妊娠30週、その検査は「今」「安全に」使えるか―胎児診断の組合せを見極める
第101回医師国家試験 B問題 第90問
国試問題にチャレンジ
妊娠30週の胎児診断の組合せで適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.水頭症 ―― CT
- b.心奇形 ―― MRI
- c.低酸素血症 ―― コントラクションストレステスト〈CST〉
- d.染色体異常 ―― 絨毛検査
- e.胎児発育不全 ―― 超音波検査
対話形式の解説
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医学生まとめ
胎児診断の検査選択では、目的の異常を評価できるか、その妊娠週数で実施できるか、胎児に安全かの3点を確認することが大切です。胎児の形態や発育の評価は超音波検査が基本で、胎児発育不全は推定胎児体重を基準値と比べて診断し、羊水量や臍帯動脈・中大脳動脈のドプラも併せて評価します。胎児の低酸素状態はNSTでスクリーニングし、異常が疑われればCSTやBPS、ドプラ検査で追加評価し、CSTでは遅発一過性徐脈の出現が胎盤機能低下を示します。水頭症は超音波と補助的な非造影MRIで評価してCTは選ばず、心奇形は胎児心エコーで診断し、絨毛検査は妊娠10〜14週ごろの検査であるため30週では適応になりません。各検査の実施時期と特性を整理しておくことは、妊婦健診や周産期管理で適切な検査を選ぶ力に直結します。
解答・解説
正解はc, eです
問われていること
妊娠30週(妊娠後期の入り口)という時期を前提に、胎児の各種異常をどの検査で評価するのが適切かを問う問題である。組合せの適否は「その検査が目的の異常を評価できるか」に加えて、「妊娠30週という時期に実施できるか」「胎児への安全性に問題はないか」の三つの観点で判断する。
検査選択の考え方
・胎児の形態評価(水頭症、心奇形、発育)の基本は超音波検査である。非侵襲的で被曝がなく、繰り返し実施でき、胎児の動きや血流(カラードプラ法)もリアルタイムに観察できる。 ・超音波で詳細が不明な中枢神経系の異常などでは、補助的に胎児MRI(通常は造影剤を使わない)を用いる。電離放射線を用いるCTは、胎児評価の目的では原則として選ばない。 ・胎児の低酸素状態(胎児の状態の良否、well-being)の評価には、胎児心拍数モニタリングを用いるノンストレステスト(NST)、コントラクションストレステスト(CST)、biophysical profile score(BPS)、臍帯動脈などの血流ドプラ検査がある。 ・胎児の染色体異常の確定診断に用いる侵襲的検査には時期の制約があり、絨毛検査は妊娠初期(おおむね妊娠10〜14週)、羊水検査は妊娠15〜16週以降、臍帯血検査(経皮的臍帯血採取)は主に妊娠中期以降に行う。
結論
以上から、胎児低酸素状態の評価としてのCSTと、胎児発育不全の診断としての超音波検査が、妊娠30週の組合せとして適切である。
選択肢考察
- ×a. 水頭症 ―― CT
不適切。胎児水頭症(脳室拡大)は超音波検査でスクリーニング・診断し、側脳室三角部の幅が10 mm以上で脳室拡大(15 mm以上で高度)と判断するのが目安である。原因となる脳の形成異常や合併奇形の評価には、造影剤を使わない胎児MRIが補助的に用いられる。CTは電離放射線を用いるため胎児被曝を伴い、しかも超音波やMRIより得られる情報が上回るわけではないので、胎児診断の目的で行う理由がない。なお、診断に必要な範囲の母体CTでは胎児被曝線量は奇形や発育障害を起こすとされる閾値(おおむね100 mGy)を通常下回るため、妊婦のCTが絶対禁忌というわけではないが、胎児の水頭症を評価する検査として選ぶべきではない。
- ×b. 心奇形 ―― MRI
不適切。胎児の心奇形は、妊娠中期以降の超音波検査で四腔断面像や左右の流出路(心室から出る大血管)の断面を観察してスクリーニングし、疑わしければ胎児心エコー(カラードプラ法を含む)で構造と血流を詳しく評価して診断する。胎児の心臓は小さく、心拍数が毎分120〜160回程度と速く、胎児自身も動くため、MRIでは心内構造や血流動態の評価に限界があり、標準的な診断法ではない。一方、MRI自体は放射線被曝がなく、妊娠中期以降の非造影MRIは胎児への有害性が報告されていないため、中枢神経系の異常などでは胎児診断に用いられる。
- ○c. 低酸素血症 ―― コントラクションストレステスト〈CST〉
