止まらないけいれんと破裂を待つ動脈瘤―くも膜下出血の重積に最初に打つ一手
第101回医師国家試験 B問題 第117問
国試問題にチャレンジ
激しい頭痛で入院したくも膜下出血の患者が,入院直後に右上肢から全身へとけいれんを起こし重積状態となった。 静脈内にまず投与するのはどれか。
- a.ドパミン
- b.ヘパリン
- c.アトロピン
- d.ジアゼパム
- e.ペンタゾシン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
くも膜下出血ではくも膜下腔の血液が大脳皮質を刺激してけいれんを起こすことがあり、けいれんに伴う血圧・頭蓋内圧の上昇は脳動脈瘤の再破裂を誘発しうるため、速やかな発作の停止が最優先となります。けいれん重積状態(現在は発作が5分以上続けば治療開始)の第一選択はベンゾジアゼピン系薬の静注で、ジアゼパムはGABA-A受容体の作用を強めて数分以内に効きますが、呼吸抑制に注意が必要です。ジアゼパムは効果が短く再発しやすいため、ホスフェニトイン、レベチラセタム、フェノバルビタールなどを続けて投与し、ロラゼパムやミダゾラムも第一選択として用いられます。昇圧薬や抗凝固薬は動脈瘤未処置の急性期には再破裂・再出血を招きうるため用いず、鎮痛薬や抗コリン薬には抗けいれん作用がありません。けいれん重積の段階的治療とくも膜下出血の急性期管理をセットで理解しておくことは、救急・脳卒中診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
激しい頭痛で入院したくも膜下出血(SAH)の患者が、入院直後に右上肢から始まり全身へ広がるけいれんを起こし、重積状態となっている。
病態の考え方
くも膜下出血では、くも膜下腔に流れ出た血液が大脳皮質を表面から刺激するため、けいれん発作を起こすことがある。右上肢から始まって全身へ広がる経過は、左大脳半球の運動野付近から始まった焦点発作が両側性強直間代発作へ進展したものと考えられる。 けいれん重積状態とは、発作が止まらずに続く、あるいは意識が回復しないうちに発作を繰り返す状態である。現在は、けいれん発作が5分以上続けば重積状態とみなして治療を開始すべきとされる(従来の定義は30分以上)。重積状態が続くと、低酸素血症、高体温、アシドーシスなどを介して脳に不可逆的な障害を残すおそれがある。さらにくも膜下出血では、けいれんに伴う血圧上昇や頭蓋内圧上昇が脳動脈瘤の再破裂を誘発しうる。再破裂は死亡率が高く、発症早期に起こりやすいため、けいれんを速やかに止めることが最優先となる。
設問の考え方
気道確保・酸素投与・静脈路確保と並行して、けいれん重積状態に対する第一選択薬を静注する。第一選択は即効性のあるベンゾジアゼピン系薬であり、選択肢中ではジアゼパムが該当する。
選択肢考察
- ×a. ドパミン
ドパミンはカテコラミン系の昇圧薬・強心薬で、ショックや心不全の循環補助に用いられる。けいれんを止める作用はない。また、脳動脈瘤の処置前のくも膜下出血急性期には、再破裂を防ぐため血圧を下げて管理する(収縮期160mmHg未満を目安とすることが多い)ので、昇圧は再破裂の危険を高め逆効果である。なお、動脈瘤の処置後に起こる脳血管攣縮の治療では昇圧を行うことがあるが、本問の場面とは異なる。
- ×b. ヘパリン
ヘパリンは抗凝固薬で、深部静脈血栓症や肺塞栓症、心原性脳塞栓症の再発予防などに用いられる。けいれんを止める作用はなく、出血を助長するため、動脈瘤が未処置のくも膜下出血急性期に投与すると再出血を招きうる。本症例では禁忌である。
- ×c. アトロピン
アトロピンは抗コリン薬で、症候性徐脈の治療、麻酔前の気道分泌抑制、有機リン中毒の治療などに用いられる。けいれんを止める作用はない。
- ○d. ジアゼパム
ジアゼパムはベンゾジアゼピン系薬で、GABA-A受容体の働きを強めて神経細胞の過剰な興奮を抑える。静注すると数分以内に効果が現れるため、けいれん重積状態の第一選択薬として用いられる(成人では5〜10mgをゆっくり静注するのが一般的)。副作用として呼吸抑制や血圧低下があるため、呼吸・循環を監視し、必要に応じて補助換気を行う。ジアゼパムは脳内から速やかに再分布して効果が短時間で切れ、発作が再発しやすいため、続けてホスフェニトイン(またはフェニトイン)、レベチラセタム、フェノバルビタールなどの作用時間の長い抗てんかん薬を静注して再発を防ぐ。なお現在は、ロラゼパム静注やミダゾラムもベンゾジアゼピン系の第一選択薬として用いられる。
- ×e. ペンタゾシン
ペンタゾシンはオピオイド受容体に作用する非麻薬性の鎮痛薬で、くも膜下出血の激しい頭痛に対する鎮痛目的で用いられることはある。しかし抗けいれん作用はなく、けいれん重積状態を止めることはできない。むしろ呼吸抑制を生じうるため、けいれん中の患者への使用は適切でない。
けいれん重積状態の治療の流れ(成人)
1. 初期対応:気道確保、酸素投与、バイタルサインのモニタリング、静脈路確保。血糖を測定し、低血糖があればブドウ糖を投与する(アルコール多飲や低栄養が疑われる場合はビタミンB1を先に投与する)。 2. 第一段階(発作開始後おおむね5分以降):ベンゾジアゼピン系薬の静注(ジアゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム)。静脈路が確保できない場合は、ミダゾラムの口腔内・筋注やジアゼパムの注腸などを用いる。 3. 第二段階(ベンゾジアゼピン系で止まらない、または再発予防):ホスフェニトイン、フェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなどの静注。 4. 難治性重積状態:集中治療下で、ミダゾラム、プロポフォール、チオペンタールなどによる持続静注と気管挿管・人工呼吸管理を行い、脳波で発作の抑制を確認する。
くも膜下出血の概要
・原因の大部分は脳動脈瘤の破裂である。突然の「人生最悪」と表現されるような激しい頭痛、嘔吐、意識障害、項部硬直が典型的である。 ・診断は頭部CTでくも膜下腔の高吸収域(脳底槽のペンタゴン状の高吸収域など)を確認する。CTで明らかでない場合は腰椎穿刺による血性髄液・キサントクロミーの確認を検討する。 ・急性期の三大合併症:再出血(発症早期、特に24時間以内に多い)、脳血管攣縮(発症4〜14日頃)、水頭症。 ・再出血予防:鎮痛・鎮静、降圧、けいれんの抑制、できるだけ早期の開頭クリッピング術またはコイル塞栓術。
POINT
・けいれん重積状態の第一選択はベンゾジアゼピン系薬の静注(ジアゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム)。 ・ジアゼパムは効果が短いため、ホスフェニトイン・レベチラセタム・フェノバルビタールなどを追加して再発を防ぐ。 ・ベンゾジアゼピン系薬の副作用として呼吸抑制に注意する。 ・くも膜下出血ではけいれん・高血圧・疼痛が再破裂の誘因となるため、けいれんの即時抑制、降圧、鎮痛が重要。抗凝固薬や昇圧薬は急性期に用いない。
