StudyMed医師国家試験

胎盤にも代われない臓器―胎児の発育を支える「たった一つのポンプ」

第101回医師国家試験 C問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第101回 C問題 第20問

胎児発育に必須の胎児臓器はどれか。

  1. a.脳
  2. b.肺
  3. c.心臓
  4. d.小腸
  5. e.腎臓

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胎児が子宮の中で育つために、どうしても胎児自身が働かせなければならない臓器はどれかを考える問題だ。着眼点は「胎児期に胎盤がどの機能を肩代わりしているか」。生まれたあとに大事な臓器と、子宮内で大事な臓器は必ずしも同じではないんだ。
医学生医学生
全部大事そうに見えます。とりあえず脳がないと何も始まらない気がするんですが……。
ドクタードクター
直感としては自然だね。でも一度、出生後のヒトがどうやって生きているかを分解してみよう。肺でガス交換、消化管で栄養吸収、腎臓で老廃物の排泄、そして脳が全身を統御している。では胎児期、このうちどれを胎盤が代わりにやっているかな。
医学生医学生
発生学の講義で、酸素や栄養は胎盤から臍帯静脈を通って胎児に入ると習いました。ガス交換と栄養は胎盤ですね。
ドクタードクター
その通り。さらに尿素やクレアチニン、ビリルビンといった老廃物も胎盤を通って母体側へ移り、母体の腎臓や肝臓で処理される。つまり呼吸・栄養・排泄の大部分は胎盤が代行している。では、胎盤で受け取った酸素と栄養は、どうやって胎児の全身の細胞まで届くと思う?
医学生医学生
あっ、血流に乗せて運ぶ必要があるから……心臓ですか。
ドクタードクター
正解。臍帯静脈から胎児の体内に入った血液を全身に送り出し、組織で生じた二酸化炭素や老廃物を臍帯動脈経由で胎盤へ送り返す。その循環の原動力は胎児自身の心臓しかない。胎盤という「外付けの臓器」と胎児の体をつなぐポンプは、誰にも代わってもらえないんだ。だから心臓が止まれば胎児は発育できず、子宮内で死亡してしまう。
医学生医学生
なるほど。でも肺はどうでしょう。呼吸できないと困る気がします。
ドクタードクター
胎児の肺は肺水という液体で満たされていて、ガス交換には関与していない。胎児期の肺血流は心拍出量のごく一部で、大半は卵円孔や動脈管を通って肺を迂回している。胎児は羊水を肺に出し入れする呼吸様運動をしていて、これは肺の発達には重要だけれど、子宮内で育つために肺機能そのものは必須ではないんだ。
医学生医学生
腎臓はかなり迷いました。羊水をつくっているのは胎児の尿ですよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。妊娠中期以降、羊水の主な供給源は胎児尿だから、腎臓は重要な臓器に見えて引っかかりやすい。でも老廃物の排泄や体液調節は胎盤を介して母体が担っている。両側腎無形成では著明な羊水過少となり、Potterシークエンスとして肺低形成や特有の顔貌、四肢の変形が起こり、出生後の生存は困難だ。それでも子宮内では胎児は発育を続けるんだよ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、羊水過少から肺低形成につながるという話を聞いたのを思い出しました。腎臓は「生まれたあと」に効いてくるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。同じ考え方で、脳についても見てみよう。無脳症は大脳半球や頭蓋冠が欠損する疾患で、出生後はほぼ生存できない。でも脳幹が保たれていれば心拍や呼吸様運動は維持され、妊娠後期まで発育しうる。嚥下がうまくできないため羊水過多を伴いやすいのが特徴だ。
医学生医学生
小腸も、閉鎖があっても胎盤から栄養が来るので育てる、ということですか。
ドクタードクター
その通り。胎児は羊水を飲み込んで腸から水分などを少し吸収しているけれど、栄養の大部分は臍帯静脈から届く。十二指腸閉鎖や小腸閉鎖があっても発育は続き、飲んだ羊水が吸収されないことによる羊水過多が出生前診断の手がかりになる。
医学生医学生
「その臓器がなくても子宮内で妊娠が続くか」と考えると、残るのは心臓だけになりますね。
ドクタードクター
まさにそれが解き方のコツだ。臨床にもつなげておこう。妊娠初期の経腟超音波では、胎嚢が妊娠5週ごろ、胎児心拍は6〜7週ごろから確認できるようになる。心拍の確認は胎児が生きていることの指標なんだ。
医学生医学生
週数が確かなのに心拍が見えなかったら、稽留流産を疑うということですね。
ドクタードクター
そう。ただし排卵が遅れて週数がずれていることもあるから、1回で決めつけずに時間をおいて再検査して判断するのが大切だ。もう一つ、胎児循環の静脈管、卵円孔、動脈管という3つの短絡路は、肺が働かない胎児期に胎盤中心の循環を成り立たせる仕組みで、その駆動力が胎児心臓だということも、あわせて整理しておこう。

