StudyMed医師国家試験

「無菌」がベストとは限らない―妊婦の腟を守る乳酸桿菌の自浄作用

第101回医師国家試験 B問題 第87問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第87問

妊婦の腟分泌物培養検査結果で望ましいのはどれか。

  1. a.培養陰性
  2. b.Candida属陽性
  3. c.Lactobacillus属陽性
  4. d.Gardnerella vaginalis陽性
  5. e.Group B Streptococcus〈GBS〉陽性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は妊婦の腟分泌物培養で、どんな結果なら「健全」と言えるかを問う問題だ。着眼点はひとつ、腟は本来無菌の場所ではなく、常在細菌叢に守られている臓器だということ。そこを踏まえて選択肢を見てみよう。
医学生医学生
培養検査と聞くと、何も生えない陰性がいちばん安心な結果に思えてしまいます。
ドクタードクター
血液培養や髄液培養ならその感覚で正しい。でも腟は外界と通じる粘膜で、皮膚や口腔、腸管と同じく常在菌がいるのが普通なんだ。性成熟期の女性では、エストロゲンの作用で腟上皮が厚くなり、表層細胞にグリコーゲンがたまる。剝がれた上皮のグリコーゲンを乳酸桿菌が利用して乳酸を作り、腟内をpH3.8〜4.5くらいの酸性に保っている。
医学生医学生
微生物学の講義で習ったDöderlein桿菌ですね。酸性にすることで他の菌が増えにくくなる、と。
ドクタードクター
その通り。乳酸桿菌は過酸化水素やバクテリオシンという抗菌物質も作って、病原菌の定着を防ぐ。これを腟の自浄作用という。だから正解はLactobacillus属陽性だ。ちなみにDöderlein桿菌は昔はひとつの菌種とされていたけれど、今はL. crispatusやL. gasseriなど複数の菌種の集まりと理解されている。
医学生医学生
妊娠中はエストロゲンが高いので、乳酸桿菌もむしろ増えやすいということでしょうか。
ドクタードクター
一般的にはそうだね。妊娠中は乳酸桿菌優位の状態が強まる傾向がある。では培養陰性はどう解釈する?
医学生医学生
常在菌がいるはずなのに何も生えないのは、むしろおかしい……採取や輸送のミスとか、抗菌薬を使った直後とかでしょうか。
ドクタードクター
いい推論だ。本当に菌がいないなら、自浄作用の担い手も欠けていることになるから、望ましい状態とは言えない。次にCandidaはどうかな。
医学生医学生
産婦人科の実習で、妊婦さんが外陰部のかゆみとヨーグルト状の帯下で受診していたのを見ました。妊娠でカンジダが増えやすいんですよね。
ドクタードクター
よく見ていたね。妊娠中はグリコーゲンが増えて真菌の栄養も豊富になるから、外陰腟カンジダ症を起こしやすい。糖尿病や抗菌薬、ステロイドも誘因だ。分娩時に産道感染すると新生児の鵞口瘡やおむつ皮膚炎の原因になるので、特に症状があれば腟錠などで治療する。
医学生医学生
Gardnerella vaginalisは細菌性腟症の原因菌ですよね。でも腟にいる菌なら、それほど問題ないのかなとも思いました。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。細菌性腟症は、乳酸桿菌が減ってGardnerellaや嫌気性菌が異常に増え、pHが4.5を超えた状態を指す。灰白色の薄い帯下、KOHを加えると魚臭がするwhiff test、細菌が付着して輪郭がぼやけたclue cellなどが手がかりで、Amselの基準やNugentスコアで診断する。妊婦では上行感染から絨毛膜羊膜炎を起こし、前期破水や早産のリスクになるから、望ましい所見ではない。
医学生医学生
乳酸桿菌が減ると細菌性腟症になって早産につながる、と考えると、乳酸桿菌が正解なのがよりはっきりしますね。GBSはどうでしょう。
ドクタードクター
GBS、つまりB群溶血性レンサ球菌は、妊婦の1〜3割ほどが腟や直腸に無症状で保菌している。母体には通常無害だけど、分娩時に児へ垂直感染すると、生後早期の早発型では敗血症や肺炎、生後1週以降の遅発型では髄膜炎を起こしうる重い病気だ。
医学生医学生
だから妊娠後期にスクリーニングするんですね。陽性だったらどうするんでしたっけ。
ドクタードクター
妊娠35〜37週前後に腟入口部と肛門周囲から検体を取って培養し、陽性なら陣痛発来時や破水時からアンピシリンなどのペニシリン系抗菌薬を点滴静注して新生児感染を予防する。妊婦健診では他にも、妊娠初期のクラミジアスクリーニングなど、児への感染を防ぐための検査が組み込まれているよ。
医学生医学生
整理すると、乳酸桿菌は守り手、Candida・Gardnerella・GBSはそれぞれ治療や予防策が必要な菌、そして陰性は不自然な結果、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、腟内環境はエストロゲンに左右されることも覚えておこう。小児期や閉経後はエストロゲンが乏しく、乳酸桿菌が少なくて腟内pHが中性寄りになるから、小児の外陰腟炎や閉経後の萎縮性腟炎が起こりやすい。臨床では帯下の性状とpHを合わせて見ると、カンジダ症はpHが正常範囲のことが多く、細菌性腟症やトリコモナス症ではpHが上がる、という使い分けができる。

