StudyMed医師国家試験

背中から開いた標本を読む―梨状陥凹の腫瘍が語る「下咽頭喉頭全摘」

第101回医師国家試験 H問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第101回 H問題 第38問

67歳の男性。嗄声と頸部腫瘤とを主訴に来院した。2か月前から嚥下時痛を自覚していた。20歳代から飲酒と喫煙とを続けている。背側から展開した手術摘出標本の写真を別に示す。 切除された臓器はどれか。2つ選べ。

第101回 H問題 第38問の問題画像
  1. a.上咽頭
  2. b.中咽頭
  3. c.下咽頭
  4. d.喉頭
  5. e.舌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、手術で摘出された標本の写真を見て、どの臓器が切除されたのかを解剖学的に判断する問題だ。カギは2つ。病歴からどんな癌を想定するか、そして標本の中にどの構造が見えるか。まず、長年の飲酒・喫煙に嚥下時痛、嗄声、頸部腫瘤という組み合わせから何を考えるかな。
医学生医学生
飲酒と喫煙なら頭頸部の扁平上皮癌ですよね。嗄声があるので喉頭癌でしょうか。
ドクタードクター
喉頭癌も候補に挙がるね。ただ、最初の症状が嚥下時痛だったことに注目したい。飲み込むときに痛むのは、食物の通り道の粘膜に病変があるサインなんだ。食物の通り道で、しかも喉頭のすぐ後ろ・横にあるのはどこだろう。
医学生医学生
下咽頭ですか。梨状陥凹は食べ物が喉頭の両脇を通って食道へ流れるルートだと解剖学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。下咽頭は喉頭を後方から側方へ取り囲むように位置している。だから下咽頭癌が進むと喉頭へ浸潤したり反回神経を巻き込んだりして嗄声が出る。さらに下咽頭癌は症状が出にくい場所にできるので、頸部リンパ節転移による首のしこりで初めて見つかることも多いんだ。
医学生医学生
なるほど。嚥下時痛から始まって、嗄声と頸部腫瘤が後から加わったのは、下咽頭癌が進行して喉頭とリンパ節に及んだ経過と読めるんですね。
ドクタードクター
いい読み方だ。では標本を見てみよう。これは咽頭の後壁を縦に切り開いて、背側から内腔を広げた標本だ。上のほうに喉頭蓋、その後下方に左右一対の披裂部が見え、披裂部の外側にくぼみが開いている。そして左側のくぼみに、表面が不整な隆起性の腫瘍がある。
医学生医学生
喉頭蓋と披裂部は喉頭の構造ですよね。その外側のくぼみが梨状陥凹で、そこに腫瘍がある、ということですか。
ドクタードクター
その通り。喉頭蓋・披裂部・声門は喉頭、梨状陥凹・輪状後部・咽頭後壁は下咽頭の構造だ。つまりこの標本は喉頭と下咽頭が一塊になったもので、梨状陥凹癌に対する下咽頭喉頭全摘術の標本と判断できる。だから正解は下咽頭と喉頭の2つになる。
医学生医学生
でも、腫瘍は下咽頭にあるのに、どうして喉頭まで取らないといけないんでしょう。
ドクタードクター
大事な疑問だね。下咽頭は喉頭に密着して取り囲んでいるから、進行癌では喉頭浸潤を伴いやすく、喉頭を残して腫瘍だけを確実に取り切るのは難しい。本例でも嗄声が喉頭への進展を示唆している。だから根治を目指すと、下咽頭と喉頭を一緒に切除することになるんだ。では、ほかの選択肢がなぜ違うかも確認しよう。上咽頭はどうかな。
医学生医学生
上咽頭は鼻腔の奥ですよね。耳管咽頭口やアデノイドがある場所なので、この標本には入っていないと思います。
ドクタードクター
正解。上咽頭は頭蓋底から硬口蓋・軟口蓋の移行部の高さまでの領域だ。上咽頭癌はEBウイルスとの関連が強く、滲出性中耳炎や外転神経麻痺などの脳神経症状で見つかることもある。手術が難しい部位なので、治療は化学放射線療法が中心になる。
医学生医学生
中咽頭と舌はどうですか。喉頭蓋のすぐ上に舌根があるので少し迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。中咽頭は軟口蓋の高さから喉頭蓋谷の底までで、舌根、喉頭蓋谷、口蓋扁桃、軟口蓋を含む。舌の後方1/3にあたる舌根も中咽頭前壁に分類されるんだ。でもこの標本の上端は喉頭蓋で、舌根や口蓋扁桃は含まれていない。舌そのものも、下咽頭喉頭全摘術では通常切除しない。ちなみに中咽頭癌はHPV関連のものが増えていることも押さえておこう。
医学生医学生
耳鼻科の臨床実習で喉頭ファイバーを見学したとき、喉頭蓋の奥に左右の梨状陥凹が見えていたのを思い出しました。上から見るか、後ろから開いて見るかの違いなんですね。
ドクタードクター
まさにそう。視点が変わると戸惑うけれど、喉頭を中心に置いて、その両脇に梨状陥凹があるという位置関係さえつかめば読める。最後に臨床的な注意点だ。下咽頭癌は診断時に進行していることが多く、頸部リンパ節転移の頻度が高いため、頭頸部癌の中でも予後が厳しい。
医学生医学生
手術のあとは声が出なくなりますよね。
ドクタードクター
そう。喉頭を摘出すると発声機能が失われ、永久気管孔になる。手術は頸部郭清術を加え、遊離空腸などで咽頭・食道を再建するのが基本だ。だから早期癌や喉頭温存を希望する場合は、化学放射線療法や経口的切除術も検討される。それから、飲酒で顔が赤くなるALDH2活性の低い人が大量飲酒すると発癌リスクが高く、食道癌などの重複癌も多い。上部消化管内視鏡でのスクリーニングを忘れないことが大切だ。
医学生医学生
輪状後部癌はPlummer-Vinson症候群と関係して女性にもみられる、とCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。亜部位ごとの特徴もあわせて整理しておくと、下咽頭癌の理解がぐっと深まるよ。

