StudyMed医師国家試験

ギャロップを聴き逃すな―Ⅲ音は「左を下に、ベルを軽く、心尖部」で捉える

第101回医師国家試験 C問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第101回 C問題 第21問

Ⅲ音の聴取で正しいのはどれか。

  1. a.Ⅰ音の前後に注目する。
  2. b.左側臥位で聴取しやすい。
  3. c.聴診器は膜型を使用する。
  4. d.下肢を挙上すると減弱する。
  5. e.胸骨左縁第4肋間で最強となる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はⅢ音の聴き方を問う問題だ。Ⅲ音がいつ、なぜ鳴るのかという成り立ちを理解すれば、タイミング、聴診器の使い分け、部位と体位、増強・減弱の要因という4つのポイントがすべて自然に導ける。まずⅢ音はどの時相の音か、わかるかな。
医学生医学生
拡張期の音だったと思います。でもⅣ音とどっちがどっちか、いつも混ざってしまって……。
ドクタードクター
そこは多くの人がつまずくところだね。Ⅱ音は大動脈弁と肺動脈弁が閉じる音で、ここから拡張期が始まる。続いて僧帽弁が開くと、心房にたまっていた血液が心室へ一気に流れ込む。これが急速流入期で、その流入血が心室壁に当たって急にせき止められ、心室壁や腱索が振動して生じるのがⅢ音だと考えられている。
医学生医学生
ということは、Ⅱ音のすぐ後ですね。Ⅰ音の前後を聴くのは違うということか。
ドクタードクター
その通り。Ⅱ音の約0.12〜0.18秒後、拡張早期に聴かれる。Ⅰ音・Ⅱ音・Ⅲ音と3拍続いて、馬が駆けるようなギャロップに聞こえるんだ。一方、Ⅰ音の直前に聴かれるのはⅣ音。拡張後期に心房が収縮して、硬くなった心室へ血液を押し込むときの音だ。Ⅰ音の直後なら、大動脈弁狭窄症などの駆出音を考える。過剰心音はⅠ音・Ⅱ音との時間関係で区別するのが基本だよ。
医学生医学生
次は聴診器ですね。OSCEの練習で、とりあえず膜型を当てていました。
ドクタードクター
Ⅰ音やⅡ音を聴くならそれでいい。でもⅢ音は周波数の低い音だから、低音を拾いやすいベル型を使う。コツは皮膚に軽く当てること。強く押し付けると皮膚が膜のように張って、低音が減衰してしまうんだ。膜型はⅠ音・Ⅱ音、大動脈弁閉鎖不全症の拡張期灌水様雑音、心膜摩擦音といった高調な音向きだと整理しよう。
医学生医学生
聴く場所は、左室の音なら心尖部でしょうか。
ドクタードクター
そう。一般に問題になる左室由来のⅢ音は、左第5肋間と鎖骨中線の交点付近、つまり心尖部で最強になる。そして左側臥位をとると心臓が左前方へ動き、心尖部が胸壁に近づくから、小さく低いⅢ音も格段に聴き取りやすくなる。これが今回の正解だ。呼気終末に聴くとさらに捉えやすい。
医学生医学生
胸骨左縁第4肋間は三尖弁領域ですよね。そこで最強になるのは違うと。
ドクタードクター
よく整理できているね。胸骨左縁第4肋間は三尖弁閉鎖不全症の収縮期雑音や、心室中隔欠損症の汎収縮期雑音が聴かれやすい場所だ。右心不全などで生じる右室由来のⅢ音なら胸骨左縁下部で聴かれ、吸気で増強することもあるけれど、一般的な「Ⅲ音」の聴取部位として問われるのは心尖部だよ。
医学生医学生
下肢挙上はどう考えればいいですか。なんとなく減りそうなイメージもあって迷いました。
ドクタードクター
Ⅲ音の成り立ちに立ち返ろう。Ⅲ音は心室に流れ込む血液量が多いほど強くなる。下肢を挙上すると、下肢にたまっていた静脈血が心臓に戻って静脈還流が増え、急速流入も増えるから、Ⅲ音は増強する。逆に立位やValsalva法では静脈還流が減って減弱する。右心系の音が吸気で強くなるRivero-Carvallo徴候も、同じ静脈還流の考え方で説明できるんだ。
医学生医学生
まとめると、Ⅱ音の直後に、ベル型を軽く当てて、左側臥位の心尖部で聴く。還流が増えれば強くなる、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。では臨床的な意味も押さえよう。小児や若年者、妊婦のように心室が広がりやすい人や心拍出量の多い人では、健常でもⅢ音が聴かれることがある。これが生理的Ⅲ音だ。一方、中高年で聴かれるⅢ音は、心不全による左室拡大や充満圧上昇、僧帽弁閉鎖不全症などの容量負荷を示唆する病的所見であることが多い。
医学生医学生
循環器内科の実習で、心不全で入院した患者さんの心尖部で、指導医に「これがギャロップだよ」と聴かせてもらいました。
ドクタードクター
貴重な経験だね。Ⅲ音はFramingham基準でも心不全の大基準に含まれる、診断に役立つ身体所見なんだ。ついでにⅣ音との違いも覚えておこう。Ⅳ音は心房収縮が必要だから、心房細動では生じない。高血圧性心疾患や肥大型心筋症など、心室が硬くなる拡張障害で聴かれる。
医学生医学生
Ⅲ音は「容量負荷で広がった心室」、Ⅳ音は「硬い心室」と対比させると覚えやすいですね。
ドクタードクター
その対比はとても有用だ。ただⅢ音もⅣ音も小さな音だから、静かな環境で、体位を工夫して、意識して聴きにいかないと聴き逃してしまう。ベッドサイドで実際に左側臥位にして聴く習慣をつけておこう。

