血液の流れに沿って覚える心内圧―「左室拡張末期圧20」はなぜ異常なのか
第101回医師国家試験 B問題 第32問
国試問題にチャレンジ
成人における異常値はどれか。
- a.中心静脈圧 ―― 6mmHg
- b.右室収縮期圧 ―― 20mmHg
- c.肺動脈拡張期圧 ―― 10mmHg
- d.左室拡張末期圧 ―― 20mmHg
- e.平均肺動脈楔入圧 ―― 8mmHg
対話形式の解説
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医学生まとめ
心内圧の正常値は、血液の流れる順に沿って整理すると理解しやすくなります。右房圧(≒中心静脈圧)は一桁台、右室収縮期圧は肺動脈収縮期圧とほぼ等しくおよそ15〜30mmHgです。弁が開いている時相では隣り合う部屋の圧が等しくなるため、肺血管抵抗が正常なら肺動脈拡張期圧≒肺動脈楔入圧≒左房圧≒左室拡張末期圧となり、いずれも正常はおおむね12mmHg以下です。したがって左室拡張末期圧20mmHgは異常高値であり、心不全や左室肥大などで上昇して肺うっ血の原因となります。この関係は、Swan-Ganzカテーテルによる血行動態評価やForrester分類(楔入圧18mmHgが境界)を理解する土台になります。
解答・解説
正解はdです
本問は、心臓カテーテル検査やSwan-Ganzカテーテル(肺動脈カテーテル)で測定される心内圧・血管内圧の正常値を問う知識問題である。
考え方
心内圧の正常値は、血液の流れる順(右房→右室→肺動脈→肺毛細血管→左房→左室→大動脈)に沿って整理すると覚えやすい。 ・右心系(静脈側)の圧は低く、右房圧(≒中心静脈圧)は一桁台である。 ・右室は肺動脈に血液を送り出すため、収縮期圧は肺動脈収縮期圧とほぼ等しく、およそ15〜30mmHgである。 ・肺動脈拡張期圧、肺動脈楔入圧、左房圧、左室拡張末期圧は、弁が開いて血液がつながっている時相では互いにほぼ等しい値となり、いずれも正常ではおおむね12mmHg以下(10mmHg前後)に収まる。 この「肺動脈拡張期圧≒肺動脈楔入圧≒左房圧≒左室拡張末期圧」という関係を押さえれば、左室拡張末期圧20mmHgは明らかに高値であり、異常値と判断できる。
選択肢考察
- ×a. 中心静脈圧 ―― 6mmHg
中心静脈圧(central venous pressure: CVP)は上大静脈・右房付近で測る圧で、右房圧とほぼ等しい。正常値はおよそ2〜8mmHg(水柱に換算すると約5〜10cmH2O)であり、6mmHgは正常範囲内である。CVPは循環血液量や右心機能の指標として用いられ、脱水・出血では低下し、右心不全・輸液過剰・心タンポナーデなどで上昇する。
- ×b. 右室収縮期圧 ―― 20mmHg
収縮期には肺動脈弁が開いて右室と肺動脈が一続きとなるため、右室収縮期圧は肺動脈収縮期圧とほぼ一致する。正常値はおよそ15〜30mmHgであり、20mmHgは正常範囲内である。肺高血圧症や肺動脈弁狭窄症では右室収縮期圧が上昇する。
- ×c. 肺動脈拡張期圧 ―― 10mmHg
肺動脈拡張期圧の正常値はおよそ4〜12mmHg(8〜10mmHg前後)であり、10mmHgは正常範囲内である。肺血管抵抗が正常であれば、肺動脈拡張期圧は肺動脈楔入圧(≒左房圧)とほぼ同じか、わずかに高い程度となる。両者の差が大きく開く場合は、肺血管抵抗の上昇(肺高血圧症、肺塞栓症など)を考える。
- ○d. 左室拡張末期圧 ―― 20mmHg
左室拡張末期圧(left ventricular end-diastolic pressure: LVEDP)は、拡張期に僧帽弁が開いて左房と左室がつながっている状態の最後に測る圧であり、左房圧とほぼ等しい。正常値はおよそ12mmHg以下(平均8mmHg前後)である。20mmHgは明らかな高値であり、異常値である。LVEDPの上昇は、左室収縮不全・拡張不全(心不全)、左室肥大、大動脈弁逆流、輸液過剰などでみられ、肺うっ血の原因となる。
- ×e. 平均肺動脈楔入圧 ―― 8mmHg
肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure: PCWP、肺毛細血管圧ともいう)は、Swan-Ganzカテーテル先端のバルーンを膨らませて肺動脈の枝を閉塞させた状態で測る圧で、その先の肺静脈・左房の圧を反映する。平均値の正常はおよそ2〜12mmHg(6〜12mmHgとされることも多い)であり、8mmHgは正常範囲内である。PCWPが18mmHgを超えると肺うっ血が生じやすく、Forrester分類でも18mmHgが区分の境界として用いられる。
主な心内圧・血管内圧の正常値(成人、おおよその目安)
・右房圧(≒中心静脈圧):平均2〜8mmHg ・右室圧:収縮期15〜30mmHg/拡張末期2〜8mmHg ・肺動脈圧:収縮期15〜30mmHg/拡張期4〜12mmHg/平均10〜20mmHg ・肺動脈楔入圧(≒左房圧):平均2〜12mmHg ・左室圧:収縮期100〜140mmHg/拡張末期12mmHg以下 ・大動脈圧:収縮期100〜140mmHg/拡張期60〜90mmHg
圧どうしの関係
・収縮期:右室収縮期圧≒肺動脈収縮期圧、左室収縮期圧≒大動脈収縮期圧(半月弁が開いているため)。これらに差が生じる場合は肺動脈弁狭窄症・大動脈弁狭窄症を考える。 ・拡張期:右房圧≒右室拡張末期圧、左房圧≒左室拡張末期圧(房室弁が開いているため)。これらに差が生じる場合は三尖弁狭窄症・僧帽弁狭窄症を考える。 ・肺血管抵抗が正常なら、肺動脈拡張期圧≒肺動脈楔入圧≒左房圧≒左室拡張末期圧となる。このため、左室拡張末期圧を直接測らなくても、Swan-Ganzカテーテルで得られる楔入圧から左心系の充満圧を推定できる。
臨床での利用
Forrester分類は、肺動脈楔入圧18mmHgと心係数2.2L/分/m2を境界として急性心不全の血行動態を4群に分類するもので、楔入圧は肺うっ血の有無を判断する指標となる。なお、肺高血圧症は安静時の平均肺動脈圧が20mmHgを超えるもの(2022年のESC/ERSガイドラインで従来の25mmHg以上から改訂)と定義される。
POINT
・右房圧(中心静脈圧)は一桁台、右室収縮期圧は肺動脈収縮期圧と等しく15〜30mmHg。 ・肺動脈拡張期圧≒肺動脈楔入圧≒左房圧≒左室拡張末期圧で、いずれも正常は12mmHg以下。 ・左室拡張末期圧20mmHgは異常高値であり、心不全などで上昇する。 ・肺動脈楔入圧18mmHg超は肺うっ血の目安(Forrester分類の境界)。
