「1卵性=1絨毛膜性」は誤り―卵性と膜性を分けて考える双胎妊娠の基本
第101回医師国家試験 F問題 第2問
国試問題にチャレンジ
双胎妊娠で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.妊婦貧血の発症率が高い。
- b.1卵性双胎は1絨毛膜性双胎となる。
- c.妊娠高血圧症候群の発症率は単胎と差がない。
- d.体外受精の結果発生する双胎のほとんどは2卵性である。
- e.2絨毛膜性双胎は1絨毛膜性双胎に比較して周産期のリスクが高い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
双胎妊娠では、遺伝的な区別である「卵性」と、胎盤・羊膜の共有を示す「膜性」を分けて考えることが基本です。2卵性は必ず2絨毛膜2羊膜となる一方、1卵性は受精卵の分離時期によりDD・MD・MMのいずれにもなりうるため、「1卵性=1絨毛膜性」ではありません。周産期リスクは胎盤を共有する1絨毛膜性双胎で高く、双胎間輸血症候群や一児死亡時の他児障害、1羊膜性での臍帯相互巻絡が問題となります。母体側では妊婦貧血や妊娠高血圧症候群、早産、弛緩出血が単胎より増え、複数胚移植による双胎は2卵性ですが、現在の日本では単一胚移植が原則です。妊娠初期の超音波で膜性を確定することが管理方針の出発点であり、この整理は双胎妊娠の診療全体の土台になります。
解答・解説
正解はa, dです
【テーマ】双胎妊娠の基礎知識(卵性と膜性、母体・胎児の合併症、生殖補助医療との関係) 双胎妊娠を理解するには、次の2つの軸を区別することが出発点となる。 1. 卵性(接合子性):1つの受精卵が分割してできた1卵性双胎か、2つの卵子がそれぞれ受精してできた2卵性双胎か。遺伝的な同一性に関わる。 2. 膜性:胎盤(絨毛膜)と羊膜をそれぞれ共有しているかどうか。2絨毛膜2羊膜(DD)、1絨毛膜2羊膜(MD)、1絨毛膜1羊膜(MM)に分けられる。周産期リスクを左右するのはこちらである。 2卵性双胎は必ずDD双胎になる。一方、1卵性双胎は受精卵が分離する時期によってDD・MD・MMのいずれにもなりうる。つまり「1卵性=1絨毛膜性」ではない。 母体側では、2児分の胎盤と胎児を支えるため循環血漿量の増加や子宮の増大が単胎より著しく、貧血、妊娠高血圧症候群、切迫早産、分娩後の弛緩出血などが増える。胎児側では、胎盤を共有する1絨毛膜性双胎で胎盤内の血管吻合を介した血流の不均衡(双胎間輸血症候群など)が起こるため、2絨毛膜性双胎よりリスクが高い。 生殖補助医療(体外受精など)では複数の胚を移植すれば複数の胚がそれぞれ着床しうるため、生じる双胎は主に2卵性となる。これらの知識を当てはめて各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ○a. 妊婦貧血の発症率が高い。
妊娠中は循環血漿量が赤血球量以上に増えるため血液が希釈され(水血症)、いわゆる生理的貧血が生じる。双胎では2児・胎盤を養うため循環血漿量の増加が単胎より大きく、さらに胎児側への鉄の移行も多いため鉄需要が増える。その結果、希釈と鉄欠乏の両面から妊婦貧血の発症率が単胎より明らかに高くなる。
- ×b. 1卵性双胎は1絨毛膜性双胎となる。
1卵性双胎の膜性は受精卵が分離する時期で決まる。受精後おおむね3日以内(桑実胚になる前)に分離すればDD双胎、4〜8日ごろ(胚盤胞で内細胞塊が分かれる時期)ならMD双胎、8〜13日ごろ(羊膜形成後)ならMM双胎となり、それ以降の不完全な分離では結合双胎となる。1卵性双胎の約3分の2がMD双胎、約3分の1がDD双胎とされ、1絨毛膜性に限られない。なお逆に、1絨毛膜性双胎であればほぼ1卵性である。
