「何を測る」と「誰がつける」―心理検査・評価尺度は2本の軸で整理する
第101回医師国家試験 B問題 第89問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。
- a.Mini-Mental State Examination〈MMSE〉は発達障害の評価に用いる。
- b.Hamiltonうつ病評価尺度は自己記入式評価尺度である。
- c.Rorschachテストは質問紙法による性格検査である。
- d.Wechsler成人知能検査〈WAIS–Ⅲ〉はうつ病の評価に用いる。
- e.簡易精神症状評価尺度〈BPRS〉は精神病症状の評価に用いる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
精神科の心理検査・評価尺度は「何を評価するか」と「誰がどう評価するか」の2軸で整理すると理解しやすくなります。MMSEやHDS-Rは認知症のスクリーニング、WAIS・WISCは知能検査、性格検査はMMPIやYG性格検査などの質問紙法とRorschachテストやTATなどの投影法に分かれます。症状の重症度評価では、うつ病のHamiltonうつ病評価尺度は観察者評価で、自己記入式にはBDIやSDS、PHQ-9があり、精神病症状にはBPRSやPANSSという観察者評価尺度が用いられます。本問ではBPRSが精神病症状の評価に用いるという記述が正しく、ほかの選択肢は評価対象か実施形式がすり替えられています。尺度の目的と形式を正しく理解しておくことは、検査結果を臨床の文脈で適切に解釈する力の土台になります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
精神科領域でよく使われる心理検査・評価尺度について、「何を評価するものか(対象)」と「どのような形式で実施するものか(評価者・方法)」を正しく対応させられるかを問う問題である。
整理の軸
1. 評価対象による分類 ・認知機能:MMSE、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)など ・知能:Wechsler式知能検査(WAIS、WISC)、田中ビネー知能検査など ・性格(人格):質問紙法(MMPI、YG性格検査など)と投影法(Rorschachテスト、TAT、SCTなど) ・症状の重症度:うつ病(Hamiltonうつ病評価尺度、BDIなど)、精神病症状(BPRS、PANSSなど) 2. 実施形式による分類 ・観察者評価(他者評価):医師や心理士などが面接・観察をもとに点数をつける ・自己記入式(自己評価):本人が質問紙に回答する
考え方
この二つの軸で各選択肢を検討すると、BPRSが精神病症状(統合失調症などの陽性症状・陰性症状や情動面の症状)の重症度評価に用いられる尺度であるという記述だけが正しい。ほかの選択肢は、評価対象(MMSE、WAIS-III)または実施形式(Hamiltonうつ病評価尺度、Rorschachテスト)がすり替えられている。
選択肢考察
- ×a. Mini-Mental State Examination〈MMSE〉は発達障害の評価に用いる。
誤り。MMSEは認知症のスクリーニングに国際的に広く使われる簡易認知機能検査である。時間・場所の見当識、3単語の記銘と遅延再生、注意と計算(100から7を順に引く)、物品呼称、文の復唱、3段階の口頭指示、読字・書字、図形模写などからなり、30点満点で、23点以下で認知症の疑いとするのが一般的である。わが国で広く用いられるHDS-R(30点満点、20点以下で認知症の疑い)と内容が似ているが、MMSEは書字や図形模写といった動作性課題を含む点が異なる。発達障害の評価には、知能検査(WISCなど)や自閉スペクトラム症・注意欠如多動症(ADHD)に特化した評価尺度が用いられ、MMSEは用いない。
- ×b. Hamiltonうつ病評価尺度は自己記入式評価尺度である。
