一生、血を作り続けられる理由―造血幹細胞の「自己複製能」から造血の基本を総点検
第100回医師国家試験 G問題 第43問
国試問題にチャレンジ
血球の産生について正しいのはどれか。
- a.出生時は骨髄と脾臓とで行われる。
- b.多能性幹細胞は自己複製能を持つ。
- c.Tリンパ球は多能性幹細胞に由来しない。
- d.成人では脛骨と胸骨との造血能は同等である。
- e.赤血球の産生にエリスロポエチンは必須でない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
造血の場は胎生期に卵黄嚢から肝臓(補助的に脾臓)、そして骨髄へと移り、出生時にはほぼ骨髄のみで行われます。成長とともに脛骨など四肢の長管骨の骨髄は脂肪髄となり、成人の造血は胸骨・椎骨・骨盤など体幹の骨が中心となるため、骨髄穿刺は胸骨や腸骨で行います。T細胞を含むすべての血球は造血幹細胞に由来し、造血幹細胞は自己複製能と多分化能をあわせもつことで、一生にわたり血球を供給し続け、移植で全系統の造血を再建できます。赤血球産生には腎臓で作られるエリスロポエチンが不可欠で、慢性腎臓病では腎性貧血を生じます。髄外造血、再生不良性貧血、造血因子製剤といった臨床の知識も、この造血の基本を理解しておくと筋道立てて考えられるようになります。
解答・解説
正解はbです
本問は造血(血球がつくられる過程)の基本を問う問題である。押さえるべき視点は次の3つである。 1. 造血の場所は発生とともに移り変わる:胎生初期の卵黄囊 → 胎生中期の肝臓(一部脾臓)→ 胎生後期以降の骨髄。出生時にはほぼ骨髄のみで造血しており、成長とともに四肢の長管骨の骨髄は脂肪髄になり、成人では体幹の扁平骨・椎骨などに造血が限局する。 2. すべての血球は造血幹細胞に由来する:造血幹細胞(多能性幹細胞)は、自分と同じ幹細胞をつくる「自己複製能」と、あらゆる系統の血球に分かれていく「多分化能」をあわせもつ。骨髄系・リンパ系のどちらの血球も、ここから生じる。 3. 各系統の分化・増殖はサイトカインで調節される:赤血球系ではエリスロポエチン、血小板系ではトロンボポエチン、顆粒球系ではG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)などが代表的である。 これらに照らすと、幹細胞の自己複製能を述べた記述が正しい。
選択肢考察
- ×a. 出生時は骨髄と脾臓とで行われる。
誤り。胎児期の造血は、胎生3週ごろの卵黄囊に始まり、胎生6週ごろから肝臓が主な場となる(脾臓も胎生中期に補助的に関与する)。胎生4〜5か月ごろから骨髄での造血が始まり、胎生後期には骨髄が中心となる。出生時には造血は基本的に骨髄のみで行われ、脾臓での造血はみられない。成人で骨髄線維症などにより骨髄が働けなくなると、脾臓や肝臓で再び造血が起こることがあり、これを髄外造血という(脾腫・肝腫大の原因となる)。
- ○b. 多能性幹細胞は自己複製能を持つ。
正しい記述である。造血幹細胞(多能性幹細胞)は、細胞分裂によって自分と同じ性質の幹細胞を生み出す自己複製能と、赤血球・白血球(顆粒球・単球・リンパ球)・血小板のすべての系統へ分化できる多分化能をもつ。自己複製能があるため、一生を通じて幹細胞のプールが枯渇せず、血球を供給し続けることができる。造血幹細胞移植で少数の幹細胞から全系統の造血が長期にわたって回復するのも、この性質による。