まとめ

Ⅲ音は、Ⅱ音の直後の拡張早期(急速流入期)に、心房から心室へ流れ込んだ血液が心室壁を振動させて生じる低調な過剰心音です。低音に適したベル型聴診器を軽く当て、心尖部で聴き、左側臥位にすると心尖部が胸壁に近づいて聴き取りやすくなります。下肢挙上など静脈還流が増えると増強し、立位やValsalva法で減弱します。Ⅰ音の直前に聴かれるのはⅣ音で、心室の拡張障害を反映し、心房細動では生じない点で区別されます。若年者や妊婦の生理的Ⅲ音と、心不全や僧帽弁閉鎖不全症による病的Ⅲ音を見分けることは、ベッドサイドでの心不全診断に直結する重要な技能です。

解答・解説

正解はbです

Ⅲ音とは

Ⅲ音は、拡張早期に心房から心室へ血液が一気に流れ込む時期(急速流入期)に生じる低い音である。Ⅱ音(大動脈弁・肺動脈弁の閉鎖音)で拡張期が始まり、僧帽弁が開くと心房内にたまっていた血液が心室へ急速に流入する。この流入血が心室壁に当たって急にせき止められ、心室壁や腱索などが振動することで発生すると考えられている。

聴取のための4つの要素

Ⅲ音の聴き方を問う問題では、次の4点を押さえておけば選択肢を判断できる。 1. タイミング:Ⅱ音の後、約0.12〜0.18秒(拡張早期)。「Ⅰ音・Ⅱ音・Ⅲ音」と3拍が続き、ギャロップ(馬の駆ける音)のように聞こえる。 2. 音の高さと聴診器:低調な音なので、低音を拾いやすいベル型を、皮膚に軽く当てて用いる。 3. 聴取部位と体位:左室由来のⅢ音は心尖部で最もよく聴こえる。左側臥位にすると心尖部が胸壁に近づき、さらに聴き取りやすくなる。 4. 増強・減弱の要因:心室への流入血液量が多いほど強くなる。下肢挙上や運動などで静脈還流が増えると増強し、立位やValsalva 法(息こらえ)で静脈還流が減ると減弱する。

生理的Ⅲ音と病的Ⅲ音

小児や若年者、妊婦など、心室のコンプライアンス(広がりやすさ)が高い人や心拍出量の多い人では、健常でもⅢ音が聴かれることがある(生理的Ⅲ音)。一方、中高年以降で聴かれるⅢ音は、心不全(左室拡大・左室充満圧上昇)や僧帽弁閉鎖不全症などの容量負荷を示唆する病的所見であることが多い。

選択肢考察

  1. ×a.  Ⅰ音の前後に注目する。

    誤り。Ⅲ音は拡張早期の急速流入期に生じるため、Ⅱ音の直後(約0.12〜0.18秒後)に注目して聴く。Ⅰ音の直前に聴かれる過剰心音はⅣ音であり、これは拡張後期に心房が収縮して硬い心室へ血液を押し込む際に生じる。Ⅰ音の直後に聴かれる音としては、大動脈弁狭窄症などでの駆出音(駆出クリック)がある。過剰心音は、Ⅰ音・Ⅱ音との時間的な位置関係で区別することが基本である。

