熱と発疹が同時に―耳の後ろのリンパ節が告げる「三日ばしか」
第100回医師国家試験 I問題 第37問
国試問題にチャレンジ
6歳の女児。昨日から微熱,咳嗽および鼻汁がみられ,ほぼ同時に全身に発疹が出現したため来院した。体温37.8℃。脈拍84/分。結膜はやや充血し,咽頭は軽度発赤している。発疹は粟粒大点状丘疹で顔面,頸部および胸腹部にみられる。耳後部に圧痛のあるリンパ節腫脹を認める。 考えられるのはどれか。
- a.麻疹
- b.風疹
- c.伝染性紅斑
- d.水痘
- e.突発性発疹
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
小児の発疹性ウイルス感染症は、発熱と発疹の出現順序、発疹の性状と分布、随伴所見の3点で鑑別します。風疹は微熱〜中等度の発熱とほぼ同時に細かい淡紅色の斑状丘疹が顔から全身に広がり、約3日で色素沈着なく消え、耳後部・後頭部・頸部の圧痛を伴うリンパ節腫脹が特徴です。麻疹は二峰性発熱とKoplik斑、融合して色素沈着を残す発疹、伝染性紅斑は頬の紅斑と四肢のレース状紅斑、水痘は新旧の発疹の混在、突発性発疹は乳児の解熱後発疹で区別できます。確定診断には特異的IgM抗体やPCR法を用い、風疹は5類感染症として全例を直ちに届け出ます。妊娠初期の感染は白内障・先天性心疾患・感音難聴を伴う先天性風疹症候群の原因となるため、MRワクチン2回接種による集団での予防の意義も合わせて理解しておくことが重要です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・6歳の女児。 ・昨日から微熱、咳嗽、鼻汁があり、ほぼ同時に全身に発疹が出た。 ・体温37.8℃で、熱は軽度である。 ・結膜の軽い充血と咽頭の軽い発赤がある。 ・発疹は粟粒大(粟の粒ほど、1〜2mm程度)の点状の丘疹で、顔面、頸部、胸腹部にみられる。 ・耳の後ろに圧痛のあるリンパ節腫脹がある。
診断へのプロセス
小児の発疹性ウイルス感染症は、次の三点を組み合わせて鑑別する。 1. 発熱と発疹が出る時期の関係 2. 発疹の性状と分布 3. 随伴所見(リンパ節腫脹、口腔内の所見など) 本例では、発熱などのかぜ症状と発疹がほぼ同時に出ている。熱は軽く、発疹は顔から体幹へ広がる小さな紅色丘疹である。そして耳後部・頸部のリンパ節が腫れて押すと痛む。この組み合わせは風疹の典型像である。 麻疹を考えるなら、発疹の前に高熱とかぜ症状が数日続く期間(カタル期)と、口の中のKoplik斑があるはずである。水痘なら水疱が混ざる。突発性発疹なら熱が下がってから発疹が出る。伝染性紅斑なら頬の紅斑と四肢のレース状紅斑がみられる。本例はいずれにも合わない。
確定診断
臨床像だけでは他のウイルス感染との区別が難しいことがある。確定には、風疹特異的IgM抗体の検出、ペア血清でのIgG抗体価の上昇、PCR法による遺伝子検出を行う。風疹は感染症法の5類感染症で、全例を直ちに届け出る。
選択肢考察
- ×a. 麻疹
麻疹ウイルスによる感染症で、発熱の経過が二峰性になるのが特徴である。まず38℃前後の発熱に、咳、鼻汁、結膜充血などのカタル症状が3〜4日続く(カタル期)。この時期の終わりに、頬の内側の粘膜にKoplik斑(白い小斑点)が現れる。熱がいったん少し下がった後に再び高熱となり、それに合わせて発疹が出る(発疹期)。発疹は耳の後ろや顔から始まって体幹・四肢に広がり、互いにくっつき合う(融合する)。消えた後に色素沈着を残す。本例は症状と発疹がほぼ同時に出ており、微熱で経過も短い。二峰性の発熱を示す経過とは合わない。
- ○b. 風疹
風疹ウイルスによる感染症で、潜伏期は2〜3週間(おおむね14〜21日)である。発熱と発疹がほぼ同時に出るのが特徴で、熱は微熱〜中等度のことが多い。発疹は顔から始まる細かい淡紅色の斑状丘疹で、急速に体幹・四肢に広がり、麻疹に比べて融合しにくい。通常3日ほどで消え、色素沈着を残さない(「三日ばしか」と呼ばれる)。耳後部、後頭部、頸部のリンパ節が腫れて圧痛を伴う所見が特に特徴的で、発疹より先に出ることもある。軽い結膜充血や咽頭発赤もみられる。本例の所見はすべてこれに一致する。
