神経も筋も無傷なのに力が出ない―神経筋接合部障害で「正常」が答えになる理由
第100回医師国家試験 G問題 第97問
国試問題にチャレンジ
神経筋接合部の障害でみられる筋電図所見はどれか。
- a.多相性の活動電位
- b.安静時電位の異常
- c.刺入時電位の異常
- d.高振幅の活動電位
- e.神経伝導速度正常
対話形式の解説
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ドクターまとめ
神経筋接合部障害(重症筋無力症、Lambert-Eaton筋無力症候群など)では神経の軸索・髄鞘も筋線維も構造的に保たれるため、神経伝導速度や通常の針筋電図は基本的に正常です。高振幅・長持続の運動単位電位や安静時の線維自発電位・線維束自発電位は神経原性障害、低振幅・短持続の多相性電位と早期動員は筋原性障害、刺入時電位の延長(ミオトニー放電)は筋強直性ジストロフィーなどのミオトニアを示します。神経筋接合部障害を捉えるには反復神経刺激試験が必要で、重症筋無力症では低頻度刺激で漸減、Lambert-Eaton筋無力症候群では高頻度刺激で漸増がみられ、単線維筋電図でのジッター増大が最も感度の高い所見です。障害部位ごとに電気生理所見を整理しておくことは、筋力低下の患者を前にしたときの鑑別と検査選択の土台になります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
神経筋接合部(neuromuscular junction: NMJ)の障害、代表的には重症筋無力症(myasthenia gravis: MG)やLambert-Eaton筋無力症候群(LEMS)で、筋電図・神経伝導検査にどのような所見が出るかを問う問題である。
考え方
電気生理検査の所見は、障害部位を「下位運動ニューロン〜末梢神経(神経原性)」「神経筋接合部」「筋そのもの(筋原性)」に分けて整理すると理解しやすい。 ・神経原性障害:運動単位(1個の運動ニューロンとそれが支配する筋線維群)の数が減り、生き残った神経が脱神経された筋線維を再支配するため、1つの運動単位が大きくなる。その結果、高振幅・長持続・多相性の運動単位電位(motor unit potential: MUP)がみられ、安静時には線維自発電位や陽性鋭波、線維束自発電位が出る。髄鞘の障害(脱髄)があれば神経伝導速度が低下する。 ・筋原性障害:運動単位あたりの機能する筋線維が減るため、低振幅・短持続・多相性のMUPとなり、弱い力でも多数の運動単位が一斉に動員される(早期動員)。 ・神経筋接合部障害:神経の軸索・髄鞘も筋線維そのものも本来は保たれており、障害されているのは化学的な伝達の段階だけである。したがって神経伝導速度や通常の針筋電図は基本的に正常であり、異常を検出するには伝達の「安全域」を試す特殊な検査、すなわち反復神経刺激試験(repetitive nerve stimulation: RNS)や単線維筋電図(single fiber EMG: SFEMG)が必要になる。 このように、選択肢のうち神経筋接合部障害の特徴と合致するのは「神経伝導速度が正常であること」である。他の選択肢は、神経原性あるいは筋原性(筋線維膜)障害を示唆する所見である。
選択肢考察
- ×a. 多相性の活動電位
多相性電位とは、随意収縮時に記録されるMUPの波形が基線を何度もまたいで5相以上の複雑な形になるものである。神経原性障害では、再支配により運動単位内の筋線維数が増え、しかも新しい神経終末の伝導が不揃いなため、長持続(10〜20ミリ秒程度に及ぶ)・高振幅の多相性電位となる。筋原性障害でも、筋線維の脱落・大小不同により短持続・低振幅の多相性電位がみられる。いずれも神経や筋そのものの構造的変化を反映した所見であり、神経筋接合部障害の典型所見ではない(重症例で伝達が一部の筋線維で途絶えると波形が不安定になることはあるが、診断的な所見ではない)。
- ×b. 安静時電位の異常
