歩くと止まる足、原因は神経か血管か―間欠性跛行を診察で見分ける2つの所見
第100回医師国家試験 H問題 第14問
国試問題にチャレンジ
82歳の男性。3か月前から,10分程度(約300m)歩くと両下肢にしびれと脱力とが起きて歩けなくなるため来院した。しばらく立ち止まると症状は消失し,再び歩けるようになる。最近歩ける距離が次第に短くなってきた。 この患者の診察で重要なのはどれか。2つ選べ。
- a.心雑音
- b.甲状腺腫
- c.深部腱反射
- d.皮膚出血斑
- e.足背動脈の拍動
対話形式の解説
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ドクターまとめ
歩行で下肢症状が出て休息で回復する間欠性跛行は、腰部脊柱管狭窄症による神経性と、閉塞性動脈硬化症などの末梢動脈疾患による血管性に大別されます。神経性は前かがみや座位で改善し、深部腱反射の低下や感覚障害、Kemp徴候を伴い、血管性は立ち止まるだけで改善し、足背動脈などの拍動の減弱・消失やABI 0.9以下を認めます。高齢者では両者がともに多く合併もまれではないため、問診で決めつけず、腱反射と足背動脈の拍動を必ず両方確認することが重要です。症状の性質と回復のしかたを手がかりに、診察で原因を一つずつ確かめる姿勢は、間欠性跛行に限らず下肢症状の診療全般の基本になります。
解答・解説
正解はc, eです
所見の整理
・82歳の高齢男性 ・一定距離(約300m、10分程度)を歩くと両下肢にしびれと脱力が出て歩けなくなる ・しばらく休むと症状が消え、再び歩けるようになる ・3か月の経過で歩行可能距離が次第に短くなっている
診断へのプロセス
「歩くと下肢症状が出て歩けなくなり、休むと回復してまた歩ける」という症状は間欠性跛行(intermittent claudication)である。間欠性跛行の原因は大きく二つに分けられる。 1. 神経性間欠性跛行:腰部脊柱管狭窄症により、馬尾や神経根が圧迫されて起こる。歩行や腰椎の伸展(背すじを伸ばした立位)で脊柱管がさらに狭くなり、しびれ・脱力・痛みが出る。前かがみになる、しゃがむ、座るなど腰椎を屈曲させる姿勢で改善するのが典型的で、単に立ち止まるだけでは回復しにくい。 2. 血管性間欠性跛行:末梢動脈疾患(PAD:peripheral arterial disease、主に下肢閉塞性動脈硬化症)により、歩行時の筋肉の酸素需要に血流が追いつかず、ふくらはぎなどに痛み・だるさが出る。姿勢に関係なく、立ち止まるだけで数分以内に改善する。 本例は両下肢の「しびれと脱力」という神経症状を思わせる訴えである一方、「立ち止まると消失する」という点は血管性にも合致する。また高齢男性は腰部脊柱管狭窄症とPADのいずれの好発層にも当てはまり、両者が合併していることも少なくない。問診だけでは両者を確実に区別できないため、診察で神経性と血管性を鑑別する所見を確認することが重要となる。
設問の考え方
間欠性跛行の鑑別に直結する診察項目を選ぶ。神経性(腰部脊柱管狭窄症)を評価するには、下肢の深部腱反射(膝蓋腱反射・アキレス腱反射)、感覚障害、筋力低下などの神経学的所見を調べる。血管性(PAD)を評価するには、足背動脈・後脛骨動脈・膝窩動脈・大腿動脈の拍動を触知し、左右差や減弱・消失の有無をみる。
選択肢考察
- ×a. 心雑音
心雑音は弁膜症や先天性心疾患などの評価に用いる所見である。心房細動や感染性心内膜炎による塞栓症が下肢動脈を閉塞することはあるが、その場合は急性下肢虚血として突然の疼痛・蒼白・脈拍消失などで発症し、3か月かけて歩行距離が徐々に短くなる本例の経過とは異なる。心雑音の有無では、神経性と血管性の間欠性跛行を区別できない。
- ×b. 甲状腺腫