  2. ○b.  左側臥位で聴取しやすい。

    正解。一般に問題となる左室由来のⅢ音は心尖部で最もよく聴取される。左側臥位をとると心臓が左前方へ移動して心尖部が胸壁に近づくため、低く小さいⅢ音も聴き取りやすくなる。心尖部に聴診器(ベル型)を軽く当て、呼気終末に聴くとさらに捉えやすい。僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルやⅣ音なども、同様に左側臥位の心尖部で聴きやすい。

  3. ×c.  聴診器は膜型を使用する。

    誤り。Ⅲ音は周波数の低い音であり、低音の聴取に適したベル型を用いる。ベル型は皮膚に強く押し付けると皮膚が膜のように張って低音が減衰するため、軽く当てるのがコツである。膜型は高音を拾いやすく、Ⅰ音・Ⅱ音、大動脈弁閉鎖不全症の拡張期灌水様雑音、心膜摩擦音などの高調な音の聴取に向く。

  4. ×d.  下肢を挙上すると減弱する。

    誤り。下肢を挙上すると下肢にたまっていた静脈血が心臓へ戻り(静脈還流量の増加)、拡張早期に心室へ流入する血液量も増える。その結果、Ⅲ音は増強する。逆に立位や Valsalva 法の負荷相では静脈還流が減るため、Ⅲ音は減弱する。右心系由来の心音・雑音が吸気で増強する(Rivero-Carvallo 徴候)のも、静脈還流の増加によるもので、同じ考え方で理解できる。

  5. ×e.  胸骨左縁第4肋間で最強となる。

    誤り。通常問題となる左室由来のⅢ音は心尖部(おおむね左第5肋間と鎖骨中線の交点付近)で最強となる。胸骨左縁第4肋間は三尖弁領域にあたり、三尖弁閉鎖不全症の収縮期雑音や心室中隔欠損症の汎収縮期雑音などが聴かれやすい部位である。なお、右心不全などで生じる右室由来のⅢ音は胸骨左縁下部で聴かれ、吸気で増強するが、一般的な「Ⅲ音」の聴取部位として問われるのは心尖部である。

過剰心音の整理

・Ⅲ音:拡張早期(Ⅱ音の後)。心室への急速流入による。低調、ベル型、心尖部・左側臥位。生理的(小児・若年者・妊婦など)または病的(心不全、僧帽弁閉鎖不全症、高心拍出状態など)。 ・Ⅳ音:拡張後期(Ⅰ音の直前)。心房収縮で硬くなった心室へ血液が押し込まれて生じる。低調、ベル型、心尖部・左側臥位。高血圧性心疾患、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症、急性心筋梗塞など心室の拡張障害で聴かれ、健常成人では通常聴かれない。心房収縮が必要なため心房細動では生じない。 ・僧帽弁開放音(OS):Ⅱ音の直後(Ⅲ音より早い)。高調で膜型。僧帽弁狭窄症で聴かれる。 ・心膜ノック音:Ⅱ音の後、Ⅲ音よりやや早い。収縮性心膜炎で聴かれる。 ・駆出音:Ⅰ音の直後。大動脈弁狭窄症や肺動脈弁狭窄症などで聴かれる。

聴診器の使い分け

・ベル型(軽く当てる):低調音(Ⅲ音、Ⅳ音、僧帽弁狭窄症の拡張期ランブル) ・膜型(しっかり当てる):高調音(Ⅰ音、Ⅱ音、僧帽弁開放音、大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音、多くの収縮期雑音、心膜摩擦音)

聴診所見を変化させる操作

・静脈還流増加(下肢挙上、吸気〔右心系〕、蹲踞):多くの心音・雑音が増強 ・静脈還流減少(立位、Valsalva 法):多くの心音・雑音が減弱。例外として肥大型閉塞性心筋症の収縮期雑音や僧帽弁逸脱症の収縮中期クリックは、左室が小さくなることで増強・早期化する。

Ⅲ音の臨床的意義

左心不全で聴かれるⅢ音は左室拡張末期圧の上昇を反映し、心不全の診断に有用な身体所見である(Framingham 基準でも大基準に含まれる)。

POINT

・Ⅲ音はⅡ音の直後(拡張早期、急速流入期)に聴かれる低調音。 ・ベル型聴診器を軽く当て、心尖部で聴く。左側臥位で聴取しやすい。 ・静脈還流の増加(下肢挙上など)で増強し、減少(立位・Valsalva 法)で減弱する。 ・Ⅰ音の直前に聴かれるのはⅣ音。 ・若年者の生理的Ⅲ音と、心不全などによる病的Ⅲ音を区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。