StudyMed医師国家試験

妻を疑い続ける酒の影―妄想の「中身」から疾患を見抜く

第100回医師国家試験 G問題 第84問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第84問

正しいのはどれか。

  1. a.躁病では関係妄想が多い。
  2. b.うつ病では血統妄想が多い。
  3. c.認知症では誇大妄想が多い。
  4. d.アルコール依存症では嫉妬妄想が多い。
  5. e.統合失調症では盗害〈物盗られ〉妄想が多い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、精神疾患ごとに出やすい妄想の内容、つまり「妄想主題」の組み合わせを問う問題だ。丸暗記に頼るより、その病気で気分や認知機能がどう変化しているかを考えると、自然に答えが見えてくる。まず、妄想とは何か説明できるかな。
医学生医学生
根拠がないのに強く確信していて、周りが説明しても訂正できない誤った考え、ですよね。精神医学の講義で、ただの思い込みとは違うと習いました。
ドクタードクター
その通り。そして妄想の内容は大きく3つの群に分けられる。被害的な内容の被害妄想群、自分を大きく見る誇大妄想群、自分を小さく見る微小妄想群だ。これを気分の方向と結びつけるのがコツだよ。
医学生医学生
気分が上がる躁病なら誇大、落ち込むうつ病なら微小、ということですか。
ドクタードクター
まさにそう。躁病では、自分には特別な才能や財産、地位があると確信する誇大妄想が典型で、高貴な家柄の出身だと信じる血統妄想も誇大妄想の一型として出てくる。だから「躁病で関係妄想が多い」というのは合わない。
医学生医学生
関係妄想って、テレビのニュースが自分のことを言っている、と感じるようなものでしたっけ。
ドクタードクター
そう。無関係な他人のしぐさや会話、報道を自分に向けられたものと確信する妄想で、これは統合失調症に特徴的だ。では、うつ病で血統妄想が多い、というのはどうだろう。
医学生医学生
血統妄想は自分を高貴な血筋だと思うものなので、うつ病とは方向が逆ですね。うつ病なら罪業・貧困・心気の三大妄想だったと思います。
ドクタードクター
完璧だ。取り返しのつかない罪を犯した、財産を失って生活できない、重い病気にかかっている、と自分を過小に評価する方向の妄想だね。次は認知症。誇大妄想が多い、というのはどうかな。
医学生医学生
臨床実習で精神科を回ったとき、認知症の患者さんが「財布を嫁に盗られた」と訴えていました。認知症なら物盗られ妄想ではないでしょうか。
ドクタードクター
いい経験をしたね。アルツハイマー型認知症では、自分でしまった場所を忘れ、それを身近な家族や介護者に盗まれたと解釈する物盗られ妄想が最も多い。記憶障害から心理的に了解できる妄想なんだ。誇大妄想は認知症で一般的ではない。古典的には梅毒による進行麻痺で誇大的な症状が知られるけれど、あくまで例外的な位置づけだ。
医学生医学生
ということは、統合失調症で物盗られ妄想が多い、というのも誤りですね。認知症の特徴と入れ替えてある。
ドクタードクター
その通り。統合失調症の中心は被害妄想、関係妄想、常に見張られていると感じる注察妄想、追跡妄想、被毒妄想といった被害的な妄想だ。血統妄想や宗教妄想がみられることもある。そして残るのがアルコール依存症と嫉妬妄想。これが正しい組み合わせだ。
医学生医学生
アルコールと嫉妬の結びつきは少し意外です。なぜ嫉妬妄想が出やすいんでしょう。
ドクタードクター
長期の大量飲酒による性機能の低下、飲酒をめぐる夫婦関係の悪化、猜疑心の高まりなどが背景にあると考えられている。配偶者が浮気をしていると根拠なく確信するもので、アルコール性嫉妬妄想とも呼ばれ、多くは男性患者だ。配偶者への暴力につながることもあるので、臨床では家族の安全の評価が欠かせない。
医学生医学生
家族から「最近、妻の行動をしつこく問い詰める」といった話が出たら、飲酒歴も確認すべきということですね。
ドクタードクター
その視点はとても大事だ。アルコール依存症ではほかに、幻聴を主体とするアルコール幻覚症に伴う被害妄想や追跡妄想もみられる。発展として、一次妄想と二次妄想の区別も押さえておこう。了解不能で突然生じる一次妄想、つまり妄想気分・妄想知覚・妄想着想は統合失調症に特徴的だ。一方、うつ病の微小妄想、躁病の誇大妄想、認知症の物盗られ妄想は、気分や記憶障害から心理的に了解できる二次妄想に分類される。
医学生医学生
妄想の中身だけでなく、どうやって生じたかも診断の手がかりになるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。それから重症のうつ病では、「自分の臓器がない」「自分はもう死んでいる」と訴える否定妄想、いわゆるCotard症候群がみられることもある。妄想の主題は、患者さんの内面で何が起きているかを映す鏡だと思って、丁寧に聞き取るといい。

