StudyMed医師国家試験

声門を開ける筋はただ一つ―両側反回神経麻痺が「息の通り道」をふさぐ理由

第100回医師国家試験 G問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第36問

呼吸困難をきたすのはどれか。

  1. a.両側顔面神経麻痺
  2. b.両側軟口蓋麻痺
  3. c.両側舌下神経麻痺
  4. d.両側舌咽神経麻痺
  5. e.両側反回神経麻痺

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頭頸部の脳神経のうち、両側が麻痺すると呼吸困難を起こすのはどれかを考える問題だ。呼吸困難の原因を神経から考えるときは、「空気の通り道が狭くなるか」「呼吸筋が動かなくなるか」の2つの軸で整理するとわかりやすい。選択肢はどれも頭頸部の脳神経で、横隔膜や肋間筋を支配するものはないね。
医学生医学生
ということは、呼吸筋ではなく気道のほうで考えるわけですね。でも、どの神経も嚥下や構音に関わっていて、どれも息苦しくなりそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そこが迷いどころだね。注目してほしいのは、上気道で一番狭い場所、つまり声門だ。左右の声帯の間のすき間で、ここを開けられなくなると空気が通らなくなる。では、声門を開く筋の名前を覚えているかな。
医学生医学生
解剖学の講義で習った後輪状披裂筋だったと思います。声門を開く唯一の筋、と強調されていました。
ドクタードクター
その通り。そして後輪状披裂筋を含め、輪状甲状筋以外の内喉頭筋はすべて迷走神経の枝である反回神経が支配している。だから両側の反回神経が麻痺すると、声門を開く力がなくなり、左右の声帯が正中付近で固定されてしまう。正解は両側反回神経麻痺だ。
医学生医学生
声帯が真ん中で止まってしまうんですね。吸うときに余計に苦しくなりそうです。
ドクタードクター
鋭いね。吸気のときは気流による陰圧で、力の抜けた声帯が内側へ引き寄せられ、声門はさらに狭くなる。だから吸気性喘鳴を伴う呼吸困難が出て、窒息の危険から気管切開などの気道確保が必要になることが多いんだ。では、ほかの選択肢を見ていこう。両側顔面神経麻痺はどうだろう。
医学生医学生
表情筋が動かなくなるので、閉眼できなかったり口から食べ物がこぼれたりしますが、喉頭は支配していないので呼吸には関係しなさそうです。
ドクタードクター
正解。両側顔面神経麻痺はGuillain-Barré症候群やサルコイドーシスなどで見られるけれど、喉頭筋も呼吸筋も支配しないから呼吸困難はきたさない。次は両側軟口蓋麻痺。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の実習で、軟口蓋が上がらない患者さんの声が鼻に抜けていたのを思い出しました。開鼻声ですよね。
ドクタードクター
よく観察していたね。軟口蓋は嚥下や発声のときに鼻咽腔を閉じる役割があるから、麻痺すると開鼻声や飲食物の鼻腔への逆流が起こる。でも軟口蓋が動かなくても気道自体は開いたままなので、換気には大きな影響がないんだ。
医学生医学生
両側舌下神経麻痺は少し迷いました。舌が落ち込んで気道をふさぎそうな気がして。
ドクタードクター
いい疑問だよ。実際、仰臥位で舌根が沈下しやすくなることはある。ただ、主な症状は舌の萎縮と運動障害による構音障害と、食塊を咽頭へ送り込めない口腔期の嚥下障害で、覚醒時に呼吸困難を起こすのは通常ではない。この問題で問われている代表的な障害とはいえないね。
医学生医学生
舌咽神経はどうでしょう。咽頭の筋を動かしているイメージがありました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だ。舌咽神経の運動支配は茎突咽頭筋だけで、咽頭収縮筋や口蓋の筋は主に迷走神経の咽頭神経叢が担っている。舌咽神経は大部分が感覚線維で、咽頭の感覚や咽頭反射の求心路、舌後1/3の味覚を担当する。両側が障害されると咽頭反射の消失や嚥下障害は起こるけれど、声門の開大には関与しないから呼吸困難には至らない。
医学生医学生
顔面・舌咽・舌下や軟口蓋の障害は構音と嚥下の問題で、気道を狭めるのは声門を開けなくなる反回神経、と整理できますね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。発展として、片側と両側の違いも押さえておこう。片側の反回神経麻痺では声門が完全に閉じなくなり、気息性嗄声や誤嚥が主症状で、呼吸困難は通常起こらない。一方、両側麻痺では声帯が正中近くで閉じているので、嗄声は片側より軽いことさえある。
医学生医学生
声はそこまで悪くないのに息が苦しい、というのは見逃しそうで怖いですね。
ドクタードクター
まさに臨床の落とし穴だ。原因としては甲状腺や食道の手術、甲状腺癌・食道癌・肺癌の縦隔リンパ節転移、胸部大動脈瘤、気管挿管後などがある。左の反回神経は大動脈弓の下をくぐるので走行が長く、右より障害されやすい。甲状腺術後に吸気性喘鳴が出たら、両側反回神経麻痺を疑ってすぐに気道を評価することが大切だよ。

