新聞を読んでいたら突然視野が欠けた―扇形の白濁が示す網膜動脈分枝閉塞症
第101回医師国家試験 G問題 第10問
国試問題にチャレンジ
56歳の男性。右眼の鼻側の視野欠損を主訴に来院した。今朝,新聞を読んでいたとき,突然,右眼鼻側上方の視野欠損に気付いた。矯正視力:右眼1.0,左眼1.2。眼瞼,結膜,角膜および前房は正常である。右眼の眼底写真を別に示す。左眼眼底は正常である。 最も考えられるのはどれか。

- a.網膜剝離
- b.悪性リンパ腫
- c.加齢黄斑変性
- d.網膜動脈分枝閉塞症
- e.Vogt-小柳-原田病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
突然発症した片眼の区域性視野欠損に、動脈分枝の支配域に一致した扇形の網膜白濁(虚血性網膜浮腫)がみられれば、網膜動脈分枝閉塞症と診断できます。像は網膜上で上下左右が反転するため、耳側下方の網膜病変は鼻側上方の視野欠損として現れ、中心窩が保たれていれば視力は良好です。本幹が閉塞する網膜中心動脈閉塞症では網膜全体の白濁とcherry-red spot、高度の視力低下を示し、網膜剝離、加齢黄斑変性、眼内リンパ腫、Vogt-小柳-原田病とは発症様式や眼底所見の分布で区別します。原因の多くは頸動脈や心臓からの塞栓で、脳梗塞の前兆にもなりうるため、全身の塞栓源検索と動脈硬化危険因子の管理が欠かせません。眼底所見を血管の解剖と視野の対応から読み解く姿勢は、眼科に限らず全身の血管病を診る力につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・56歳男性。新聞を読んでいる最中に、右眼の鼻側上方の視野が突然欠けていることに気付いた。発症時刻がはっきりした突然の片眼性視野障害であり、血管の閉塞などの急性の循環障害をまず考える経過である。 ・矯正視力は右1.0、左1.2と両眼とも良好で、視力の中心を担う黄斑の中心窩は機能が保たれている。 ・前眼部(眼瞼、結膜、角膜、前房)は正常で、炎症所見はない。左眼眼底も正常で、片眼のみの病変である。 ・右眼眼底写真: 視神経乳頭(写真右側)から耳側(写真左側)下方へ向かう網膜動脈の分枝の走行に沿って、黄斑の下方に境界のはっきりした扇形の白濁した網膜がみられる。その他の網膜の色調は正常である。
診断までの考え方
1. 眼底の白濁は、網膜の内層が虚血に陥ってむくんだ状態(虚血性網膜浮腫)を示す。動脈の支配領域に一致して扇形・区域性に白濁が広がることが、動脈分枝の閉塞を示す決め手になる。 2. 眼底像は倒像で視野に映し出されるため、網膜の下方の障害は上方の視野欠損に、耳側網膜の障害は鼻側の視野欠損になる。本例の網膜の耳側下方の白濁は、自覚する右眼鼻側上方の視野欠損と対応する。 3. 白濁が中心窩にかかっていないため、視力は保たれている。網膜中心動脈の本幹が閉塞した場合(網膜中心動脈閉塞症)は網膜全体が白濁して中心窩のみ赤く見え(cherry-red spot)、視力は指数弁〜光覚弁程度まで急激に低下する点が異なる。 以上から、網膜動脈分枝閉塞症と診断できる。原因の多くは頸動脈の粥状硬化巣や心臓から流れてきた塞栓子であるため、全身の動脈硬化性疾患や心疾患の検索も必要になる。
選択肢考察
- ×a. 網膜剝離
裂孔原性網膜剝離では、飛蚊症や光視症(視野に光が走る感覚)が先行したのち、周辺から中心へ向かって視野欠損が広がる。眼底では剝離した網膜が灰白色に隆起し、波打つようなひだや可動性がみられ、多くは網膜裂孔を伴う。本例の白濁は動脈の支配域に一致した平坦な扇形で、隆起やひだ、裂孔を示す所見はなく、突然の発症経過とも合わない。