まとめ

妄想の内容は疾患ごとにある程度決まっており、背景にある気分や認知機能の状態から理解すると整理しやすくなります。躁病では誇大妄想・血統妄想、うつ病では罪業・貧困・心気の微小妄想、統合失調症では被害妄想・関係妄想・注察妄想、アルツハイマー型認知症では物盗られ妄想が代表的で、アルコール依存症では配偶者の不貞を確信する嫉妬妄想が特徴的です。アルコール性の嫉妬妄想は配偶者への暴力につながることがあり、飲酒歴の聴取と家族の安全への配慮が重要です。また、了解不能な一次妄想は統合失調症に特徴的で、気分や記憶障害から了解可能な二次妄想と区別されます。妄想の「中身」と「成り立ち」を読み取る力は、精神科の鑑別診断と患者理解の基本になります。

解答・解説

正解はdです

精神疾患ごとに、よくみられる妄想の内容(妄想主題)の組み合わせを問う問題である。 妄想とは、根拠が乏しいにもかかわらず強く確信され、訂正ができない誤った考えをいう。どんな内容の妄想が出やすいかは疾患ごとにある程度決まっており、その背景にある気分や認知機能の状態から理解すると覚えやすい。 ・気分が高揚する躁病では、自分を実際以上に大きく評価する誇大的な妄想が出やすい。 ・気分が落ち込むうつ病では、自分を小さく評価する微小妄想(罪業・貧困・心気)が出やすい。 ・統合失調症では、周囲の出来事を自分に結びつける関係妄想や、他者から害を加えられるという被害妄想が中心となる。 ・認知症(特にアルツハイマー型)では、記憶障害を背景にした物盗られ妄想が代表的である。 ・アルコール依存症では、配偶者の不貞を確信する嫉妬妄想が特徴的である。 この対応関係を知っていれば、各選択肢の組み合わせが正しいかどうかを判断できる。正しい組み合わせはアルコール依存症と嫉妬妄想である。

選択肢考察

  1. ×a.  躁病では関係妄想が多い。

    躁病は気分の高揚や自己評価の過大を特徴とし、自分には特別な才能・財産・地位があると確信する誇大妄想が典型である。高貴な家柄の出身だと信じる血統妄想も、誇大妄想の一型として躁病でみられることがある。一方、関係妄想(無関係な他人のしぐさや会話、報道などを自分に向けられたものと確信する妄想)は統合失調症に特徴的であり、躁病に多い妄想ではない。

  2. ×b.  うつ病では血統妄想が多い。

    うつ病では抑うつ気分や自責感を背景に、自分を過小に評価する微小妄想がみられる。代表的なのは、取り返しのつかない罪を犯したと思い込む罪業妄想、財産を失い生活できなくなったと思い込む貧困妄想、重い病気にかかっていると思い込む心気妄想で、これらはうつ病の三大妄想と呼ばれる。血統妄想は自分を高貴な血筋と信じる誇大的な内容であり、うつ病とは方向が逆である。血統妄想は統合失調症や躁病でみられる。