まとめ

神経障害による呼吸困難は「気道が狭くなるか」「呼吸筋が動かなくなるか」で整理でき、頭頸部の脳神経では声門を開けなくなる両側反回神経麻痺が代表です。声門を開く唯一の筋である後輪状披裂筋は反回神経支配のため、両側麻痺では声帯が正中付近に固定され、吸気性喘鳴と呼吸困難をきたし、気管切開を要することがあります。片側麻痺では嗄声と誤嚥が主体で呼吸困難は通常起こらず、両側麻痺では嗄声がむしろ軽いこともある点が要注意です。顔面神経、舌咽神経、舌下神経の麻痺や軟口蓋麻痺は構音・嚥下障害が中心で、通常は呼吸困難の原因になりません。甲状腺・食道手術後や縦隔病変の患者を診る際、各脳神経の役割を区別しておくことが気道緊急の早期発見につながります。

解答・解説

正解はeです

呼吸困難をきたす脳神経・末梢神経の障害を考えるときは、「空気の通り道(気道)が狭くなるか」「呼吸筋(横隔膜・肋間筋など)が動かなくなるか」の2点から整理するとよい。選択肢はいずれも頭頸部の脳神経障害であり、呼吸筋そのものを支配するものは含まれない。そこで、気道のうち最も狭い部位である声門(左右の声帯の間のすき間)を開けなくなる障害はどれか、という観点で考える。 声門の開閉は喉頭の内喉頭筋が担い、このうち輪状甲状筋(上喉頭神経外枝支配)を除くすべてが迷走神経の枝である反回神経(下喉頭神経)に支配される。特に声門を開く唯一の筋である後輪状披裂筋も反回神経支配である。したがって反回神経が両側で麻痺すると、声門を開く力が失われ、左右の声帯が正中付近で固定されて気道が狭窄し、呼吸困難をきたす。 その他の選択肢の障害は、表情・構音・嚥下の障害を主体とし、通常、呼吸困難の直接の原因にはならない。

選択肢考察

  1. ×a.  両側顔面神経麻痺

    顔面神経は表情筋、アブミ骨筋、顎二腹筋後腹などを支配し、ほかに味覚(舌前2/3)や涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌にも関わる。両側が麻痺すると表情の消失(仮面様顔貌)、閉眼困難、口唇音の構音障害、口からの食物のこぼれなどが生じるが、喉頭筋や呼吸筋は支配しないため、呼吸困難はきたさない。両側性顔面神経麻痺はギラン・バレー症候群、サルコイドーシス、ライム病などで見られる。

  2. ×b.  両側軟口蓋麻痺

    軟口蓋は主に迷走神経(咽頭神経叢)支配の口蓋帆挙筋などによって挙上し、嚥下や発声のときに鼻咽腔を閉鎖する。両側が麻痺すると鼻咽腔閉鎖不全となり、開鼻声や、嚥下時に飲食物が鼻腔へ逆流する症状が出る。しかし軟口蓋が動かなくても気道は開いたままであり、呼吸運動や換気には大きな影響がない。

