ストーマのいちばんの敵は「皮膚」―人工肛門の基本を総点検
第100回医師国家試験 G問題 第119問
国試問題にチャレンジ
人工肛門について正しいのはどれか。
- a.ストーマの位置は術中に決定する。
- b.ストーマケアは無菌的に行う。
- c.訓練によって便の随意排泄が可能となる。
- d.合併症で最も多いのは皮膚障害である。
- e.身体障害者認定は受けられない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
人工肛門(消化管ストーマ)の合併症で最も多いのはストーマ周囲の皮膚障害で、便の漏れによる化学的刺激、粘着剤によるかぶれ、剥離時の物理的刺激などが原因となり、特に水様便で消化酵素を含む回腸ストーマで起こりやすくなります。ストーマには括約筋がないため訓練しても随意排泄はできず、結腸ストーマの灌注排便法も排便時間の管理にとどまります。ストーマの位置は術前にCleveland Clinicの5原則などに沿ってマーキングして決め、ケアは無菌操作ではなく清潔操作で十分です。永久ストーマは「ぼうこう又は直腸の機能障害」として身体障害者手帳の対象となり、装具給付などの支援を受けられます。手術手技だけでなく術前の準備から退院後の生活支援までを理解することが、ストーマ保有者のQOLを守る医療につながります。
解答・解説
正解はdです
人工肛門(消化管ストーマ)は、腸管の一部を腹壁の外に引き出して開口させ、便の出口としたものである。直腸癌に対する腹会陰式直腸切断術(マイルズ手術)などで肛門を切除した場合に作る永久ストーマと、縫合不全の予防や腸閉塞の減圧などのために一時的に作り、後で閉鎖する一時的ストーマがある。造設する腸管によって、結腸ストーマ(コロストミー)と回腸ストーマ(イレオストミー)に分けられる。 本問はストーマに関する基本的な知識を問うている。考え方の軸は次のとおりである。 ・ストーマには肛門括約筋がないため、便の排出を自分の意思で止めたり出したりすることはできず、装具(パウチ)を貼って受け止める。 ・装具の面板を貼る皮膚が常に便や粘着剤にさらされるため、ストーマ周囲の皮膚障害が最も多い合併症となる。 ・生活の質を左右するため、ストーマの位置は術前に患者の体型や生活に合わせて決める(ストーマサイトマーキング)。 ・ストーマは腸という元来無菌ではない臓器の開口部であり、そのケアは清潔操作で十分で、無菌操作は必要ない。 ・永久ストーマの保有者は身体障害者手帳の交付を受けられ、装具費用の給付などの社会的支援がある。
選択肢考察
- ×a. ストーマの位置は術中に決定する。
ストーマの位置は術前に決め、皮膚に印を付けておく(ストーマサイトマーキング)。手術中は患者が仰臥位で麻酔下にあり、座位や前かがみになったときに生じるしわや脂肪のたるみ、患者本人から見える位置かどうかを確認できないためである。マーキングは仰臥位だけでなく座位・前屈位でも確認し、皮膚・排泄ケア認定看護師などが関わって行う。適切な位置の基準として、Cleveland Clinicの5原則(臍より低い位置、腹部脂肪層の頂点、腹直筋を貫く位置、皮膚のくぼみ・しわ・瘢痕・肋骨弓・上前腸骨棘から離れた位置、本人が見ることができてセルフケアしやすい位置)が知られている。緊急手術ではマーキングができないこともあるが、原則は術前決定である。
- ×b. ストーマケアは無菌的に行う。
ストーマは腸管の開口部であり、腸内にはもともと多数の細菌が存在する。したがってストーマケアに無菌操作は不要で、清潔を保てば十分である。ストーマ周囲の皮膚は、微温湯と石けんを泡立てて洗い、よく流して水分を拭き取る程度でよい。消毒薬はむしろ皮膚への刺激となるため日常的には用いない。入浴も装具を外したまま、あるいは付けたままで可能である。
