脳は起きていて体は眠る―REM睡眠と「寝返り」の深い関係
第100回医師国家試験 G問題 第46問
国試問題にチャレンジ
睡眠について正しいのはどれか。
- a.深睡眠は朝方に増加する。
- b.深睡眠期に夢をみることが多い。
- c.REM睡眠は乳幼児では少ない。
- d.REM睡眠では寝返りを打たない。
- e.総睡眠時間は青年期以降一定である。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
REM睡眠は急速眼球運動と覚醒に近い低振幅速波を示す一方、橋からの抑制で骨格筋の緊張がほぼ消失するため、寝返りのような大きな体動は起こらず、鮮明な夢が多くみられます。一晩の睡眠は約90分のノンREM–REM周期を4〜5回繰り返し、深睡眠(徐波睡眠)は前半に集中して、REM睡眠は明け方に長くなります。REM睡眠の比率は新生児で約50%と最も高く成人で約20〜25%に下がり、総睡眠時間も新生児の約16時間から成人後も加齢とともに減少し続けます。睡眠段階と疾患の対応として、夜驚症や睡眠時遊行症は深睡眠から、REM睡眠行動障害やナルコレプシーはREM睡眠に関連して生じ、とくにREM睡眠行動障害はα-シヌクレイノパチーの前駆症状として重要です。睡眠の生理を理解することは、睡眠中の異常行動を正しく評価し、神経変性疾患の早期発見につなげる土台になります。
解答・解説
正解はdです
本問は、ヒトの睡眠構造(REM睡眠とノンREM睡眠)の特徴と、年齢による変化を問う問題である。 睡眠は大きく次の二つに分けられる。 ・ノンREM睡眠: 脳の活動が低下して休息する睡眠。脳波の徐波化の程度により、かつては段階1〜4に分けられた。現在の米国睡眠医学会(AASM)の判定基準では、N1・N2・N3の3段階に分ける。N3(旧段階3+4)はδ波(0.5〜2Hz程度の高振幅徐波)が多くを占める「徐波睡眠」であり、これがいわゆる深睡眠である。 ・REM睡眠(rapid eye movement sleep): 急速眼球運動がみられる睡眠である。脳波は低振幅で覚醒時に近い速い波を示す一方、抗重力筋を中心に骨格筋の緊張がほぼ消失する。「脳は覚醒に近く、体は眠っている」状態であり、逆説睡眠ともよばれる。 一晩の睡眠では、入眠後まずノンREM睡眠が深まり、約90分でREM睡眠が現れる。このノンREM–REMの周期(約90分)を一晩に4〜5回繰り返す。周期ごとに比率が変わり、深睡眠(徐波睡眠)は前半の周期に集中し、REM睡眠は明け方に向けて1回ごとの持続が長くなる。 年齢による変化としては、総睡眠時間もREM睡眠の比率も新生児期が最大で、成長・加齢とともに減っていく。 これらの特徴を押さえると、REM睡眠では骨格筋の緊張が消失するため寝返りのような大きな体動が起こらない、というdが正しいとわかる。
選択肢考察
- ×a. 深睡眠は朝方に増加する。
誤り。深睡眠(徐波睡眠、N3)は入眠直後の第1〜2周期に集中し、朝方に向かうにつれて減少する。明け方には徐波睡眠はほとんど現れなくなり、代わりにREM睡眠の占める時間が長くなる。そのため、寝入りばなの深い睡眠を妨げられると熟睡感が損なわれやすい。また、深睡眠から起こる睡眠時遊行症(夢遊病)や夜驚症は、入眠後の前半に起こりやすい。
- ×b. 深睡眠期に夢をみることが多い。
誤り。物語性があり視覚的に鮮明な夢は、主にREM睡眠中にみられる。REM睡眠中に起こすと多くの人が夢の内容を報告できるが、深睡眠(徐波睡眠)中に起こしても夢の報告は少なく、報告されても断片的で思考に近い内容であることが多い。REM睡眠中は脳の活動が覚醒時に近く、とくに辺縁系や視覚連合野が活発に働くことが、夢と関係すると考えられている。