適切。CSTは、オキシトシンの点滴静注や乳頭刺激で子宮収縮を人為的に起こし(10分間に3回程度)、その際の胎児心拍数の変化をみる検査である。子宮収縮中は絨毛間腔への母体血流が一時的に減少するため、胎盤機能が低下して胎児の酸素予備能が乏しい場合には、子宮収縮に遅れて心拍数が低下する遅発一過性徐脈が出現する。子宮収縮の半数以上に遅発一過性徐脈がみられればCST陽性とし、胎児低酸素状態(胎児機能不全)が疑われる。通常はまずNSTでスクリーニングし、NSTで一過性頻脈が乏しいなど異常が疑われる場合にCSTやBPSで追加評価する。子宮収縮を誘発するため、早産リスクの高い切迫早産や前期破水、前置胎盤、子宮体部の手術既往(古典的帝王切開など)では禁忌であり、その場合はBPSやドプラ検査で評価する。妊娠30週は胎児心拍数モニタリングの評価が可能な時期であり、この組合せは適切である。
- ×d. 染色体異常 ―― 絨毛検査
不適切。絨毛検査(絨毛採取、CVS)は、経腟または経腹的に胎盤の絨毛組織を採取して染色体を調べる検査で、実施時期は妊娠初期のおおむね10〜14週である。妊娠30週では適応とならない。この時期に胎児の染色体を確定的に調べる必要があれば、羊水検査(妊娠15〜16週以降であれば後期でも実施可能)や、超音波ガイド下に臍帯静脈を穿刺して胎児血を採取する経皮的臍帯血採取(cordocentesis)を行う。なお、母体血中の胎児由来DNAを調べる非侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)は非確定的検査であり、陽性時には確定検査が必要である。
- ○e. 胎児発育不全 ―― 超音波検査
適切。胎児発育不全(fetal growth restriction:FGR)は、超音波検査で児頭大横径(BPD)、腹部周囲長(AC)、大腿骨長(FL)を計測して推定胎児体重(EFW)を算出し、妊娠週数の基準値と比較して診断する(わが国では推定胎児体重が基準値の−1.5 SD以下を目安とする)。正確な評価には妊娠初期の頭殿長(CRL)などによる妊娠週数の確定が前提となる。さらに超音波検査では、形態異常の有無、羊水量(羊水過少の有無)、臍帯動脈や中大脳動脈の血流ドプラ(胎盤機能不全や胎児の血流再分配の評価)も同時に観察でき、FGRの原因推定、胎児の状態評価、分娩時期の判断に不可欠である。
主な胎児検査と実施時期の目安
・絨毛検査:妊娠10〜14週ごろ(確定検査、侵襲的) ・羊水検査:妊娠15〜16週以降(確定検査、侵襲的。流産リスクは約0.3%程度とされる) ・経皮的臍帯血採取:主に妊娠18週以降(胎児貧血の評価や胎児輸血にも用いる) ・母体血清マーカー検査:妊娠15〜18週ごろ(非確定検査) ・NIPT:妊娠10週以降(非確定検査) ・超音波検査:妊娠全期間(妊娠初期は週数確定と胎児数・絨毛膜性の診断、中期以降は形態・発育・羊水量・血流評価)
胎児well-being評価の整理
・NST:子宮収縮のない状態で胎児心拍数を記録する。20分間に2回以上の一過性頻脈があればreactive(胎児状態良好)と判断する。 ・CST:子宮収縮を誘発して遅発一過性徐脈の有無をみる。陰性なら胎児の予備能は保たれていると判断できる。 ・BPS:NSTに超音波による4項目(胎児呼吸様運動、胎動、筋緊張、羊水量)を加えた5項目を各2点で評価する(10点満点)。 ・ドプラ検査:臍帯動脈の拡張期血流の途絶・逆流は胎盤機能不全の重篤なサインである。中大脳動脈の抵抗低下は低酸素時の脳への血流再分配(brain sparing)を示す。
妊娠中の画像検査の安全性
・超音波:被曝がなく第一選択。 ・MRI:被曝がなく、妊娠中期以降の非造影MRIは有害性の報告がない。ガドリニウム造影剤は原則避ける。 ・X線・CT:胎児被曝を伴う。100 mGy未満では奇形などの確定的影響のリスク増加は認められないとされるが、必要最小限にとどめ、代替法があればそちらを選ぶ。
POINT
・胎児の形態・発育評価の基本は超音波検査。FGRは推定胎児体重で診断する。 ・胎児心奇形は胎児心エコー(カラードプラ法を含む)で診断する。 ・胎児水頭症は超音波で診断し、補助的に非造影MRIを用いる。CTは胎児評価には用いない。 ・胎児低酸素状態の評価:NST→(異常時)CST・BPS・ドプラ。CSTの遅発一過性徐脈は胎盤機能低下を示す。 ・絨毛検査は妊娠10〜14週。妊娠後期の染色体検査は羊水検査や臍帯血検査で行う。
