剝がれない胎盤はなぜ起こる?―「脱落膜の欠損」から読み解く癒着胎盤の危険因子
第101回医師国家試験 F問題 第4問
国試問題にチャレンジ
癒着胎盤の危険因子とならないのはどれか。
- a.子宮奇形
- b.前置胎盤
- c.子宮内膜症
- d.帝王切開術の既往
- e.子宮内容除去術の既往
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
癒着胎盤は、基底脱落膜の欠損や形成不全によって絨毛が子宮筋層に直接付着・侵入し、胎盤が剝がれにくくなった状態で、侵入の深さにより楔入・嵌入・穿通胎盤に分けられます。危険因子の本質は子宮内膜・筋層の損傷や瘢痕、内膜の乏しい部位への着床であり、帝王切開既往、子宮内容除去術既往、前置胎盤、子宮奇形などが該当し、特に帝王切開既往と前置胎盤の合併は高リスクです。子宮内膜症は子宮外の病変で危険因子とはならず、子宮筋層内の病変である子宮腺筋症と区別することが重要です。癒着胎盤は無理な剝離で大量出血やDICをきたしうるため、画像による術前診断と高次施設での計画的な管理が欠かせません。発生の仕組みから危険因子を理解することは、産科出血に備える臨床判断の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
【テーマ】癒着胎盤の成り立ちと危険因子 正常の妊娠では、着床部の子宮内膜が脱落膜に変化し、絨毛(胎盤側の組織)と子宮筋層の間に脱落膜の層が介在する。分娩後はこの脱落膜の海綿層で胎盤が剝がれるため、胎盤は自然に娩出される。 癒着胎盤とは、この脱落膜(特に基底脱落膜)が欠損あるいは形成不全であるために、絨毛が子宮筋層に直接付着・侵入し、胎盤の一部または全部が子宮壁から剝がれにくくなった状態である。侵入の深さにより、筋層に接するだけの楔入胎盤(placenta accreta)、筋層内へ侵入する嵌入胎盤(placenta increta)、筋層を貫いて漿膜や周囲臓器に達する穿通胎盤(placenta percreta)に分けられる。近年はこれらを総称して placenta accreta spectrum(PAS)と呼ぶ。 したがって危険因子の本質は「脱落膜がうまく形成されない子宮内膜・子宮壁」である。具体的には、 ・子宮内膜・筋層に瘢痕や損傷がある:帝王切開や筋腫核出術などの子宮手術の既往、子宮内容除去術(掻爬)の既往、子宮内膜炎の既往など。 ・もともと内膜が薄い、あるいは脱落膜化が不良な部位への着床:前置胎盤(子宮下部)、子宮奇形(中隔など)、粘膜下筋腫など。 が挙げられる。問われているのは危険因子とならないもの、すなわち子宮内腔の内膜・筋層に直接影響しない病態である。
選択肢考察
- ×a. 子宮奇形
危険因子となる。中隔子宮の中隔部分は内膜が乏しく血流も不十分であるため、そこへ着床すると脱落膜形成が不良となり癒着が起こりやすい。また子宮奇形では正常位置への着床が妨げられやすく、さらに子宮形成術(中隔切除術やStrassmann手術など)を受けていれば手術瘢痕も加わる。これらの理由から子宮奇形は癒着胎盤のリスクを高める。
- ×b. 前置胎盤
危険因子となる。前置胎盤は胎盤が子宮下部(峡部)に付着し内子宮口を覆う状態である。子宮下部は体部に比べて内膜・脱落膜の形成が乏しく、筋層も薄いため、絨毛が筋層へ直接付着・侵入しやすい。特に帝王切開の既往があり、前回の切開創(通常は子宮下部横切開)の上に前置胎盤が生じた場合は癒着胎盤の頻度が大きく上昇し、帝王切開の回数が増えるほどそのリスクは高くなる。