まとめ

長年の飲酒・喫煙歴をもつ高齢男性に嚥下時痛・嗄声・頸部腫瘤がそろえば、喉頭浸潤と頸部リンパ節転移を伴う進行下咽頭癌を考えます。背側から開いた摘出標本では、喉頭蓋・披裂部という喉頭の構造の外側に梨状陥凹が開き、そこに腫瘍を認めるため、切除臓器は下咽頭と喉頭であり、下咽頭喉頭全摘術の標本と判断できます。上咽頭(耳管咽頭口・咽頭扁桃)、中咽頭(舌根・口蓋扁桃・軟口蓋)、舌は標本に含まれません。下咽頭癌は梨状陥凹に最も多く、診断時に進行していることが多い予後不良の癌で、術後は発声機能を失うため、早期発見と食道などの重複癌のスクリーニングが重要です。咽頭の区分と喉頭との位置関係を立体的に理解することは、内視鏡所見の読影や術式の理解にも直結します。

解答・解説

正解はc, dです

所見の整理

・67歳の男性で、20歳代から長年にわたり飲酒と喫煙を続けている。飲酒・喫煙はいずれも頭頸部の扁平上皮癌、とくに下咽頭癌・喉頭癌・食道癌の最大の危険因子である。 ・2か月前からの嚥下時痛:咽頭の粘膜病変、とくに食物の通り道である下咽頭(梨状陥凹など)の腫瘍を示唆する。 ・嗄声:腫瘍が喉頭へ浸潤して声帯の動きを妨げる、あるいは反回神経を巻き込むことで生じる。下咽頭癌が進行して喉頭に及んだことを示す所見である。 ・頸部腫瘤:頸部リンパ節転移と考えられる。下咽頭癌は症状が出にくい部位に生じるため、頸部リンパ節腫大が初発症状となることが多い。

診断へのプロセス

高齢男性の重度飲酒・喫煙歴に、嚥下時痛・嗄声・頸部腫瘤がそろえば、まず下咽頭癌(喉頭浸潤を伴う進行癌)を考える。写真は咽頭の後壁を縦に切り開き、背側(後方)から内腔を広げて観察した摘出標本である。上方に喉頭蓋、その後下方に左右の披裂部が見え、披裂部の外側に位置する梨状陥凹(左側)に表面不整な隆起性腫瘍が認められる。すなわち標本は喉頭と、それを後方・側方から取り囲む下咽頭から成り、下咽頭(梨状陥凹)癌に対して行われた下咽頭喉頭全摘術の標本と判断できる。

設問の考え方

標本の中にどの解剖学的構造が見えるかを確認し、それがどの臓器に属するかを判断すればよい。喉頭蓋・披裂部・声門は喉頭の構造、梨状陥凹・輪状後部・咽頭後壁は下咽頭の構造である。背側から開いた標本で喉頭の構造を前面に、梨状陥凹をその両脇に見るという位置関係を理解しておくことが解答の鍵となる。

選択肢考察

  1. ×a.  上咽頭

    上咽頭は頭蓋底から硬口蓋・軟口蓋の移行部の高さまでの領域で、鼻腔の後方に位置し、耳管咽頭口やアデノイド(咽頭扁桃)を含む。標本にこれらの構造は含まれない。上咽頭癌はEBウイルス(Epstein-Barr virus)との関連が強く、鼻閉・鼻出血、耳管閉塞による滲出性中耳炎、頭蓋底浸潤による外転神経麻痺などの脳神経症状、頸部リンパ節腫大など多彩な症状を呈する。解剖学的に手術が難しく、治療の中心は化学放射線療法であり、本問のような摘出術の対象にはなりにくい。

