StudyMed医師国家試験

膨らむのは拡張期、しぼむのは収縮直前―IABPのタイミングで読み解く血圧の変化

第101回医師国家試験 B問題 第108問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第108問

IABPで誤っているのはどれか。

  1. a.心拍出量の増加
  2. b.冠血流量の増加
  3. c.収縮期血圧の上昇
  4. d.拡張期血圧の上昇
  5. e.左室後負荷の減少

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はIABP、つまり大動脈内バルーンパンピングが心臓と血圧にどう作用するかを問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、正しい作用を4つきちんと説明できるかがカギになる。着眼点は、バルーンを心周期のどのタイミングで膨らませ、どのタイミングでしぼませるか。そこから効果はすべて導けるんだ。
医学生医学生
循環器内科の臨床実習でCCUを回ったときに見ました。足の付け根から管が入っていて、機械がずっとシュコシュコ鳴っていました。
ドクタードクター
そう、大腿動脈から入れたバルーンカテーテルを、左鎖骨下動脈分岐部のすぐ末梢の胸部下行大動脈に留置する。中のガスはヘリウムで、心電図のR波や動脈圧波形に同期させて膨張と収縮を繰り返すんだ。では、膨らませるのはいつだと思う?
医学生医学生
心臓を助けるなら、心臓が血液を押し出す収縮期に一緒に膨らませるのでしょうか。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。収縮期に大動脈内でバルーンが膨らんだら、左室は膨らんだ風船に向かって血液を押し出すことになって、かえって負担が増えてしまう。正解は逆で、大動脈弁が閉じた直後、動脈圧波形でいう重複切痕(dicrotic notch)のタイミングで膨らませる。拡張期に膨張させるわけだ。
医学生医学生
拡張期に膨らむと、大動脈の血液が心臓側に押し戻されるんですね。
ドクタードクター
その通り。大動脈基部の拡張期圧が上がる。これをdiastolic augmentationと呼ぶ。ここで生理学の講義を思い出してほしい。冠動脈、特に左冠動脈はいつ流れる?
医学生医学生
収縮期には心筋が冠動脈を圧迫するので、主に拡張期に灌流されるんでした。だから拡張期圧が上がると冠血流量が増えるんですね。
ドクタードクター
完璧だ。冠灌流圧は大動脈拡張期圧と左室拡張末期圧の差だから、拡張期圧が上がれば冠血流が増え、心筋への酸素供給が増える。これで拡張期血圧の上昇と冠血流量の増加、2つの選択肢は正しい作用だと確認できた。では、次のもう一つの柱。バルーンをしぼませるのはいつ?
医学生医学生
左室が血液を出す直前、でしょうか。
ドクタードクター
正解。駆出の直前に急にしぼませると、大動脈内に一時的に容積の余裕ができて、大動脈の拡張末期圧が下がる。左室は低い抵抗に向かって血液を打ち出せばよくなる。これがsystolic unloadingで、左室後負荷の減少そのものだ。
医学生医学生
後負荷が減れば楽に駆出できるので、1回拍出量も増えて心拍出量の増加につながる、ということですね。
ドクタードクター
そう。さらに冠血流が増えて虚血心筋の収縮力が改善する効果も加わる。ただし増える量は毎分0.5〜1L程度と控えめで、強力なポンプというより「圧の補助」と考えたほうがいい。ここまでで4つが正しい作用だとわかった。残る収縮期血圧の上昇はどうだろう。
医学生医学生
心拍出量が増えるなら、収縮期血圧も上がりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
直感的にはそう思うよね。でも、駆出直前にバルーンがしぼんで大動脈圧が下がった状態から駆出が始まるから、補助下の収縮期のピークは補助なしの拍動よりむしろ低くなる。動脈圧波形を見ると、拡張期に収縮期ピークを上回ることもある大きな山が現れて、その次の収縮期の山は低めになる。だから収縮期血圧の上昇が誤りで、これが答えだ。
医学生医学生
上がるのは拡張期圧で、収縮期圧は下がる。酸素供給を増やして、酸素需要を減らす装置なんですね。
ドクタードクター
まさにIABPの本質だ。冠血流増加で供給を増やし、後負荷減少で心筋酸素消費量を減らして、心筋の酸素需給バランスを両側から改善する。ここから発展知識も押さえよう。タイミングがずれるとどうなると思う?
医学生医学生
膨らむのが早すぎて大動脈弁が閉じる前だと、駆出の邪魔になりそうです。
ドクタードクター
その通りで、後負荷が増えてしまう。しぼむのが遅すぎて駆出が始まっても膨らんだままの場合も同じく後負荷が増え、心筋酸素消費量が増える。だから波形を見てタイミングを調整するのが大事なんだ。禁忌も理屈で覚えられる。中等度以上の大動脈弁閉鎖不全症では、拡張期に膨らませると逆流が増える。大動脈解離や大動脈瘤も、大動脈内で風船を動かすのだから危険だ。
医学生医学生
適応は心原性ショックや、心室中隔穿孔・乳頭筋断裂で手術までつなぐとき、と国試の問題集で見ました。
ドクタードクター
そう、ほかに薬物抵抗性の不安定狭心症、ハイリスクPCIや心臓手術の周術期、人工心肺からの離脱困難例などもある。ただし、急性心筋梗塞による心原性ショックへのルーチン使用は大規模試験で死亡率の改善が示されず、今は症例を選んで使う。補助が足りない重症例では、PCPS(V-A ECMO)やImpellaのような、より強力な補助循環が選ばれる。合併症としては下肢虚血、穿刺部出血、血小板減少、バルーン破裂によるガス塞栓などに注意して、留置中は足の色や脈を毎日確認しよう。