  3. ×c.  両側舌下神経麻痺

    舌下神経は舌筋(内舌筋と、口蓋舌筋を除く外舌筋)を支配する。両側が麻痺すると舌の萎縮・運動障害によって、舌音の構音障害と食塊を咽頭へ送り込む口腔期の嚥下障害が生じる。仰臥位で舌根が沈下しやすくなることはあるが、覚醒時に呼吸困難を生じるのは通常ではなく、本問で呼吸困難をきたす代表的な障害とはいえない。

  4. ×d.  両側舌咽神経麻痺

    舌咽神経は運動線維としては茎突咽頭筋のみを支配し、大部分は感覚線維(舌後1/3の味覚・一般感覚、咽頭の感覚、頸動脈洞・頸動脈小体からの求心路)と副交感線維(耳下腺)からなる。両側が障害されると咽頭の感覚低下、咽頭反射(絞扼反射)の消失、嚥下障害をきたすが、声門の開大には関与しないので呼吸困難には至らない。

  5. ○e.  両側反回神経麻痺

    反回神経は迷走神経の枝で、左は大動脈弓、右は右鎖骨下動脈の下を回って上行し、輪状甲状筋以外の内喉頭筋を支配する。声門を開く唯一の筋である後輪状披裂筋も反回神経支配であるため、両側が麻痺すると声門を開けなくなり、左右の声帯が正中位〜傍正中位に固定される。さらに吸気時には気流による陰圧で弛緩した声帯が内側へ引き寄せられ、声門はいっそう狭くなる。その結果、吸気性喘鳴を伴う呼吸困難をきたし、窒息の危険があるため気管切開などによる気道確保が必要になることが多い。声帯が正中近くで閉じているため、嗄声は片側麻痺より軽いこともある点が特徴である。原因としては甲状腺手術、甲状腺癌・食道癌の浸潤などが代表的である。

内喉頭筋と支配神経

・後輪状披裂筋:声門を開く(唯一の外転筋)。反回神経支配。 ・外側輪状披裂筋、披裂筋(横・斜):声門を閉じる。反回神経支配。 ・甲状披裂筋(内筋=声帯筋を含む):声帯の緊張・短縮、声門閉鎖。反回神経支配。 ・輪状甲状筋:声帯を前後に伸ばして緊張させる(声の高さの調節)。上喉頭神経外枝支配。

反回神経麻痺の片側・両側の違い

・片側麻痺:声門が完全には閉じず、気息性嗄声、誤嚥、発声持続時間の短縮が主症状。呼吸困難は通常起こらない。 ・両側麻痺:声帯が正中位〜傍正中位に固定されると声門が狭くなり、吸気性喘鳴・呼吸困難を生じる。気管切開や声門開大術を要することがある。

反回神経の走行と麻痺の原因

左反回神経は大動脈弓の下をくぐって上行するため走行が長く、右よりも障害されやすい。原因として甲状腺・食道・縦隔の手術、甲状腺癌・食道癌・肺癌(縦隔リンパ節転移)、胸部大動脈瘤、気管挿管後、特発性などがある。

嚥下・構音に関わる脳神経の整理

顔面神経(口唇)、舌咽神経(咽頭の感覚・咽頭反射の求心路)、迷走神経(軟口蓋・咽頭・喉頭の運動)、舌下神経(舌の運動)。これらの障害は主に構音障害と嚥下障害をきたす。

POINT

・声門を開く唯一の筋は後輪状披裂筋であり、反回神経が支配する。 ・両側反回神経麻痺では声帯が正中付近に固定され、吸気性喘鳴と呼吸困難をきたす(気管切開が必要になることがある)。 ・片側反回神経麻痺の主症状は嗄声と誤嚥である。 ・顔面・舌咽・舌下神経や軟口蓋の麻痺は構音障害・嚥下障害をきたすが、通常は呼吸困難を起こさない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。