「もう少し詳しく」の一言が語りを開く―医療面接の技法を発言ごとに見分ける
第101回医師国家試験 D問題 第4問
国試問題にチャレンジ
42歳の男性。不眠を主訴に来院した。初診時の医療面接で以下のような会話が行われた。 医師① 「こんにちは。私は本日担当させていただくAです」 ② 「今日はどのような理由でいらっしゃいましたか」 患者 「眠れないので困っています」 医師③ 「もう少し詳しく教えてください」 患者 「1か月前から寝つきが悪くなって,せっかく寝ても夜中にすぐ目が覚めてしまいます。おかげで,日中の仕事がはかどりません」 医師④ 「それは困りましたね」 患者 「このままでは仕事を辞めなくてはならないかもしれません」 医師⑤ 「眠れなくなったのに何かきっかけがありますか」 この会話について正しいのはどれか。
- a.①は支援の意思を伝えている。
- b.②は閉鎖型の質問である。
- c.③は会話を促進している。
- d.④は訴えを解釈している。
- e.⑤は情報を点検している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医療面接では、医師の発言ごとに挨拶・自己紹介、開かれた質問、促進、共感、焦点を絞った質問、要約・確認(点検)といった技法を区別できることが重要です。「もう少し詳しく教えてください」は患者の語りの継続を後押しする促進の技法であり、うなずきや相づちなどの非言語的な方法も含まれます。「どのような理由で」は開かれた質問、「それは困りましたね」は解釈ではなく共感の表明、「きっかけがありますか」は誘因に焦点を当てた質問で、既出の内容を要約して確かめる点検とは異なります。不眠では入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害の型と、ストレスやうつ病、身体疾患、薬剤などの背景を意識して聴取することが大切です。技法を言葉の表面ではなく会話の中での働きで捉える習慣は、OSCEだけでなく実際の診療で患者の信頼と診断に必要な情報を得る基盤になります。
解答・解説
正解はcです
医療面接で医師が用いる発言の一つ一つが、どのような技法(機能)に当たるかを見分ける問題である。
会話の流れと各発言の機能
①「こんにちは。私は本日担当させていただくAです」:挨拶と自己紹介。面接の導入で、患者との関係づくりの第一歩となる。 ②「今日はどのような理由でいらっしゃいましたか」:来院理由(主訴)を尋ねる開かれた質問(開放型質問)。患者は自由に答えることができる。 ③「もう少し詳しく教えてください」:患者が話し始めた内容について、さらに語ってもらうよう促す発言(促進、facilitation)。実際に患者は発症時期、入眠困難と中途覚醒、日中の仕事への支障まで自ら語っている。 ④「それは困りましたね」:患者のつらさを受け止め、その気持ちを言葉にして返す共感的な発言(共感の表明)。 ⑤「眠れなくなったのに何かきっかけがありますか」:誘因(きっかけ)に焦点を当てた質問。患者自身が不眠の原因をどう考えているか(解釈モデル)を引き出す意味ももつ。
考え方
各選択肢が示す技法名と、発言の実際の働きが一致しているかを一つずつ照合すればよい。挨拶・開かれた質問・促進・共感・焦点を絞った質問・要約(確認)といった基本技法の定義を正確に押さえていれば、③が「会話を促進している」に当たることがわかる。
選択肢考察
- ×a. ①は支援の意思を伝えている。
誤り。①は挨拶と自己紹介であり、自分が誰で、どのような立場で患者に関わるのかを伝える面接の導入である。関係づくりの出発点として重要だが、「あなたの力になりたい」「一緒に考えていきましょう」といった支援の意思を表明する発言ではない。支援の意思の表明は、患者の困りごとを聴いたうえで、医師が患者を支えていく姿勢を言葉にして伝えるものである。
- ×b. ②は閉鎖型の質問である。
誤り。②は「どのような理由で」と尋ねており、患者が自分の言葉で自由に答えられる開放型(開かれた)質問である。閉鎖型(閉じられた)質問とは、「頭は痛みますか」「熱はありますか」のように「はい・いいえ」や一語で答えられる質問を指す。医療面接の最初は、患者の話したいことを制限しないよう開放型質問で始めるのが原則であり、②はその原則どおりの質問である。
