声なきSOSを聴きとる―新生児の呼吸困難を告げる「呻吟」
第101回医師国家試験 C問題 第19問
国試問題にチャレンジ
新生児の呼吸困難を表す症候はどれか。
- a.呻吟
- b.嗄声
- c.傾眠傾向
- d.四肢の冷感
- e.筋緊張低下
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
新生児は苦しさを言葉で訴えられないため、多呼吸(60回/分以上)、陥没呼吸、鼻翼呼吸、呻吟、シーソー呼吸、チアノーゼ、無呼吸といった呼吸の様子から呼吸困難を評価します。呻吟は呼気時に声門を狭めて気道内に陽圧を保ち、肺胞の虚脱を防ぐ代償反応で、PEEPやCPAPと同じ原理として理解でき、呼吸窮迫症候群などで典型的にみられます。嗄声は喉頭病変による声質の異常、傾眠・四肢の冷感・筋緊張低下は中枢神経・循環・代謝などの異常で広くみられる非特異的所見であり、呼吸困難そのものを表す症候ではありません。重症度評価にはシルバーマンスコアを用い、呻吟も評価項目の一つです。徴候の意味を病態生理と結びつけて理解することが、新生児の急変を早期に察知する力につながります。
解答・解説
正解はaです
新生児に特有の呼吸困難(呼吸障害)の徴候を知っているかを問う問題である。 新生児は言葉で苦しさを訴えることができないため、呼吸の様子を観察して呼吸困難を評価する。新生児の呼吸困難を示す代表的な徴候は次のとおりである。 ・多呼吸:呼吸数60回/分以上(新生児の正常呼吸数はおよそ40〜60回/分) ・陥没呼吸:吸気時に肋間・胸骨下部・剣状突起下などが陥凹する ・鼻翼呼吸:吸気時に鼻翼が広がる ・呻吟(しんぎん):呼気時に「うーうー」とうなるような声を出す ・シーソー呼吸:吸気時に胸部が陥凹し腹部が膨らむ、胸と腹の動きが逆になる呼吸 ・チアノーゼ ・無呼吸・不規則な呼吸 呼吸窮迫症候群(RDS:肺サーファクタント欠乏により肺胞が虚脱しやすくなる疾患)を思い浮かべると理解しやすい。RDSでは生後まもなくから多呼吸、陥没呼吸、鼻翼呼吸、呻吟、チアノーゼが出現する。 選択肢のうち、嗄声は喉頭の病変を示す声の異常であり、傾眠傾向・四肢の冷感・筋緊張低下は全身状態の悪化や中枢神経・循環・代謝などの異常で広くみられる非特異的所見である。これらは重症の呼吸障害の結果として現れることはあっても、呼吸困難そのものを表す症候とはいえない。呼吸困難に直結する徴候は呻吟である。
選択肢考察
- ○a. 呻吟
呻吟(expiratory grunting)は、呼気の終わりに声門を狭めて「うーっ」とうなるような音を出す現象である。声門を半ば閉じて呼気を出すことで気道内に陽圧(呼気終末陽圧、PEEPに相当)を保ち、肺胞の虚脱を防いで機能的残気量を維持しようとする代償反応である。呼吸窮迫症候群や新生児一過性多呼吸、胎便吸引症候群などでみられ、新生児の呼吸困難を表す代表的な症候である。呼吸障害の重症度評価に用いるシルバーマンスコアの評価項目にも含まれている。
- ×b. 嗄声
嗄声は声(新生児では啼泣)がかすれる声質の異常であり、声帯や喉頭の病変を示す所見である。新生児でも啼泣時の嗄声はみられ、声帯麻痺(分娩外傷や心大血管手術後の反回神経麻痺など)、喉頭の奇形、先天性甲状腺機能低下症などが原因となる。これらの喉頭病変では吸気性喘鳴や呼吸障害を伴うこともあるが、嗄声そのものは呼吸困難を表す症候ではない。乳幼児期以降では、クループ症候群(急性声門下喉頭炎)で犬吠様咳嗽とともに嗄声がみられることがよく知られている。
- ×c. 傾眠傾向
傾眠傾向は意識レベルの低下を示す所見であり、頭蓋内出血、低酸素性虚血性脳症、髄膜炎・脳炎などの中枢神経疾患、低血糖、敗血症、高ビリルビン血症などで出現する。重症の呼吸障害で高度の低酸素血症や高二酸化炭素血症が進むと意識が低下することはあるが、傾眠自体は呼吸困難に特有の症候ではない。
- ×d. 四肢の冷感
四肢の冷感は末梢循環不全を反映する所見であり、ショック、敗血症などの重症感染症、低体温、心不全、低血糖などで出現する。呼吸障害が進行して循環も悪化すればみられることはあるが、呼吸困難を直接表す症候ではない。なお、健康な新生児でも生後早期には末梢の血流が不安定で、手足が冷たく紫色がかる(末梢性チアノーゼ)ことがある。
- ×e. 筋緊張低下
筋緊張低下はフロッピーインファント(ぐにゃぐにゃした乳児)として現れ、低酸素性虚血性脳症などの中枢神経障害、脊髄性筋萎縮症や先天性ミオパチーなどの神経筋疾患、ダウン症候群などの染色体異常、先天性甲状腺機能低下症、敗血症などでみられる。神経筋疾患では呼吸筋の筋力低下により呼吸障害を合併することがあるが、筋緊張低下そのものは呼吸困難を表す症候ではない。
シルバーマンスコア(Silverman retraction score)
新生児の呼吸障害の程度を評価する指標で、以下の5項目をそれぞれ0〜2点で評価する(合計0〜10点)。点数が高いほど呼吸障害が重い。 ①胸と腹の動き(シーソー呼吸の有無) ②肋間の陥没 ③剣状突起部の陥没 ④鼻翼呼吸(吸気時の鼻翼の拡張) ⑤呼気性呻吟 (一般的には合計が高く、特に4〜5点以上では呼吸管理を検討する目安とされる。)
新生児の呼吸障害をきたす主な疾患
・呼吸窮迫症候群(RDS):早産児に多い。肺サーファクタント欠乏。胸部X線で網状顆粒状陰影、気管支透亮像、重症例では肺野全体が白くなる(すりガラス状〜white lung)。サーファクタント補充療法が有効。 ・新生児一過性多呼吸(TTN):肺水の吸収遅延。帝王切開での出生や正期産に近い児に多く、通常数日以内に改善する。 ・胎便吸引症候群(MAS):過期産や胎児機能不全で羊水に排出された胎便を吸引して起こる。 ・気胸、先天性横隔膜ヘルニア、新生児肺炎、新生児遷延性肺高血圧症など。
呻吟の機序
肺胞が虚脱しやすい状態では、呼気時に声門を狭めて気道内圧を高めることで肺胞を開いたまま保とうとする。人工呼吸管理で呼気終末陽圧(PEEP)や持続陽圧呼吸(CPAP)を用いるのと同じ原理であり、児自身による代償反応といえる。
POINT
・新生児の呼吸困難の徴候:多呼吸(60回/分以上)、陥没呼吸、鼻翼呼吸、呻吟、シーソー呼吸、チアノーゼ、無呼吸。 ・呻吟は呼気時に声門を狭めて肺胞の虚脱を防ぐ代償反応であり、呼吸窮迫症候群などでみられる。 ・呼吸障害の重症度はシルバーマンスコアで評価する。 ・傾眠、四肢の冷感、筋緊張低下は非特異的な全身状態悪化の所見であり、呼吸困難そのものの症候ではない。