- ×c. Tリンパ球は多能性幹細胞に由来しない。
誤り。Tリンパ球も骨髄の多能性幹細胞に由来する。造血幹細胞は骨髄系前駆細胞とリンパ系前駆細胞に分かれ、リンパ系前駆細胞からBリンパ球・Tリンパ球・NK細胞が生じる。Tリンパ球の前駆細胞は骨髄から胸腺へ移動し、胸腺内で正の選択・負の選択を受けて成熟T細胞となる。成熟の場が胸腺であっても、起源は骨髄の造血幹細胞である。造血幹細胞移植後に患者のT細胞がドナー由来に置き換わることも、このことを示している。
- ×d. 成人では脛骨と胸骨との造血能は同等である。
誤り。乳幼児期にはほぼ全身の骨の骨髄が造血を行う赤色髄であるが、成長とともに四肢の長管骨(脛骨など)の骨髄は末梢側から脂肪髄(黄色髄)に置き換わり、造血能をほとんど失う。成人で造血が盛んなのは、胸骨・椎骨・肋骨・骨盤(腸骨)・頭蓋骨などの体幹の骨と、大腿骨・上腕骨の近位端である。このため成人の骨髄穿刺は胸骨や腸骨(後腸骨稜)で行われる。
- ×e. 赤血球の産生にエリスロポエチンは必須でない。
誤り。エリスロポエチン(EPO)は主に腎臓の尿細管周囲の間質細胞で、低酸素に応じて産生される糖蛋白質ホルモンである。赤血球系前駆細胞(BFU-E〈赤芽球バースト形成細胞〉、特にCFU-E〈赤芽球コロニー形成細胞〉)の生存・増殖と前赤芽球への分化を促し、赤血球産生に不可欠である。EPOが不足すると赤血球はつくられなくなり、慢性腎臓病ではEPO産生低下による腎性貧血を生じる。その治療には赤血球造血刺激因子製剤(ESA)が用いられる。
造血の場の変遷
・胎生3週ごろ〜:卵黄囊(中胚葉性造血、有核の原始赤血球が主体) ・胎生6週ごろ〜:肝臓が主な造血の場となる(胎生中期が中心)。脾臓も補助的に関与する。 ・胎生4〜5か月ごろ〜:骨髄での造血が始まり、胎生後期には骨髄が中心となる。 ・出生後:骨髄のみ。小児期は全身の骨髄が赤色髄である。 ・成人:造血は胸骨・椎骨・肋骨・骨盤・頭蓋骨や大腿骨・上腕骨の近位部に限られ、四肢の長管骨の骨髄は脂肪髄となる。
造血の階層構造
造血幹細胞 → 骨髄系共通前駆細胞 → 赤血球、巨核球(血小板)、顆粒球(好中球・好酸球・好塩基球)、単球/マクロファージ → リンパ系共通前駆細胞 → Bリンパ球(骨髄で成熟)、Tリンパ球(胸腺で成熟)、NK細胞
主な造血因子
・エリスロポエチン(EPO):腎臓で産生。赤血球系の増殖・分化を促す。低酸素で産生が増える。 ・トロンボポエチン(TPO):主に肝臓で産生。巨核球の増殖・成熟を促し、血小板産生を増やす。 ・G-CSF:好中球の産生を促す。化学療法後の好中球減少の治療などに用いられる。 ・幹細胞因子(SCF)、IL-3など:より未分化な段階の細胞に作用する。
臨床との関連
・髄外造血:骨髄線維症やサラセミアなどで脾臓・肝臓に造血が起こる。 ・腎性貧血:慢性腎臓病でEPO産生が低下して起こる正球性正色素性貧血。 ・再生不良性貧血:造血幹細胞の減少により汎血球減少をきたす。
POINT
・造血幹細胞(多能性幹細胞)は自己複製能と多分化能をもつ。 ・T細胞・B細胞を含むすべての血球は造血幹細胞に由来する(T細胞は胸腺で成熟)。 ・造血の場は卵黄囊 → 肝臓(脾臓)→ 骨髄と移り、出生時には骨髄のみで行われる。 ・成人の造血は胸骨・椎骨・骨盤など体幹の骨が中心で、脛骨など長管骨の骨髄は脂肪髄となる。 ・エリスロポエチンは腎臓で産生され、赤血球産生に必須である。
