病床は多く、入院は長く、そして自殺は多い―国際比較で浮かび上がる日本医療の素顔
第101回医師国家試験 C問題 第49問
国試問題にチャレンジ
日本とアメリカ,ドイツ,フランスおよびイギリスとの国際比較で,日本について正しいのはどれか。
- a.平均在院日数が最短
- b.人口1,000人当たりの病床数が最少
- c.国内総生産〈GDP〉に対する国民医療費が最大
- d.自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)が最高
- e.高齢化率(65歳以上人口の総人口に対する比率)が最低
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日本の保健医療を欧米の主要先進国と比べると、人口当たり病床数が多く平均在院日数が長い一方、病床当たりの医師・看護師数は少ないという特徴があります。GDPに対する医療費の割合はアメリカが突出して高く、日本は欧州諸国と同程度の中位にあります。高齢化率は世界最高水準で、2007年に超高齢社会(高齢化率21%超)に到達しました。自殺死亡率は対策により減少傾向にあるものの主要先進国の中で高く、若年層の死因第1位が自殺であることも日本の特徴です。各指標を背景とあわせて理解することは、地域医療構想や地域包括ケア、自殺対策といった医療政策の意義を捉える土台になります。
解答・解説
正解はdです
日本の保健医療の特徴を、主要先進国(アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス)と比べて位置づけられるかを問う問題である。細かな順位や年ごとの数値を暗記する必要はなく、「日本はどの指標で突出して高い(または低い)のか」という大きな傾向を把握していれば解ける。
日本の医療提供体制・人口構造の大きな特徴
・病床が多い:人口当たりの病床数は先進国の中で際立って多い。 ・入院が長い:平均在院日数(入院してから退院するまでの平均日数)は先進国の中で際立って長い。病床が多いことと表裏一体の関係にある。 ・病床当たりの医療従事者が少ない:病床が多いぶん、1床当たりの医師数・看護師数は欧米より少ない。 ・医療費はほどほど:国内総生産(GDP)に占める医療費の割合は、アメリカが突出して高く、日本は欧州諸国と同程度の中位にある。 ・高齢化が最も進んでいる:高齢化率(65歳以上人口の割合)は世界最高水準である。 ・自殺率が高い:人口10万人当たりの自殺者数(自殺死亡率)は、欧米の主要先進国より高い。 以上から、5か国の中で日本が「最短」「最少」「最低」となる指標はa・b・eにはなく、医療費の割合(c)で最大となるのはアメリカである。日本が最高となるのは自殺率(d)である。 出題当時(2000年代後半)の概数を示すと、平均在院日数は日本が約33日(精神病床・療養病床を含む全病床)に対し欧米は6〜13日程度、人口1,000人当たり病床数は日本が約14床に対し欧米は3〜8床程度、GDPに対する医療費の割合は日本が8%台に対しアメリカが17%前後、高齢化率は日本が約23%で他の4か国(13〜20%程度)を上回っていた。自殺率は日本が人口10万人当たり20台半ばで、他の4か国(おおむね6〜16程度)を大きく上回っていた。
選択肢考察
- ×a. 平均在院日数が最短
誤り。日本の平均在院日数は先進国の中で最も長い部類であり、「最短」とは正反対である。出題当時の全病床の平均在院日数は、日本が約33日だったのに対し、アメリカは約6日、イギリスは約8日、ドイツは約10日、フランスは約13日であった。日本で長い理由として、人口当たりの病床が多いこと、精神病床や療養病床(長期療養向けの病床)での長期入院が多いこと、社会的入院(医学的には入院の必要が乏しいが、介護や住まいの事情で退院できない入院)が残っていることなどが挙げられる。その後、急性期病床の機能分化や在宅医療の推進により短縮傾向にあるが、現在も国際的には依然として長い。
- ×b. 人口1,000人当たりの病床数が最少
