「全部正常」を見抜く1か月健診―母乳っ子に必要なのはビタミンKだけ
第100回医師国家試験 I問題 第38問
国試問題にチャレンジ
1か月の乳児。1か月健康診査で来院した。在胎37週,自然分娩で出生した。出生体重2,700g,身長48.0cm。日齢6にビタミンKを内服した。母乳栄養。排便回数1日5~7回。便は黄色が多いが緑色を呈することがある。便性は柔らかく粘液が混じることもあり,酸臭がする。哺乳時間は15分で,1日哺乳回数6~8回。母親は,大きな音にびっくりしたように両手を大きく拡げて足をすくめる動作が気になるという。来院時体重3,600g。肋骨弓下に肝を2cm触知する。 正しいのはどれか。
- a.母乳不足がある。
- b.肝機能検査を行う。
- c.脳波検査を行う。
- d.ビタミンKの内服を指導する。
- e.止痢薬の投与が必要である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
1か月健診では、体重増加、便の性状、原始反射、身体所見を一つずつ評価し、正常か異常かを判断します。1日約25〜30gの体重増加は哺乳が十分である証拠で、回数が多く柔らかい黄色〜緑色の酸臭のある便は母乳栄養児の生理的な便、大きな音で両手を広げる動作は生後3〜4か月頃に消えるMoro反射、肋骨弓下2cm程度の肝触知は乳児では生理的範囲です。新生児・乳児はビタミンKの蓄えや供給が少なく、特に母乳栄養児では生後2週〜2か月頃に頭蓋内出血を起こす乳児ビタミンK欠乏性出血症の危険があるため、1か月健診でもビタミンK2シロップを内服させます。現在は生後3か月まで週1回投与する方法も推奨されています。正常の幅を知って不要な検査や治療を避け、必要な予防を確実に行うことは、乳児健診の基本となる考え方です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・在胎37週(正期産)、自然分娩で生まれた。出生体重2,700g、身長48.0cmで、在胎週数に見合った体格である。 ・母乳栄養。日齢6にビタミンK(VK)を内服している。 ・排便は1日5〜7回。便は黄色が多く、ときに緑色になる。柔らかく、粘液が混じることもあり、酸っぱいにおいがする。 ・1回15分の哺乳を1日6〜8回。 ・大きな音に驚いたように両手を大きく広げ、足をすくめる動作がある。 ・体重は3,600gで、出生時から900g増えている。 ・肝を肋骨弓下に2cm触れる。
評価
一つずつ正常かどうかを確かめると、すべて正常範囲である。 ・体重: 生後約30日で900g増えており、1日あたり約30gの増加になる。生後1か月前後の標準的な増加量(1日25〜30g程度)を満たしており、哺乳量は足りている。 ・便: 回数が多く、柔らかく、黄色〜緑色で、粘液を含み、酸臭がする。これは母乳栄養児の典型的な便である。 ・音に驚く動作: Moro反射(原始反射の一つ)であり、正常な神経発達の表れである。 ・肝臓: 新生児・乳児では肝臓が体に比べて大きく、肋骨弓下に2cm程度触れるのは生理的な範囲である。 以上から、本児は順調に育っている正常な1か月児と判断できる。
設問へのアプローチ
正常児なので、異常を前提とした検査や治療(a、b、c、e)は不要である。1か月健診で必ず行う予防的な対応を考える。それが、母乳栄養児で特に重要なビタミンK欠乏性出血症の予防、すなわち1か月時のビタミンK2シロップの内服である。
選択肢考察
- ×a. 母乳不足がある。
誤り。出生時2,700gから1か月で3,600gになり、約900g(1日あたり約30g)増えている。これは標準的な体重増加であり、母乳は足りている。母乳不足を疑うのは、1日の体重増加が20g未満の場合や、尿の回数が少ない場合、哺乳に極端に時間がかかる場合、授乳後もすぐに泣いて欲しがる場合などである。本例の哺乳時間(15分)と回数(1日6〜8回)も適切である。
- ×b. 肝機能検査を行う。
誤り。新生児・乳児は体に比べて肝臓が大きく、肋骨弓下に2cm前後触れるのは正常である。黄疸や灰白色便(胆道閉鎖症を疑う所見)はなく、便は黄色である。肝臓の表面の不整や硬さの異常といった記載もない。肝機能検査を行う理由はない。
- ×c. 脳波検査を行う。
