ぐったりした2歳児の手足は冷たい?―白色便性下痢症から読み解く小児の脱水と代償性ショック
第100回医師国家試験 H問題 第13問
国試問題にチャレンジ
2歳の男児。2日前からの下痢と嘔吐とを主訴に来院した。傾眠傾向である。便は灰白色水様である。 この患児で予測される身体所見はどれか。
- a.徐脈
- b.陥没呼吸
- c.血圧上昇
- d.四肢の冷感
- e.皮膚緊張度の亢進
対話形式の解説
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ドクターまとめ
乳幼児の嘔吐と灰白色の水様便はロタウイルス胃腸炎を示唆し、傾眠などの意識変化を伴う場合は中等度以上、とくに重度の脱水と判断します。循環血液量が減ると交感神経が緊張し、頻脈と末梢血管収縮によって重要臓器の血流を守るため、四肢の冷感・蒼白、毛細血管再充満時間の延長が現れ、ツルゴール低下や口腔乾燥、尿量減少も伴います。小児は代償力が強く血圧が最後まで保たれやすいため、血圧低下や徐脈は心停止が近い末期の徴候であり、陥没呼吸は脱水ではなく呼吸窮迫の所見です。血圧が正常でも末梢循環不全の徴候があれば代償性ショックとして早期に輸液を行うという考え方は、小児救急の基本として身につけておく価値があります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・2歳の男児、2日前から下痢と嘔吐が続いている。 ・便は灰白色(白色〜クリーム色)の水様便である。 ・傾眠傾向という意識レベルの低下がある。
診断へのプロセス
乳幼児の急性の嘔吐と水様下痢で、便が白っぽく色が抜けている場合、まず考えるのはロタウイルスによる急性胃腸炎(いわゆる白色便性下痢症)である。ロタウイルス胃腸炎は冬〜春に6か月〜2歳ごろの乳幼児に多く、嘔吐で始まり、続いて大量の水様下痢が数日続く。嘔吐のために経口で水分をとれず、下痢で水と電解質を失うため、脱水に陥りやすい。 本児は2日間嘔吐と下痢が続いたうえ、傾眠傾向を示している。乳幼児の脱水では、意識状態の変化(不機嫌・ぐったり・傾眠)は中等度以上、とくに重度の脱水を示す重要なサインである。背景として、循環血液量の減少による脳灌流の低下のほか、低ナトリウム血症(低張性脱水)や、飢餓による低血糖が関与していることもある。
設問の考え方
問われているのは、重い脱水(循環血液量減少)の患児に予想される身体所見である。循環血液量が減ると、体は交感神経を緊張させて心拍数を増やし、皮膚や四肢の末梢血管を収縮させて、脳や心臓など重要臓器への血流を守ろうとする。したがって「頻脈」「末梢の冷感・蒼白」「毛細血管再充満時間(CRT)の延長」「皮膚緊張度(ツルゴール)の低下」「口腔粘膜の乾燥」「大泉門・眼球の陥凹」「尿量減少」などが見られ、代償が破綻すれば血圧が低下する。この流れで選択肢を見れば、四肢の冷感が正解となる。
選択肢考察
- ×a. 徐脈
誤り。循環血液量が減ると1回拍出量が落ちるため、心拍出量を保とうとして交感神経が緊張し、心拍数は増える(頻脈)。小児では心拍数の増加が循環不全の最も早い代償反応であり、脱水の重症度評価でも頻脈は重要な所見である。脱水の小児に徐脈が出現するのは、低酸素やアシドーシスが進んで心停止が迫っている末期の段階であり、予想される典型所見ではない。
- ×b. 陥没呼吸
誤り。陥没呼吸は、吸気時に肋間や胸骨上窩・肋骨弓下がへこむ所見で、気道の狭窄や肺のコンプライアンス低下により強い吸気努力を要するときに見られる呼吸窮迫の徴候である(細気管支炎、肺炎、クループ、喘息発作など)。脱水そのものでは生じない。なお、脱水が進んで代謝性アシドーシスになると、呼吸性に代償するため深く速い呼吸(多呼吸・Kussmaul様呼吸)を示すことはあるが、これは陥没呼吸とは異なる。