まとめ

IABPは胸部下行大動脈に留置したバルーンを心周期に同期させる補助循環で、拡張期(大動脈弁閉鎖直後)に膨張させて拡張期圧と冠血流量を上げ、収縮期直前に収縮させて左室後負荷を下げます。その結果、心筋への酸素供給が増え、心筋酸素消費量は減り、心拍出量も軽度増加しますが、補助下の収縮期血圧はむしろ低下するため「収縮期血圧の上昇」は誤りです。タイミングが早すぎる膨張や遅すぎる収縮は逆に後負荷を増やし、中等度以上の大動脈弁閉鎖不全症や大動脈解離・大動脈瘤は禁忌となります。補助効果は圧補助が主体で限定的なため、重症例ではPCPSやImpellaが検討されます。「いつ膨らませ、いつしぼませるか」から作用・禁忌・トラブルまで論理的に導ける点が、補助循環を理解するうえでの土台になります。

解答・解説

正解はcです

IABPとは

IABP(intra-aortic balloon pumping:大動脈内バルーンパンピング)は、大腿動脈などから挿入したバルーンカテーテルを胸部下行大動脈(左鎖骨下動脈分岐部のすぐ末梢)に留置し、心臓の拍動に同期させてバルーンを膨張・収縮させる補助循環法である。バルーンにはヘリウムガスが用いられ、心電図のR波や動脈圧波形をトリガーにしてタイミングを合わせる。

作用の二本柱

IABPの効果は、心周期のどこでバルーンを動かすかで理解できる。 1. 拡張期に膨張(diastolic augmentation): 大動脈弁が閉じた直後(動脈圧波形の重複切痕=dicrotic notch のタイミング)にバルーンを膨らませると、大動脈内の血液が押し戻されて大動脈基部の拡張期圧が上がる。冠動脈、特に左冠動脈は主に拡張期に灌流されるため、冠灌流圧が上昇して冠血流量が増え、心筋への酸素供給が増加する。 2. 収縮期直前に収縮(systolic unloading): 左室が血液を駆出する直前にバルーンを急にしぼませると、大動脈内の容積が一時的に空いて大動脈圧(拡張末期圧)が下がる。これにより左室が打ち出すときの抵抗(後負荷)が減り、心筋の酸素消費量が低下するとともに1回拍出量が増える。

血圧への影響

この結果、拡張期血圧は上昇し、補助下の収縮期血圧はむしろ低下する(補助なしの拍動より低いピークとなる)。したがって「収縮期血圧の上昇」がIABPの作用として誤りである。 「誤っているのはどれか」を問う問題であり、IABPの効果として正しい記述が4つ、誤った記述が1つ含まれている点に注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  心拍出量の増加