誤り。大きな音などの刺激で両腕を外に広げ、その後抱きつくように手足を曲げる動作はMoro反射である。Moro反射は正常な新生児にみられる原始反射で、生後3〜4か月頃に消える。けいれん発作ではないので脳波検査は不要である。反対に、新生児期にこの反射が出ない、または左右差がある場合(分娩麻痺、鎖骨骨折など)や、生後6か月を過ぎても残る場合は、中枢神経の異常を疑う。
- ○d. ビタミンKの内服を指導する。
正しい。新生児・乳児はビタミンKが不足しやすい。胎盤をほとんど通らないため蓄えが少なく、腸内細菌によるビタミンKの産生も少なく、母乳に含まれるビタミンKも少ないからである。ビタミンKが足りないとビタミンK依存性凝固因子(II、VII、IX、X)を作れず、出血を起こす(ビタミンK欠乏性出血症)。特に生後2週〜2か月頃に起こる乳児ビタミンK欠乏性出血症は、頭蓋内出血を起こし、重い後遺症や死亡の原因になる。母乳栄養児に多い。予防のため、出生後の哺乳開始時、生後1週(産科退院時)、1か月健診時の3回、ビタミンK2シロップを飲ませる方法が広く行われてきた。本児は母乳栄養で日齢6に内服済みなので、1か月健診で再び内服させる必要がある。なお現在は、出生後から生後3か月まで週1回飲ませ続ける方法も推奨されている。
- ×e. 止痢薬の投与が必要である。
誤り。母乳栄養児の便は、回数が多く(1日数回〜10回程度)、水分の多い柔らかい便で、黄色〜緑色を呈し、粘液が混じることがあり、酸臭がある。これは生理的な特徴である。母乳栄養児の腸内ではビフィズス菌が多く、乳酸などの有機酸が作られるため、便が酸性になり、酸っぱいにおいがする。緑色は、便に含まれるビリルビンが酸化されてビリベルジンになったことによる。体重が順調に増えているので病的な下痢ではない。止痢薬は不要であり、乳児への止痢薬(特にロペラミド)の投与はむしろ危険である。
ビタミンK欠乏性出血症
・新生児ビタミンK欠乏性出血症(新生児メレナ): 生後2〜7日頃に、消化管出血(吐血・下血)として発症することが多い。 ・乳児ビタミンK欠乏性出血症: 生後2週〜2か月頃に発症し、頭蓋内出血が多い。母乳栄養児に多い。胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞(脂溶性ビタミンの吸収障害)や抗菌薬の使用も危険因子になる。 ・検査所見: プロトロンビン時間(PT)と活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が延長する。PIVKA-II(ビタミンKが足りないときに作られる、働かない凝固因子前駆体)が上昇する。血小板数は正常である。 ・予防: ビタミンK2シロップを内服させる。3回法(出生時、生後1週、1か月)が長く標準とされてきた。3回法でも乳児期の発症を完全には防げないため、現在は生後3か月まで週1回投与する方法も推奨されている。
母乳栄養児の便
・回数が多く、柔らかい(軟便〜泥状便)。黄色〜黄金色で、時間がたつと緑色になることがある。酸臭がする。 ・人工栄養児の便は、母乳栄養児に比べて回数が少なく、固めで、淡黄色〜褐色、腐敗臭が強い傾向がある。 ・注意すべき便の色: 灰白色便(胆道閉鎖症など)、血便(腸重積症、細菌性腸炎など)、黒色便(上部消化管出血)。
乳児の成長の目安
・体重: 出生後数日間に生理的体重減少(出生体重の5〜10%程度)があり、生後1〜2週で出生体重に戻る。その後、生後3か月頃までは1日25〜30g程度増える。生後3〜4か月で出生体重の約2倍、1歳で約3倍になる。 ・原始反射の消える時期(目安): Moro反射は3〜4か月、手の把握反射は3〜4か月、吸啜反射は4〜6か月、非対称性緊張性頸反射は4〜6か月、足の把握反射は9〜10か月頃に消える。 ・乳児の肝臓は、肋骨弓下に1〜2cm程度(最大3cm程度)触れるのは生理的とされる。
POINT
・1か月健診では、体重増加(1日25〜30g程度)、便の性状、原始反射、身体所見を確認し、正常か異常かを判断する。 ・母乳栄養児の便は、回数が多く柔らかく、黄色〜緑色で粘液が混じり、酸臭がする。正常であり治療は不要である。 ・大きな音で両手を広げる動作はMoro反射で正常である。生後3〜4か月頃に消える。 ・乳児で肝臓を肋骨弓下に2cm程度触れるのは生理的である。 ・母乳栄養児はビタミンK欠乏性出血症(特に乳児期の頭蓋内出血)の危険が高い。1か月健診でもビタミンK2シロップを飲ませる。現在は生後3か月まで週1回投与する方法も推奨されている。