まとめ

胎児期には、ガス交換・栄養供給・老廃物の排泄といった機能の大部分を胎盤が代行しています。しかし、胎盤で受け取った酸素や栄養を胎児の全身へ届け、老廃物を胎盤へ送り返す循環のポンプは胎児自身の心臓しかなく、これだけは代わりがききません。無脳症、肺低形成、腸閉鎖、両側腎無形成は出生後の生存に問題を生じますが、子宮内では発育が続き、羊水過多や羊水過少(Potterシークエンス)といった所見が診断の手がかりになります。臨床では経腟超音波での胎児心拍の確認が胎児生存の指標となり、確認できない場合は稽留流産を疑って再検査します。「胎盤が何を肩代わりしているか」という視点は、胎児循環や出生前診断を理解するうえでの土台になります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

子宮内で胎児が成長していくうえで、その臓器が働かなければ発育そのものが成り立たない、という臓器を選ぶ問題である。

胎児の生命維持は胎盤が肩代わりしている

出生後のヒトは、肺でガス交換を行い、消化管で栄養を吸収し、腎臓で老廃物を排泄し、脳が全身を統御して生きている。しかし胎児期には、これらの機能の大部分を胎盤が代行している。 ・ガス交換:母体血と胎児血の間で胎盤を介して酸素と二酸化炭素が受け渡される。 ・栄養供給:ブドウ糖・アミノ酸などは胎盤を通って臍帯静脈から胎児に届く。 ・老廃物の処理:尿素・クレアチニン・ビリルビンなどは胎盤を通じて母体側に移り、母体の腎臓や肝臓で処理される。

心臓だけは代わりがきかない

胎盤で受け取った酸素と栄養は、臍帯静脈を通って胎児体内に入ったあと、胎児自身の心臓が拍出する血流に乗って初めて全身の組織へ届けられる。また、胎児の組織で生じた二酸化炭素や老廃物を臍帯動脈経由で胎盤に送り返すのも、胎児の心拍出による。つまり、胎盤という「外部の臓器」を胎児の身体とつなぐ循環のポンプは胎児の心臓以外になく、心臓が機能しなければ胎児は発育できず、子宮内で死亡する。

考え方のコツ

「その臓器が先天的に欠損・無形成でも、子宮内では妊娠が継続し胎児が育ちうるか」を考えるとよい。無脳症、肺低形成、腸閉鎖、両側腎無形成はいずれも、出生後の生存は困難または治療を要するが、子宮内では妊娠後期まで胎児が発育しうる。一方、心臓が拍動しなければ胎児は生存できない。

選択肢考察

  1. ×a.  脳

    誤り。脳は出生後の生存には欠かせないが、胎児発育に必須とはいえない。大脳半球や頭蓋冠が欠損する無脳症では、出生後はほぼ生存できないものの、子宮内では脳幹による心拍や呼吸様運動が保たれ、妊娠後期まで発育しうる。胎児の神経系は胎動や嚥下運動などに関与しており、無脳症では嚥下障害により羊水過多を伴いやすいが、胎児への酸素・栄養供給そのものは胎盤と心臓によって維持される。

  2. ×b.  肺

    誤り。胎児の肺は液体(肺水)で満たされており、ガス交換には関与しない。ガス交換は胎盤で行われるため、胎児期の肺血流は心拍出量のごく一部にすぎず、大部分は卵円孔や動脈管を通って肺を迂回している。胎児は羊水を肺に出し入れするような呼吸様運動を繰り返しており、これは肺の発達に重要である。羊水過少が続くと肺低形成を来し、出生後の呼吸不全の原因となるが、子宮内での発育には肺機能は必須ではない。