甲状腺腫は甲状腺機能異常や甲状腺腫瘍の評価に用いる所見である。甲状腺機能亢進症に伴う周期性四肢麻痺やミオパチー、甲状腺機能低下症に伴う筋力低下などで下肢の脱力をきたすことはあるが、「一定距離の歩行で出現し、休むと消える」という間欠性跛行のパターンは示さない。本例の鑑別には役立たない。
- ○c. 深部腱反射
神経性間欠性跛行の原因である腰部脊柱管狭窄症では、馬尾や腰仙髄神経根が慢性的に圧迫されるため、下肢の深部腱反射(膝蓋腱反射:主にL3〜L4、アキレス腱反射:主にS1)が低下〜消失することが多い。あわせて下肢の感覚障害や筋力低下、Kemp徴候(腰椎を後屈・側屈させると下肢に症状が誘発される)なども確認する。逆に、腱反射が亢進していれば頸髄や胸髄レベルの圧迫性病変(頸椎症性脊髄症、胸椎黄色靱帯骨化症など)による脊髄性間欠性跛行を考えるきっかけとなる。いずれにしても神経性か否かを判断するうえで重要な診察項目である。
- ×d. 皮膚出血斑
皮膚出血斑(紫斑)は血小板減少、凝固異常、血管炎などの評価に用いる所見である。血管炎による末梢神経障害(多発単神経炎)で下肢のしびれや脱力が生じることはあるが、その症状は歩行によって出現し休息で消える間欠性の経過をとらない。本例の間欠性跛行の原因を鑑別するうえでは重要ではない。
- ○e. 足背動脈の拍動
血管性間欠性跛行の原因である末梢動脈疾患(主に閉塞性動脈硬化症)では、病変より末梢の動脈拍動が減弱〜消失する。足背動脈の拍動は最も簡便に触知できる指標で、左右差の有無を確認し、あわせて後脛骨動脈・膝窩動脈・大腿動脈の拍動や、下肢の皮膚温低下・色調変化も観察する。拍動の減弱が疑われれば、足関節上腕血圧比(ABI:ankle-brachial index、0.9以下で動脈狭窄・閉塞を疑う)の測定、血管エコー(ドプラ法)、CT血管造影や血管造影へと進む。神経性との鑑別に不可欠な診察項目である。
神経性と血管性の間欠性跛行の比較
・原因:神経性は腰部脊柱管狭窄症(馬尾・神経根の圧迫)、血管性は末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎=Buerger病など) ・症状:神経性は下肢のしびれ・脱力・痛みで、殿部から下肢へ広がることが多い。血管性は主にふくらはぎ(腓腹部)の痛み・こわばり・だるさ ・回復のしかた:神経性は前かがみ・しゃがむ・座るなど腰椎を屈曲させると改善し、立ち止まるだけでは改善しにくい。血管性は姿勢に関係なく立ち止まるだけで改善する ・自転車こぎ:神経性は前かがみ姿勢のため症状が出にくい。血管性は下肢の筋肉を使うため症状が出る ・前かがみでの歩行(手押し車・シルバーカー):神経性では楽に歩ける ・診察所見:神経性は深部腱反射低下、感覚障害、筋力低下、Kemp徴候。血管性は足背動脈などの拍動減弱〜消失、皮膚温低下、皮膚蒼白 ・検査:神経性は腰椎MRI、脊髄造影、腰椎単純X線。血管性はABI(0.9以下で異常)、血管エコー、CT血管造影、血管造影
腰部脊柱管狭窄症の病型
・馬尾型:両下肢・会陰部のしびれ、膀胱直腸障害などを伴い、両側性の症状を呈しやすい ・神経根型:主に片側の下肢に、根の支配領域に一致した痛みを生じる ・混合型:両者の合併
閉塞性動脈硬化症の重症度(Fontaine分類)
・I度:無症状(冷感・しびれ) ・II度:間欠性跛行 ・III度:安静時疼痛 ・IV度:潰瘍・壊死
高齢者での注意
腰部脊柱管狭窄症と閉塞性動脈硬化症はいずれも高齢者に多く、両者の合併もまれではない。そのため、間欠性跛行をみたら片方の原因が見つかっても、もう一方の評価を省略しないことが大切である。
POINT
・間欠性跛行をみたら、神経性(腰部脊柱管狭窄症)と血管性(末梢動脈疾患)を鑑別する。 ・神経性の評価:深部腱反射(低下)、感覚障害、筋力低下。前かがみや座位で改善する。 ・血管性の評価:足背動脈などの拍動(減弱・消失と左右差)、ABI(0.9以下)。立ち止まるだけで改善する。 ・両者は高齢者で合併しうるため、両方を必ず診察する。