- ×c. 伝染性紅斑
ヒトパルボウイルスB19による感染症で、「りんご病」とも呼ばれる。両頬に境界のはっきりした紅斑が出て、平手で打ったように見えるのが特徴である(蝶形紅斑、slapped cheek)。続いて腕や脚にレース状・網目状の紅斑が出る。発疹が出る時期には熱はほとんどない。本例のように、発熱とともに粟粒大の丘疹が顔から体幹に出て、耳後部のリンパ節が腫れる経過とは合わない。
- ×d. 水痘
水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus: VZV)の初感染で起こる。発疹は紅斑から丘疹、水疱、膿疱、痂皮(かさぶた)へと短期間で変化する。新しい発疹が次々に出るため、いろいろな段階の発疹が同時にみられるのが特徴である。発疹は頭皮(有髪部)や口腔粘膜にも出て、かゆみが強い。本例の発疹は点状丘疹のみで水疱がない。また、圧痛を伴う耳後部リンパ節腫脹は水痘の典型的な所見ではない。
- ×e. 突発性発疹
主にヒトヘルペスウイルス6B型(HHV-6B)、一部は7型(HHV-7)の初感染で起こる。多くは生後6か月〜2歳の乳幼児にみられる。38〜40℃の高熱が3日ほど続き、熱が下がった頃に体幹を中心とした紅色の発疹が出る。高熱の割に機嫌がよいことが多い。6歳という年齢、発熱と同時に発疹が出る経過、微熱という点のいずれも合わない。
小児の主な発疹性ウイルス感染症の比較
・麻疹: 麻疹ウイルス。潜伏期10〜12日。二峰性発熱でカタル期にKoplik斑が出る。発疹は融合し、色素沈着を残す。合併症は肺炎、中耳炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)である。 ・風疹: 風疹ウイルス。潜伏期14〜21日。発熱と発疹が同時に出て、発疹は約3日で消える。耳後部・後頭部・頸部のリンパ節腫脹が特徴である。合併症は関節炎(成人女性に多い)、血小板減少性紫斑病、脳炎である。 ・伝染性紅斑: パルボウイルスB19。頬の紅斑と四肢のレース状紅斑が出る。発疹が出る時期にはすでに感染力はほとんどない。溶血性貧血のある人では無形成発作(aplastic crisis)を、妊婦では胎児水腫を起こすことがある。 ・水痘: VZV。潜伏期約2週間。いろいろな段階の発疹(紅斑、丘疹、水疱、痂皮)が混在する。すべての発疹が痂皮になるまで出席停止である。 ・突発性発疹: HHV-6B/7。乳児期に多く、解熱後に発疹が出る。熱性けいれんを伴うことがある。
先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)
妊娠初期(特に妊娠20週頃まで)に妊婦が風疹にかかると、胎児にウイルスが感染する。その結果、白内障、先天性心疾患(動脈管開存症など)、感音難聴の三つを主な症状とする先天異常が起こる。妊娠の早い時期に感染するほど発生頻度が高い。これを防ぐため、MRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)の2回接種(1歳時と小学校入学前の1年間)が定期接種になっている。予防接種を受ける機会がなかった世代の成人男性を中心に、2012〜2013年や2018〜2019年に国内で流行が起こった。
学校保健安全法による出席停止期間
・風疹: 発疹が消えるまで。 ・麻疹: 解熱した後3日を経過するまで。 ・水痘: すべての発疹が痂皮化するまで。
POINT
・風疹は、発熱と同時に出る細かい発疹、約3日で消える発疹、耳後部・後頭部・頸部の圧痛を伴うリンパ節腫脹が三大特徴である。 ・麻疹は、二峰性発熱、カタル期のKoplik斑、融合して色素沈着を残す発疹が特徴である。 ・突発性発疹は乳児に多く、解熱後に発疹が出る。 ・伝染性紅斑は、頬の紅斑と四肢のレース状紅斑が特徴で、発疹期には熱はほとんどない。 ・水痘は、いろいろな段階の発疹(水疱を含む)が混在する。 ・妊娠初期の風疹感染は先天性風疹症候群(白内障、心疾患、難聴)の原因になる。