まとめ

腟は無菌の臓器ではなく、性成熟期・妊娠中はエストロゲンの作用で乳酸桿菌(Döderlein桿菌)が優位となり、乳酸によってpH約3.8〜4.5の酸性に保たれることで病原菌の増殖を防いでいます(腟の自浄作用)。そのため妊婦の腟分泌物培養で望ましいのはLactobacillus属陽性であり、培養陰性はむしろ検体の不備や抗菌薬の影響を疑う不自然な結果です。Candidaは妊娠で増えやすく新生児の鵞口瘡の原因に、Gardnerella vaginalisは細菌性腟症の関連菌として絨毛膜羊膜炎・前期破水・早産のリスクに、GBSは新生児の敗血症・髄膜炎の原因となり、妊娠後期のスクリーニングと分娩時のペニシリン系抗菌薬投与で予防します。常在細菌叢の役割を理解しておくことは、妊婦健診での検査結果の解釈や母子感染予防の理解に直結します。

解答・解説

正解はcです

問われていること

妊婦の腟内にどのような細菌叢があれば「健全」と評価できるかを問う問題である。ポイントは、腟は本来無菌の臓器ではなく、常在細菌叢(正常フローラ)によって守られている部位だという点にある。

腟の自浄作用

性成熟期の女性では、エストロゲンの作用で腟上皮が厚くなり、表層細胞内にグリコーゲンが蓄えられる。剝がれ落ちた上皮から供給されるグリコーゲン(およびその分解産物)を乳酸桿菌(Lactobacillus属、古くからDöderlein桿菌と呼ばれてきた菌群)が利用して乳酸を産生し、腟内pHをおよそ3.8〜4.5の酸性に保つ。乳酸桿菌はさらに過酸化水素やバクテリオシン(抗菌性ペプチド)も産生し、病原菌の上皮への定着を妨げる。この仕組みを腟の自浄作用という。妊娠中はエストロゲンが高値となるため、腟内の乳酸桿菌優位の状態はむしろ強まるのが一般的である。

考え方

したがって、妊婦の腟分泌物培養で「望ましい」のは、自浄作用の担い手である乳酸桿菌が検出される状態である。一方、真菌(Candida)、細菌性腟症の原因菌(Gardnerella vaginalis)、新生児重症感染の原因となるB群溶血性レンサ球菌(GBS)はいずれも、妊婦では治療や分娩時の予防策を検討すべき所見である。また「培養陰性」は一見清潔に見えるが、常在菌が存在するはずの腟では不自然な結果であり、健全な状態を示すものではない。

選択肢考察

  1. ×a.  培養陰性

    誤り。皮膚・口腔・消化管・泌尿生殖器など外界と接する粘膜には、出生後まもなく常在細菌叢が形成され、宿主と共生しながら病原体の定着を防ぐ役割を果たす。成人女性の腟も同様で、乳酸桿菌を主体とする細菌叢が常に存在する。妊婦の腟分泌物を培養して何も発育しない状況は通常考えにくく、検体採取・輸送の不備や直前の抗菌薬使用などを疑うべき結果である。仮に細菌が本当にいなければ、自浄作用を担う菌も欠けていることになり、望ましい状態とはいえない。

  2. ×b.  Candida属陽性

    誤り。Candida属(代表はCandida albicans)は酵母様真菌で、少数であれば腟に無症状で存在しうるが、本来は乳酸桿菌による酸性環境によって増殖が抑えられている。妊娠(特に中期以降)はエストロゲン上昇により腟上皮のグリコーゲンが増え、真菌の栄養源が豊富になるため、外陰腟カンジダ症を起こしやすい。ほかに糖尿病、抗菌薬・副腎皮質ステロイド薬の使用、免疫能低下なども誘因となる。症状は強いかゆみと酒かす状・ヨーグルト状の白色帯下である。分娩時に産道感染すると新生児に鵞口瘡(口腔カンジダ症)やおむつ皮膚炎を生じ、極低出生体重児などでは全身感染の原因にもなるため、妊婦で検出されれば、特に症状を伴う場合は腟錠などによる治療の対象となる。