- ○c. 子宮内膜症
子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮内腔以外の場所(卵巣、ダグラス窩、骨盤腹膜など)に発生・増殖する疾患である。病変は子宮外にあり、胎盤が付着する子宮内腔の内膜や筋層に瘢痕を作るわけではないため、癒着胎盤の危険因子とはならない。一方、子宮内膜組織が子宮筋層内に存在する子宮腺筋症は、子宮壁そのものの病変であり癒着胎盤のリスクとされるため、両者を混同しないよう注意する。
- ×d. 帝王切開術の既往
危険因子となり、最も重要な危険因子の一つである。帝王切開の切開創は瘢痕となり、その部位では内膜・脱落膜が欠損したり、筋層が薄くなったりしている。そこへ胎盤が付着すると、絨毛が直接筋層へ入り込み、ときに漿膜を越えて膀胱などへ達する穿通胎盤となる。帝王切開の既往回数が多いほどリスクは増大し、前置胎盤を合併するとさらに高くなる。
- ×e. 子宮内容除去術の既往
危険因子となる。人工妊娠中絶や流産の処置として行う子宮内容除去術(掻爬)では、内膜の基底層が損傷され、瘢痕や癒着(Asherman症候群など)を生じることがある。基底層が傷ついた部位では次回妊娠時に脱落膜が十分形成されず、癒着胎盤が起こりやすい。同様に、胎盤用手剝離の既往、子宮内膜炎の既往、粘膜下筋腫の核出術後なども内膜・筋層の損傷を介してリスクとなる。
癒着胎盤の危険因子のまとめ
・子宮手術の既往:帝王切開(最重要)、子宮筋腫核出術、子宮形成術など。 ・子宮内操作・炎症の既往:子宮内容除去術、胎盤用手剝離、子宮内膜炎、Asherman症候群。 ・着床部位・子宮の性状:前置胎盤、子宮奇形、粘膜下筋腫、子宮腺筋症。 ・その他:高年妊娠、経産回数が多いこと、生殖補助医療(体外受精)による妊娠など。 ・特に「帝王切開既往+前置胎盤」の組み合わせは高リスクであり、既往帝王切開の回数とともに癒着胎盤の頻度は段階的に上昇する。
診断
・妊娠中は超音波検査(胎盤後方の低エコー域の消失、胎盤内の多数の不整な血管腔〔placental lacunae〕、膀胱壁との境界の不整、カラードプラでの豊富な血流など)やMRIで疑う。 ・確定は分娩時に胎盤が剝離しないこと、あるいは摘出子宮の病理診断による。
臨床的な問題と対応
・無理に胎盤を剝がそうとすると大量出血をきたし、出血性ショックや播種性血管内凝固(DIC)に至りうる。 ・術前に癒着胎盤が強く疑われる場合は、輸血の準備、泌尿器科など関連科との連携、高次施設での管理のうえで帝王切開を行い、胎盤を剝離せずそのまま子宮摘出術(帝王切開子宮全摘術)を行うのが基本である。症例によっては胎盤を子宮内に残して経過をみる保存的管理が選択されることもある。
子宮内膜症と子宮腺筋症の違い
・子宮内膜症:子宮内膜類似組織が子宮外(卵巣=チョコレート嚢胞、骨盤腹膜など)に存在。 ・子宮腺筋症:子宮内膜類似組織が子宮筋層内に存在し、子宮がびまん性に腫大する。 ・子宮壁そのものの病変である子宮腺筋症は癒着胎盤のリスクとなるが、子宮内膜症は通常危険因子に含めない。
POINT
・癒着胎盤は脱落膜(基底脱落膜)の欠損・形成不全により絨毛が子宮筋層に直接付着・侵入した状態。 ・危険因子の本質は「子宮内膜・筋層の損傷や瘢痕、内膜の乏しい部位への着床」。 ・最重要の危険因子は帝王切開既往と前置胎盤(両者の合併で特に高リスク)。 ・子宮内容除去術・子宮手術の既往、子宮奇形、粘膜下筋腫、子宮腺筋症もリスク。 ・子宮内膜症は子宮外の病変であり危険因子とはならない(子宮腺筋症との区別に注意)。
