StudyMed医師国家試験

癌は「土壌」を選ぶ―皮膚悪性腫瘍とその発生母地を正しく結びつける

第101回医師国家試験 F問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第11問

疾患と発生母地の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.Merkel細胞癌 ―― 局面状類乾癬
  2. b.有棘細胞癌 ―― 慢性放射性皮膚炎
  3. c.悪性黒色腫 ―― 先天性巨大色素性母斑
  4. d.Paget病 ―― 黒色表皮腫
  5. e.血管肉腫 ―― 尋常性狼瘡

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚の悪性腫瘍が「どんな先行病変を土台にして生じるか」、つまり発生母地を問う問題だ。皮膚癌の多くは正常に見える皮膚から生じるけれど、特定の病変の上に生じやすいものもある。整理のコツは2つ。「慢性的な組織障害の上には何ができるか」と「母斑の上には何ができるか」だ。
医学生医学生
慢性的な障害というと、やけどの痕から癌ができる話を皮膚科の講義で聞いた気がします。
ドクタードクター
そう、熱傷瘢痕癌だね。慢性の組織障害や瘢痕、長く続く炎症の上には有棘細胞癌が生じやすい。代表的な母地は、慢性放射性皮膚炎、熱傷瘢痕、慢性の瘻孔や潰瘍、尋常性狼瘡、日光角化症、色素性乾皮症などだ。
医学生医学生
慢性放射性皮膚炎は、照射が終わってからかなり時間がたって出てくるものですよね。
ドクタードクター
その通り。照射から数年〜数十年後に、皮膚萎縮、毛細血管拡張、色素沈着と色素脱失の混在、つまり多形皮膚萎縮や難治性潰瘍が現れる。DNA損傷の蓄積と慢性的な組織障害が重なって、そこから有棘細胞癌が発生しうる。だから有棘細胞癌と慢性放射性皮膚炎の組合せは正しい。
医学生医学生
もう一つの軸の母斑のほうは、悪性黒色腫と先天性巨大色素性母斑でしょうか。
ドクタードクター
正解。先天性巨大色素性母斑は、生まれつきあって成人時に最大径20cm以上に達すると見込まれる大きな母斑で、生涯を通じて悪性黒色腫のリスクが高い。しかも小児期など若いうちに発生することが少なくないのが特徴だ。だから慎重な経過観察や、可能な範囲での切除が検討される。
医学生医学生
でも、ほくろからメラノーマになる、というのが一般的なイメージでした。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだね。悪性黒色腫の大多数は、既存の母斑とは関係なく新たに生じる。普通の小さなほくろが癌化することはまれで、母地として特に重要なのが先天性巨大色素性母斑なんだ。ちなみに母斑由来の腫瘍としては、脂腺母斑から生じる基底細胞癌などの二次性腫瘍も覚えておきたい。
医学生医学生
では残りを見ていきます。Merkel細胞癌と局面状類乾癬は、どちらもあまりなじみがなくて判断に迷いました。
ドクタードクター
Merkel細胞癌は高齢者の顔面・頭頸部など日光曝露部にできる神経内分泌癌で、Merkel細胞ポリオーマウイルス、紫外線、免疫抑制が発生に関わる。急速に大きくなる紅色〜紫紅色の結節で、リンパ節転移を来しやすい。一方、局面状類乾癬は体幹・四肢に淡紅色の落屑性局面が続く病気で、大局面型の一部は皮膚T細胞リンパ腫である菌状息肉症へ移行する。結びつける相手が違うんだ。
医学生医学生
局面状類乾癬なら菌状息肉症、とセットで覚えればいいんですね。Paget病と黒色表皮腫はどうでしょう。黒色表皮腫は癌に関係があったような…。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。黒色表皮腫は腋窩や頸部などの間擦部に黒褐色のビロード状の肥厚が出る病気で、悪性型は胃癌などの内臓悪性腫瘍に伴うデルマドローム、つまり内臓疾患の皮膚サインだ。でも黒色表皮腫そのものが癌化するわけではない。Paget病は乳頭や外陰部、肛囲などアポクリン腺の多い部位に生じる表皮内腺癌で、黒色表皮腫を母地とはしない。
医学生医学生
「癌と関係がある」と「癌の母地になる」は別物、ということですね。最後の血管肉腫と尋常性狼瘡は、尋常性狼瘡の上にできるのが有棘細胞癌なので誤りでしょうか。
ドクタードクター
その通り。皮膚結核である尋常性狼瘡が長く続くと有棘細胞癌が生じることがあり、狼瘡癌と呼ばれる。血管肉腫は高齢者の頭部・顔面に好発する悪性度の高い腫瘍で、乳癌術後などの慢性リンパ浮腫に生じるStewart-Treves症候群や、放射線照射後の部位に生じることが知られている。
医学生医学生
選択肢の右側の病変は、どれも何かの母地や合併には関わっているけれど、組合せの相手が入れ替えてあるんですね。
ドクタードクター
まさにそこがこの問題の作りだ。最後に臨床での注意点を。古い瘢痕や放射線照射部位、長く治らない潰瘍に、硬い結節や治りにくいびらんが新たに出てきたら、有棘細胞癌を疑って生検をためらわないこと。先天性巨大色素性母斑の子どもでは、母斑内の結節や急な変化に注意して長期に診ていく必要がある。
医学生医学生
皮膚科の実習で、指導医の先生が「治らない潰瘍は一度は生検を考える」とおっしゃっていた意味がよくわかりました。
ドクタードクター
いい教えだね。皮膚の悪性腫瘍は目で見える分、背景にある病変に気づけるかどうかが早期発見の分かれ目になる。疾患と母地の組合せは、試験のためだけでなく、診察で何を警戒すべきかを教えてくれる知識なんだ。