- ×c. 訓練によって便の随意排泄が可能となる。
肛門では内肛門括約筋と外肛門括約筋が便を保持し、外肛門括約筋は自分の意思で締められる。ストーマにはこのような括約筋がなく、直腸のような便の貯留・便意の感知の仕組みもないため、訓練しても随意に排便を調節することはできない。便は不随意に排出されるので装具で受け止める。なお下行結腸やS状結腸の結腸ストーマでは、ストーマから微温湯を注入して定期的に腸内を空にする灌注排便法(洗腸)により、排便の時間をある程度管理できる場合がある。ただしこれは随意排泄ではない。
- ○d. 合併症で最も多いのは皮膚障害である。
ストーマの合併症のうち最も頻度が高いのは、ストーマ周囲の皮膚障害である。原因としては、便の漏れや付着による化学的刺激(特に回腸ストーマの便は水様で消化酵素を多く含むため刺激が強い)、面板の粘着剤によるかぶれ(接触皮膚炎)、装具を剥がすときの物理的刺激、真菌感染などがある。予防には、ストーマの大きさに合った面板の穴あけ、適切な交換間隔、皮膚保護剤の使用、やさしい剥離などが重要である。皮膚障害以外にも、ストーマ脱出、傍ストーマヘルニア、ストーマ狭窄、壊死、陥没などの合併症がある。
- ×e. 身体障害者認定は受けられない。
永久的な人工肛門を造設した人は、身体障害者福祉法に基づく「ぼうこう又は直腸の機能障害」として身体障害者手帳の交付を受けることができる。人工肛門のみの場合はおおむね4級にあたり、人工膀胱(尿路ストーマ)の併設や治癒困難な皮膚障害などがあれば、より上位の等級となる。手帳の取得により、ストーマ装具の購入費用の給付(日常生活用具給付)や税制上の優遇などの支援を受けられる。なお一時的ストーマは原則として対象外である。
ストーマの種類
・期間による分類: 永久ストーマ(直腸切断術後など)、一時的ストーマ(低位前方切除術後の縫合不全予防のための回腸ストーマ、閉塞性大腸癌の減圧など) ・腸管による分類: 結腸ストーマ(S状結腸・横行結腸など)、回腸ストーマ ・形態による分類: 単孔式、双孔式(ループ式など)
結腸ストーマと回腸ストーマの違い
・結腸ストーマ(特にS状結腸): 便は有形〜軟便で、皮膚への刺激は比較的少ない。灌注排便法が可能。 ・回腸ストーマ: 便は水様で量が多く、消化酵素を含むため皮膚障害を起こしやすい。脱水や電解質異常(ナトリウム・カリウムの喪失)にも注意する。皮膚への刺激を避けるため、腹壁から2cm程度突出させて造設する。
主な合併症
・早期: ストーマ壊死、粘膜皮膚接合部離開、ストーマ周囲の皮膚障害、出血、陥没 ・晩期: 皮膚障害、傍ストーマヘルニア、ストーマ脱出、ストーマ狭窄、ストーマ静脈瘤(門脈圧亢進症例)
ストーマサイトマーキングの5原則(Cleveland Clinic)
1. 臍より低い位置 2. 腹部脂肪層の頂点 3. 腹直筋を貫通する位置(傍ストーマヘルニアや脱出の予防) 4. 皮膚のくぼみ、しわ、瘢痕、上前腸骨棘、肋骨弓から離れた位置 5. 本人が見ることができ、セルフケアしやすい位置
社会的支援
・永久ストーマ保有者は身体障害者手帳(ぼうこう又は直腸の機能障害)の対象で、ストーマ装具の給付を受けられる。 ・患者会(オストミー協会)やストーマ外来による継続的な支援がある。
POINT
・ストーマ合併症で最も多いのはストーマ周囲の皮膚障害である。 ・ストーマの位置は術前にマーキングして決める(腹直筋を貫く、しわやくぼみを避ける、本人が見える位置など)。 ・ストーマケアは清潔操作でよく、無菌操作は不要である。 ・ストーマには括約筋がないため随意排泄はできない(結腸ストーマの灌注排便法は排便時間の管理にとどまる)。 ・永久ストーマは身体障害者(ぼうこう又は直腸の機能障害、人工肛門のみでおおむね4級)に認定される。