- ×c. REM睡眠は乳幼児では少ない。
誤り。REM睡眠の比率は新生児で最も高く、総睡眠時間の約50%を占める。その後、年齢とともに低下し、成人では約20〜25%になる。新生児は入眠してすぐにREM睡眠(動睡眠)に入ることが多い点も成人と異なる。乳幼児期にREM睡眠が多いのは、脳の発達や神経回路の形成に関わるためと考えられている。
- ○d. REM睡眠では寝返りを打たない。
正解。REM睡眠中は、脳幹(橋)からの信号によって脊髄の運動ニューロンが強く抑制され、骨格筋(とくに抗重力筋)の緊張がほぼ消える。眼筋や横隔膜は保たれる。そのため、手足や顔面に小さなピクつきはみられても、寝返りのような大きな体動は起こらない。寝返りは主にノンREM睡眠の浅い段階や、睡眠段階が移り変わる時にみられる。この筋緊張の抑制が障害され、夢の内容に合わせて叫んだり手足を動かしたりする病態がREM睡眠行動障害である。REM睡眠行動障害は、Parkinson病やLewy小体型認知症などのα-シヌクレイノパチーの前駆症状として重要である。
- ×e. 総睡眠時間は青年期以降一定である。
誤り。1日の総睡眠時間は新生児で約16時間と最も長く、乳幼児期・学童期を経て減少し、成人では7〜8時間程度になる。成人後も加齢とともにゆっくり減少し続け、高齢者では6時間前後になる。高齢者では深睡眠(徐波睡眠)が著しく減り、中途覚醒が増え、睡眠が浅く分断されやすくなる。
REM睡眠とノンREM睡眠の比較
・脳波: ノンREMは徐波化(N3ではδ波が中心)。REMは低振幅で速い波(覚醒時に近い)。鋸歯状波がみられることがある。 ・眼球運動: ノンREMでは入眠期に緩徐眼球運動がみられる程度。REMでは急速眼球運動がみられる。 ・骨格筋の緊張: ノンREMでは低下するが保たれる。REMではほぼ消失する(寝返りなどの大きな体動はない)。 ・自律神経: ノンREMでは副交感神経が優位で、心拍・呼吸が安定する。REMでは自律神経の活動が不安定になり、心拍・呼吸・血圧が変動する。陰茎勃起がみられる。 ・夢: ノンREMでは少ない。REMでは鮮明で物語性のある夢が多い。 ・一晩の分布: 深睡眠は前半に多い。REM睡眠は後半(明け方)に多い。
年齢による変化
・総睡眠時間: 新生児 約16時間 → 成人 7〜8時間 → 高齢者 さらに短くなる。 ・REM睡眠の比率: 新生児 約50% → 成人 約20〜25%。 ・徐波睡眠: 小児期に多く、加齢とともに著しく減る。
睡眠段階に関連する疾患
・ノンREM睡眠(深睡眠)から起こる: 睡眠時遊行症、夜驚症(小児に多く、入眠後の前半に起こる。本人は覚えていないことが多い)。 ・REM睡眠に関連する: REM睡眠行動障害(高齢男性に多い。夢に合わせた異常行動がある)、悪夢障害、ナルコレプシー(入眠時REM睡眠期、情動脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚)。
POINT
・REM睡眠: 急速眼球運動、覚醒に近い脳波、骨格筋の緊張の消失(寝返りを打たない)、夢が多い。 ・深睡眠(徐波睡眠)は一晩の前半に多く、REM睡眠は明け方に多い。 ・REM睡眠の比率は新生児で約50%、成人で約20〜25%である。 ・総睡眠時間は新生児で約16時間、成人で7〜8時間であり、成人後も加齢とともに減少する。 ・REM睡眠中の筋緊張の抑制が障害される → REM睡眠行動障害(α-シヌクレイノパチーの前駆症状)。
