の抗体を、正常な皮膚などの基質と反応させて検出する方法)でも、表皮細胞間に反応する抗体が検出される。 したがって、選択肢の中から天疱瘡群に属する疾患を選べばよい。そのほかの疾患は、基底膜部や真皮乳頭部を標的とする疾患、あるいは自己抗体が関与しない遺伝性疾患である。

選択肢考察

  1. ○a.  尋常性天疱瘡

    尋常性天疱瘡は、デスモソームの構成分子であるデスモグレイン3(Dsg3)に対するIgG自己抗体によって起こる。粘膜優位型は抗Dsg3抗体のみ陽性で、粘膜皮膚型は抗Dsg3抗体と抗Dsg1抗体の両方が陽性となる。これが抗表皮細胞間抗体そのものである。表皮基底層のすぐ上で棘融解が起こり、破れやすい弛緩性の水疱や、治りにくいびらんが口腔粘膜や皮膚に生じる。正常に見える皮膚をこすると表皮がはがれるNikolsky現象が陽性になる。診断には、蛍光抗体直接法での表皮細胞間へのIgG・C3の沈着と、ELISAによる血中の抗Dsg3抗体・抗Dsg1抗体の検出が用いられる。

  2. ×b.  疱疹状皮膚炎

    疱疹状皮膚炎は、強いかゆみを伴う小水疱が肘・膝・臀部などに左右対称に集まって出る疾患である。蛍光抗体直接法で、真皮乳頭部にIgAが顆粒状に沈着するのが特徴で、水疱は表皮下にできる。自己抗原は表皮トランスグルタミナーゼ(TG3)で、グルテン過敏性腸症(セリアック病)を高率に合併する。日本ではまれで、日本人例は欧米例と比べてセリアック病の合併が少ないとされる。表皮細胞間抗体は検出されない。

  3. ×c.  水疱性類天疱瘡

    水疱性類天疱瘡は、ヘミデスモソームの構成分子であるBP180(XVII型コラーゲン)とBP230に対するIgG自己抗体によって起こる。水疱は表皮下にでき、緊満性で破れにくい。高齢者に多く、浮腫性紅斑やかゆみを伴う。蛍光抗体直接法では、表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着する。近年、糖尿病治療薬のDPP-4阻害薬に関連する症例も知られている。標的は細胞間ではなく基底膜部である。

  4. ×d.  先天性表皮水疱症

    先天性表皮水疱症は、表皮や表皮と真皮の境界部で接着を担う蛋白の遺伝子変異による遺伝性疾患である。わずかな外力で水疱やびらんが生じる。水疱のできる深さによって、単純型(表皮内。ケラチン5/14などの異常)、接合部型(透明帯。ラミニン332、XVII型コラーゲンなどの異常)、栄養障害型(基底板の下。VII型コラーゲンの異常)などに分類される。自己免疫性疾患ではないので、自己抗体は検出されない。

  5. ×e.  後天性表皮水疱症

    後天性表皮水疱症は、係留線維の主成分であるVII型コラーゲンに対するIgG自己抗体によって起こる、表皮下水疱症である。外力を受けやすい部位に水疱が生じ、瘢痕や稗粒腫(小さな白い角質の嚢腫)を残して治る。蛍光抗体直接法では、基底膜部にIgGが線状に沈着する。正常ヒト皮膚を1 mol/L食塩水で表皮側と真皮側に分けた基質(食塩水剥離皮膚)を使った間接法では、抗体が真皮側に反応する。これにより、表皮側に反応する水疱性類天疱瘡と区別できる。表皮細胞間抗体ではない。

自己免疫性水疱症の整理

水疱の深さ・標的抗原・蛍光抗体直接法(DIF)の所見で整理すると覚えやすい。 表皮内水疱(天疱瘡群) ・尋常性天疱瘡:Dsg3(粘膜皮膚型ではDsg1も)。水疱は基底層直上。DIFで表皮細胞間にIgG・C3 ・落葉状天疱瘡:Dsg1。水疱は角層下〜顆粒層。粘膜病変は乏しい。DIFで表皮細胞間にIgG ・腫瘍随伴性天疱瘡:プラキン分子(エンボプラキン、ペリプラキンなど)やDsg3など。悪性リンパ腫などの腫瘍に合併し、重い口腔粘膜病変や閉塞性細気管支炎を伴う 表皮下水疱 ・水疱性類天疱瘡:BP180、BP230。DIFで基底膜部にIgG・C3が線状に沈着 ・粘膜類天疱瘡:BP180、ラミニン332など。眼・口腔粘膜に瘢痕を残す ・後天性表皮水疱症:VII型コラーゲン。DIFで基底膜部にIgGが線状に沈着 ・線状IgA水疱症:BP180の断片(LAD-1など)。DIFで基底膜部にIgAが線状に沈着 ・疱疹状皮膚炎:表皮トランスグルタミナーゼ。DIFで真皮乳頭部にIgAが顆粒状に沈着

天疱瘡の治療

副腎皮質ステロイドの全身投与が中心である。効果が不十分な場合は、免疫抑制薬、大量γグロブリン静注療法、血漿交換療法、リツキシマブ(抗CD20抗体)などを併用する。

POINT

・抗表皮細胞間抗体=天疱瘡群(抗デスモグレイン抗体)。表皮内水疱と棘融解を生じ、Nikolsky現象陽性 ・尋常性天疱瘡はDsg3(粘膜皮膚型ではDsg1も)、落葉状天疱瘡はDsg1 ・水疱性類天疱瘡はBP180/BP230で、基底膜部にIgGが線状沈着 ・後天性表皮水疱症はVII型コラーゲン、疱疹状皮膚炎は真皮乳頭部にIgAが顆粒状沈着 ・先天性表皮水疱症は遺伝性で自己抗体なし

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。