新生児は「小さな大人」ではない―水分・呼吸・ヘモグロビンから見る生まれたての体
第101回医師国家試験 C問題 第8問
国試問題にチャレンジ
正常新生児で正しいのはどれか。
- a.主に胸式呼吸である。
- b.体重は出生直後から増加する。
- c.体重当たりの体表面積は成人より狭い。
- d.体液量に占める細胞外液量の割合は成人より高い。
- e.胎児ヘモグロビンは成人ヘモグロビンより酸素親和性が低い。
対話形式の解説
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医学生まとめ
正常新生児は成人と比べて体重に占める水分量が約75〜80%と多く、特に細胞外液が体重の約40〜45%を占めて細胞内液を上回るため、体液量に占める細胞外液の割合は成人より高くなります。呼吸は肋骨が水平に近いため横隔膜による腹式呼吸が主体で、体重は生後3〜5日に5〜10%程度の生理的体重減少を経てから増加に転じます。体重当たりの体表面積は成人の2〜3倍と大きく、熱や水分を失いやすいことから、低体温や脱水に注意が必要です。胎児ヘモグロビンは2,3-BPGと結合しにくく成人型より酸素親和性が高いため、酸素解離曲線は左方移動します。新生児を「小さな大人」ではなく独自の生理をもつ存在として理解することは、保温・輸液・哺乳管理など新生児診療の土台となります。
解答・解説
正解はdです
本問は、正常新生児の生理的特徴を、成人との違いに注目して整理できているかを問う問題である。 新生児は「小さな大人」ではなく、呼吸・体重変化・体表面積・体液組成・ヘモグロビンの性質など、多くの点で成人と異なる。出題された各項目の要点は次のとおりである。 ・呼吸様式:肋骨が水平に近く胸郭が広がりにくいため、横隔膜による腹式呼吸が主体である。 ・体重:出生後数日間は生理的体重減少がみられ、その後に増加へ転じる。 ・体表面積:体が小さいほど、体重当たりの体表面積は大きい。 ・体液:体重に占める水分量が多く、とくに細胞外液の割合が高い。 ・ヘモグロビン:胎児ヘモグロビン(HbF)は成人ヘモグロビン(HbA)より酸素と結合しやすい。 これらを押さえれば、成人より細胞外液の割合が高いとする記述が正しいと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 主に胸式呼吸である。
誤りである。新生児・乳児の肋骨はほぼ水平に走行しており、肋間筋が収縮しても胸郭の前後径はあまり広がらない。また肋間筋自体も未発達である。そのため換気は主に横隔膜の上下運動に頼る腹式呼吸となる。成長に伴って肋骨が斜め下向きに傾くと、肋骨の挙上で胸郭が広がるようになり、幼児期以降に胸腹式呼吸、学童期頃から胸式呼吸の比重が高まる。腹式呼吸が主体であるため、腹部膨満(腸管ガスの貯留など)があると呼吸が障害されやすい。
- ×b. 体重は出生直後から増加する。
誤りである。出生後数日間は、哺乳量がまだ少ないうえに、皮膚や呼気からの不感蒸泄、尿・胎便の排泄が続くため、体重がいったん減少する。これを生理的体重減少といい、生後3〜5日頃に出生体重の5〜10%程度減少してピークとなる。その後、哺乳量の増加に伴って増加に転じ、通常は生後1〜2週間(多くは7〜10日頃)で出生体重に戻る。減少が10%を大きく超える場合や回復が遅れる場合は、哺乳不良や脱水、感染症などを疑う。
- ×c. 体重当たりの体表面積は成人より狭い。
誤りである。物体は小さいほど体積(体重)に対する表面積の比が大きくなる。新生児の体表面積は約0.2 m²で体重約3 kgであるから、体重1 kg当たり約0.07 m²となり、成人(約1.7 m²/70 kgで1 kg当たり約0.025 m²)の2〜3倍に相当する。このため新生児は体表からの熱放散や不感蒸泄が多く、低体温や脱水に陥りやすい。出生直後の皮膚の乾燥・保温が重視されるのはこのためである。
- ○d. 体液量に占める細胞外液量の割合は成人より高い。
正しい。体重に占める体内水分量は、成人では約60%であるのに対し、新生児では約75〜80%と多い。その内訳をみると、成人では細胞内液が体重の約40%、細胞外液が約20%で細胞内液が多いが、新生児では細胞外液が体重の約40〜45%を占め、細胞内液(約35%)を上回る。成長に伴い細胞外液の割合は急速に低下し、1歳頃には体重の25%前後となって、その後は成人に近い値で推移する。一方、細胞内液の割合は細胞数の増加とともにやや増える。新生児期の細胞外液の多さは生理的体重減少にも関係し、また脱水を起こしやすい理由の一つでもある。
- ×e. 胎児ヘモグロビンは成人ヘモグロビンより酸素親和性が低い。
誤りである。胎児ヘモグロビン(HbF:α2γ2)は、成人ヘモグロビン(HbA:α2β2)より酸素親和性が高い。γ鎖は赤血球内の2,3-BPG(2,3-ビスホスホグリセリン酸)と結合しにくく、2,3-BPGによる酸素親和性の低下作用を受けにくいためである。この結果、酸素解離曲線は左方へ移動し、P50(ヘモグロビンの50%が酸素と結合する酸素分圧)はHbAの約27 mmHgに対しHbFでは約19〜20 mmHgと低い。これにより、胎児は酸素分圧の低い子宮内環境でも、胎盤を介して母体血から効率よく酸素を受け取ることができる。出生時にはHbFがヘモグロビンの約70〜80%を占めるが、生後数か月でHbAに置き換わる。
体液組成の年齢による変化(体重に対する割合の目安)
・新生児:総水分量約75〜80%、細胞外液約40〜45%、細胞内液約35% ・乳児(1歳頃):総水分量約65〜70%、細胞外液約25〜30%、細胞内液約40% ・成人:総水分量約60%、細胞外液約20%(間質液約15%、血漿約5%)、細胞内液約40% (早産児ではさらに総水分量・細胞外液の割合が高い。)
新生児が脱水・低体温になりやすい理由
・体重当たりの体表面積が大きく、不感蒸泄や熱放散が多い。 ・腎の尿濃縮能が未熟である。 ・細胞外液の割合が高く、1日の水分出納が体液量に占める割合が大きい。 ・皮下脂肪が少ない(熱産生は主に褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生に依存する)。
新生児のその他の生理的特徴
・呼吸数:40〜60回/分、心拍数:120〜160回/分程度。 ・生理的黄疸:生後2〜3日で出現し、4〜5日でピーク、1〜2週で消退する。HbFを含む赤血球の寿命が短いことや肝のグルクロン酸抱合能の未熟性による。 ・原始反射(モロー反射、把握反射、吸啜反射など)がみられる。
酸素解離曲線の移動
左方移動(酸素親和性上昇):HbF、アルカローシス、低体温、2,3-BPG低下、一酸化炭素ヘモグロビン。 右方移動(酸素親和性低下):アシドーシス、高体温、2,3-BPG上昇、高CO2。
POINT
・新生児は腹式呼吸が主体(肋骨が水平なため)。 ・生後3〜5日に5〜10%の生理的体重減少があり、1〜2週で出生体重に戻る。 ・体重当たりの体表面積は成人より大きく、熱や水分を失いやすい。 ・新生児は総水分量が約75〜80%と多く、細胞外液の割合が成人より高い(新生児約40〜45%、成人約20%)。 ・HbFは2,3-BPGと結合しにくく、HbAより酸素親和性が高い(酸素解離曲線は左方移動)。