正常な筋は完全に弛緩していれば電気的に静止している。安静時に線維自発電位(fibrillation potential)や陽性鋭波が出るのは、軸索が障害されて脱神経に陥った筋線維が自発的に放電するためで、脱神経から1〜2週間ほど経って出現する。また線維束自発電位(fasciculation potential)は運動単位全体の自発発火で、筋萎縮性側索硬化症など運動ニューロン疾患で目立つ。安静時電位の異常は主に脱神経(神経原性障害)を示し、多発筋炎などの一部の筋疾患でもみられるが、神経筋接合部障害では通常みられない。
- ×c. 刺入時電位の異常
刺入時電位は、針電極を刺したり動かしたりする機械的刺激で筋線維が短時間発火するもので、正常では100ミリ秒程度で消える。これが延長・増強するのは筋線維膜の興奮性に異常がある場合で、代表が筋強直性ジストロフィーなどのミオトニア(筋強直)である。ミオトニー放電は周波数と振幅が漸増・漸減し、スピーカーで「急降下爆撃音」と表現される音を出す。筋線維膜の障害による所見であり、神経筋接合部障害の所見ではない。
- ×d. 高振幅の活動電位
運動ニューロンや軸索が脱落すると運動単位の数が減り、残った運動ニューロンが周囲の脱神経筋線維に側芽(sprouting)を伸ばして再支配する。こうして1つの運動単位に属する筋線維数が増えるため、MUPは高振幅・長持続となる(巨大電位と呼ばれることもある)。筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、慢性の末梢神経障害などの神経原性障害を示す所見であり、神経筋接合部障害の所見ではない。
- ○e. 神経伝導速度正常
神経伝導速度は主に髄鞘の状態を反映し、脱髄性ニューロパチー(Guillain-Barré症候群、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーなど)で著明に低下する。神経筋接合部障害では神経の軸索も髄鞘も障害されていないため、神経伝導速度は正常に保たれる。同様に、運動ニューロン疾患(軸索が残っていれば)や筋疾患でも伝導速度は基本的に正常である。神経筋接合部障害の異常は反復神経刺激試験やSFEMGで初めて捉えられる。
神経筋接合部障害の電気生理学的検査
・反復神経刺激試験(RNS):運動神経を反復刺激し、複合筋活動電位(compound muscle action potential: CMAP)の振幅変化をみる。 重症筋無力症(シナプス後膜のアセチルコリン受容体に対する自己抗体など):低頻度(2〜5Hz)刺激でCMAP振幅が次第に低下する漸減現象(waning)がみられる。第1発目と第4〜5発目を比べて10%以上の減衰が異常の目安とされる。 Lambert-Eaton筋無力症候群(シナプス前の電位依存性カルシウムチャネルに対する自己抗体。肺小細胞癌に合併しやすい):安静時の単発刺激でCMAPが低振幅であり、高頻度(20〜50Hz)刺激や短時間の最大随意収縮後に振幅が著明に増大する漸増現象(waxing)がみられる。低頻度刺激では漸減を示すこともある。 ・単線維筋電図(SFEMG):同じ運動単位に属する2本の筋線維の発火時間のゆらぎ(jitter)を測定する。神経筋伝達が不安定になるとジッターが増大し、伝達が途絶えるとブロッキングが起こる。最も感度の高い検査である。
障害部位別の電気生理所見の整理
・神経原性(運動ニューロン・軸索障害):安静時に線維自発電位・陽性鋭波・線維束自発電位、随意収縮時に高振幅・長持続・多相性MUP、動員される運動単位数の減少。 ・脱髄性ニューロパチー:神経伝導速度の低下、遠位潜時延長、伝導ブロック、F波異常。 ・筋原性:低振幅・短持続・多相性MUP、早期動員。炎症性筋疾患では線維自発電位もみられうる。筋強直性疾患ではミオトニー放電(刺入時電位の延長)。 ・神経筋接合部障害:神経伝導速度・通常の針筋電図は基本的に正常。RNSでの漸減(MG)・漸増(LEMS)、SFEMGでのジッター増大。
POINT
・神経筋接合部障害では神経も筋も構造的には保たれるため、神経伝導速度は正常である。 ・診断にはRNS(MGで低頻度刺激による漸減、LEMSで高頻度刺激による漸増)とSFEMG(ジッター増大)を用いる。 ・高振幅・長持続・多相性MUPや安静時の線維自発電位は神経原性障害の所見である。 ・低振幅・短持続・多相性MUPと早期動員は筋原性障害の所見である。 ・刺入時電位の延長(ミオトニー放電、急降下爆撃音)は筋強直性ジストロフィーなどのミオトニアでみられる。
