痛む眼、痛まない眼―知覚神経の地図で解く眼疾患の見分け方
第100回医師国家試験 G問題 第77問
国試問題にチャレンジ
眼痛を伴うのはどれか。
- a.結膜下出血
- b.虹彩毛様体炎
- c.硝子体出血
- d.裂孔原性網膜剝離
- e.網膜中心動脈閉塞症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
眼の知覚は三叉神経第1枝が担い、角膜・結膜・虹彩・毛様体・強膜などの前眼部に豊富に分布する一方、網膜と硝子体には痛覚を伝える神経がありません。そのため網膜剝離、硝子体出血、網膜中心動脈閉塞症は視力が大きく障害されても原則として無痛で、前眼部でも炎症や眼圧上昇を欠く結膜下出血は痛みを伴いません。虹彩毛様体炎は知覚神経の豊富な部位の炎症に毛様体筋のけいれんが加わり、眼痛・羞明・毛様充血・霧視を生じ、ステロイド点眼と散瞳薬で治療します。眼痛を伴う疾患には急性閉塞隅角緑内障、角膜炎、強膜炎、視神経炎なども含まれ、充血の型と組み合わせると鑑別が進めやすくなります。痛みの有無を解剖から理解しつつ、無痛でも緊急性の高い網膜疾患を見逃さない姿勢が臨床では重要です。
解答・解説
正解はbです
眼の疾患を「痛みがあるか・ないか」で整理できるかを問う問題である。 眼痛の有無は、病変の部位と知覚神経の分布で考えると理解しやすい。眼の知覚は三叉神経第1枝(眼神経)が担い、角膜・結膜・虹彩・毛様体・強膜などの前眼部には豊富に分布している。一方、網膜や硝子体には痛覚を伝える知覚神経がない。したがって、網膜・硝子体を主座とする疾患(網膜剝離、硝子体出血、網膜血管閉塞など)は、どれほど視力が障害されても原則として痛みを伴わない。 前眼部の疾患でも、眼痛を生じるかどうかは病態による。炎症(虹彩毛様体炎、角膜炎など)や急激な眼圧上昇(急性閉塞隅角緑内障)では強い痛みが出るが、結膜下の血管が破れて血液がたまるだけの結膜下出血では、炎症も眼圧上昇もないため痛みはほとんどない。 以上から、選択肢の中で眼痛を伴う代表的疾患は虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)である。
選択肢考察
- ×a. 結膜下出血
誤り。結膜下出血は、球結膜(白目を覆う結膜)の下にある細い血管が破綻し、結膜と強膜の間に血液がたまった状態である。見た目は真っ赤で派手だが、痛みや視力低下はなく、鏡を見て、あるいは周囲の人に指摘されて初めて気づくことが多い。軽い異物感を訴える程度である。原因は外傷、手術後、急性出血性結膜炎(エンテロウイルス70型、コクサッキーウイルスA24変異型などによる)、いきみ・咳などの静脈圧上昇、高血圧、抗凝固薬内服などがあるが、原因不明の特発性が多い。通常1〜2週間程度で自然に吸収され、治療は不要である。
- ○b. 虹彩毛様体炎
正解。虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)は、虹彩と毛様体に炎症が起こる疾患である。虹彩と毛様体は三叉神経の知覚枝が豊富に分布する部位であり、炎症によって眼痛が生じる。さらに炎症刺激による毛様体筋・瞳孔括約筋のけいれんが加わり、鈍い眼痛や、光が入って瞳孔が収縮するときに痛む羞明(まぶしさ)が特徴的である。そのほか、角膜輪部を取り囲む毛様充血、霧視、視力低下を伴う。細隙灯顕微鏡では前房内の炎症細胞・フレア、角膜後面沈着物がみられ、虹彩後癒着を生じると瞳孔が不整形になる。なお、虹彩炎と毛様体炎は理論上は区別できるが、両者は解剖学的に連続しており血流も共通するため、実際にはほぼ同時に炎症を起こすことが多く、まとめて虹彩毛様体炎として扱う。治療は副腎皮質ステロイド点眼と、癒着予防・疼痛緩和のための散瞳薬点眼が基本である。
- ×c. 硝子体出血
