StudyMed医師国家試験

心拍出量を動かす4つのレバー―「抵抗が下がると拍出が増える」の理屈

第101回医師国家試験 B問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第33問

1分あたりの心拍出量が増加するのはどれか。

  1. a.心拍数減少
  2. b.循環血液量減少
  3. c.心筋収縮性低下
  4. d.心筋拡張性低下
  5. e.末梢血管抵抗低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心拍出量を決める因子と、それぞれが変化したときに心拍出量が増えるか減るかを問う基本問題だ。出発点は「心拍出量=一回拍出量×心拍数」という式。そして一回拍出量を決める3つの因子を押さえれば、迷わず解けるよ。
医学生医学生
一回拍出量を決めるのは、前負荷、後負荷、心筋収縮性の3つでしたよね。生理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。心拍数を加えた4つのレバーで心拍出量は調整されている。まず前負荷は、収縮が始まる直前に心筋がどれだけ引き伸ばされているかで、拡張末期容積で近似される。収縮性は心筋そのものの力、後負荷は心室が血液を押し出すときに打ち勝つべき抵抗だ。
医学生医学生
まず心拍数ですが、心拍数が減ると拡張期が長くなって血液がたくさん入るので、一回拍出量が増えて相殺されませんか。
ドクタードクター
いい疑問だね。確かに充満は増えて一回拍出量はある程度増える。でも、それだけでは心拍数の減少を補いきれないことが多い。高度の房室ブロックで失神や心不全が起こるのは、まさに心拍出量が落ちるからなんだ。だから心拍数減少は心拍出量を減らす方向と考えよう。
医学生医学生
循環血液量が減ると静脈還流が減るので、前負荷が下がりますね。
ドクタードクター
そう。Frank-Starlingの法則では、生理的範囲なら心筋は引き伸ばされるほど強く収縮する。前負荷が減れば一回拍出量が減り、心拍出量も減る。出血や脱水による循環血液量減少性ショックが典型で、代償的に頻脈になっても心拍出量を十分には保てない。
医学生医学生
心筋収縮性の低下は分かりやすいです。病理実習で心筋梗塞の標本を見ましたが、ああいう壊死した心筋では力が出ないですよね。
ドクタードクター
その通り。心筋梗塞、拡張型心筋症、心筋炎などで収縮性が落ちると、同じ前負荷・後負荷でも一回拍出量が減る。Frank-Starling曲線でいえば、曲線全体が下にずれるイメージだ。では、心筋拡張性の低下はどうかな。
医学生医学生
拡張しにくいということは……収縮とは関係ないので、心拍出量は変わらないと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。拡張性、つまりコンプライアンスが下がると、心室が拡張期に十分広がれず、入ってくる血液が減る。結果として前負荷が小さくなり、一回拍出量も心拍出量も減るんだ。肥大型心筋症や高血圧性心肥大、拘束型心筋症、収縮性心膜炎などがこれにあたり、駆出率が保たれた心不全、いわゆるHFpEFの主な機序でもある。
医学生医学生
なるほど、拡張障害も前負荷を介して心拍出量を下げるんですね。そうすると残るのは末梢血管抵抗の低下ですか。
ドクタードクター
正解。末梢血管抵抗は左室にとっての後負荷だ。抵抗が下がれば少ない力で血液を送り出せるので、一回拍出量が増え、心拍出量は増加する。5つのうち心拍出量を増やす方向に働くのはこれだけだね。
医学生医学生
平均血圧=心拍出量×末梢血管抵抗という式もありましたよね。抵抗が下がると血圧も下がる気がして、混乱しそうです。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。その式はオームの法則と同じ形で、抵抗が下がると血圧は下がりやすいけれど、それとは別に心臓から見ると押し出しやすくなるから拍出量は増える。実際、敗血症性ショックの初期のwarm shockや、甲状腺機能亢進症、貧血、動静脈シャント、妊娠などでは末梢血管抵抗が下がって心拍出量が増える高拍出状態になるんだ。
医学生医学生
救急の実習で、敗血症の患者さんの手足が温かかったのを覚えています。あれは血管が開いて拍出量が増えていたからなんですね。
ドクタードクター
その通り。そしてこの原理は治療にも生きている。心不全では利尿薬で前負荷を、血管拡張薬で後負荷を調整し、ドブタミンなどの強心薬で収縮性を補う。4つのレバーそれぞれに働きかける薬を使い分けるわけだ。ただし、著しい頻脈では拡張期が短くなって充満が足りず、かえって心拍出量が落ちることも忘れないでおこう。
医学生医学生
心拍出量の問題は、選択肢を前負荷・収縮性・後負荷・心拍数のどれに当たるか分類してから考えればいいんですね。

まとめ

1分あたりの心拍出量は「一回拍出量×心拍数」で表され、一回拍出量は前負荷・心筋収縮性・後負荷の3因子で決まります。心拍数の増加(生理的範囲)、前負荷の増加、収縮性の増強、後負荷の低下が心拍出量を増やす方向に働き、末梢血管抵抗は後負荷に相当するため、その低下で心拍出量は増加します。心拍数減少、循環血液量減少(前負荷低下)、収縮性低下はいずれも心拍出量を減らし、拡張性低下も心室充満の減少を介して前負荷を下げるため心拍出量を減らします。敗血症初期や甲状腺機能亢進症、貧血などの高拍出状態や、心不全で利尿薬・血管拡張薬・強心薬を使い分ける考え方は、すべてこの4因子の理解に基づいています。選択肢をどの因子に当たるかに分類して考える習慣は、循環動態を扱う臨床判断の基本となります。

