腹部の動脈は「3本の幹」から考える―総肝動脈と胃十二指腸動脈の分岐を押さえよう
第101回医師国家試験 B問題 第35問
国試問題にチャレンジ
通常みられる血管の分岐の組合せで正しいのはどれか。
- a.腹腔動脈 ―― 下横隔動脈
- b.総肝動脈 ―― 胃十二指腸動脈
- c.脾動脈 ―― 右胃動脈
- d.上腸間膜動脈 ―― 左結腸動脈
- e.下腸間膜動脈 ―― 回結腸動脈
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腹部の消化管を養う動脈は、前腸を腹腔動脈、中腸を上腸間膜動脈、後腸を下腸間膜動脈が支配すると整理すると理解しやすくなります。腹腔動脈は左胃動脈・脾動脈・総肝動脈の3本に分かれ、総肝動脈はさらに胃十二指腸動脈と固有肝動脈に分かれます。右胃動脈は主に固有肝動脈から、短胃動脈や左胃大網動脈は脾動脈から出ます。また、中結腸・右結腸・回結腸動脈は上腸間膜動脈、左結腸・S状結腸・上直腸動脈は下腸間膜動脈の枝で、下横隔動脈は通常は腹部大動脈から直接出ます。十二指腸潰瘍の出血、虚血性大腸炎の好発部位、手術前の血管変異の確認など、腹部血管の解剖は臨床判断の土台となる知識です。
解答・解説
正解はbです
本問は、腹部大動脈から出る消化管の3本の主要動脈(腹腔動脈・上腸間膜動脈・下腸間膜動脈)と、その主な枝の分岐様式を問う解剖学の問題である。「通常みられる」とあるように、変異(破格)ではなく標準的な走行を答えればよい。
考え方
消化管の動脈支配は、発生学的な腸管の区分と対応させると整理しやすい。 ・前腸(食道腹部〜十二指腸乳頭部付近、肝・胆・膵・脾)→ 腹腔動脈 ・中腸(十二指腸乳頭部より遠位〜横行結腸の口側約2/3)→ 上腸間膜動脈 ・後腸(横行結腸の肛門側約1/3〜直腸上部)→ 下腸間膜動脈 腹腔動脈は第12胸椎〜第1腰椎の高さで大動脈前面から出て、すぐに左胃動脈・脾動脈・総肝動脈の3本に分かれる。総肝動脈は右へ進み、胃十二指腸動脈と固有肝動脈に分かれる。この分岐を知っていれば総肝動脈―胃十二指腸動脈の組合せが正しいと判断できる。他の選択肢は、枝の出どころが別の動脈である組合せや、上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の枝を入れ替えた組合せになっている。
選択肢考察
- ×a. 腹腔動脈 ―― 下横隔動脈
下横隔動脈は、通常は腹腔動脈が出るすぐ上の高さで腹部大動脈から直接分岐し、横隔膜下面や副腎(上副腎動脈を出す)を栄養する。腹腔動脈から出る例もあるが変異であり、通常の分岐とはいえない。腹腔動脈の通常の枝は左胃動脈・脾動脈・総肝動脈の3本である。
- ○b. 総肝動脈 ―― 胃十二指腸動脈
総肝動脈は腹腔動脈から右方へ向かい、十二指腸上部の上縁付近で胃十二指腸動脈と固有肝動脈に分かれる。胃十二指腸動脈は十二指腸球部の後方を下行し、右胃大網動脈と上膵十二指腸動脈(前・後)を出す。十二指腸球部後壁の潰瘍がこの動脈を侵すと大量出血の原因となることは臨床的にも重要である。
- ×c. 脾動脈 ―― 右胃動脈
脾動脈は膵上縁に沿って左へ蛇行しながら進み、膵枝(大膵動脈・膵尾動脈など)、短胃動脈、左胃大網動脈、後胃動脈を出して脾門に至る。右胃動脈は脾動脈ではなく肝動脈系から出る枝で、多くは固有肝動脈から、ときに総肝動脈や胃十二指腸動脈から分岐し、胃小弯に沿って左胃動脈と吻合する。
- ×d. 上腸間膜動脈 ―― 左結腸動脈
左結腸動脈は下腸間膜動脈の最初の枝で、下行結腸と横行結腸の左側を栄養する。上腸間膜動脈の枝は、下膵十二指腸動脈、空腸動脈・回腸動脈、中結腸動脈、右結腸動脈、回結腸動脈であり、「左」の名がつく結腸動脈は含まれない。
- ×e. 下腸間膜動脈 ―― 回結腸動脈
回結腸動脈は上腸間膜動脈の終枝にあたり、回腸末端・盲腸・虫垂(虫垂動脈を出す)・上行結腸起始部を栄養する。下腸間膜動脈は第3腰椎付近で大動脈から出て、左結腸動脈、S状結腸動脈、上直腸動脈を分岐し、下行結腸から直腸上部までを栄養する。
腹部大動脈の主な枝(上から順に)
・下横隔動脈(左右一対) ・腹腔動脈(Th12〜L1) ・中副腎動脈(一対) ・上腸間膜動脈(L1) ・腎動脈(L1〜L2、一対) ・精巣動脈/卵巣動脈(一対) ・下腸間膜動脈(L3) ・腰動脈(4対) ・正中仙骨動脈、総腸骨動脈(L4で左右に分岐)
腹腔動脈の枝
・左胃動脈:胃小弯(左側)、食道枝 ・脾動脈:膵枝、短胃動脈、左胃大網動脈、後胃動脈 → 脾臓 ・総肝動脈: → 胃十二指腸動脈:右胃大網動脈、上膵十二指腸動脈 → 固有肝動脈:右胃動脈(多くはここから)、右肝動脈(胆嚢動脈を出す)、左肝動脈
上腸間膜動脈の枝
下膵十二指腸動脈、空腸動脈・回腸動脈、中結腸動脈、右結腸動脈、回結腸動脈(虫垂動脈)
下腸間膜動脈の枝
左結腸動脈、S状結腸動脈、上直腸動脈
吻合と臨床的意義
・胃の周囲では、小弯側で左右の胃動脈、大弯側で左右の胃大網動脈が吻合してアーケードをつくる。 ・膵頭部では上膵十二指腸動脈(腹腔動脈系)と下膵十二指腸動脈(上腸間膜動脈系)が吻合する。 ・結腸では各結腸動脈がつながって辺縁動脈(Drummondの辺縁動脈)を形成する。上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の支配の境界である脾弯曲部(Griffiths点)は吻合が乏しいことがあり、虚血性大腸炎の好発部位となる。 ・変異として、右肝動脈が上腸間膜動脈から出る例(置換右肝動脈)や、左肝動脈が左胃動脈から出る例がある。手術や血管内治療ではこうした破格の把握が重要である。
POINT
・腹腔動脈の3枝:左胃動脈・脾動脈・総肝動脈。 ・総肝動脈 → 胃十二指腸動脈+固有肝動脈。 ・右胃動脈は肝動脈系(主に固有肝動脈)、左胃大網動脈・短胃動脈は脾動脈から出る。 ・上腸間膜動脈:中結腸・右結腸・回結腸動脈。 ・下腸間膜動脈:左結腸・S状結腸・上直腸動脈。 ・下横隔動脈は通常、腹部大動脈から直接出る。