- ×b. 悪性リンパ腫
眼内の悪性リンパ腫(主に硝子体網膜リンパ腫、多くはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫)は高齢者に多く、硝子体混濁による霧視や飛蚊症で徐々に発症し、網膜下に黄白色の斑状病変がみられる。ぶどう膜炎に似た経過をとり、両眼性のことも多い。突然発症の区域性視野欠損や、動脈の走行に一致した網膜の白濁とは合わない。
- ×c. 加齢黄斑変性
加齢黄斑変性は黄斑部に病変が生じる疾患で、中心暗点、変視症(物がゆがんで見える)、視力低下が主症状となる。滲出型では黄斑部に脈絡膜新生血管や出血、滲出がみられる。本例は視力が1.0と保たれ、病変は黄斑の中心ではなく下方の区域であり、症状も周辺視野の欠損であるため合わない。
- ○d. 網膜動脈分枝閉塞症
突然発症した片眼の区域性(扇形)の視野欠損で、眼底では網膜動脈の分枝の支配領域に一致して網膜が白濁している(虚血による網膜浮腫)。白濁部位(耳側下方の網膜)と視野欠損(鼻側上方)が対応し、中心窩が保たれているため視力も良好である。これらはすべて網膜動脈分枝閉塞症に合致する。
- ×e. Vogt-小柳-原田病
Vogt-小柳-原田病はメラノサイト(色素細胞)に対する自己免疫疾患で、感冒様の前駆症状や頭痛、耳鳴り、難聴などに続いて、両眼に急性のぶどう膜炎が起こる。眼底では多発する漿液性網膜剝離や視神経乳頭の発赤腫脹がみられ、髄液の細胞増多を伴う。回復期には夕焼け状眼底、皮膚の白斑、白髪などが出現する。本例は片眼性で前房の炎症もなく、全身症状もないため合わない。
網膜動脈閉塞症
・網膜内層(神経線維層・神経節細胞層など)は網膜中心動脈から血流を受けるため、閉塞すると内層が虚血により白濁する。 ・網膜中心動脈閉塞症(CRAO): 突然の高度な視力低下。網膜全体が白濁し、網膜が薄く脈絡膜の赤みが透けて見える中心窩だけが赤く見える(cherry-red spot)。 ・網膜動脈分枝閉塞症(BRAO): 閉塞した分枝の支配域に一致した扇形の網膜白濁と、対応する区域性の視野欠損。中心窩が保たれれば視力は良好なことが多い。耳側の分枝に好発する。 ・原因: 塞栓(頸動脈の粥状硬化巣からのコレステロール塞栓=Hollenhorst plaque、心房細動や弁膜症による心原性塞栓など)が多い。高血圧、糖尿病、脂質異常症などの動脈硬化の危険因子を伴いやすい。高齢者では巨細胞性動脈炎も原因となりうる。 ・検査・評価: 眼底検査、蛍光眼底造影(閉塞部位より末梢の充盈遅延)、視野検査、頸動脈エコー、心電図・心エコーなどで塞栓源を検索する。脳梗塞の前触れとなることもある。 ・治療: 発症早期には眼球マッサージ、前房穿刺による眼圧下降、血管拡張薬、線溶療法などが試みられるが、確立した有効な治療は乏しい。予後改善には原因疾患の管理が重要である。
視野と網膜の対応
・眼の光学系により像は上下左右が逆になって網膜に結ばれるため、網膜の上方の病変は下方の視野、下方の病変は上方の視野、耳側網膜の病変は鼻側視野、鼻側網膜の病変は耳側視野に欠損を生じる。
POINT
・突然発症の片眼の区域性視野欠損+動脈の支配域に一致した扇形の網膜白濁=網膜動脈分枝閉塞症。 ・網膜中心動脈閉塞症では網膜全体の白濁とcherry-red spot、高度の視力低下。 ・網膜の病変部位と視野欠損は上下・左右が逆に対応する。 ・原因は塞栓が多く、頸動脈・心臓の塞栓源検索が必要(脳梗塞の前兆にもなりうる)。 ・Vogt-小柳-原田病は両眼性で漿液性網膜剝離を伴うぶどう膜炎。
