「アクセル」と「ブレーキ」で解く消化管ホルモン―セクレチンはなぜ胆汁を増やすのか
第100回医師国家試験 G問題 第42問
国試問題にチャレンジ
消化管ホルモンと作用の組合せで正しいのはどれか。
- a.ガストリン ―― 胃液分泌抑制
- b.グルカゴン ―― 膵液分泌促進
- c.コレシストキニン ―― 胆汁分泌抑制
- d.セクレチン ―― 胆汁分泌促進
- e.ソマトスタチン ―― 膵液分泌促進
対話形式の解説
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ドクターまとめ
消化管ホルモンは、食物の到達を合図に分泌されて次の段階の消化を準備し、手前の段階にはブレーキをかけるという流れで理解すると整理しやすくなります。ガストリンは胃酸分泌を促進し、セクレチンは十二指腸の酸を合図に重炭酸イオンに富む膵液と胆汁の分泌を促して胃酸分泌を抑えます。コレシストキニンは胆嚢収縮とOddi括約筋弛緩で胆汁を排出させ、酵素に富む膵液分泌を促します。ソマトスタチンは消化管ホルモンや消化液分泌を広く抑え、グルカゴンの主作用は血糖上昇で膵液分泌促進作用はありません。セクレチンの利胆作用とCCKの胆嚢収縮作用を区別しておくことは、胆石発作やZollinger-Ellison症候群のセクレチン負荷試験など、臨床の理解にも直結します。
解答・解説
正解はdです
本問は、代表的な消化管ホルモン(および関連する膵ホルモン)の分泌部位・分泌刺激・主な作用を問う問題である。 整理のコツとして、消化管ホルモンは「食物がその部位に届いたことを合図に分泌され、次の段階の消化を準備し、手前の段階の働きはブレーキをかける」と捉えるとよい。 ・胃の幽門前庭部から出るガストリンは、胃自身での消化(胃酸分泌)を促す。 ・十二指腸に酸性の胃内容物が入ると、セクレチンが分泌されて重炭酸イオン(HCO3−)に富む膵液・胆汁を出させて酸を中和し、同時に胃酸分泌を抑える。 ・十二指腸に脂肪やアミノ酸が入ると、コレシストキニン(CCK)が分泌されて胆囊を収縮させ、消化酵素に富む膵液を出させる。 ・ソマトスタチンはこれらを広く抑制する「ブレーキ役」である。 この枠組みで各組合せを確認すると、セクレチンと胆汁分泌促進の組合せが正しい。セクレチンは胆管上皮細胞に作用して重炭酸イオンと水の分泌を増やし、胆汁の量を増加させる(利胆作用)。
選択肢考察
- ×a. ガストリン ―― 胃液分泌抑制
誤り。ガストリンは胃の幽門前庭部や十二指腸のG細胞から分泌され、胃液(特に胃酸)の分泌を促進する。主な機序は、胃底腺のECL細胞(腸クロム親和性細胞様細胞)からのヒスタミン放出を促し、そのヒスタミンが壁細胞を刺激することである。壁細胞への直接作用もある。分泌刺激は食物中のペプチド・アミノ酸、胃の伸展、迷走神経刺激などで、胃内が強い酸性になると分泌が抑えられる(負のフィードバック)。ほかに胃粘膜の増殖を促す栄養作用ももつ。
- ×b. グルカゴン ―― 膵液分泌促進
誤り。グルカゴンは膵ランゲルハンス島のα細胞から分泌されるホルモンで、主な作用は肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生の促進による血糖上昇である。膵外分泌(膵液分泌)を促す作用はなく、むしろ膵外分泌や消化管運動を抑制する方向に働く。消化管の平滑筋を弛緩させる作用があるため、消化管の造影検査や内視鏡検査で蠕動を抑える目的に用いられることがある。
- ×c. コレシストキニン ―― 胆汁分泌抑制
誤り。コレシストキニン(CCK)は十二指腸・空腸上部のI細胞から、脂肪酸やアミノ酸・ペプチドの刺激で分泌される。胆囊を収縮させるとともにOddi括約筋を弛緩させ、胆汁を十二指腸へ排出させる。つまり胆汁の排出を促進する方向に働く。さらに膵腺房細胞に作用して消化酵素に富む膵液の分泌を促し、胃内容物の排出を遅らせる作用ももつ。
