「頭が回らない」はうつ病のサイン―思考の異常を"形式・内容・体験様式"で整理する
第101回医師国家試験 F問題 第8問
国試問題にチャレンジ
うつ病でみられるのはどれか。
- a.思考制止
- b.思考途絶
- c.思考化声
- d.妄想知覚
- e.アンビバレンス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
精神医学では思考の異常を、流れや進み方の異常である「形式」、妄想などの「内容」、自我障害を含む「体験様式」に分けて整理します。うつ病では精神運動制止の表れとして思考のテンポが遅くなる思考制止が特徴的で、内容面では罪業・貧困・心気妄想といった微小妄想がみられます。これに対し、流れが突然断ち切られる思考途絶、自分の考えが声になって聞こえる思考化声、知覚に不合理な意味が直結する妄想知覚、相反する感情が同時に存在するアンビバレンスは、いずれも統合失調症の症状であり、思考化声と妄想知覚はSchneiderの一級症状、アンビバレンスはBleulerの4つのAに含まれます。躁病の観念奔逸・誇大妄想と対比して疾患ごとに整理しておくと、症候学の問題に強くなるだけでなく、思考制止による応答の乏しさを認知症などと見誤らない臨床的な視点も身につきます。
解答・解説
正解はaです
精神医学では思考の異常を「思考の形式(流れ・進み方)の異常」と「思考の内容の異常(妄想など)」に分けて整理し、さらに自分の考えが自分のものでないように感じる「思考の体験様式の異常(自我障害)」を区別する。疾患ごとにどの異常が現れやすいかを押さえることが本問の鍵である。 うつ病では気分の落ち込みとともに精神活動全般が抑えられる(精神運動制止)。思考についていえば、考えが浮かばない、考えが先に進まない、決断できないといった思考のテンポの遅れ(思考制止)が特徴的な形式の異常であり、内容面では罪業妄想・貧困妄想・心気妄想といった微小妄想が生じる。 これに対し、思考途絶、思考化声、妄想知覚、アンビバレンス(両価性)はいずれも統合失調症の症状として知られるものである。特に思考化声と妄想知覚はSchneiderの一級症状、アンビバレンスはBleulerの基本症状(4つのA)に含まれる。したがってうつ病でみられるのは思考制止である。
選択肢考察
- ○a. 思考制止
正解。思考制止(思考抑制)とは、思考の進み方が遅くなり、ひどい場合にはほとんど止まってしまう状態で、うつ病に特徴的な思考形式の異常である。患者は「頭が働かない」「考えがまとまらない」「何も決められない」と訴え、応答までに時間がかかり、話す量も少なくなる。本人が「考えが進まない」ことを苦痛として自覚していることが多い。精神運動制止の一つの表れであり、行動面の制止(動作が遅い、何もする気が起きない)と並んでみられる。
- ×b. 思考途絶
誤り。思考途絶とは、話や思考の流れが何の前触れもなく突然中断してしまう現象で、統合失調症に特徴的な思考形式の異常である。会話中に急に黙り込み、しばらくして別の話題から話し始めるといった形で観察される。本人は「考えを抜き取られた」と体験することがあり、この場合は思考奪取と呼ばれる。うつ病の思考制止は思考が全体的に遅くなるのに対し、思考途絶は流れが急に断ち切られる点が異なる。
- ×c. 思考化声
誤り。思考化声とは、自分の考えていることが声になって聞こえてくる体験であり、Schneiderの一級症状に数えられる統合失調症の代表的な症状である。考想化声とも呼ばれる。自分の考えが周囲に伝わってしまうと感じる思考伝播などとともに、自我意識の障害と関連が深い。
- ×d. 妄想知覚
誤り。妄想知覚とは、実際に知覚した事柄(例:通行人が咳払いをした)に対して、それとは合理的なつながりのない特別な意味づけ(例:「自分を殺せという合図だ」)が直接的に確信される体験である。Schneiderの一級症状に含まれ、統合失調症に特徴的な一次妄想の一型である。うつ病の妄想は抑うつ気分から了解可能な微小妄想が中心であり、性質が異なる。
- ×e. アンビバレンス
誤り。アンビバレンス(両価性)とは、同一の対象に対して愛と憎しみ、したいとしたくないといった相反する感情・意志・思考が同時に存在し、統合されない状態である。Bleulerが統合失調症の基本症状として挙げた4つのA(連合弛緩 Association、感情障害 Affect、両価性 Ambivalence、自閉 Autism)の一つである。健常者にも軽い形では生じうるほか、強迫症などとの関連が論じられることもあるが、うつ病の特徴的な症状ではない。
思考障害の整理
思考形式(思考過程)の異常 ・思考制止:思考の進みが遅くなる(うつ病) ・観念奔逸:考えが次々に湧き、話題が脱線しながら飛躍する(躁病) ・思考途絶:思考の流れが突然止まる(統合失調症) ・連合弛緩・滅裂思考:考えのつながりが緩み、まとまりを失う(統合失調症) ・迂遠:回りくどいが最終的には目的に達する(てんかん、知的障害、認知症など) ・保続:同じ観念や言葉が繰り返される(器質性脳障害) 思考内容の異常(妄想) ・うつ病:微小妄想(罪業妄想、貧困妄想、心気妄想)。重症例では「内臓が腐った」などと訴えるCotard症候群(否定妄想)もある ・躁病:誇大妄想 ・統合失調症:被害妄想、関係妄想、注察妄想など。一次妄想(妄想知覚、妄想着想、妄想気分)が特徴的 思考の体験様式の異常(自我障害) ・思考化声、思考奪取、思考吹入、思考伝播、させられ体験など(統合失調症) ・強迫観念:不合理と自覚しながら頭から離れない考え(強迫症)
Schneiderの一級症状
思考化声、対話形式の幻聴、自分の行為を批評する幻聴、身体的被影響体験、思考奪取やその他の思考への干渉、思考伝播、妄想知覚、感情・衝動・意志の領域におけるさせられ体験。
POINT
・うつ病の思考形式の異常=思考制止(思考のテンポが遅れる)、内容の異常=微小妄想。 ・躁病の思考形式の異常=観念奔逸、内容の異常=誇大妄想。 ・思考途絶、思考化声、妄想知覚、アンビバレンスは統合失調症の症状。 ・思考化声・妄想知覚はSchneiderの一級症状、アンビバレンスはBleulerの4つのAの一つ。