まとめ

皮膚悪性腫瘍には、特定の先行病変を母地として生じるものがあり、慢性放射性皮膚炎、熱傷瘢痕、慢性潰瘍・瘻孔、尋常性狼瘡、日光角化症など慢性の組織障害の上には有棘細胞癌が、先天性巨大色素性母斑の上には若年でも悪性黒色腫が生じうる。一方、大局面型の局面状類乾癬は菌状息肉症へ移行しうる病変であり、黒色表皮腫の悪性型は内臓悪性腫瘍(特に胃癌)を示唆するデルマドロームであって、それ自体は癌化しない。血管肉腫は高齢者の頭部・顔面、慢性リンパ浮腫(Stewart-Treves症候群)や放射線照射後に生じ、Merkel細胞癌は日光曝露部やウイルス感染、免疫抑制と関連する。「どの病変の上に何が生じるか」を対応づけて覚えることは、瘢痕や照射部位、巨大母斑を長く診る中で悪性化の兆しをいち早く捉える臨床力につながる。

解答・解説

正解はb, cです

皮膚悪性腫瘍の中には、正常皮膚から新たに生じるものだけでなく、特定の先行病変(前駆病変・母地)を背景として発生するものがある。本問は、代表的な皮膚悪性腫瘍とその発生母地となる病変の対応を問うている。 考え方のポイントは次の2つである。 1. 慢性的な組織障害・瘢痕・慢性炎症の上には有棘細胞癌が生じやすい。慢性放射性皮膚炎、熱傷瘢痕、慢性の瘻孔や潰瘍、尋常性狼瘡(皮膚結核)、色素性乾皮症、日光角化症などがその代表である。 2. 母斑(あざ)を母地とする悪性腫瘍としては、先天性巨大色素性母斑からの悪性黒色腫、脂腺母斑からの基底細胞癌などの二次性腫瘍が重要である。 この知識で各組合せを検討すると、有棘細胞癌―慢性放射性皮膚炎、悪性黒色腫―先天性巨大色素性母斑の2つが正しい対応となる。他の選択肢は、左側の疾患と右側の病変の間に発生母地としての関係がなく、右側の病変はそれぞれ別の疾患への移行・合併で知られている(局面状類乾癬→菌状息肉症、黒色表皮腫→内臓悪性腫瘍の合併、尋常性狼瘡→有棘細胞癌)。

選択肢考察

  1. ×a.  Merkel細胞癌 ―― 局面状類乾癬

    局面状類乾癬は、体幹・四肢に淡紅色の落屑性局面が慢性に持続する疾患である。小局面型は良性の経過をとるが、大局面型(局面の径がおおむね5cm以上)の一部は皮膚T細胞リンパ腫である菌状息肉症へ移行することが知られ、菌状息肉症の早期病変とみなす立場もある。一方、Merkel細胞癌は高齢者の顔面・頭頸部など日光曝露部に好発する神経内分泌癌で、Merkel細胞ポリオーマウイルス感染、紫外線、免疫抑制状態が発生に関与する。局面状類乾癬を母地とはしないため誤りである。