  3. ○c.  心臓

    正解。胎盤から臍帯静脈を通って胎児に入った酸素と栄養素を全身の組織に分配し、組織で生じた二酸化炭素や老廃物を臍帯動脈から胎盤へ送り返す循環の原動力は、胎児自身の心臓である。心臓の機能は胎盤では代行できず、心拍が止まれば胎児は発育できずに死亡する。臨床的にも、経腟超音波で胎児心拍が確認できることは胎児生存の指標であり、妊娠7〜8週ごろには通常確認できる。適切な時期になっても心拍が確認できないことは稽留流産の診断根拠となる。

  4. ×d.  小腸

    誤り。胎児は羊水を飲み込み、その水分や少量の糖・蛋白などを腸管から吸収している。しかし胎児の栄養の大部分は胎盤経由で臍帯静脈から供給されており、腸管からの吸収が発育に占める割合はわずかである。十二指腸閉鎖や小腸閉鎖があっても子宮内では発育が続き、羊水を嚥下・吸収できないことによる羊水過多が手がかりとなる。

  5. ×e.  腎臓

    誤り。胎児の腎臓は妊娠中期以降の羊水の主な供給源(胎児尿)として重要である。しかし胎児の老廃物の排泄や体液の調節は主に胎盤を介して母体が担っているため、腎臓は発育に必須ではない。両側腎無形成では胎児尿が作られず著明な羊水過少となり、Potter シークエンス(肺低形成、特有の顔貌、四肢の変形など)を来し、出生後は肺低形成のため生存は困難である。それでも子宮内では胎児は発育を続ける。腎臓は羊水との関連が強く重要な臓器に思えるため、誤って選びやすい選択肢である。

胎盤が代行する機能と胎児の臓器

・呼吸(ガス交換):出生後は肺、胎児期は胎盤 ・栄養吸収:出生後は消化管、胎児期は胎盤→臍帯静脈 ・老廃物排泄:出生後は腎臓・肝臓、胎児期は胎盤を介して母体へ ・循環:出生後も胎児期も心臓(代行するものがない)

胎児循環の概要

臍帯静脈(酸素に富む血液)→ 静脈管(Arantius 管)で肝臓を一部迂回 → 下大静脈 → 右心房 → 卵円孔を通って左心房 → 左心室 → 大動脈 → 主に頭部・上肢へ。上大静脈から戻った血液は右心室 → 肺動脈 → 動脈管(Botallo 管)→ 下行大動脈へ流れ、肺をほとんど通らない。臍帯動脈(2本、酸素の少ない血液)が胎盤へ血液を戻す。これらの短絡路は、肺が働かない胎児期に胎盤中心の循環を成り立たせるための仕組みであり、その駆動力が胎児心臓である。

臓器の異常と羊水量

・羊水過多を来す例:無脳症(嚥下障害)、食道閉鎖・十二指腸閉鎖(嚥下した羊水が吸収されない)など ・羊水過少を来す例:両側腎無形成、尿路閉塞、前期破水、胎盤機能不全など ・長期間の羊水過少は肺低形成や四肢の拘縮・変形につながる。

心拍確認の目安

経腟超音波では、胎嚢は妊娠5週ごろ、胎児心拍は妊娠6〜7週ごろから確認できるようになる。妊娠週数が確かなのに心拍が確認できない場合は、稽留流産を疑い、時間をおいて再検査して判断する。

POINT

・胎児のガス交換・栄養供給・老廃物排泄は胎盤が代行する。 ・胎盤と胎児の全身をつなぐ循環のポンプである心臓は、代わりがきかず胎児発育に必須である。 ・無脳症、肺低形成、腸閉鎖、両側腎無形成は、出生後の生存に問題があっても子宮内では発育しうる。 ・両側腎無形成 → 羊水過少 → Potter シークエンス(肺低形成など)。 ・胎児心拍の確認は胎児生存の指標であり、確認できない場合は稽留流産を疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。