誤り。Hamiltonうつ病評価尺度(HAM-D、HDRS)は、医師などの評価者が患者と面接し、抑うつ気分、罪責感、自殺念慮、不眠、仕事と活動、精神運動制止・焦燥、不安、身体症状、体重減少、病識などの項目を採点する観察者評価尺度である(17項目版が広く用いられる)。うつ病の重症度評価や、抗うつ薬の臨床試験における治療効果判定の標準的な尺度となっている。うつ病の自己記入式尺度の代表は、Beck抑うつ質問票(BDI-II)、Zung自己評価式抑うつ尺度(SDS)、PHQ-9などである。
- ×c. Rorschachテストは質問紙法による性格検査である。
誤り。Rorschachテストは、左右対称のインクのしみでできた10枚の図版を順に見せ、それが何に見えるか、どこがそう見えたか、なぜそう見えたかを自由に答えてもらう投影法の性格検査である。曖昧な刺激への反応には本人の内面(思考過程、感情、対人関係の特徴など)が投影されるという考えに基づく。投影法にはほかに、絵を見て物語を作る主題統覚検査(TAT)、書きかけの文を完成させる文章完成法(SCT)、バウムテスト(樹木画)、P-Fスタディなどがある。質問紙法の性格検査としては、ミネソタ多面的人格目録(MMPI)、矢田部-ギルフォード(YG)性格検査、東大式エゴグラム(TEG)などがある。
- ×d. Wechsler成人知能検査〈WAIS–Ⅲ〉はうつ病の評価に用いる。
誤り。WAISは成人(WAIS-IIIではおおむね16〜89歳)を対象とした個別式の知能検査で、複数の下位検査から全検査IQ(平均100、標準偏差15)と、言語性IQ・動作性IQや群指数(言語理解、知覚統合、作動記憶、処理速度)を算出する。知的障害の評価、認知機能の特徴(得意・不得意の偏り)の把握、脳損傷後の評価などに用いられる。うつ病の重症度評価には、Hamiltonうつ病評価尺度やBDIなどの専用尺度を用いる。なお、現在はWAIS-IVが用いられており、児童用にはWISC、幼児用にはWPPSIがある。
- ○e. 簡易精神症状評価尺度〈BPRS〉は精神病症状の評価に用いる。
正しい。BPRS(Brief Psychiatric Rating Scale)はOverallとGorhamが開発した観察者評価尺度で、面接と観察に基づき、心気的訴え、不安、感情的引きこもり、概念の統合障害(思考のまとまりのなさ)、罪責感、緊張、衒奇症と不自然な姿勢、誇大性、抑うつ気分、敵意、猜疑心、幻覚、運動減退、非協調性、不自然な思考内容、情動の平板化、興奮、見当識障害などの項目(18項目版が広く用いられる)を7段階で評価する。統合失調症をはじめとする精神病性障害の症状の重症度や、抗精神病薬による治療効果の判定に使われる。同じ目的で、陽性症状・陰性症状・総合精神病理の30項目からなるPANSS(陽性・陰性症状評価尺度)も広く用いられている。
主な心理検査・評価尺度のまとめ
・認知機能(認知症スクリーニング):HDS-R(30点満点、20点以下で疑い)、MMSE(30点満点、23点以下で疑い)、MoCA-J(軽度認知障害の検出に鋭敏)。いずれも面接で実施する。 ・知能検査:WAIS(成人)、WISC(児童)、WPPSI(幼児)、田中ビネー知能検査(精神年齢を算出)。 ・性格検査(質問紙法):MMPI、YG性格検査、TEG、CMI(健康調査票)。短時間で客観的に採点できるが、回答を意図的に操作されうる。 ・性格検査(投影法):Rorschachテスト、TAT、SCT、バウムテスト、P-Fスタディ。無意識的な側面をとらえやすいが、解釈に熟練を要する。 ・作業検査法:内田クレペリン精神作業検査(一桁の足し算を続け、作業曲線から性格・作業特性をみる)。 ・うつ病:観察者評価はHAM-D、MADRS。自己記入式はBDI-II、SDS、PHQ-9。 ・精神病症状:BPRS、PANSS(いずれも観察者評価)。 ・不安:HAM-A(観察者評価)、STAI(自己記入式)。
POINT
・MMSE、HDS-Rは認知症のスクリーニング検査(いずれも30点満点)。 ・Hamiltonうつ病評価尺度は面接による観察者評価。自己記入式はBDI、SDS、PHQ-9。 ・Rorschachテストは投影法。質問紙法の代表はMMPI、YG性格検査。 ・WAISは成人用の知能検査(児童用WISC)。 ・BPRS、PANSSは統合失調症などの精神病症状の重症度評価に用いる観察者評価尺度。