    IABPの作用として正しい記述である。収縮期直前のバルーン収縮で後負荷が減ると左室は血液を駆出しやすくなり、1回拍出量が増える。さらに冠血流の増加で虚血心筋の収縮力が改善することも加わり、心拍出量は増加する。ただし増加量はおおむね毎分0.5〜1L程度と限られており、補助効果には限界がある。そのため高度の心原性ショックでは、経皮的心肺補助(PCPS、V-A ECMO)や補助人工心臓(Impellaなど)が選択される。

  2. ×b.  冠血流量の増加

    IABPの作用として正しい記述である。左室心筋は収縮期に冠動脈が圧迫されるため、主に拡張期に灌流される。拡張期にバルーンを膨張させて大動脈基部の拡張期圧を高めると、冠灌流圧(大動脈拡張期圧と左室拡張末期圧の差)が上昇して冠血流量が増える。この効果が、急性心筋梗塞や不安定狭心症での虚血改善に役立つ。

  3. ○c.  収縮期血圧の上昇

    IABPの作用として誤っている記述であり、これが正解である。バルーンは左室が収縮して血液を駆出する直前にしぼむため、大動脈内の圧が下がった状態から駆出が始まる。後負荷が減少する結果、補助下の収縮期圧は補助なしの拍動よりも低くなる。IABPで上昇するのは拡張期圧であり、動脈圧波形では拡張期に収縮期ピークを上回ることもある高い山(拡張期オーグメンテーション圧)が出現する。

  4. ×d.  拡張期血圧の上昇

    IABPの作用として正しい記述である。大動脈弁閉鎖直後の拡張期にバルーンを膨張させることで、大動脈内の血液が中枢側と末梢側に押し出され、大動脈基部の拡張期圧が上昇する(diastolic augmentation)。これにより冠血流や脳血流などの臓器灌流が改善する。

  5. ×e.  左室後負荷の減少

    IABPの作用として正しい記述である。収縮期の直前にバルーンを急速に収縮させると、大動脈内に一時的な容積の余裕ができ、大動脈拡張末期圧が低下する(systolic unloading)。左室は低い抵抗に対して駆出すればよくなるため後負荷が減り、心筋酸素消費量が減少する。酸素供給の増加(冠血流増加)と酸素需要の減少(後負荷減少)の両面から、心筋の酸素需給バランスを改善するのがIABPの本質である。

IABPの主な適応

・急性心筋梗塞に伴う心原性ショック、機械的合併症(心室中隔穿孔、乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全)の手術までの循環維持 ・薬物治療に抵抗する不安定狭心症 ・ハイリスクの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や心臓手術の周術期補助 ・人工心肺からの離脱困難例 なお、急性心筋梗塞による心原性ショックに対するIABPのルーチン使用は、大規模臨床試験で死亡率改善効果が示されなかったため、現在は症例を選んで用いられる。

禁忌

・中等度以上の大動脈弁閉鎖不全症(拡張期の膨張で逆流が増える) ・大動脈解離、胸部・腹部大動脈瘤 ・高度の末梢動脈疾患や大動脈の高度な蛇行・石灰化(挿入困難、下肢虚血)

合併症

下肢虚血、穿刺部出血・血腫、血小板減少、バルーン破裂によるガス塞栓、感染、大動脈損傷など。

タイミング不良の影響

・膨張が早すぎる(大動脈弁閉鎖前): 左室駆出を妨げて後負荷が増大する。 ・収縮が遅すぎる(左室駆出開始後も膨らんだまま): 同様に後負荷が増え、心筋酸素消費量が増加する。

他の補助循環との比較

IABPは圧補助が主体で、心拍出量の補助効果は小さい。より強力な補助が必要な場合は、PCPS(V-A ECMO:遠心ポンプと人工肺による心肺補助)や、左室から直接血液をくみ出す経皮的補助人工心臓(Impella)、植込型補助人工心臓が用いられる。

POINT

・IABPは拡張期に膨張して拡張期圧と冠血流量を上げ、収縮期直前に収縮して後負荷を下げる。 ・結果として心拍出量は増え、心筋酸素消費量は減る。 ・収縮期血圧は上昇せず、むしろ低下する。 ・大動脈弁閉鎖不全症と大動脈解離は禁忌。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。