その負荷試験、何を見ている?―デキサメタゾン抑制試験とCushing症候群で学ぶ機能検査の考え方
第101回医師国家試験 B問題 第88問
国試問題にチャレンジ
検査と適応疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.ICG試験 ―― 胆石症
- b.水制限試験 ―― 腎不全
- c.インスリン負荷試験 ―― 糖尿病
- d.Ellsworth-Howard試験 ―― 副甲状腺機能亢進症
- e.デキサメタゾン抑制試験 ―― Cushing症候群
対話形式の解説
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医学生まとめ
負荷試験は「何を評価する検査か」を理解すると組合せを取り違えにくく、原則として分泌不全には刺激試験、分泌過剰には抑制試験を用います。デキサメタゾン抑制試験はCushing症候群に用いられ、少量(1 mg一晩法)で抑制されなければコルチゾール自律分泌を疑い、大量(8 mg)ではCushing病のみが抑制されるため病型鑑別にも役立ちます。一方、ICG試験は肝予備能(肝硬変・肝切除前評価)、水制限試験は尿崩症と心因性多飲の鑑別、インスリン低血糖試験はGH・ACTH分泌予備能、Ellsworth-Howard試験は偽性副甲状腺機能低下症の病型鑑別が本来の適応です。検査の原理と対象をセットで押さえることは、国家試験だけでなく、臨床で適切な検査を選び結果を正しく解釈する力の土台になります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
代表的な機能検査・負荷検査が、どの疾患の診断や病型鑑別に用いられるかを問う知識問題である。負荷試験は「ある刺激(薬剤・状態)を加えたとき、正常なら起こるはずの反応が起こるか」「正常なら抑えられるはずの分泌が抑えられるか」を見る検査であり、その検査が何を評価しているのかを理解しておくと組合せを取り違えにくい。
各検査の評価対象の整理
・ICG(インドシアニングリーン)試験:肝臓の色素排泄能=肝予備能 ・水制限試験:水分を断ったときに尿を濃縮できるか=抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)の分泌と作用 ・インスリン負荷試験:低血糖ストレスに対する下垂体前葉ホルモン(GH、ACTH)の分泌予備能 ・Ellsworth-Howard試験:外から与えた副甲状腺ホルモン(PTH)に対する腎の反応性 ・デキサメタゾン抑制試験:グルココルチコイドによるネガティブフィードバックでコルチゾール分泌が抑制されるか
考え方
このうち、疾患との組合せが正しいのはデキサメタゾン抑制試験とCushing症候群のみである。Cushing症候群ではコルチゾールの自律的な過剰分泌があるため、合成グルココルチコイドであるデキサメタゾンを投与しても血中コルチゾールが十分に抑制されない。ほかの選択肢は、検査自体は実在するが、組み合わされた疾患が本来の適応と異なっている。
選択肢考察
- ×a. ICG試験 ―― 胆石症
誤り。ICG試験は、色素インドシアニングリーン(通常0.5 mg/kg)を静注し、15分後の血中停滞率(ICG R15、基準値はおおむね10%未満)などを測定する検査である。ICGは肝細胞に取り込まれて抱合を受けずに胆汁中へ排泄されるため、肝血流量と肝細胞の機能を反映し、慢性肝炎・肝硬変の重症度評価や、肝細胞癌などで肝切除を行う際の切除可能範囲の判断(肝予備能評価)に用いられる。胆石症の診断は腹部超音波検査が第一選択であり、ICG試験の適応ではない。なお、体質性黄疸のうちRotor症候群ではICG排泄が著明に遅延し、Dubin-Johnson症候群との鑑別の一助になる。
- ×b. 水制限試験 ―― 腎不全
誤り。水制限試験は、飲水を制限して血漿浸透圧を上昇させたときに尿が濃縮されるか(尿浸透圧が上がり尿量が減るか)を観察する検査で、多尿の原因鑑別、特に尿崩症の診断に用いられる。中枢性尿崩症・腎性尿崩症では水制限後も尿浸透圧が十分に上昇せず、心因性多飲症では濃縮が起こる。続いてバソプレシン(またはデスモプレシン)を投与し、尿浸透圧が上昇すれば中枢性、上昇しなければ腎性と判断する。脱水の危険を伴うため、現在のわが国の診断基準では高張食塩水負荷試験(ADH分泌の評価)とデスモプレシン試験が主に用いられる。腎不全の評価は血清クレアチニン・推算糸球体濾過量(eGFR)などで行い、水制限はかえって腎前性に腎機能を悪化させうるため適応とはならない。
- ×c. インスリン負荷試験 ―― 糖尿病