- ×c. 血圧上昇
誤り。循環血液量が減ると血圧は低下の方向に向かう。ただし小児は末梢血管収縮と頻脈による代償力が強く、重度脱水でもしばらくは血圧が保たれる(代償性ショック)。血圧が下がってきた時点では代償が破綻しており(低血圧性ショック)、きわめて危険な状態である。いずれにせよ、脱水で血圧が上昇することはない。
- ○d. 四肢の冷感
正解。循環血液量が減少すると、交感神経の緊張とカテコラミンの分泌により皮膚や四肢の末梢血管が収縮し、限られた血液を脳・心臓などの重要臓器へ優先して送ろうとする。その結果、四肢への血流が減り、手足が冷たく、蒼白〜まだら状(網状チアノーゼ)になり、爪床を圧迫して離したあとの色の戻り(毛細血管再充満時間:CRT)が延長する(目安は2秒超)。四肢の冷感は末梢循環不全を示す所見であり、傾眠を伴うほどの脱水の患児では当然予想される。
- ×e. 皮膚緊張度の亢進
誤り。皮膚緊張度(ツルゴール:turgor)は、腹壁などの皮膚をつまんで離したときの戻りの速さで評価する。脱水で間質の水分が失われると皮膚の弾力が低下し、つまんだしわがすぐには戻らない(ツルゴールの低下)。したがって脱水では皮膚緊張度は低下するのであって、亢進はしない。なお、高張性(高ナトリウム血性)脱水では細胞外液が比較的保たれるため、ツルゴール低下が目立たず、皮膚が練り粉様(ドウ様)の感触になることがある。
ロタウイルス胃腸炎
・乳幼児(6か月〜2歳ごろ)に多く、冬から春にかけて流行する。 ・嘔吐で始まり、水様下痢が続く。発熱を伴うことも多い。便は白色〜淡黄色の水様便となることが多い(胆汁色素の減少による)。 ・脱水をきたしやすく、ほかにけいれん(胃腸炎関連けいれん)や脳症を合併することがある。 ・診断は便中ロタウイルス抗原の迅速検査で行う。 ・治療は対症療法で、脱水の補正が中心である。軽症〜中等症では経口補水療法(ORS:経口補水液)を少量頻回に与え、重度脱水や経口摂取困難では輸液を行う。 ・経口生ワクチンがあり、日本では2020年10月から定期接種となっている。
小児の脱水の重症度と所見
・軽度(体重減少がおおむね5%未満):口渇、軽い口腔乾燥程度で、全身状態は比較的良好。 ・中等度(おおむね5〜10%):頻脈、不機嫌、口腔粘膜の乾燥、ツルゴールの低下、大泉門・眼球の陥凹、涙の減少、尿量減少、CRT延長。 ・重度(おおむね10%以上):傾眠・意識障害、四肢の冷感・網状チアノーゼ、著明な頻脈、脈の触れにくさ、CRTの著明な延長、乏尿〜無尿、血圧低下(末期)。 (年齢や文献により区分の数値には多少の差がある)
脱水の型
・等張性脱水:最も多い。水とナトリウムを同じ割合で失う。 ・低張性脱水:ナトリウム喪失が相対的に多い。細胞外液が細胞内へ移動するため、循環血液量の減少が目立ち、ショックや意識障害をきたしやすい。脳浮腫による傾眠・けいれんも起こりうる。 ・高張性脱水:水の喪失が相対的に多い。細胞外液が比較的保たれるため循環不全の徴候は出にくいが、口渇・発熱・易刺激性が強く、ツルゴールは練り粉様となる。
小児ショックの特徴
小児は頻脈と末梢血管収縮による代償能力が高く、血圧は最後まで保たれやすい。そのため血圧が正常でも、頻脈・四肢冷感・CRT延長・意識状態の変化があれば、代償性ショックとして早急に対応する必要がある。低血圧や徐脈は心停止に近い徴候である。
POINT
・乳幼児の嘔吐と白色水様便はロタウイルス胃腸炎を考える。 ・脱水で意識状態が変化(傾眠)しているときは、中等度〜重度の脱水と判断する。 ・脱水(循環血液量減少)の所見は、頻脈、四肢の冷感、CRT延長、ツルゴール低下、口腔粘膜乾燥、大泉門・眼球陥凹、尿量減少。 ・小児では血圧が遅くまで保たれる。血圧低下や徐脈は末期の徴候である。 ・陥没呼吸は呼吸窮迫の所見で、脱水とは直接関係しない。