- ○c. ③は会話を促進している。
正しい。③「もう少し詳しく教えてください」は、患者が話し始めた内容について、さらに語りを続けるよう後押しする促進(facilitation)の技法である。話題の方向を医師が決めずに、患者の話の流れに沿って詳しい説明を引き出すことができる。実際、この発言を受けて患者は「1か月前から」という発症時期、寝つきの悪さ(入眠困難)と夜中に目が覚めること(中途覚醒)という不眠の型、日中の仕事への支障という生活への影響まで、自発的に語っている。促進には、言葉による促しのほか、うなずき・相づち・視線を合わせるといった非言語的な方法も含まれる。
- ×d. ④は訴えを解釈している。
誤り。④「それは困りましたね」は、患者が抱えているつらさや困りごとを受け止め、その気持ちを言葉で返す共感の表明である。訴えの意味や原因について医師が自分の見方を示す「解釈」ではない。共感的な応答は、患者に「理解してもらえている」という安心感を与え、信頼関係(ラポール)を深めて、その後の話しやすさにもつながる。実際、患者は続けて仕事を辞めなくてはならないかもしれないという心配を打ち明けている。
- ×e. ⑤は情報を点検している。
誤り。情報の点検(確認)とは、「1か月前から寝つきが悪く、夜中にも目が覚めて、仕事に差し支えているということですね」のように、それまでに聴いた内容を要約して患者に示し、医師の理解が正しいかを確かめる技法である。⑤「眠れなくなったのに何かきっかけがありますか」は、既出の情報を確かめるものではなく、不眠の誘因という新たな情報に焦点を当てて尋ねる質問である。同時に、患者自身が不眠の原因をどう考えているか(解釈モデル)を引き出す働きもある。不眠の背景には仕事や家庭のストレス、身体疾患、薬剤、アルコール、うつ病などが隠れていることがあり、誘因を尋ねることは診断上も重要である。
医療面接の主な技法
・開放型(開かれた)質問:「どうなさいましたか」など、自由に答えられる質問。面接の初めに用い、患者の語りを引き出す。 ・焦点を絞った質問:「痛みはどこですか」「きっかけはありますか」など、特定の事柄について自由に答えてもらう質問。 ・閉鎖型(閉じられた)質問:「はい・いいえ」で答えられる質問。情報の確認や鑑別に用いるが、多用すると誘導になりやすい。 ・多項目(選択肢型)質問:「ズキズキしますか、締め付けられる感じですか」など選択肢を示す質問。 ・促進(facilitation):「それで?」「もう少し詳しく」、うなずき・相づちなどで話の継続を促す。 ・繰り返し(反復):患者の言葉の一部をそのまま返し、話を深める。 ・沈黙:患者が考えをまとめるのを待つ。 ・共感:患者の感情を察し、「それはおつらいですね」などと言葉で受け止める。 ・要約・確認(点検):聴いた内容をまとめて伝え、理解が正しいかを確かめる。話題を切り替える前などに用いる。 ・解釈モデルの聴取:患者が病気の原因や意味をどう考えているか、何を心配しているか、何を期待しているかを尋ねる。 ・支援の表明:「一緒に考えていきましょう」など、患者を支える意思を伝える。
不眠症の型
不眠は、入眠困難(寝つきが悪い)、中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)、早朝覚醒(予定より早く目が覚め、再び眠れない)、熟眠障害(眠りが浅く休まった感じがしない)に分けられる。本例は入眠困難と中途覚醒がみられ、日中の機能障害(仕事がはかどらない)も伴っている。うつ病では早朝覚醒が特徴的とされるが、入眠困難や中途覚醒を伴うことも多いため、気分の落ち込みや興味の喪失などを確認する必要がある。
POINT
・「どうされましたか」=開放型質問。「はい・いいえ」で答える質問が閉鎖型質問 ・「もう少し詳しく」=促進(うなずき・相づちなど非言語的な方法も含む) ・「それはお困りですね」「おつらいですね」=共感の表明(解釈ではない) ・「〜ということですね」と要約して確かめる=点検(確認) ・挨拶・自己紹介は面接の導入であり、支援の表明とは区別する