誤り。日本の人口1,000人当たり病床数は先進国の中で最多の水準であり、「最少」ではない。出題当時は日本が約14床、ドイツが約8床、フランスが約7床、イギリスとアメリカが約3床であった。この5か国で最少なのはアメリカやイギリスである。日本は病床数が多い一方で、病床当たりの医師数・看護師数が少ないことが特徴で、医療資源が多くの病床に薄く配分されている構図といえる。
- ×c. 国内総生産〈GDP〉に対する国民医療費が最大
誤り。GDPに対する医療費の割合が最大なのはアメリカであり、先進国の中でも突出して高い(出題当時で約17%)。日本は出題当時8%台で、ドイツ・フランス(11〜12%程度)やイギリス(約10%)より低く、5か国の中ではむしろ最も低い水準であった。なお、国際比較ではOECD(経済協力開発機構)の基準による「総保健医療支出」が用いられ、日本独自の統計である「国民医療費」とは範囲が異なる。現在の基準では日本の値は約11%とされ、欧州諸国と同程度の中位にあるが、アメリカが最大であることに変わりはない。
- ○d. 自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)が最高
正しい。日本の自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)は、ここに挙げられた欧米4か国より高く、5か国の中で最高である。日本の年間自殺者数は1998年に急増して3万人を超え、その状態が2011年まで続いた。出題当時の自殺死亡率は日本が20台半ばであったのに対し、フランスは約16、アメリカとドイツは約11〜12、イギリスは約6と、日本が明らかに高かった。その後、自殺対策基本法(2006年制定)に基づく総合的な対策などにより日本の自殺者数は減少し、近年は年間2万人前後、自殺死亡率は10万人当たり16〜17程度となっている。それでも主要先進国(G7)の中では依然として高い水準にある。
- ×e. 高齢化率(65歳以上人口の総人口に対する比率)が最低
誤り。日本の高齢化率は世界で最も高い水準であり、「最低」ではない。出題当時(2010年頃)は日本が約23%で、ドイツ約20%、フランス・イギリス約17%、アメリカ約13%を上回っていた。日本は2007年に高齢化率21%を超える「超高齢社会」となり、現在は約29%に達している。5か国の中で高齢化率が最も低いのは、出生率が比較的高く移民の流入も多いアメリカである。
高齢化の段階を表す用語
・高齢化社会:高齢化率7%超(日本は1970年) ・高齢社会:高齢化率14%超(日本は1994年) ・超高齢社会:高齢化率21%超(日本は2007年) 日本は高齢化率が7%から14%に達するまでの期間(倍加年数)が24年と、欧米諸国(フランス約115年、スウェーデン約85年など)に比べて極めて短く、高齢化のスピードが速いことも特徴である。
医療費の国際比較
国際比較には、OECDが定める共通の基準(SHA:System of Health Accounts)による総保健医療支出の対GDP比が用いられる。これには介護費用の一部や予防・公衆衛生の費用なども含まれるため、正常分娩や健康診断などを含まない日本の「国民医療費」より範囲が広い。アメリカは国民皆保険制度をもたず、医療の単価が高いことなどから、対GDP比が突出して高い。
日本の自殺対策
1998年に自殺者数が急増し年間3万人を超えたことを受け、2006年に自殺対策基本法が制定され、自殺総合対策大綱に基づく取り組みが進められた。2016年の法改正で、都道府県・市町村に自殺対策計画の策定が義務づけられた。日本では若年層(10〜30歳代)の死因の第1位が自殺であることも、国際的に見た特徴である。
病床と在院日数
日本は病床数が多く在院日数が長い一方、病床当たりの医療従事者が少ない。これを是正するため、地域医療構想による病床機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)の分化と連携、在宅医療・地域包括ケアシステムの推進が進められている。
POINT
・日本が先進国の中で突出して多い・長い・高いもの:人口当たり病床数、平均在院日数、高齢化率、自殺率 ・日本が少ないもの:病床当たりの医師数・看護師数 ・医療費の対GDP比が最大なのはアメリカ(日本は欧州と同程度の中位) ・超高齢社会=高齢化率21%超。日本は2007年に到達し、現在約29%
