「40」は分圧か飽和度か―静脈血の数字の取り違えを見抜く
第101回医師国家試験 B問題 第31問
国試問題にチャレンジ
健常者安静時の値として異常なのはどれか。
- a.動脈血pH ―― 7.40
- b.動脈血酸素分圧 ―― 90Torr
- c.中心静脈血酸素飽和度 ―― 40%
- d.動脈血重炭酸イオン濃度 ―― 24mEq/L
- e.肺胞気-動脈血酸素分圧較差 ―― 10Torr
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
健常者安静時の動脈血は、pH 7.40前後、PaCO2 40Torr前後、HCO3- 24mEq/L前後、PaO2 80〜100Torr(加齢で低下)、A-aDO2はおおむね10Torr以下が目安です。一方、静脈血(混合静脈血・中心静脈血)は酸素分圧が約40Torr、酸素飽和度が約70〜75%であり、酸素飽和度40%は分圧と取り違えた異常値です。安静時に組織が取り込む酸素は動脈血で運ばれる量の約25%にすぎず、静脈血の酸素飽和度は心拍出量低下・貧血・低酸素血症による供給低下や、発熱などによる消費増大で低下します。A-aDO2の開大は拡散障害・換気血流比不均等・シャントを示し、肺胞低換気のみでは開大しない点も低酸素血症の鑑別に重要です。酸素解離曲線を軸に「分圧」と「飽和度」を対応づけて理解することが、血液ガスを正しく読む基礎となります。
解答・解説
正解はcです
本問は、動脈血ガス分析と酸素化に関する基本的な基準値を正しく記憶しているかを問う問題である。健常者の安静時(室内気吸入下)のおおよその値は次のとおりである。 ・動脈血pH:7.40(7.35〜7.45) ・動脈血酸素分圧(PaO2):80〜100Torr(加齢で低下) ・動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2):40Torr(35〜45Torr) ・動脈血重炭酸イオン濃度(HCO3-):24mEq/L(22〜26mEq/L) ・肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2):おおむね10Torr以下(加齢で増大) ・動脈血酸素飽和度(SaO2):96〜98%以上 ・混合静脈血・中心静脈血の酸素飽和度:約70〜75%、酸素分圧は約40Torr 問題を解くうえで注意すべきなのは、「静脈血の酸素分圧は約40Torr」と「静脈血の酸素飽和度は約75%」という2つの数値を取り違えないことである。酸素解離曲線上、PO2 40Torrに対応するヘモグロビン酸素飽和度は約75%である。選択肢の「中心静脈血酸素飽和度 40%」は、分圧の値を飽和度と混同したものであり、健常者の安静時としては明らかに低すぎる。飽和度40%はPO2でおよそ20Torr強に相当し、組織への酸素供給が需要に追いつかない重度の病的状態を意味する。
選択肢考察
- ×a. 動脈血pH ―― 7.40
動脈血pHは緩衝系(主に重炭酸緩衝系)と肺・腎の調節により7.35〜7.45の狭い範囲に保たれ、7.40はその中央値である。7.35未満をアシデミア、7.45を超えるものをアルカレミアとよぶ。正常値であり、異常ではない。
- ×b. 動脈血酸素分圧 ―― 90Torr
PaO2の基準値は若年者で約100Torrで、加齢とともに換気血流比の不均等が増すため徐々に低下する。目安として80〜100Torrが正常範囲であり、90Torrは健常者として問題のない値である。一般に60Torr以下を呼吸不全と定義する。
- ○c. 中心静脈血酸素飽和度 ―― 40%
中心静脈血酸素飽和度(ScvO2、上大静脈〜右房付近の血液の値)は健常者では約70%以上(おおむね70〜80%)であり、肺動脈で測る混合静脈血酸素飽和度(SvO2)も約75%である。これは動脈血が運んだ酸素のうち、安静時に組織が取り込むのは約25%にすぎないことを反映している。40%という値は酸素供給の低下(心拍出量低下、高度の貧血、低酸素血症)や酸素消費の著しい増大がある場合にみられる異常値である。静脈血の酸素分圧が約40Torrであることと混同しないことが重要で、本選択肢が健常者の値として異常なものである。
- ×d. 動脈血重炭酸イオン濃度 ―― 24mEq/L
HCO3-の基準値は22〜26mEq/Lで、24mEq/Lは中央値である。Henderson-Hasselbalchの式 pH=6.1+log(HCO3-/(0.03×PaCO2))に24mEq/LとPaCO2 40Torrを代入すると、24/1.2=20、log20≒1.3でpH≒7.4となり、正常の酸塩基平衡と整合する。異常ではない。
- ×e. 肺胞気-動脈血酸素分圧較差 ―― 10Torr
A-aDO2は肺胞気酸素分圧(PAO2)とPaO2の差で、室内気吸入下では PAO2≒150-PaCO2/0.8 として求める(150は吸入気酸素分圧、0.8は呼吸商)。例えばPaCO2 40Torrなら PAO2≒100Torr となり、PaO2 90Torrであれば A-aDO2≒10Torr である。健常若年者ではおおむね10Torr以下で、加齢とともに増大する。したがって10Torrは正常範囲であり、異常ではない。A-aDO2の開大は拡散障害、換気血流比不均等、シャントなどのガス交換障害を示唆し、一方で肺胞低換気による低酸素血症ではA-aDO2は開大しない。
酸素解離曲線と代表的な対応値
・PO2 約100Torr → SO2 約97〜98%(動脈血) ・PO2 60Torr → SO2 約90%(呼吸不全の基準付近。これより下で飽和度が急低下する) ・PO2 40Torr → SO2 約75%(混合静脈血) ・PO2 約27Torr → SO2 50%(P50) 曲線はS字状で、アシドーシス、高CO2、体温上昇、2,3-BPG増加で右方移動(酸素を放しやすくなる)する。
静脈血酸素飽和度の意味
酸素供給量(DO2)=心拍出量×動脈血酸素含量、動脈血酸素含量≒1.34×Hb×SaO2+0.003×PaO2 である。SvO2・ScvO2は、酸素の供給と消費のバランスを反映する指標であり、次の場合に低下する。 ・供給の低下:心拍出量低下(心不全、ショック)、貧血、低酸素血症 ・消費の増大:発熱、シバリング、痙攣、激しい運動 逆に敗血症などで組織の酸素利用が障害されると高値になることもある。ScvO2は中心静脈カテーテルで測定でき、敗血症性ショックなどの循環管理でモニタリングに用いられてきた。
動脈血ガスの基準値のまとめ
pH 7.40±0.05、PaCO2 40±5Torr、HCO3- 24±2mEq/L、PaO2 80〜100Torr、BE 0±2mEq/L、A-aDO2 10Torr以下(高齢者では20Torr前後まで許容されることがある)。
POINT
・静脈血(混合静脈血・中心静脈血):PO2 約40Torr、SO2 約70〜75%。分圧と飽和度を取り違えない。 ・動脈血:pH 7.35〜7.45、PaCO2 35〜45Torr、HCO3- 22〜26mEq/L、PaO2 80〜100Torr(加齢で低下)。 ・A-aDO2=(150-PaCO2/0.8)-PaO2。正常は約10Torr以下で、開大はガス交換障害を示す。肺胞低換気のみでは開大しない。
