作れない、守れない、溜め込む―病態から読み解く肝硬変の検査値
第101回医師国家試験 C問題 第36問
国試問題にチャレンジ
肝硬変の検査所見で正しいのはどれか。
- a.血小板増加
- b.プロトロンビン時間延長
- c.アルブミン増加
- d.γ-グロブリン減少
- e.コリンエステラーゼ増加
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肝硬変の検査所見は、肝合成能の低下、門脈圧亢進に伴う脾機能亢進、慢性炎症の3つの病態から整理すると理解しやすくなります。肝臓で作られるアルブミン、コリンエステラーゼ、総コレステロール、凝固因子は低下し、凝固因子の減少によりプロトロンビン時間は延長します(PT活性%低下、PT-INR上昇)。血小板は脾機能亢進とトロンボポエチン産生低下により減少し、線維化の進行度の目安となる一方、γ-グロブリンは慢性炎症やクッパー細胞の処理能低下を背景に多クローン性に増加します。PTとアルブミンはChild-Pugh分類の構成項目であり、ビタミンK投与で改善しにくいPT延長は肝合成能低下を示唆します。検査値を病態と結びつけて理解することは、暗記に頼らず肝予備能を評価し、治療方針を考える力の土台になります。
解答・解説
正解はbです
【テーマ】肝硬変で血液検査値がどう変化するかを、病態から説明できるかが問われている。 肝硬変は、慢性の肝細胞壊死と線維化が繰り返された結果、肝小葉構造が改築されて再生結節が形成された状態である。検査所見は大きく次の3つの病態から理解すると整理しやすい。 1. 肝合成能の低下(機能する肝細胞の減少) 肝臓で作られる蛋白が減る。代表はアルブミン、コリンエステラーゼ(ChE)、凝固因子(フィブリノゲン、プロトロンビン=第II因子、第V・VII・IX・X因子など)、総コレステロールである。凝固因子が減るとプロトロンビン時間(PT)が延長する。 2. 門脈圧亢進と脾機能亢進 線維化により門脈血流が肝内で妨げられ門脈圧が上昇し、脾腫が生じる。腫大した脾臓で血球が捕捉・破壊され、血小板をはじめとする血球が減少する。加えて、血小板産生を促すトロンボポエチンが肝で作られるため、その産生低下も血小板減少に寄与する。 3. 慢性炎症と網内系の処理能低下 腸管由来の抗原が門脈-大循環短絡などにより肝のクッパー細胞で十分処理されず全身に回ること、慢性炎症が続くことなどから、多クローン性にγ-グロブリンが増加する。 これらを踏まえると、「合成されるものは減る」「血小板は減る」「γ-グロブリンは増える」と判断でき、選択肢のうち病態に合致するのはPT延長だけである。
選択肢考察
- ×a. 血小板増加
肝硬変では血小板は減少する。門脈圧亢進に伴う脾腫で血小板が脾臓に捕捉・破壊されること(脾機能亢進)、肝臓で産生されるトロンボポエチンが減ることが原因である。進行すると白血球・赤血球も減り汎血球減少を呈しうる。血小板数は線維化の進行度とよく相関し、慢性肝炎の経過で10万/μL程度を下回ると肝硬変への進展を疑う目安になる。
- ○b. プロトロンビン時間延長
PTは外因系および共通系の凝固因子(第VII・X・V・II因子、フィブリノゲン)の働きを反映する。これらはいずれも肝臓で合成されるため、肝合成能が低下する肝硬変では凝固因子が減少し、PTは延長する(PT活性%は低下し、PT-INRは上昇する)。特に第VII因子は半減期が数時間と短いため、PTは肝合成能の変化を比較的早く鋭敏に反映する。PTはChild-Pugh分類の評価項目にも含まれる。
- ×c. アルブミン増加
アルブミンは肝臓でのみ合成されるため、肝硬変では合成能低下により減少する。低アルブミン血症は膠質浸透圧を低下させ、門脈圧亢進とあわせて腹水や浮腫の原因となる。血清アルブミン値もChild-Pugh分類の評価項目である。なお、アルブミンは半減期が約3週間と長いため、急性の変化よりも慢性的な合成能低下を反映する。
- ×d. γ-グロブリン減少
肝硬変ではγ-グロブリンは増加する。持続する肝の炎症・壊死に加え、腸管由来の抗原が肝の網内系(クッパー細胞)で十分に処理されずに全身循環に入ることで、多クローン性に免疫グロブリン(特にIgG)の産生が亢進するためである。血清蛋白分画ではアルブミン低下とγ-グロブリン増加がみられ、β分画とγ分画の境界が不明瞭になるβ-γブリッジングがみられることがある。膠質反応(ZTT、TTT)の上昇もこれを反映する。
- ×e. コリンエステラーゼ増加
血清コリンエステラーゼ(偽コリンエステラーゼ)は肝細胞で合成される酵素であり、アルブミンと同様に肝の蛋白合成能の指標である。肝硬変では合成能低下によって減少する。一方、脂肪肝やネフローゼ症候群などではむしろ上昇するため、低下していれば合成能の低下を示唆する所見として扱う。
肝硬変の主な検査所見の整理
・合成能低下: アルブミン↓、コリンエステラーゼ↓、総コレステロール↓、凝固因子↓(PT延長、PT活性↓、PT-INR↑) ・解毒・排泄能低下: 総ビリルビン↑、アンモニア↑、ICG(インドシアニングリーン)15分停滞率↑ ・脾機能亢進: 血小板↓(最も早期から目立つ)、白血球↓、赤血球↓ ・免疫・炎症: γ-グロブリン↑(多クローン性)、ZTT・TTT↑ ・線維化マーカー: ヒアルロン酸↑、IV型コラーゲン↑、Mac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体(M2BPGi)↑ ・逸脱酵素: AST・ALTは活動性に依存し必ずしも高値ではない。肝硬変ではAST/ALT比が1を超えることが多い。
Child-Pugh分類
血清ビリルビン、血清アルブミン、PT(活性%またはINR)、腹水、肝性脳症の5項目をそれぞれ1〜3点で評価し、合計5〜6点をA、7〜9点をB、10〜15点をCとして肝予備能を判定する。本問で扱ったPTとアルブミンはその構成要素である。
ビタミンKとの関係
第II・VII・IX・X因子はビタミンK依存性凝固因子である。閉塞性黄疸によるビタミンK吸収障害でもPTは延長するが、この場合はビタミンK投与で改善する。肝硬変では肝細胞自体の合成能が落ちているため、ビタミンKを投与しても改善しにくい点が鑑別に役立つ。
POINT
・肝硬変では肝で合成されるもの(アルブミン、ChE、凝固因子、コレステロール)が低下し、PTは延長する。 ・脾機能亢進とトロンボポエチン産生低下で血小板は減少する。 ・γ-グロブリンは多クローン性に増加する。 ・PTとアルブミンはChild-Pugh分類の評価項目である。