- ×c. 妊娠高血圧症候群の発症率は単胎と差がない。
多胎妊娠は妊娠高血圧症候群(HDP)の明確な危険因子であり、双胎では単胎に比べて発症率が数倍に上昇する。胎盤量が多く、胎盤由来の血管新生抑制因子(sFlt-1など)の産生が増えることや、母体の循環負荷が大きいことが関与すると考えられている。双胎では発症が早く重症化しやすい点にも注意が必要である。
- ○d. 体外受精の結果発生する双胎のほとんどは2卵性である。
体外受精・胚移植で双胎が生じる主な理由は、複数の胚を子宮内に移植し、それぞれが着床することである。この場合、別々の受精卵に由来するため2卵性双胎となる。本問の出題当時は複数胚移植が広く行われており、生殖補助医療による双胎の大部分は2卵性であった。その後、多胎妊娠による母児のリスクを減らす目的で、日本では2008年の日本産科婦人科学会の見解により単一胚移植が原則とされ(35歳以上や反復不成功例などでは2個までの移植を許容)、生殖補助医療による多胎妊娠そのものが大きく減少している。なお単一胚移植でも胚が分割して1卵性双胎になることがあり、その頻度は自然妊娠よりやや高いとされる。
- ×e. 2絨毛膜性双胎は1絨毛膜性双胎に比較して周産期のリスクが高い。
記述が逆である。周産期リスクが高いのは1絨毛膜性双胎である。1絨毛膜性双胎では1つの胎盤を共有し、胎盤表面・内部に両児間の血管吻合があるため、双胎間輸血症候群(TTTS)、選択的胎児発育不全、一児死亡時の他児の脳障害・死亡などが起こりうる。さらに1羊膜性(MM)双胎では、隔壁がないため臍帯相互巻絡による胎児死亡の危険が高い。2絨毛膜性双胎はそれぞれ独立した胎盤をもつため、これらの合併症が起こらず、リスクは相対的に低い。
膜性診断
・膜性は周産期管理の方針を決めるため、妊娠初期(おおむね妊娠14週ごろまで)の超音波で診断するのが重要である。 ・妊娠初期に胎嚢が2つあればDD、胎嚢が1つで羊膜が2つならMD、羊膜が1つならMMと判断できる。 ・隔壁と胎盤の接合部が三角形に盛り上がって見えるλ(ラムダ)サインはDD、T字状に見えるTサインはMDを示唆する。 ・性別が異なる双胎は2卵性であり、DDである。
双胎間輸血症候群(TTTS)
・1絨毛膜性双胎(主にMD)で、胎盤内の吻合血管を介して一方の児(供血児)から他方の児(受血児)へ血液が偏って流れる病態。 ・供血児:循環血液量減少、乏尿、羊水過少、発育不全、貧血。 ・受血児:循環血液量過多、多尿、羊水過多、心不全、胎児水腫、多血。 ・治療として胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術が行われる。
双胎妊娠で増える主な合併症
・母体:妊娠貧血、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、切迫早産・早産、前期破水、羊水過多(特にTTTS)、常位胎盤早期剝離、弛緩出血、帝王切開率の上昇。 ・胎児:早産による未熟性、胎児発育不全、先天異常、TTTS・一児死亡(1絨毛膜性)、臍帯相互巻絡(1羊膜性)、分娩時の懸鉤(第1子骨盤位・第2子頭位で児頭同士が引っかかる)。
頻度
・1卵性双胎の自然発生頻度は人種や年齢によらずほぼ一定(約0.4%前後)であるのに対し、2卵性双胎は人種、母体年齢、家族歴、排卵誘発などの影響を受ける。
POINT
・卵性と膜性は別の概念:2卵性は必ずDD、1卵性はDD・MD・MMのいずれにもなりうる(分離時期で決まる)。 ・周産期リスクは1絨毛膜性(特に1羊膜性)で高い:TTTS、臍帯相互巻絡など。 ・双胎では妊婦貧血、妊娠高血圧症候群、早産、弛緩出血などが増える。 ・複数胚移植による双胎は2卵性。現在の日本では単一胚移植が原則。
