第一歩が出ない、止まれない―歩き方で読み解くParkinson病
第100回医師国家試験 I問題 第13問
国試問題にチャレンジ
68歳の男性。手の震えと動作緩慢とを主訴に来院した。1年前から右手に震えが起き,最近は右下肢にも震えが起きるようになった。半年前からボタンがけなど手の細かい動作がしにくくなった。最近前かがみで歩いていると指摘されるようになった。家族歴と既往歴とに特記すべきことはなく,常用薬もない。一般身体所見に異常はない。右上下肢に静止時振戦を認め,頸部と四肢とに歯車様筋強剛を認める。深部腱反射は正常で,感覚障害を認めない。 この疾患でみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.失調性歩行
- b.小刻み歩行
- c.はさみ歩行
- d.すくみ足
- e.鶏歩
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
高齢者で一側から始まる左右差のある静止時振戦、歯車様筋強剛、動作緩慢、前傾姿勢がそろえばParkinson病を考えます。Parkinson病の歩行障害の代表は、歩幅が狭くすり足になる小刻み歩行と、歩き始めや方向転換で足が出なくなるすくみ足で、突進現象や腕振りの減少も伴います。失調性歩行は小脳・後索・前庭の障害、はさみ歩行は両側錐体路障害、鶏歩は腓骨神経麻痺などの下垂足でみられ、異常歩行は責任病変と対応づけて整理すると理解しやすくなります。すくみ足は視覚・聴覚の手がかりで改善することがあり、転倒予防のためのリハビリや環境調整にも生かされます。歩き方の観察は神経診察の第一歩であり、病変部位を推定する重要な手がかりになります。
解答・解説
正解はb, dです
所見の整理
68歳男性。1年前から右手の震えで発症し、右下肢にも広がっている。半年前からボタンかけなどの細かい手作業が難しくなり(巧緻運動障害=動作緩慢の表れ)、最近は前かがみの姿勢で歩いている。診察では右上下肢の静止時振戦、頸部と四肢の歯車様筋強剛を認める。深部腱反射は正常で、感覚障害はない。常用薬はなく、既往・家族歴にも特記事項はない。
診断へのプロセス
パーキンソン症状(パーキンソニズム)の主要徴候は、静止時振戦、筋強剛、無動・動作緩慢、姿勢保持障害(姿勢反射障害)の4つである。本症例では、 ・静止時振戦:右上下肢 ・無動・動作緩慢:ボタンかけが困難 ・筋強剛:頸部・四肢の歯車様筋強剛 ・前屈姿勢:前かがみでの歩行 がそろっている。高齢発症で緩徐に進行し、一側の上肢から始まって同側下肢へ広がる左右差のある静止時振戦は、Parkinson病に典型的な経過である。抗精神病薬などの常用薬がないことから薬剤性パーキンソニズムは考えにくく、深部腱反射が正常で錐体路徴候がないこと、感覚障害がないことも、錐体路や末梢神経・脊髄後索の障害を示さないParkinson病の像と矛盾しない。以上からParkinson病と診断する。
設問へのアプローチ
Parkinson病では、黒質緻密部のドパミン神経細胞の変性により線条体のドパミンが欠乏し、運動の開始や大きさの調節が障害される。これを反映した歩行障害として、歩幅が小さくなる小刻み歩行、第一歩が出ないすくみ足、前傾姿勢のまま徐々に加速してしまう突進歩行(加速歩行)、腕振りの減少などがみられる。各選択肢の歩行が、どの部位の障害で生じるかを整理して判断する。
選択肢考察
- ×a. 失調性歩行
失調性歩行は、足を左右に広げ(開脚)、ふらつきながら不規則に歩く歩行である。小脳の障害(小脳性運動失調)で典型的にみられ、前庭機能障害や脊髄後索障害(感覚性運動失調、閉眼で増悪するRomberg徴候陽性)でも生じる。Parkinson病の歩行障害ではない。
- ○b. 小刻み歩行
小刻み歩行は、前かがみの姿勢で、足を床からあまり上げずに歩幅を狭くしてすり足気味に歩く歩行である。無動・動作緩慢による運動の振幅の縮小(寡動)と姿勢保持障害を反映しており、Parkinson病に特徴的である。進行すると、歩いているうちに前のめりになって小走りに加速し止まれなくなる突進現象(加速歩行)を伴うことがある。
- ×c. はさみ歩行