解答・解説

正解はeです

本問は、心拍出量(cardiac output: CO)を決める因子と、それぞれの変化が心拍出量に及ぼす影響を問う基本問題である。

心拍出量の決定因子

1分あたりの心拍出量は「一回拍出量×心拍数」で表される。一回拍出量は次の3つの因子で規定される。 ・前負荷:心室が収縮を始める直前に心筋が引き伸ばされている程度で、拡張末期容積(または拡張末期圧)で近似される。静脈還流量・循環血液量が多いほど大きい。Frank-Starlingの法則により、生理的範囲では前負荷が大きいほど一回拍出量は増える。 ・心筋収縮性:前負荷・後負荷と無関係な、心筋そのものの収縮する力。交感神経刺激やカテコラミンで高まり、心筋梗塞や心筋症で低下する。 ・後負荷:心室が血液を駆出する際に打ち勝たなければならない抵抗で、末梢血管抵抗や大動脈圧に相当する。後負荷が大きいほど一回拍出量は減る。 したがって心拍出量を増やす方向に働くのは、心拍数の増加(生理的範囲内)、前負荷の増加、心筋収縮性の増強、後負荷の低下である。5つの選択肢のうち、この向きに当てはまるのは末梢血管抵抗(後負荷)の低下のみである。

選択肢考察

  1. ×a.  心拍数減少

    心拍出量=一回拍出量×心拍数であるため、一回拍出量が変わらなければ心拍数が減ると1分あたりの心拍出量は減少する。実際には心拍数が下がると拡張期が長くなり心室充満が増えて一回拍出量がある程度増えるが、それだけでは補いきれず、高度の徐脈(房室ブロックなど)では心拍出量が低下して失神や心不全を来しうる。

  2. ×b.  循環血液量減少

    循環血液量が減ると静脈還流量が減り、心室の拡張末期容積(前負荷)が小さくなる。Frank-Starlingの法則に従って一回拍出量が減るため、心拍出量は減少する。出血や脱水による循環血液量減少性ショックがこの典型である(代償性に頻脈となるが、心拍出量を十分には保てない)。

  3. ×c.  心筋収縮性低下

    心筋収縮性が低下すると、同じ前負荷・後負荷であっても一回拍出量が減るため、心拍出量は減少する。心筋梗塞、拡張型心筋症、心筋炎などによる収縮不全がこれにあたる。Frank-Starling曲線でいえば、曲線全体が下方へ移動した状態である。

  4. ×d.  心筋拡張性低下

    心筋の拡張性(コンプライアンス)が低下すると、心室が拡張期に十分広がれず、流入する血液量が減って拡張末期容積(前負荷)が小さくなる。そのため一回拍出量が減り、心拍出量は減少する。肥大型心筋症、高血圧性心肥大、拘束型心筋症、収縮性心膜炎などでみられ、左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の主な機序でもある。

  5. ○e.  末梢血管抵抗低下

    末梢血管抵抗は左室にとっての後負荷である。抵抗が下がると心室は少ない力で血液を送り出せるようになり、一回拍出量が増えるため、心拍出量は増加する。敗血症性ショックの初期(warm shock)、甲状腺機能亢進症、貧血、動静脈シャント、妊娠などで末梢血管抵抗が下がり、心拍出量が増える高拍出状態となるのはこの例である。心不全治療で血管拡張薬を用いて後負荷を軽減し、心拍出量を改善させるのも同じ原理による。

心拍出量と関連する式

・心拍出量(L/分)=一回拍出量(mL)×心拍数(/分)÷1000。安静時の成人でおよそ4〜8L/分。 ・心係数=心拍出量÷体表面積。正常はおよそ2.5〜4.0L/分/m2で、2.2L/分/m2未満は低心拍出の目安(Forrester分類の境界)。 ・平均血圧=心拍出量×末梢血管抵抗。オームの法則(電圧=電流×抵抗)と同じ形である。

4因子のまとめ

・心拍数:増加で心拍出量↑(ただし著しい頻脈では拡張期が短くなり充満が不十分となって逆に↓) ・前負荷:増加で↑(Frank-Starlingの法則。過度の拡張では頭打ちとなる) ・心筋収縮性:増強で↑ ・後負荷:増加で↓、低下で↑

Frank-Starlingの法則

心筋は、拡張期に引き伸ばされるほど(ある範囲内で)強く収縮する性質をもつ。これにより、静脈還流が増えれば自動的に拍出量が増え、右心と左心の拍出量が釣り合うように保たれる。

臨床との関連

心不全治療では、利尿薬で前負荷を、血管拡張薬で後負荷を調整し、強心薬(ドブタミンなど)で収縮性を補うというように、4因子それぞれに働きかける薬剤が使い分けられる。

POINT

・心拍出量=一回拍出量×心拍数。 ・一回拍出量は前負荷・心筋収縮性・後負荷で決まる。 ・心拍数↑、前負荷↑、収縮性↑、後負荷↓で心拍出量は増える。 ・末梢血管抵抗=後負荷。低下すれば心拍出量は増加する。 ・拡張性(コンプライアンス)低下は前負荷の減少を介して心拍出量を減らす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。