  3. ×c.  認知症では誇大妄想が多い。

    認知症、特にアルツハイマー型認知症で最も多い妄想は、財布や通帳などを自分でしまった場所を忘れ、「家族や介護者に盗まれた」と確信する物盗られ妄想である。ほかに被害妄想や嫉妬妄想もみられる。誇大妄想は認知症に一般的な妄想ではない(例外的に、梅毒による進行麻痺では誇大妄想を伴う認知症症状が古典的に知られるが、認知症全体で多いとはいえない)。

  4. ○d.  アルコール依存症では嫉妬妄想が多い。

    アルコール依存症では、配偶者やパートナーが浮気をしていると根拠なく確信する嫉妬妄想が特徴的で、アルコール性嫉妬妄想(嫉妬妄想症)として知られる。長期の大量飲酒による性機能の低下、夫婦関係の悪化、猜疑心の高まりなどが背景にあると考えられており、多くは男性患者で、配偶者への暴力につながることもあるため注意が必要である。アルコール依存症ではほかに、幻聴を主体とするアルコール幻覚症に伴う被害妄想や追跡妄想もみられる。

  5. ×e.  統合失調症では盗害〈物盗られ〉妄想が多い。

    統合失調症では、被害妄想、関係妄想、注察妄想(常に見張られていると感じる)、追跡妄想、被毒妄想などの被害的な妄想が中心で、ほかに血統妄想や宗教妄想などもみられる。しかし、物をしまい忘れたことを「盗まれた」と解釈する盗害(物盗られ)妄想は、記憶障害を背景とする認知症に特徴的なものであり、統合失調症に多い妄想ではない。

妄想の分類

妄想は内容により大きく3群に整理される。 ・被害妄想群: 被害妄想、関係妄想、注察妄想、追跡妄想、被毒妄想、物盗られ妄想、嫉妬妄想など。統合失調症、認知症、アルコール依存症、妄想性障害などでみられる。 ・誇大妄想群: 誇大妄想、血統妄想、発明妄想、宗教妄想、恋愛妄想など。躁病や統合失調症でみられる。 ・微小妄想群: 罪業妄想、貧困妄想、心気妄想。うつ病に特徴的である。重症のうつ病では、自分の臓器がない・自分はすでに死んでいるなどと訴える否定妄想(コタール症候群)がみられることもある。

疾患別の代表的な妄想

・統合失調症: 被害妄想、関係妄想、注察妄想、被影響体験(させられ体験)など ・躁病: 誇大妄想、血統妄想 ・うつ病: 罪業妄想、貧困妄想、心気妄想(三大妄想) ・アルツハイマー型認知症: 物盗られ妄想 ・レビー小体型認知症: 幻視に関連した妄想、誤認妄想 ・アルコール依存症: 嫉妬妄想、アルコール幻覚症に伴う被害妄想 ・覚醒剤精神病: 被害妄想、追跡妄想、注察妄想(統合失調症に類似)

一次妄想と二次妄想

了解不能で突然生じる一次妄想(真正妄想。妄想気分・妄想知覚・妄想着想)は統合失調症に特徴的である。一方、気分の変化や記憶障害などから心理的に了解できる形で生じる妄想を二次妄想(妄想様観念)といい、うつ病の微小妄想や躁病の誇大妄想、認知症の物盗られ妄想はこちらに分類される。

POINT

・躁病=誇大妄想・血統妄想 ・うつ病=罪業妄想・貧困妄想・心気妄想(微小妄想、三大妄想) ・統合失調症=被害妄想・関係妄想・注察妄想 ・アルツハイマー型認知症=物盗られ妄想 ・アルコール依存症=嫉妬妄想

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。