はさみ歩行(はさみ脚歩行)は、下肢の内転筋の痙縮により両膝が交差するように内側へ寄り、はさみを動かすような形で歩く歩行である。脳性麻痺(痙直型両麻痺)や痙性対麻痺など、両側の錐体路障害(上位運動ニューロン障害)でみられる。錐体路徴候のない本症例、ひいてはParkinson病の歩行ではない。
- ○d. すくみ足
すくみ足は、歩き始めの第一歩が出ない、方向転換時や狭い場所・ドアの通過時に足が床に貼り付いたように止まってしまう現象である。無動に関連する症状で、Parkinson病(特に進行期)に特徴的である。床の線をまたぐ、号令やリズム音に合わせるなどの視覚・聴覚刺激で足が出やすくなる(矛盾性運動、kinésie paradoxale)ことも知られている。
- ×e. 鶏歩
鶏歩は、足関節の背屈ができず足先が垂れる下垂足(垂れ足)を代償するため、膝を高く上げ、つま先から投げ出すように着地する歩行である。前脛骨筋などの足関節背屈筋の麻痺で生じ、腓骨神経麻痺、Charcot-Marie-Tooth病などの末梢神経障害、腰椎椎間板ヘルニア(L5神経根障害)、ポリオなどでみられる。Parkinson病の歩行障害ではない。
Parkinson病の概要
・中高年(多くは50〜60歳代以降)に発症する神経変性疾患で、黒質緻密部のドパミン神経細胞が脱落し、残存神経細胞内にαシヌクレインを主成分とするLewy小体が出現する。 ・運動症状:静止時振戦(4〜6Hz程度、丸薬を丸めるような動き、随意運動で軽減)、筋強剛(歯車様・鉛管様)、無動・動作緩慢(仮面様顔貌、小字症、小声、巧緻運動障害)、姿勢保持障害(前傾姿勢、突進現象)。症状は一側から始まり左右差があるのが特徴である。 ・非運動症状:便秘、起立性低血圧、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症、うつ、認知機能低下など。便秘・嗅覚低下・レム睡眠行動異常症は運動症状に先行することがある。 ・検査:頭部MRIでは原則として特異的異常を認めない。ドパミントランスポーターシンチグラフィー(DaTscan)で線条体への集積低下、MIBG心筋シンチグラフィーで心臓交感神経の集積低下がみられる。 ・重症度:Hoehn-Yahr重症度分類が用いられる。Ⅰ度(一側性の症状)、Ⅱ度(両側性だが姿勢保持障害なし)、Ⅲ度(姿勢保持障害あり、日常生活は自立)、Ⅳ度(日常生活に一部介助が必要)、Ⅴ度(車椅子またはベッド上の生活)。 ・治療:L-ドパ(末梢性ドパ脱炭酸酵素阻害薬との合剤)、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬、COMT阻害薬など。進行期のウェアリングオフ・ジスキネジアには脳深部刺激療法(DBS)なども検討される。
代表的な異常歩行と責任病変
・小刻み歩行・すくみ足・突進歩行:Parkinson病などの錐体外路障害(パーキンソニズム) ・痙性片麻痺歩行(分回し歩行):一側の錐体路障害(脳卒中後など) ・はさみ歩行:両側の錐体路障害(脳性麻痺、痙性対麻痺) ・失調性歩行(酩酊様歩行):小脳障害、前庭障害、脊髄後索障害 ・鶏歩:下垂足(腓骨神経麻痺、Charcot-Marie-Tooth病など) ・動揺性歩行(アヒル歩行):近位筋(中殿筋)の筋力低下(筋ジストロフィーなど) ・Trendelenburg歩行:中殿筋の筋力低下(先天性股関節脱臼など) ・間欠性跛行:閉塞性動脈硬化症(血管性)、腰部脊柱管狭窄症(神経性)
鑑別として押さえたいパーキンソニズム
薬剤性パーキンソニズム(抗精神病薬、制吐薬のメトクロプラミドなど)、脳血管性パーキンソニズム(下半身優位、振戦は目立たない)、進行性核上性麻痺(垂直性眼球運動障害、易転倒性)、多系統萎縮症(自律神経障害、小脳症状)、正常圧水頭症(歩行障害・認知症・尿失禁)などはL-ドパへの反応が乏しいことが多く、Parkinson病との鑑別が重要である。
POINT
・Parkinson病の四大徴候:静止時振戦、筋強剛(歯車様)、無動・動作緩慢、姿勢保持障害。 ・一側から始まる左右差のある静止時振戦はParkinson病に典型的。 ・Parkinson病の歩行:小刻み歩行、すくみ足、突進歩行、前傾姿勢、腕振りの減少。 ・失調性歩行=小脳・後索・前庭、はさみ歩行=両側錐体路、鶏歩=下垂足(腓骨神経麻痺など)。