  3. ○c.  Lactobacillus属陽性

    正解。Lactobacillus属はグラム陽性桿菌の乳酸菌で、健康な性成熟期女性の腟内細菌叢の主体を占める(Döderlein桿菌とも呼ばれる。かつてはLactobacillus acidophilusとされたが、現在ではL. crispatus、L. gasseri、L. jensenii、L. inersなど複数菌種の集まりと理解されている)。腟上皮由来のグリコーゲンから乳酸を作って腟内pHを約3.8〜4.5に保ち、過酸化水素などの抗菌物質も産生して、Candida、Gardnerella、GBSなどの増殖や外来病原体の侵入を抑える。この菌が検出されることは自浄作用が保たれていることを意味し、妊婦にとって望ましい結果である。逆に乳酸桿菌が減少すると細菌性腟症を来しやすく、早産のリスクが高まる。

  4. ×d.  Gardnerella vaginalis陽性

    誤り。Gardnerella vaginalisはグラム染色で陰性〜不定に染まる小型の多形性桿菌で、細菌性腟症(bacterial vaginosis:BV)の代表的な関連菌である。BVは乳酸桿菌が減少し、Gardnerellaや嫌気性菌(Prevotella、Mobiluncusなど)、マイコプラズマ類が異常に増えて腟内pHが上昇した状態を指す。臨床診断にはAmselの基準(①均一で灰白色の薄い帯下、②腟内pH 4.5超、③帯下に10% KOHを加えると魚臭様のアミン臭(whiff test陽性)、④鏡検でclue cell(細菌が付着して輪郭が不明瞭になった腟上皮細胞)の存在、のうち3項目以上)が用いられ、グラム染色による菌の構成を点数化したNugentスコアも用いられる。妊婦のBVは上行感染による絨毛膜羊膜炎を介して、前期破水や早産のリスク因子となるため、望ましい所見ではない。

  5. ×e.  Group B Streptococcus〈GBS〉陽性

    誤り。GBS(B群溶血性レンサ球菌、Streptococcus agalactiae)はグラム陽性球菌で、腟や直腸に無症状で保菌されていることが多い(妊婦の10〜30%程度とされる)。母体には通常無害であるが、分娩時に産道で児へ垂直感染すると新生児GBS感染症を起こす。生後早期(おおむね生後7日未満、多くは24時間以内)に発症する早発型は敗血症・肺炎が中心で、呼吸障害が新生児呼吸窮迫症候群と紛らわしいことがある。生後1週以降に発症する遅発型は髄膜炎が多い。いずれも死亡や神経学的後遺症を残しうる重篤な疾患である。そのため妊娠後期(35〜37週前後)に腟入口部と肛門周囲(直腸)の培養でスクリーニングを行い、陽性者には陣痛発来時または破水時からペニシリン系抗菌薬(アンピシリンなど)を点滴静注して予防する。したがって陽性は望ましい結果ではない。

腟内環境とエストロゲン

・小児期・閉経後はエストロゲンが乏しく、腟上皮が薄くグリコーゲンが少ないため乳酸桿菌が少なく、腟内pHは中性寄りになる。そのため小児の外陰腟炎や閉経後の萎縮性腟炎が起こりやすい。 ・性成熟期・妊娠中はエストロゲンの作用で乳酸桿菌が優位となり、腟内は酸性に保たれる。

妊娠と腟感染症の整理

・外陰腟カンジダ症:妊娠で増加。強いかゆみ、酒かす状帯下。児への影響は鵞口瘡など。 ・細菌性腟症:乳酸桿菌減少と嫌気性菌などの増殖。灰白色帯下、魚臭。絨毛膜羊膜炎→前期破水・早産のリスク。 ・腟トリコモナス症:泡沫状の黄緑色帯下、pH上昇。性感染症。 ・GBS保菌:無症状が多い。新生児早発型GBS感染症(敗血症・肺炎)、遅発型(髄膜炎)。妊娠後期スクリーニングと分娩時の抗菌薬予防投与。 ・クラミジア:新生児結膜炎・肺炎の原因。妊娠初期にスクリーニングする。

腟内pHの目安

・正常(乳酸桿菌優位):約3.8〜4.5 ・細菌性腟症、トリコモナス症:4.5を超える ・カンジダ症:通常は正常範囲(4.5以下)にとどまることが多い

POINT

・健常な妊婦の腟内はLactobacillus属(Döderlein桿菌)が優位で、乳酸によりpH約3.8〜4.5の酸性に保たれる(腟の自浄作用)。 ・腟は無菌ではなく、培養陰性は「望ましい」結果ではない。 ・妊娠中はCandidaが増えやすく、新生児では鵞口瘡の原因となる。 ・Gardnerella vaginalisは細菌性腟症の関連菌で、絨毛膜羊膜炎・前期破水・早産のリスクとなる。 ・GBSは妊娠後期に腟・直腸培養でスクリーニングし、陽性なら分娩時にペニシリン系抗菌薬を静注して新生児感染を予防する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。