誤り。インスリン負荷試験(インスリン低血糖試験)は、速効型インスリン(通常0.1単位/kg程度)を静注して低血糖を起こし、そのストレスに反応して分泌されるGH(成長ホルモン)とACTH・コルチゾールを測定する下垂体前葉機能検査である。成長ホルモン分泌不全症や下垂体機能低下症、ACTH分泌不全の診断に用いられ、十分な低血糖(血糖が負荷前の半分以下、または50 mg/dL未満など)が得られたことを確認して判定する。重篤な低血糖を意図的に起こすため、虚血性心疾患やてんかんの患者には禁忌で、医師の立ち会いが必要である。糖尿病の診断は空腹時血糖・随時血糖・75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)・HbA1cで行い、インスリン負荷試験は用いない。
- ×d. Ellsworth-Howard試験 ―― 副甲状腺機能亢進症
誤り。Ellsworth-Howard試験は、合成PTH(テリパラチド)を静注し、尿中cAMP(サイクリックAMP)と尿中リン排泄の増加を測定する検査で、副甲状腺機能低下症の病型鑑別に用いられる。PTH分泌そのものが低下している特発性・続発性副甲状腺機能低下症では、両者とも正常に増加する。PTHは分泌されているのに腎がPTHに反応しない偽性副甲状腺機能低下症では反応が低下し、I型では尿中cAMP・リンともに増加せず(受容体とGsタンパクの段階の異常)、II型ではcAMPは増加するがリン排泄が増加しない(cAMP以降の段階の異常)。副甲状腺機能亢進症の診断は、高Ca血症下でPTHが高値(不適切に抑制されていない)であることで行い、Ellsworth-Howard試験の適応ではない。
- ○e. デキサメタゾン抑制試験 ―― Cushing症候群
正しい。デキサメタゾンは強力な合成グルココルチコイドで、血中コルチゾール測定にほとんど影響しない。健常者では投与によりCRH・ACTHが抑制され、翌朝のコルチゾールが著明に低下するが、Cushing症候群ではコルチゾールが自律的に過剰分泌されているため抑制されない。【スクリーニング】一晩法少量(1 mg)デキサメタゾン抑制試験を行い、翌朝の血中コルチゾールが抑制されなければ(一般に1.8 μg/dL以上)Cushing症候群を疑う。【病型鑑別】大量(8 mg)デキサメタゾン抑制試験では、下垂体腺腫によるCushing病は腫瘍がある程度フィードバックに反応するため、コルチゾールが前値のおおむね半分以下に抑制される。一方、副腎腺腫などの副腎性Cushing症候群や異所性ACTH産生腫瘍では抑制されない。このように診断と病型鑑別の両方に用いられる。
Cushing症候群の診断の流れ(概略)
1. 臨床像(満月様顔貌、中心性肥満、赤色皮膚線条、高血圧、耐糖能異常、骨粗鬆症など)から疑う。 2. コルチゾール過剰の証明:一晩法少量デキサメタゾン抑制試験、深夜の血中・唾液中コルチゾール高値(日内変動の消失)、24時間尿中遊離コルチゾール高値など。 3. ACTH依存性か否か:血中ACTHが低値(抑制)なら副腎性、正常〜高値ならACTH依存性(Cushing病または異所性ACTH症候群)。 4. ACTH依存性の鑑別:大量デキサメタゾン抑制試験(Cushing病で抑制)、CRH試験(Cushing病でACTHが反応)、下垂体MRI、必要に応じ海綿静脈洞・下錐体静脈洞サンプリング。
主な負荷試験のまとめ
・刺激試験(分泌不全を疑うとき):インスリン低血糖試験(GH・ACTH)、GHRP-2試験・アルギニン試験(GH)、CRH試験(ACTH)、TRH試験、LH-RH試験、迅速ACTH試験(副腎皮質予備能) ・抑制試験(分泌過剰を疑うとき):デキサメタゾン抑制試験(コルチゾール)、75g OGTT(先端巨大症でGHが抑制されない)、生理食塩水負荷試験・カプトプリル試験(原発性アルドステロン症でアルドステロンが抑制されない) ・その他:水制限試験・高張食塩水負荷試験・デスモプレシン試験(尿崩症)、Ellsworth-Howard試験(偽性副甲状腺機能低下症)、ICG試験(肝予備能)
POINT
・デキサメタゾン抑制試験:Cushing症候群の診断(少量で抑制されない)と病型鑑別(大量でCushing病のみ抑制)。 ・ICG試験:肝予備能(R15基準値10%未満)。肝硬変・肝切除前評価。 ・水制限試験:尿崩症と心因性多飲の鑑別。 ・インスリン低血糖試験:GH・ACTH分泌予備能(下垂体機能低下症、GH分泌不全症)。虚血性心疾患・てんかんでは禁忌。 ・Ellsworth-Howard試験:副甲状腺機能低下症(特に偽性)の病型鑑別。I型は尿中cAMP・リンとも無反応、II型はcAMPのみ反応。 ・「分泌不全は刺激試験、分泌過剰は抑制試験」が原則。