誤り。硝子体には知覚神経がないため、硝子体出血そのものでは痛みを生じない。少量の出血では飛蚊症(黒い点や煙のようなものが視野に浮いて見える)として自覚し、大量出血では急激な霧視・視力低下をきたす。原因としては増殖糖尿病網膜症、網膜静脈分枝閉塞症、網膜裂孔(後部硝子体剝離に伴う網膜血管の破綻)、外傷、加齢黄斑変性などが代表的である。ただし、血管新生緑内障などを合併して眼圧が上昇した場合には、その眼圧上昇によって痛みが出ることがある。
- ×d. 裂孔原性網膜剝離
誤り。網膜には痛覚を伝える知覚神経が存在しないため、網膜剝離は痛みを伴わない。裂孔原性網膜剝離は、網膜に生じた裂孔(穴)から液化した硝子体が網膜下に入り込み、神経網膜が網膜色素上皮から剝がれる病態である。前駆症状として、後部硝子体剝離や網膜裂孔に伴う飛蚊症の急な増加や、硝子体が網膜を牽引することによる光視症(暗いところで光が走って見える)がみられ、剝離が進むと視野欠損(カーテンがかかったように見える)、黄斑部に及ぶと視力低下をきたす。無痛であるため受診が遅れやすい点に注意が必要である。
- ×e. 網膜中心動脈閉塞症
誤り。網膜中心動脈閉塞症は、塞栓や血栓によって網膜中心動脈が詰まり、網膜内層が虚血に陥る疾患である。片眼の突然の著しい視力低下(光覚弁〜手動弁程度になることも多い)が主症状で、痛みは伴わない。眼底では網膜の乳白色混濁と、黄斑部の桜実紅斑(cherry-red spot:中心窩は網膜が薄く、その下の脈絡膜の赤色が透見される)が特徴である。網膜は虚血に非常に弱く、発症から短時間で不可逆的障害に陥るため、眼科的緊急疾患として扱われる。なお、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)が原因の場合は頭痛やこめかみの痛みを伴うことがあるが、これは眼そのものの痛みではない。
眼痛の有無による眼疾患の整理
・眼痛を伴う主な疾患:虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)、急性閉塞隅角緑内障(急激な眼圧上昇による激しい眼痛・頭痛・悪心嘔吐)、角膜炎・角膜潰瘍・角膜びらん(角膜は知覚神経が最も密な組織の一つ)、強膜炎、眼内炎、視神経炎(眼球運動時痛が特徴)、眼窩蜂巣炎、麦粒腫など。 ・眼痛を伴わない主な疾患:結膜下出血、硝子体出血、網膜剝離、網膜中心動脈閉塞症・網膜静脈閉塞症、白内障、原発開放隅角緑内障(慢性に進行し自覚症状に乏しい)、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症など。
充血の種類
・結膜充血:結膜の表層血管の拡張。円蓋部(眼球の奥側)ほど強く、鮮紅色。結膜炎でみられる。 ・毛様充血:角膜輪部周囲の深層血管の拡張。輪部ほど強く、紫がかった赤色。虹彩毛様体炎、角膜炎、急性緑内障発作など、痛みを伴う疾患でみられやすい。 ・結膜下出血は血管の拡張ではなく出血であり、境界明瞭な赤い斑として見える点で充血と区別される。
ぶどう膜炎の原因
ぶどう膜は虹彩・毛様体・脈絡膜からなる。わが国の三大ぶどう膜炎はサルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病である。前部ぶどう膜炎は強直性脊椎炎などのHLA-B27関連疾患に合併することもある。
POINT
・網膜・硝子体には知覚神経がなく、網膜剝離・硝子体出血・網膜動脈閉塞症は無痛性である。 ・眼痛を伴う代表疾患:虹彩毛様体炎、急性閉塞隅角緑内障、角膜炎・角膜潰瘍、強膜炎、視神経炎(眼球運動時痛)。 ・虹彩毛様体炎:眼痛・羞明・毛様充血・霧視、前房細胞・フレア、虹彩後癒着。治療はステロイド点眼+散瞳薬。 ・結膜下出血:痛み・視力障害なし、自然吸収。