  2. ×b.  中咽頭

    中咽頭は硬口蓋・軟口蓋移行部から喉頭蓋谷(舌根と喉頭蓋の間のくぼみ)の底の高さまでの領域で、前壁(舌根・喉頭蓋谷)、側壁(口蓋扁桃・口蓋弓)、後壁、上壁(軟口蓋・口蓋垂)に分けられる。標本の上端は喉頭蓋であり、舌根や口蓋扁桃などの中咽頭の構造は含まれていない。中咽頭癌は近年ヒトパピローマウイルス(HPV)関連のものが増えていることも押さえておく。

  3. ○c.  下咽頭

    下咽頭は喉頭蓋谷の底(舌骨上縁)の高さから輪状軟骨下縁の高さ(食道入口部)までの領域で、梨状陥凹、輪状後部、咽頭後壁の3亜部位に分けられる。標本では喉頭の構造(喉頭蓋・披裂部)の外側に梨状陥凹が開いており、左梨状陥凹に表面不整な隆起性腫瘍を認める。下咽頭癌は梨状陥凹に最も多く発生し、腫瘍を含む下咽頭が切除されているので正しい。

  4. ○d.  喉頭

    標本の上方に見える喉頭蓋と、その後下方に左右一対で並ぶ披裂部はいずれも喉頭の構造である。下咽頭は喉頭の後方から側方を取り囲むように位置するため、進行した下咽頭癌では喉頭浸潤(本例の嗄声)をきたしやすく、根治手術では喉頭を温存できず下咽頭とともに一塊に切除する(下咽頭喉頭全摘術)。したがって喉頭も切除臓器に含まれ、正しい。

  5. ×e.  舌

    舌は口腔にある舌可動部(前方約2/3、口腔に分類)と舌根(後方約1/3、中咽頭前壁に分類)から成る。標本は喉頭蓋より下方の構造で構成されており、舌の筋組織や舌根は含まれていない。下咽頭喉頭全摘術で通常舌は切除されない。

咽頭の区分と主な構造

・上咽頭:頭蓋底〜硬口蓋・軟口蓋移行部。耳管咽頭口、咽頭扁桃、Rosenmüller窩。 ・中咽頭:硬口蓋・軟口蓋移行部〜喉頭蓋谷の底。舌根、喉頭蓋谷、口蓋扁桃、軟口蓋。 ・下咽頭:喉頭蓋谷の底(舌骨の高さ)〜輪状軟骨下縁。梨状陥凹、輪状後部、咽頭後壁。 ・喉頭:声門上部(喉頭蓋・披裂喉頭蓋ひだ・披裂部・仮声帯)、声門(声帯)、声門下部に分けられる。

下咽頭癌の特徴

・大部分が扁平上皮癌で、高齢男性に多い。危険因子は飲酒と喫煙で、とくに飲酒で顔が赤くなる体質(アルデヒド脱水素酵素ALDH2の活性が低い)の人が大量飲酒するとリスクが高い。 ・輪状後部癌は鉄欠乏性貧血を伴うPlummer-Vinson症候群との関連が知られ、女性にみられることがある。 ・亜部位別では梨状陥凹癌が最も多い。 ・初期には症状に乏しく、咽頭違和感、嚥下時痛・嚥下障害、放散性の耳痛、嗄声(喉頭浸潤や反回神経麻痺)、頸部リンパ節腫大などで発見される。診断時に進行癌であることが多く、頸部リンパ節転移の頻度が高いため、頭頸部癌の中でも予後不良である。 ・食道癌など他部位の重複癌(同時性・異時性)が多いため、上部消化管内視鏡でのスクリーニングが重要である。

治療

・進行癌の標準的な手術は下咽頭喉頭全摘術(しばしば頸部食道も合併切除)に頸部郭清術を加え、遊離空腸などで咽頭・食道を再建する。喉頭摘出により発声機能が失われ、永久気管孔となる。 ・早期癌や喉頭温存を希望する場合には、化学放射線療法や経口的切除術なども選択される。

POINT

・飲酒・喫煙歴のある高齢男性の嚥下時痛・嗄声・頸部腫瘤は下咽頭癌を疑う。 ・下咽頭は梨状陥凹、輪状後部、咽頭後壁の3亜部位から成り、梨状陥凹癌が最多。 ・喉頭蓋・披裂部は喉頭、梨状陥凹は下咽頭の構造。 ・進行下咽頭癌の手術は下咽頭喉頭全摘術+頸部郭清術+遊離空腸再建が基本で、術後は発声機能を失う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。