  2. ○b.  有棘細胞癌 ―― 慢性放射性皮膚炎

    放射線照射後、数年から数十年を経て、皮膚萎縮、毛細血管拡張、色素沈着・脱失の混在(多形皮膚萎縮)、難治性潰瘍などを呈する状態が慢性放射性皮膚炎である。DNA損傷の蓄積と慢性的な組織障害を背景に、この部位から有棘細胞癌が発生することがあり、有棘細胞癌の代表的な発生母地の一つである。基底細胞癌が生じることもあるが、組合せとして正しい。

  3. ○c.  悪性黒色腫 ―― 先天性巨大色素性母斑

    先天性巨大色素性母斑は、出生時から存在する大型の色素性母斑(成人時に最大径20cm以上に達すると見込まれるもの)である。生涯を通じて悪性黒色腫を生じるリスクが通常より高く、しかも小児期など若年での発生が少なくない。そのため、経過観察や可能な範囲での切除が検討される。悪性黒色腫の発生母地として正しい組合せである。

  4. ×d.  Paget病 ―― 黒色表皮腫

    黒色表皮腫は、腋窩・頸部・鼠径部などの間擦部に、黒褐色でビロード状に肥厚した皮膚が生じる疾患である。内臓悪性腫瘍(特に胃癌などの腺癌)に伴う悪性型、インスリン抵抗性などの内分泌疾患に伴う良性型、肥満に伴う仮性型に分けられる。悪性型はデルマドローム(内臓疾患の皮膚サイン)として重要だが、黒色表皮腫そのものが癌化するわけではない。Paget病(乳房Paget病・乳房外Paget病)はアポクリン腺の豊富な乳頭・外陰部・肛囲・腋窩などに生じる表皮内腺癌であり、黒色表皮腫を母地とはしないため誤りである。

  5. ×e.  血管肉腫 ―― 尋常性狼瘡

    尋常性狼瘡は結核菌が皮膚に感染して生じる真性皮膚結核の代表的病型で、顔面などに紅褐色の結節・局面が慢性に拡大し、瘢痕を残す。長期間持続した病変から有棘細胞癌が発生することがある(狼瘡癌)。一方、血管肉腫は高齢者の頭部・顔面に好発する悪性度の高い腫瘍で、乳癌術後などの慢性リンパ浮腫(Stewart-Treves症候群)や放射線照射後の部位に生じることが知られるが、尋常性狼瘡を母地とはしない。したがって誤りである。

皮膚悪性腫瘍と主な発生母地

・有棘細胞癌:日光角化症、Bowen病(表皮内癌として進行)、慢性放射性皮膚炎、熱傷瘢痕、慢性瘻孔・慢性潰瘍、尋常性狼瘡、色素性乾皮症、栄養障害型表皮水疱症、ヒトパピローマウイルス感染(外陰部など) ・基底細胞癌:脂腺母斑(二次性腫瘍としての発生)、色素性乾皮症、基底細胞母斑症候群、慢性放射性皮膚炎 ・悪性黒色腫:先天性巨大色素性母斑、色素性乾皮症。ただし大多数は既存の母斑とは無関係に新たに生じる ・菌状息肉症:大局面型の局面状類乾癬からの移行 ・血管肉腫:高齢者の頭部・顔面に好発。慢性リンパ浮腫(Stewart-Treves症候群)、放射線照射後

黒色表皮腫の3型

・悪性型:内臓悪性腫瘍(胃癌が代表)に合併。急速に広範囲に生じ、口腔粘膜病変を伴うことがある ・良性型:インスリン抵抗性、内分泌疾患、遺伝性 ・仮性型:肥満に伴う。体重減少で改善しうる

Merkel細胞癌

高齢者の日光曝露部に好発する皮膚の神経内分泌癌で、急速に増大する紅色〜紫紅色の結節として現れる。Merkel細胞ポリオーマウイルスの関与が多くの症例で認められ、免疫抑制者にも多い。リンパ節転移を来しやすく予後不良である。

POINT

・慢性放射性皮膚炎、熱傷瘢痕、尋常性狼瘡、日光角化症など慢性の組織障害の上には有棘細胞癌が生じる ・先天性巨大色素性母斑は悪性黒色腫の母地となる(若年発生もある) ・大局面型の局面状類乾癬は菌状息肉症へ移行しうる ・悪性型の黒色表皮腫は内臓悪性腫瘍(特に胃癌)を示唆するデルマドロームで、それ自体は癌化しない ・血管肉腫は高齢者の頭部、慢性リンパ浮腫(Stewart-Treves症候群)、放射線照射後に生じる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。