- ○d. セクレチン ―― 胆汁分泌促進
正しい組合せである。セクレチンは十二指腸のS細胞から、酸性の胃内容物が十二指腸に入ること(おおむねpH 4.5以下)をきっかけに分泌される。主な作用は、膵導管上皮に働いて重炭酸イオンに富む大量の膵液を分泌させ、胃酸を中和することである。同じ機序で胆管上皮細胞からの重炭酸イオンと水の分泌も促すため、胆汁の量が増える(胆汁分泌促進)。加えて、ガストリン分泌と胃酸分泌を抑える作用をもつ。なお胆囊を収縮させるのは主にCCKの作用であり、セクレチンは胆汁の「生成量」を増やすホルモンと理解するとよい。
- ×e. ソマトスタチン ―― 膵液分泌促進
誤り。ソマトスタチンは視床下部、膵島のδ細胞、消化管のD細胞などから分泌され、ほかのホルモンや消化液の分泌を広く抑制する。ガストリン・セクレチン・CCK・インスリン・グルカゴン・成長ホルモンなどの分泌を抑え、胃酸分泌・膵液分泌・胆汁分泌、消化管運動も抑制する。したがって膵液分泌は促進ではなく抑制される。この性質を利用して、類似薬(オクトレオチド)が消化管神経内分泌腫瘍によるホルモン過剰症状の治療などに用いられる。
主な消化管ホルモンのまとめ
・ガストリン:分泌細胞は胃前庭部・十二指腸のG細胞。刺激はペプチド・アミノ酸、胃の伸展、迷走神経。作用は胃酸分泌促進、胃粘膜の増殖促進。胃酸(低pH)とソマトスタチンで抑制される。 ・セクレチン:十二指腸のS細胞。刺激は十二指腸内の酸。作用は重炭酸イオンに富む膵液分泌、胆汁(重炭酸イオン・水)分泌の促進、ガストリン・胃酸分泌の抑制。 ・コレシストキニン(CCK):十二指腸・空腸のI細胞。刺激は脂肪酸・アミノ酸。作用は胆囊収縮、Oddi括約筋弛緩、消化酵素に富む膵液分泌、胃排出の遅延。 ・GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド):十二指腸・空腸のK細胞。ブドウ糖・脂肪で分泌され、インスリン分泌を促す(インクレチン)。 ・GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1):小腸下部・大腸のL細胞。ブドウ糖依存性のインスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、胃排出遅延。インクレチンの一つで、糖尿病治療薬の標的にもなっている。 ・モチリン:十二指腸・空腸のM細胞。空腹期の消化管の強い収縮運動(伝播性消化管収縮運動)を引き起こす。 ・ソマトスタチン:D細胞・膵δ細胞など。ほぼすべての消化管ホルモンと消化液分泌を抑制する。
膵液の二つの成分
・水と重炭酸イオン(導管細胞から):主にセクレチンで促される。 ・消化酵素(腺房細胞から):主にCCKと迷走神経(アセチルコリン)で促される。
臨床との関連
・ガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)ではZollinger-Ellison症候群を起こし、難治性・多発性の消化性潰瘍や下痢を生じる。診断にはセクレチン負荷試験(ガストリノーマではセクレチン投与で血中ガストリンが逆に上昇する)が用いられてきた。
POINT
・ガストリン:胃酸分泌を促進する。 ・セクレチン:重炭酸イオンに富む膵液と胆汁の分泌を促進し、胃酸分泌を抑制する。 ・コレシストキニン:胆囊を収縮させOddi括約筋を弛緩させて胆汁排出を促し、酵素に富む膵液分泌を促す。 ・ソマトスタチン:消化管ホルモン・消化液の分泌を広く抑制する。 ・グルカゴン:血糖上昇が主作用で、膵液分泌を促す作用はない。
